「へぇ〜、そんなことがあったのね」
「まぁね。でもアットホームな感じのいいギルドだったし、たまには違うメンバーで攻略してみるのも悪くないかなって思って引き受けてみたわ」
あの後、スリーピング・ナイツのメンバーと、今後の方針と明日の待ち合わせを決めた美琴は一先ず自分たちのホームに戻り、デュエルの後に置き去りにしてしまったリズたちに事情を説明した
「そうか〜じゃあそういうことなら今回の層の攻略はミコトたちに譲って、たまには俺たちものんびり過ごすとするか」
「ごめんなさいねキリトさん、それにみんな。本当ならいつも通りここのメンバーと攻略したかったんだけど…」
「ううん!気にしない気にしない!別にこのアインクラッドはどうせ100層もあるんだからそんなに気にすることないよ。てかそれよりもお兄ちゃん、今日の食事当番お兄ちゃんだよ。あたしもうお腹ペコペコだし確か今日お母さん早く帰ってくるんじゃなかった?」
「ゲッ!?そうだった今日は母さんが珍しく早く出張から帰って来るんだった!すまんみんな!また明日!」
「あ!待ってくださいパパ!私もお休みしたいですー!」
「それじゃまたね!ミコトさん明日は頑張って!」
「う、うん。ありがと」
シュンッ!シュンッ!
そう言うと桐ヶ谷兄妹は足早にログアウトの手順を踏み、短い挨拶の後ユイがキリトの胸ポケットに入り込んだところで2人の体が光のベールに包まれ、ALOからログアウトした
「キリト君たちも落ちちゃったし、私もそろそろ落ちるね」
「あ、すいません私も今日は用事があるのでそろそろ失礼します」
「そっかー、アスナもシリカも落ちるならあたしも今日は落ちようかな。上やんとミコトはどうする?」
「俺はもうちょい残るよ。どうせ落ちても暇だし」
「私も少し残るわ。参加するって言った手前、ユウキ達に迷惑かけられないもの。少しステータス見直したり装備整えたりするわ」
「おほ〜?それじゃあお二人とも間違っても夜更かしして一夜の過ちを起こさないようにね〜?」
「ッ!?リズ!アンタちょっと待ちなさいっ!」
「ばーいばーい☆」
シュンッ!
「あ、あははは…じゃあまたね、2人とも」
「あはは…私もお先に失礼します」
シュンッ!シュンッ!
自分の一言に頬を赤く染めた美琴を嘲笑うような表情でリズベットはログアウトし、それに続いて苦笑しながらアスナとシリカもログアウトした
「クソッ!あのアバズレ女!」
「あなた最近毒舌が加速してやいませんかね美琴さんや……」
「うるっさい!大きなお世話よ!」
美琴はふんっ!と荒く鼻を鳴らすとソファーに勢いよく座り直し、そのまま机にテーブルに置かれているティーカップに残された紅茶を一気に飲み干した。そして深呼吸をして気持ちを鎮めると、ようやく先の怒りが収まってきた
「はぁ〜、折角の紅茶がマズくなったわリズのやつ…」
「あ、あははは…でも、なんだかんだお前とこうしてダンジョン以外で2人になるの結構久々じゃないか?」
「え?あー、言われてみればそうね…今は仲間がたくさんできたし、そう言う意味じゃそもそもアンタに限らず誰かと2人きりになったのなんてすごい久々ね」
「SAOの時からは考えらんねぇよな〜こうやってみんなで心の底から楽しみながらVRゲームやってるなんてよ〜」
「・・・・・そうね」
「・・・?美琴?」
上条の言葉を聞いたミコトは不意にその顔を俯かせた。いつもの天真爛漫な彼女らしくないと思った上条は俯いた彼女の顔を覗き込んだが、その直後に美琴はゆっくりと顔を上げて目線を上条に合わせて口を開いた
「ねぇ、アンタならどう思う?」
「あ?どう思うとは?」
「ユウキ達…スリーピング・ナイツのみんなとのことよ」
「えっ?いや別にいいんじゃないか?ここのみんなは自由に遊んでるんだし面倒な制約もないしそんな気にすることも……」
「違うの、そういうことじゃない」
「・・・・・」
「アンタなら分かってんでしょ。確かに建前上、フロアボスなんて7人で挑むもんじゃない、なんて言ったけど本当はそうじゃない。私が『本気』でやれば多分7人でも勝てる。ううん、多分じゃない。今の新アインクラッドと旧アインクラッドは違うとは言え、27層なんて低層のフロアボスなら、本物のデスゲームを生き抜いた私なら全開でやれば1人でも勝てる」
「スリーピング・ナイツの願いはフロアボスを倒して黒鉄宮の剣士の碑に名前を刻むこと。それは私からしたら造作もないことだわ。でも、『剣士としての私』ならそうはいかない。7人で勝てる確率は千に一つか、悪ければ万に一つ。それに、もし仮にこの層まで他のギルドに先越されたら次の層のフロアボスは当然もっと強い。勝てる確率はどんどん薄くなる」
「でもかといって私が本気でやったとして、スリーピング・ナイツのみんなは喜ぶのかしら…確かに碑に名前を刻むことは出来る。でも、それはあまりにも簡単すぎる。そんな圧倒的すぎる勝ちに、あのギルドのみんなは心から喜べるのかしら……」
「だから、アンタならどうするか聞きたいの。ぽっと出の自分が、仲間に見せていない本当の力を出して確実に碑に名前を刻むことを選ぶか。それとも一か八かの勝負に出て、自分を頼ってくれた仲間を後悔させてしまうかもしれないけれど、見せかけの力だけで戦うか、アンタならどっちを………」
「はぁ?そんなの簡単だろ。何をそんなことでそんなに悩んでんだよ」
苦悶しながら自分の胸中を吐露していく美琴とは裏腹に、上条はあっけらかんとした態度で美琴の言葉を遮った
「・・・は?そ、そんなことって…!あのねぇ!私これでもかなり真剣に悩んd…!」
「ユウキはお前に一度でも『本当の力で戦ってくれ』とか『本当の力は出さないでくれ』なんて言ったのか?」
「!!!!!」
「俺はユウキと手合わせしたわけじゃないし、実際に喋ったこともない。でも、ユウキはそんなこと言うヤツじゃない。お前と戦ってたところを見ればそんなのいくらでも分かるさ。ユウキはきっと、最後まで諦めずに戦ってくれたお前を『人として』好きになってお前を自分のギルドに誘ったんだと俺は思う」
「・・・・・」
「だからユウキにとってお前が本気なのかそうじゃないか、なんてのは問題じゃないんだよ。最後まで諦めずに自分たちと一緒に戦ってくれれば、きっとそれでいいんだと思うぜ」
「それに、ユウキの雰囲気からして『違う』って美琴も思っただろ?アイツはデスゲームのVRゲームを知らない。ゲームは心の底から楽しむものだと思ってるはずだ。そりゃ確かに碑に名前を刻むのも重要かもしれねぇ。でも今のVRゲームじゃ、みんなで楽しむっていうのが根底にあるべきなんじゃねぇのか?きっとユウキ達もそう思ってるさ」
「・・・そうよね。言われてみればシウネーさんは『一つ絶対に忘れることのない思い出を作りたい』って言ったんだもんね。私がそんな悩み抱えたまま例え本気だろうとなかろうと、今の中途半端なままで戦ってたら、勝っても負けても、いい思い出にはならないわよね」
そう言うと美琴は少しだけ口角を上げて、ささやかに笑った。今までの自分は他人から距離を置かれてしまっていた。だが逆に仮想世界に来てからは、知らず知らずの内に自分から距離を取ってしまっていた。そんな自分のことを分け隔てなく受け入れてくれたスリーピング・ナイツのことを思い出すと、思わず笑顔がこぼれた
「・・・まぁそう言う手前、俺も自分の本当の本気出したのなんてトールの時と世界樹の時ぐらいだったけどな」
「・・・え?なんか言った?」
「いーや、別になにも。ほらお前は自分の装備点検するんだろ。早くしねーとプレイヤー武具屋は閉まっちまうぞー」
「あ、そうだった。ごめん。じゃあちょっと行ってくるわね。おやすみ」
「おう、おやすみ」
ギィ、バタンッ!
「・・・で?いつの間に再ログインしてたんだよキリト」
スッ……
「なんだ、気づいてたのか」
美琴がドアから外に出た後、上条は誰もいないキッチンの方へと話しかけたかと思えば、キッチンの奥から先ほどログアウトしたはずのキリトが姿を現した
「あんな猿芝居見せられた後じゃ何かあるのかと疑うのが普通だろ」
「さ、猿芝居とはひどいな…後で付き合ってくれたスグに謝らないと…」
「ほんで?わざわざ再ログインしてまで上やんさんになんか言いたいことでもあんのか?」
「・・・具体的には二つ。悪いけど二つともミコトとユウキに関わる話だ」
「・・・と言うと?」
「一つ目は俺が絶剣…ユウキとデュエルした時、あることに気づいた」
「あることってのは何だ?」
「・・・あの子は…ユウキは言うならば『完全にこの世界の住人』ってことだ」