とある魔術の仮想世界[3]   作:小仏トンネル

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第5話 依頼

 

「・・・まぁ、そのやたら胡散臭い名前はともかく、その二人の直接の死因が心不全ってのは確かなんですか?」

 

「と言うとじゃん?」

 

「『脳』に損傷は見られなかったんですか?」

 

 

そう聞きながら上条が脳裏に思い浮かべたのはかつて自分がそのツンツン頭の上に被ったゲームハードだった。ゲーム内で死に至った者に対し、現実で脳内に電磁パルスを流し込み死に至らしめる悪魔のゲーム機…『ナーヴギア』

 

 

「・・・実は私もそれが気になってたじゃんよ。司法解剖を担当した鑑識に問い合わせた結果、脳に異常は一切見られなかったじゃんよ」

 

「そ、そうですか…」

 

「それに付け加えるなら、ナーヴギアの場合は信号素子を焼き切るほどの高出力マイクロウェーブを発して脳の一部を破壊したわけじゃん。でもアミュスフィアはそもそもそんなパワーの電磁波は出せない設計じゃんよ」

 

「まぁそりゃそうでしょうけどね」

 

「アミュスフィアに出来るのは、精々視覚や聴覚といった五感の情報をごく穏やかなレベルで送り込むことだけだって開発者は断言してたじゃんよ」

 

「じゃあもし仮に、誰かが直接手をかけての犯行だったとして、その手の能力者の線は?」

 

「まぁまずもってあり得っこないじゃんよ。現場検証したとこ、家内には金銭目当ての物色はなかったし、災誤先生と薄塩たらこの部屋の電子ロックが発電系能力者の能力使用によって不正にこじ開けられた痕跡は見られなかったじゃん」

 

「じゃあ空間移動系の能力者とか」

 

「そのリスク自体は空間移動能力者自身が分かってるはずじゃんよ。元から複雑な座標を考えて演算を行うのに、間取りもロクに分からない部屋に移動すれば壁や部屋のどこかに自分の体が埋まりかねない。それはあまりにもリスクが高すぎるじゃん。犯人に元から被害者の二人に面識があって部屋の間取りが事前にわかっていたのかと思って『書庫』の空間移動系の能力者を調べてみたけど、そんな人間は誰一人としていなかったじゃん」

 

「まぁ元から空間移動系の能力者は全体数が少ないですからね。同じアパートならまだしも、構造も違う別々のアパートの部屋に移動するのは流石にリスキーすぎるか…」

 

「そういうことじゃん」

 

「じゃあ心不全を誘発できるような能力者は…ってダメだ。そしたらそもそもピッキングでもしなきゃ部屋に入れない…」

 

「そう。部屋が電子ロックの時点でピッキングなんて出来っこないし、仮にハッキングしてたとしてもそれはそれで足が残る。だからこの事件は『電子ロックになんの痕跡も残さず二つの部屋に入れている』という時点で能力者による犯行の線はないって証明できるじゃん」

 

「じゃあそれこそ本当にアミュスフィアに何か細工を…ってかよくよく考えたらなんでそんなとこまで調べてんですか?いくら警備員といえどそんな偶然と噂だけで出来上がってるようなネタに。ましてもう一度SAO事件が起こったわけでもあるまいし」

 

「んー、まぁそういう意味じゃ私も知人に元SAOプレイヤーがいた縁もあってちょっと気になって勝手に一人で調べてたってだけじゃんよ。だけどまぁ、それ以上に…」

 

「・・・?それ以上になんです?」

 

「・・・同じ職場で生徒を見てくれてた先生が誰かに殺されたのかもしれないなら…黙って見ていられるほど私は大人にはなれないじゃん」

 

「・・・・・」

 

 

そう告げた黄泉川の声は怒りがこめられたようなどこか重い声で、その眉間には皺が寄せられていた

 

 

「まぁ、そう言う手前そのおかげでその重要な職員会議に遅れたちゃったじゃんよ」

 

「・・・はぁ〜…本末転倒ですね。大方、今日の職員会議だって、小萌先生が内容を教え渋ってたのは災誤先生に関する会議だったからでしょう?」

 

「ご明察じゃん。んでまぁこの件だけど、私も9割方偶然かデマだと思うじゃん。だからここから先は仮定の話じゃん」

 

「・・・・・」

 

「上条は可能だと思うじゃん?ゲーム内の銃撃によって、プレイヤー本人の心臓を止めるなんてことが」

 

 

室内の緊迫した空気をさらに重くするような声で黄泉川が上条に問いかけた。その問いに対し、上条もまた芯のある真っ直ぐな声で答えた

 

 

「無理ですね」

 

「・・・そう思う理由はあるじゃん?」

 

「そんなことより、もう安い芝居はやめにしてくれませんか?黄泉川先生」

 

「・・・なに?」

 

「どうせもう大体検証してるんでしょう?その口ぶり。俺も伊達に死線を掻い潜ってきた訳じゃないんです。相手の目と態度を見れば大体のことは分かりますよ」

 

「・・・つぁ〜、まさか元生徒から詰められる日が来るとは…世の中分からないもんじゃん」

 

「なんだったら今先生が考えてることも言ってあげることも出来ますのことよ?」

 

「いーやいいじゃんよ。流石にそこは自分で言うじゃんよ」

 

「率直に言うじゃん上条。ガンゲイル・オンラインにログインしてこの『死銃』に接触してほしいじゃん」

 

「・・・そこまで言うんなら最後まではっきり言いましょうよ先生。『撃たれてこい』の間違いでしょ?」

 

「あっははは!参ったじゃんよ!こりゃ上条には敵わないじゃん」

 

「まったく…」

 

 

気恥ずかしそうに後ろ頭を掻く黄泉川に対し、上条は呆れたようにため息を吐いて肩を上下させた

 

 

「いやー、子供には銃を向けないってのが私のスタンスなんだけど、よくよく考えてみれば私が撃つ訳じゃないし、大学生はもう心も体も大人だから問題ないじゃん!だから上条が適任だと思って声をかけたじゃんよ!」

 

「鬼だなアンタ!?」

 

「で!勿論やってくれるじゃん!?」

 

ガタンッ!

 

「誰が勿論やるか!?嫌ですよ!何かあったらどうすんですか!?」

 

ガタンッ!ガシッ!

 

「だ、だから!その可能性は100%ないって上条自身も言ってたじゃんよ!?」

 

「100%ないのを信じるならやる必要そもそもないでしょ」

 

「うぐっ…」

 

 

黄泉川の頼みを即答で却下した上条はそのままソファから腰を上げ、ドアに向かって歩き始めたが、同じくソファから立ち上がって上条の後を追った黄泉川が彼の服の裾を縋り付くように掴み、その場に留まらせていた

 

 

「で、でもこの死銃はターゲットにはそれ相応のこだわりを持ってるじゃんよ!」

 

「こだわりぃ?」

 

「そ、そうじゃん。ゼクシードと薄塩たらこ。この二人はGGOじゃ名の通ったトッププレイヤー…だから死銃は強いプレイヤーじゃないと撃ってくれないじゃんよ…多分。だからあのSAOをクリアに導いた上条ならきっと…」

 

「無理です。GGOってのはそんな甘ったるいゲームじゃない。ガチのガチでゲームだけで生活費賄ってるようなプロがウヨウヨしてるゲームなんですから」

 

 

そう。上条の言う通りガンゲイル・オンラインでは全VRMMOで唯一、『ゲームコイン現実還元システム』を採用している。よってゲームで金を稼ぐことができるため、いわゆるゲームを職業にしている『ゲームのプロ』が集まっている

 

 

「つまるところ、アイツらは正真正銘のゲーム廃人で、俺なんかとは比べ物になんないくらいの時間と情熱をゲームに注ぎ込んでんすから、とても俺なんかがのこのこ出て行ったところで相手になんかしてくれませんよ!と、言うわけで!この話は他を当たって下さい!」

 

「待った!待つじゃんよ!他にアテがいないからこうして頼んでるじゃんよ!」

 

「いやいるでしょう?さっきだって知人にSAOプレイヤーがいるって言ってたじゃないですか」

 

「いやソイツはSAOから帰って来たのを機に一切もって仮想世界から足を洗ったから頼んでも頼んでも首を縦に振らなかったし、そもそもSAOでも特殊スキルに頼ってたからそれが通じないGGOじゃカス同然だって言われて断られたじゃんよ!」

 

「お粗末様です。じゃあ失礼します」

 

「分かった!分かったじゃんよ!じゃあプロの相手は荷が重いって言うんなら『調査協力費』という名目で報酬を支払うじゃん!」

 

「報酬ぅ〜?」

 

「じゃん!ほら!これぐらいは出すじゃんよ!」

 

 

そう言って黄泉川は自分の指を三本突き立て、上条に見せた

 

 

「・・・舐めてんですか?そんな手間にたったの三万て。高校生の時の上条さんだってもうちょいマシな仕送りもらってましたよ」

 

「のんのんじゃん!0を後ろに一個つけ忘れてるじゃんよ!」

 

「・・・マジすか?」

 

「マジじゃんマジじゃん。学園都市の公務員の貯えを甘くみたらいかんじゃんよ。なんだったらここにもう一本指を足してもいいじゃん?」

 

「・・・いいでしょう!指4本引き受けました!」

 

「よっしゃ!交渉成立じゃんよ!」

 

 

こうして万年貧乏学生である上条は金の欲に負け、黄泉川の依頼をあっさり引き受け、交渉成立の固い握手を交わした

 

 

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