第1話 オーグマー
時は桜の蕾ができ始めた三月の初頭。ここ学園都市の街角に設置された大型テレビには、昨今の世間を騒がしているニュースが放送されていた
『すいません、その耳につけている物ってなんですか?』
「はぁ〜〜〜……」
日付に基づいて考えるのならばそれ即ち、当時の時代の先端であると騒がせた「フルダイブ型VR技術」の実現から3年と半年の月日が経ったということでもある。それだけ月日が経てばまぁ、次なる話題が生まれても当然といえば当然である。そして目の前のテレビはまさに、その新たな時代の到来を宣言していた
『『オーグマー』です』
「いいなぁ…『オーグマー』…」
そう、テレビで報道している学園都市を新たに賑わせた代物とは、次世代ウェアラブルマルチデバイス『オーグマー』であった
「おーっす、お待たせ〜」
「おぉ美琴、相変わらず楽しそうだな」
「そういうアンタは相変わらず寂しそうな耳元してるわね。結局まだ『コレ』買えてないわけ?」
そう言いながら上条当麻と所用があるため待ち合わせをしていた御坂美琴は自分の左耳につけたオーグマーを指先で小突いた。そう、このオーグマーは利用者を仮想世界に誘うVRとはまるで違い、現実でそのまま利用するという所謂『拡張現実』と称される『AR技術』に特化した端末である
「いやーしかしこれは便利よ本当に。どこでもテレビは見られるし、ナビは携帯より使いやすいし、天気予報は役に立つし」
「それ俺に自慢するの何回目だよ…あー俺も正直喉から手が出るほど欲しいですよそれは…でも金がないんだからしゃーねぇだろうが…」
カチャッ…
「ま、そういうわけだから。はい」
そう言うと美琴は自分の耳に装着したオーグマーを外し上条の方へと差し出した
「?なんだよ?試しにつけてみろってか?」
「違う違う。これアンタにあげるって言ってんの」
「・・・なんですと!?」
ガサゴソ!スチャッ!
「じゃーん!おNEW!」
そう言うと美琴は満面の笑顔で新たにカバンから取り出したオーグマーを左耳に装着した
「えっ!?ええっ!?わざわざ二台も買ったのかお前!?」
「違う違う。今朝学校が授業にオーグマーを取り入れるってんで生徒全員に無料配布したのよ。でも私はその前にもうオーグマー買っちゃってたから、一台余っちゃったわけ。だからその一台はお古だけどアンタにあげるわ」
「ほ、本当か!?本当にいいんでせうか!?このオーグマーの所有権は上条さんにあるとですか!?」
「ま、いつものSAOからのメンバーでオーグマーつけてないのアンタだけだしね。いつも物欲しそうな顔で見られんのもこっちが困るし、存分に使いなさい」
「ありがとうございます!本当にありがたいです美琴大明神様!このご恩はいつか必ず!では、早速」
スチャッ!ピコンッ!
『ようこそ!オーグマーへ!』
「うおおおおおおお!!!」
上条は美琴に手渡されたオーグマーを早速自分の左耳に装着した。すると上条の視界には、たちまち様々な電子表記が駆け巡り、天気、気温、時間などの私生活をサポートするための情報が表示されていた。しかし、その中で一際目を惹く数字の表記があった。
[ Ranking 2269232 ]
「・・・ん?美琴、このランキングってのはなんだ?」
「ああ、それは『オーディナル・スケール』のランキングよ」
「オーディナル・スケール?」
「そ。オーディナル・スケールってのは、つまるところオーグマーに搭載されたゲームよ。ゲームをプレイするプレイヤーにはそれぞれ『順位』を示すナンバーが与えられてて、ゲームをプレイするごとにそのランキングの数字が上がってくのよ」
「へーーー…オーグマーにもゲームがあったのか…にしても220万位か…学園都市の人口から言ってほぼビリだな…まぁ贅沢は言えねぇけど…」
「ほら、そんなことより早くセブンスミストに行きましょうよ。リズとシリカさんが待ってるわよ?」
「ん?ああ、そりゃいんだが…お前篠崎と綾野の呼び方がプレイヤーネームになってんぞ?」
「え?ああ、これはいいのよ。視界の左上の方見てみなさい」
「ん?あれ?俺のプレイヤーネームだ」
[Name : Kamiyan]
「初期設定は色々と面倒だからそっちに入ってたデータを全部私の新しいオーグマーに移して、そっちのお古のはアンタのユーザー名で登録しておいたわよ。ま、おかげでランキングはほぼビリも同然だけどね」
「おおそっか、サンキューな。まぁ大丈夫だよ、上条さんは元からレベル0だしビリには慣れてる」
「まぁそう言う手前、流石にプレイしてる人口が多すぎて第三位にはなれないんだけどね。まぁでも、ビリに甘んじてるの勿体無いと思うわよ?順位が上になればなるほど使えるクーポンとか、割引サービスもどんどん増えてくみたい。一位になった日にゃどんな特典がつくやら…」
「なっ!?割引サービスだと!?そりゃこの上条さんが黙ってないぜ!生活が楽になるってんなら喜んでオーディナル・スケールにのめり込んでやる!」
「はーいはい、いいからセブンスミストに行くわよ。リズ達ももう授業終わる頃だから、きっと待ってるわ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ピコピコピコピコ…テッテレー!
[CLEAR!]
「やりました!クリアです!」
「おっしゃあ!いっただきぃ!」
「おおっ!ケーキ無料サービスだって!ラッキー♪」
「て、てかべらぼうに上手かったわねアンタ」
「正直上条さん一人でもいけたんじゃないですか?」
「いやぁ、こういうアナログ系ゲームは長いこと家にファミ○ンしかなかった上条さんの得意分野ですのことよ?」
「逆によくファミ○ンなんて持ってたわね…」
その後第七学区のセブンスミストへと移動した上条と美琴はリズとシリカと合流し、ファミレスに入り、オーグマーでファミレス側から提供したパック○ンのゲームをクリアしていた
「いやーしかしまぁ、こういうポイント抜きにしても本当便利よね〜」
「本当ですね。通信規制緩和の為に学園都市中に通信機能を追加実装した清掃ロボットが新たに配備されて街中もさらに綺麗になりましたし」
「まぁ私としては能力が使いづらくなってそこだけは良しと出来ないんだけどねぇ…」
「いやお前の能力はそもそもやたらめったら使うもんじゃねぇかんな!?一回俺ん家の家電全滅させてんだぞ!?」
「でも、上条さんもようやくオーグマーが手に入ってよかったですね」
「まぁ私のお古だけどね」
「本当だよ。ウチの大学ケチだからなぁ…流石にリズ達の帰還者学校とか常盤台みたく無料配布とはいかねぇよ」
そう言いながら上条は少し気恥ずかしそうに左耳につけたオーグマーを二、三回ほど掻いた。すると一人のファミレス店員が四人の座る席に一礼して寄ると、四種類のケーキを置いた
「お待たせ致しましたー。こちらクリアボーナスセットです。ごゆっくりどうぞー」
「ああっ!あたしこれ!」
「私はこれがいいです!」
「私これ!」
「「「あっ…あははは…」」」
机に置かれたケーキを見るなりリズ、シリカ、美琴がそれぞれ好みのケーキをほぼ同時に指差した。普通ならば誰か一人ぐらい希望が重複するのだろうが、見事なまでに当人達の好みはバラバラだった
「へぇ、それがAIが好みまで把握するっていう『ディープ・ラーニング』ってやつか…じゃあ上条さんは最後に余った一つをもらいますかなっと」
「あーむっ!んぐんぐ…ん〜っ!美味ひ〜!」
「ま、上条じゃこうはいかないわよね〜?」
「ただの人間である俺と機械を比べますかそうでせうか…」
「もぐもぐ…あ、そう言えば聞きましたか?例の話」
「・・・例の話?」
ケーキを頬張りながらフォークを片手にシリカが3人にそう尋ねた。しかし上条には何のことやらさっぱりで小首を傾げて聞き返した
「あ、聞いた聞いた。オーディナル・スケールのイベントの話よね?」
「あ、それならあたしも聞いた」
「ふーん、俺は知らねぇなぁ…そのイベントがなんだって?」
「実はそのイベントで…出たそうなんです」
「で、出たってなにがでせう?」
「・・・SAOのフロアボス」
「・・・なっ!?」
上条の問いかけに対し美琴が静かな声で答えた。上条はそのにわかには信じ難い話に思わず自分の耳を疑った。三年前の自分が何度その類いの敵と死闘を繰り広げたことか。上条の脳裏では、今まで倒してきたフロアボスの面影が鮮明なまでに蘇っていた
「つい一週間前から昨日までの間に、1層から9層までのフロアボスが出現したらしいわ。まぁ何かのプロモーションとかなんじゃないかって噂は飛び交ってるけど…実態は定かじゃないわね」
「それに!なんとそのフロアボスとの戦闘では高確率で『ユナ』のライブイベントが入るみたいですよ!」
「・・・ユナ?」
「ほら、あの子よ」
「ん?」
『みんなー!私のファーストライブ!第三学区の新国立競技場でやるから見に来てねー!』
「「「うおおおおおおお!!!」」」
ワイワイガヤガヤワイワイガヤガヤ…
美琴がファミレスのガラスの向こう側を指差すと、その指の先にはセブンスミストのイベントホールに設置されたステージで踊る黒を基調にした服に白い髪、そしてアイドルらしい可愛い顔とその手にマイクを持った少女とそのファンの声援があった
「ああ、確か…オーディナル・スケールのイメージキャラクターっつーARアイドルの…」
(そう言えば俺…あのイベントホールでやってた抽選でナーヴギアとSAO当てたんだっけ…懐かしいな…)
「そ。あのユナって子がバトルサポーターとして歌ってくれるイベントが起こりやすいって話なのよ」
「まーでも、出てくる場所と時間がギリギリまで分からないから足がないあたし達には難しいのよね〜」
「・・・よし、行ってみるか」
「え!?い、行くってオーディナル・スケールの例のイベントに行くってことですか上条さん!?」
不意な上条の呟きに対し、ALOではケットシーの中でも一際可愛らしく大きな耳を持つシリカがいち早く反応を見せた
「え?聞こえてたのか?まぁオーディナル・スケールの上位ランキングでもらえるサービスは俺にとっちゃありがたいし、噂を確かめるって意味でも試しに行ってみっかなって…足に関しちゃ俺はこの前買ったアクロバイクがあるし…」
「「「えっ!?」」」
ガシッ!ガシッ!ガシッ!
「乗せて下さい上条さん!」
「あたし後ろ乗ってっていい!?」
「私後ろに乗っていく!」
「・・・はい?」
上条の最後の一言に驚愕するなり、3人が一斉に上条の肩に掴みかかり、ほぼ同時に同じような問いかけを上条へと向けて言い放った
「ちょっとミコト!アンタには黒子っていう足があるでしょうが!」
「はぁ!?後輩を足に使えってわけ!?」
「え、美琴さんあなたいつも散々足に使ってる気がするんでせうg…」
「 な ん か 言 っ た ? 」
「なんでもないですすいませんごめんなさいでした 」
「そ、それにしても!ミコトさんは能力使って磁力であっという間に飛んでいけるじゃないですか!」
「ぐっ…!そ、それはアレよシリカちゃん!私が能力使うと清掃ロボの通信機器に異常が生じるからそんなやたらめったら使うのはよくないかなって!」
「い、いや美琴さんあなた普段から能力どころか超電磁砲までぶっぱn…」
「 な ん か 言 っ た ? 」
「なんでもないです申し訳ございません生きててごめんなさいでした 」
「で!?上条!誰を乗せてくの!?」
「私ですよね!?そう言って下さい上条さん!」
「私よね!?さっき私が一番早かったんだから!」
3人の女性陣はより一層上条へと詰め寄るとファミレスにいる周囲の客も引くほどの勢いで問いかけた。しかし、そんな3人の問いかけに対し上条は極めて冷静に返答を告げた
「い、いや…別に誰も乗せねぇぞ?」
「「「・・・は?」」」
「いやねぇ、三人ともなにも当然なことのように聞いてますけど、アクロバイクはどんなに高性能でも所詮はただの自転車。知っての通り自転車の二人乗りは違反ですからね?そんなんで風紀委員とか警備員にしょっぴかれるなんざ俺は真っ平ごめんだ」
「「「・・・たしかに」」」
「でしょう?だから上条さんは誰も後ろに乗せる気はありませんよ〜」
「で、でも!じゃあ詩乃の時はどうして乗せたのよ!?」
「いやあの日はスキルアウトを撒くためもあったし、後の予定もあったし仕方なかったんだよ。祥恵さんとか瑞恵ちゃんを待たせるわけにゃいかなかったし」
「うぐっ……」
「いいなぁ詩乃さん…上条さんと二人乗り…」
「・・・はぁ、まぁそういうことなら今回はもういいわ。でも、オーディナル・スケールをやるなら色々と準備をしないとね」
「・・・準備?」