とある魔術の仮想世界[3]   作:小仏トンネル

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第6話 未曾有の恐怖

 

シュンッ!!

 

「悪いわね黒子、昨日に引き続いてお願いしちゃって」

 

 

時刻は午後の9時前。一般の学生ならばとうに家でくつろいでいるであろう時刻に美琴と黒子は、第七学区にある公園の前に来ていた。つい先刻、クラインから今日のオーディナル・スケールのイベントバトルはここで行われるというタレコミ情報を聞いた美琴が、昨日と同じように無理を言って聞かせたためだった

 

 

「まったく…お姉様、ひょっとしてわたくしがお姉様のお願いを断らないのをいいことに味を占めてるんじゃありませんの?」

 

「まさか。自分が学内で一番心を許してる後輩にそんなこと思うはずないじゃない」

 

「にょわーーーっ!!!そのお言葉だけで黒子はーーーっ!!!お姉様ーーーっ!!!どこぞのARアイドルのキスなど忘れてしまうほどよ熱いキスをどうかこのわたくしとーっ!…と、冗談はこの辺にいたしまして…」

 

「やめんかーーーっ!…へ?冗談?アンタってこういう時大体本気で…っていうか、急にそんな冷静になってどうしたのよ?」

 

「・・・お姉様、先のお言葉が本心であろうとなかろうと、一体どうなさいましたの?急にそんなことを仰るなんて…それにいつもと少し様子が違うような…」

 

「・・・まぁ、そうね。少し今日は嫌な予感がするというか…あはは、それだけで見抜くなんて流石ね黒子。長い付き合いは伊達じゃないのかしら?」

 

「恐らくは女の勘というものですの。かく言うわたくしも風紀委員という仕事柄そういう予感は多かれ少なかれ感じる時はありますので…。それで、本当に大丈夫なんですの?もしもの事を考えて今夜はお辞めになった方が…」

 

「ううん、まぁきっとなんでもないわ。この一連の出来事は少し私的に気になるところがあるんだけど…多分いらない取り越し苦労に終わると思うわ。たまには本音を言いたくなる時もあるじゃない?さっきのはそれが少し漏れただけよ、きっと」

 

「・・・まぁお姉様がそう仰るのでしたら…ですが気をつけて下さいまし?帰りもご連絡を下さればお迎えに上がりますの」

 

「うん、分かった。ありがとね黒子」

 

「それでは、一旦失礼致しますの」

 

シュンッ!!!

 

(・・・ああ言った手前、実際は自分で分かってる。さっきのは私の本音に間違いない。でも、それを実際に口にした原因は……)

 

(思い…出してる…?あのSAOで戦っていた頃の記憶を…あの始まりの日、黒子に何も言い残せずに後悔したことを…だから今度は…それをちゃんと言葉にして残していこうと…でもそれは…つまり…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・私が…死ぬ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(・・・はっ。我ながら何をバカげたことを…今さら思い出したからってなによ。あんな日々の記憶忘れる方がどうかしてる。昨日実際にフロアボスを見て少しフィードバックしてるだけ。そうよ、これはどこまでいっても所詮……)

 

「ただのゲームなんだから……」

 

「タダのゲーム?今時のゲームは大半が課金制でその気になりゃ最後まで無料で遊べんのばっかだぞ?」

 

「えっ?あ、クラインさん…それに風林火山の人たちも…」

 

 

美琴がポツリと呟いたのが聞こえたのか、いつも通りの軽い口調のままにクラインが美琴に話しかけた。そんな彼の後ろには、昨日と同じく風林火山の面々が集まっていた

 

 

「うっす!まさか本当に来るとはな。順調に非行少女への階段を上がってるんじゃねーのかミコトよ?」

 

「こんばんは、クラインさん。生憎だけど私自分のこと別に優等生だなんて思ってないし、むしろ非行少女側だって自負してるわ。それに私一応高校生よ?夜の9時に出歩くなんて別に普通よ」

 

「ははっ、そりゃ悪かったな。しかし上の字のヤロー、俺が折角誘ってやったのに大学の飲み会なんかでパスしやがって…俺と飲むのはあんなに嫌がるってーのによぉ…」

 

「・・・あれ?私の記憶が確かなら今日一人少なくない?」

 

「ああ、さっきからソイツと連絡つかなくってな。合流したら俺たちも参戦すっから、先に行っててくれよ」

 

「あら、いいのかしら?あんまりノロノロしてると私が全部ポイント持ってっちゃうわよ?」

 

「そ、そりゃねーよ!」

 

「あはは、軽い冗談よ。それじゃまた後でね」

 

ザワザワザワザワザワ………

 

「クラインさんの言う通りアイツの姿はなし…か。まぁいいわよね。どうせアイツは25層までのボスとの戦闘経験はないんだろうし」

 

ゴゴゴゴウンッ!!!

 

「キキキィィィィィ!!!」

 

 

美琴が上条を探して辺りを見回していると、突如公園の中心から炎が燃え盛り、その中から四足歩行になった鷲のようなモンスターが出現した

 

 

「あれは11層の『ザ・ストームグリフィン』か…ちょっと懐かしいわね」

 

『さぁみんな準備はいい?戦闘開始だよー!ミュージックスタート!』

 

「うおーユナちゃんだー!」「きゃーこっち向いてー!」「今度俺とデートしてくれー!」

 

「・・・ったく。ミーハーってのはどうしてこうなのかしら…まぁいいわ、宣言通り、私が全部ポイント掻っ攫ってやるんだから!」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「げえっ!ユナちゃんのステージ来てんじゃん!」

 

「クソッ!あいつメッセも電話も返さねぇぞ!」

 

「早くしないと折角の獲物が…」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、威勢のいいところ悪いけど、残念ながら今日の獲物は君たちなんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ?」

 

ゴゴゴゴウッ!!

 

「ウガアアアアアアッッッ!!!」

 

 

どこからともなく声が聞こえ、風林火山の面々が辺りを見渡すと、丁度背後から炎が湧き立ち、おぞましく巨大な棍棒を持ったゴーレム型のモンスターが姿を現した

 

 

「こ、コイツ…!第11層ボスの『ゼーギ・ザ・フレイムコーラー』じゃねぇか!?二体同時出現もあり得るってことかよ!?」

 

「チッ!仕方ねぇ!お前ら気合い入れてくぞっ!!」

 

「「「おうっ!!!」」」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ギキキイイイイィィィィィッ!!」

 

 

一方、美琴たちとザ・ストーム・グリフィンの戦いは中盤戦を迎えており、グリフィンが周囲に響き渡る雄叫びを上げると、その身体から青白い雷光が迸った

 

 

「ッ!あのモーションは…!広範囲攻撃が来るわ!タンクの人はボスを引きつけて!」

 

「えっ?お、おう…」

 

「もうすぐ大技出してホバリングするから遠距離系の人は羽根を狙って撃ち落として!」

 

「え、あ、ああ…!」

 

「撃ち落とした後がチャンスよ!みんなで一斉に攻撃して仕留めるわ!」

 

「任せろ!」

 

 

美琴は戦場を駆け回りながら、見ず知らずのプレイヤー達に的確に指示を出していた。それはまるで、SAOで血盟騎士団を統率していた頃を思い出しているかのようだった

 

 

「おっしゃー撃ってこーい!」「俺の盾に敵うと思ってんのかよー!」「テメーなんか焼き鳥にしてやんよー!」

 

「ギィエエエエエエエエエ!!!!」

 

バチバチバチバチ!!!ガァンッ!!

 

「撃って!」

 

「「「うおおおおおお!!!」」」

 

ババババッ!!ダダダダダンッ!!!

 

「キュアアアアアァァァァ!?!?」

 

「今よ!一斉攻撃!」

 

「よっしゃー!」「食らいやがれー!」「殺ったりぃぃぃ!!!」

 

ズバァンッ!ドゴォッ!シャキン!

 

「・・・ィィィキキキキキ!!!」

 

ダンッ!ドドドドドドド!!!!!

 

「くそっ!仕留め損ねた!」

 

 

近接プレイヤーの総攻撃を受けてなお、グリフィンのHPは健在だった。すぐさま体勢を立て直すと、ところ構わず暴れ出し、フィールドを縦横無尽に駆け回った

 

 

「悪いけど、その行動パターンも…お見通しよっ!!!」

 

ガリガリガリガリガリガリッ!!!

 

「ギィエエエエエエエエエ!?!?」

 

ドッバアアアアアァァァァァン!!!

 

 

しかし、グリフィンが暴れ回る先にはレイピアを構えた美琴が立ち塞がり、その切っ先に吸い込まれるようにグリフィンが突撃していき、その身体を自らガリガリと引き裂いていき、大音量のサウンドとライトエフェクトを伴い、跡形もなく消え去った

 

 

「「「いやったーーー!!!」」」

 

「ふぅ、疲れた。結局クラインさん来ないまま終わっちゃったわね…」

 

『またあなたね!おめでt…』

 

「待った。ポイントだけくれればそれでいいから。AIが出過ぎたマネするんじゃないわよ」

 

『あら残念』

 

 

美琴が一息ついてレイピアを鞘に納めると、先ほどまで歌っていたユナが美琴の前に降り立ち、昨夜と同じように頬に唇を近づけたが、美琴はそれを片手で制した

 

 

『でも、またね。ミコトさん』

 

「・・・え?」

 

シュンッ!!

 

 

そう言い残しながらヒラヒラと手を振ると、ユナは電子の波となってその姿を消してしまった

 

 

(・・・今の、名前を呼んだだけ…よね?それに『またね』って…次に会うのを確信してるってこと?いくらAIだって言っても…普通そんなこと言うものかしら…)

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

ドッバアアアアアアアンッ!!!

 

「やりぃー!ボーナスゲットー!」

 

「ナイスファイトだったぜリーダー!」

 

 

そして美琴たちがグリフィンと対峙している間、クラインたち風林火山も突如出現したゼーギ・ザ・フレイムコーラーを見事に討伐していた。メンバー全員がその歓喜に湧く中、なんとも軽薄な拍手の音が聞こえてきた

 

 

パチパチパチパチ……

 

「いやぁ、流石のチームワークと言ったところかな。昨日は一人だけだったし当人が余りにも間抜け過ぎて君たちを過小評価していたみたいだ」

 

「あ?いきなり何だぁ?てか誰だオメー?」

 

「『どこにでもいる平凡な大学生』だよ」

 

「・・・え?」

 

「 新 た な 天 地 を 望 む か ? 」

 

バツンッ!!!!

 

 

自らを平凡な大学生と名乗る人物は、実際より大きく見えるわけでもなく、かといって小さく見えるわけでもない異質な雰囲気を漂わせる少年だった。頭部にはオーグマーが装着してあり、白のワイシャツに紺のブレザーと灰色のズボン、そして首にはネクタイ。一見すれば高校生にしか見えない少年は、クライン以外の四人が集まっている方へと右手を差し向け、静かに謎めいた言葉を呟いた。すると短く歪な音が聞こえ、クラインの視界から一瞬にして四人の姿が消失した

 

 

「・・・は?き、消え…!」

 

「あぁなに、気にしないでくれ。コレは『こういう仕様』なんだ。なにも別に本当に消えたわけじゃない。耳についてるやつを外せばちゃんとその辺に転がってるよ」

 

「テンメェェェェェ!!!何してくれてんだーーー!!!」

 

ガシャンッ!ダンッ!!

 

 

その光景を目の当たりにしたクラインは激昂し、耳につけたオーグマーを乱雑に地面に叩きつけ、地面を蹴り飛ばすと少年に向かって殴りかかった

 

 

「うりゃ!でりゃっ!うおりゃあ!」

 

ブンッ!ブオンッ!グワッ!

 

「おやおや、馴染みの深い『彼』の真似事かい?だとしたら興醒めだな。君は『適材適所』という言葉を知らないと見える。そんな脆弱な拳をいくら僕に向けても無駄だよ」

 

「ええいっ!クソッ!」

 

バシンッ!

 

「だから無駄だって言ったろ」

 

ボギィッ!!!

 

「うぎあああああああ!?!?!?」

 

 

少年はクラインの握り拳を右手で受け止めると、クラインの肘から先を普通では有り得ない方向へと捻じ曲げた。クラインはあまりの激痛に絶叫し、地面に倒れこんだ

 

 

「あぁ…これは少し強すぎるな…というか今の僕には不要な物だな。コレは後で教授にお返ししよう」

 

「うぎ…いぎぎぎ…痛ってぇ…」

 

「ほら、君の忘れ物だよ」

 

カチャッ……

 

 

地面に這いつくばりながら折れた腕を抑えるクラインに、少年は先ほどクラインが投げ捨てたオーグマーを拾い上げ、そのまま持ち主の耳へと装着させると、地面に這いつくばるクラインへ右手を差し向けた

 

 

「さて、これから君もお仲間と同じ末路を辿ることになるわけだけど…何か言い残すことはあるかな?」

 

「あっ…ぁぁぁぁぁ………」

 

「なに、そう怯えることもないさ。二年ちょっと過ごした場所にもう一回戻すだけで別に殺してやろうって話じゃない。もっとも、君がもう一度生き残ればの話だけどね」

 

「ああああああああああああああああああああああああああああああ!?!?!?!?」

 

「 新 た な 天 地 を 望 む か ? 」

 

バツンッ!!!………………

 

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