とある魔術の仮想世界[3]   作:小仏トンネル

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第8話 消失

「・・・もう始まっちゃったわよ?」

 

『んなっ!?』

 

 

上条の電話を取った美琴は今、第七学区の大型ショッピングモール『セブンスミスト』前の開けた道路にいた。その場所こそが今回のイベントバトルの指定場所であり、時間的にも場所的にも第七学区に住まう彼女たち三人にはうってつけだったため、急いで駆けつけたのだった

 

 

ドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴッッッ!!!

 

「キキキキキキキィィィ!!!」

 

「ちょっとミコトー!?なに呑気に電話してくれてんのー!?いくらタンクがいないからってこの役しんどいわよーーー!?!?」

 

 

美琴が上条との電話にかまけている一方、リズベットはヤドカリ型のモンスターの殴打をバックラーで受け続けており、その背後に隠れているシリカも悲鳴を上げていた

 

 

「ひゃあああああ!?!?ミコトさん助けて下さーい!?!?」

 

「あ、ヤバいこのままだとリズとシリカさんが死にそう。とりあえずそういうことだから切るわね。場所はセブンスミストの前だからアンタも急げば間に合うと思うわよー」

 

『あっ!おいちょっt…!』

 

プツンッ!

 

「せぇいっ!!!」

 

ズバァンッ!!!ドッゴォォォッ!!!

 

「フシャアアアアアアアア!?!?」

 

 

そう言って美琴はスマホの通話を切ると、矢継ぎ早にリズベットを殴りまくっていた旧アインクラッド第12層ボス『ザ・ストリクトハーミット』を切り飛ばした

 

 

「OKOK。大方作戦通りね」

 

「いやどこが!?アンタが余計な電話してなけりゃもっと早く今の一撃入れられたでしょうが!てか本当にこの役しんどいわよ!?」

 

「ひええええ…怖かったぁぁぁ…」

 

「うおー!俺たちも負けないぜー!」「ボーナスは俺のものだー!」「いけいけー!」

 

「おっと、悠長に話してたら先越されちゃいそうね。それじゃあ続きいくわよ!」

 

「「おおおーーーっ!!!」」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

カシャコカシャコカシャコッッッ!!!

 

「あーもうクソッ!なんで毎度のようにこうなるんだよ!!」

 

 

上条は美琴に電話を切られた後、病院からセブンスミストまでの道をアクロバイクで爆走していた。力の許す限りペダルを漕ぎまくった成果もあり、わずか五分足らずでイベントバトルが行われているのであろう人だかりを発見した

 

 

「あそこか!頼むから三人とも無事でいてくれよ!オーディナル・スケール起動!」

 

ガシャンッ!!ダダダダダダッ!!!

 

 

人だかりを見つけた上条は道端に乱雑にアクロバイクから飛び降りると、即座にオーディナル・スケールを起動させ、人だかりへと飛び込んでいった

 

 

ザワザワガヤガヤワイワイザワザワガヤガヤ

ワイワイザワザワガヤガヤワイワイ…………

 

「ちょっ!?人多すぎんだろこれ!?わ、悪い通してくれ!ああクソッ!時間がねーってのにこんな人混みどうやっt…!」

 

『〜♪〜〜♪〜♪〜〜〜♪』

 

「・・・あれ?」

 

 

人混みを掻き分けながら進む上条の耳に聞こえてきたのは、透き通るような歌声だった。その歌声は、戦場という不相応な場にも関わらず、唯一歌い続けているユナのものに他ならなかった

 

 

「この歌声と曲…っていうか俺…あのユナって女の子を…どこかで…」

 

 

そしてその歌声を聞いた上条の脳裏に、何かが蘇りつつあった。そして自らの視線の先にいる少女の面影にもまた、見覚えがあるような不思議な感覚にとらわれていると、その直後に穏やかに聞こえる歌声とは対照的な、背筋も凍るほどおぞましい咆哮が聞こえてきた

 

 

「ギャオオオオオオオオッッ!!!!!」

 

「ッ!?い、今の…ドラゴンの鳴き声か…?嘘だろ…今日出現するのなんて精々10層そこらのハズだろ…当時の情報屋の攻略情報でもその段階でドラゴン系のフロアボスなんていなかったはずじゃ…!」

 

「うわあああ逃げろぉぉぉ!!」「誰か助けてー!」「あんなの勝てっこねー!」「こんなんでポイント取られてたまるかー!」

 

 

するとドラゴンの咆哮に怖気付いたのか、はたまた戦況があまりにも悲惨だったのか、戦場にいたプレイヤーや人混みの前の方にいる集団がこぞって戦場に背を向けて逃げ惑い始めた

 

 

「おわっ!?ちょっ!?しめた!一先ずこれで前に出れる!」

 

ダダダダダダダダダダダダッッッッッ!!!

 

「美琴ー!リズー!シリカー!どこだー!?」

 

「ご、ごめんなさ…きゃあっ!?」

 

「ッ!?シリカ!!!」

 

 

ようやっとイベントバトルの戦場にたどり着いた上条は馴染みの三人を大声を上げて探していると、周囲を見回した視線の先で、ある一人の少年か逃げ惑うシリカの肩を突き飛ばし、シリカが尻餅をついたのを見た瞬間、上条は地面を蹴って走り出した

 

 

「悪いね。君に別段の恨みはないけれど、それでも貴重な一つのピースなんだ。『彼女』のために『あの世界』に戻ってくれ」

 

「・・・・・ぇ?」

 

「シリカさぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」

 

バッ!!!

 

 

そして尻餅をついたまま状況の整理が追いつかず戸惑うシリカに構わず、少年はその右手をすいっと差し向けた。すると次の瞬間、シリカを助けに走っていた美琴が二人を遮るように割って入った

 

 

「 新 た な 天 地 を 望 む か ? 」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・ぇっ?」

 

バツンッ!!!!!

 

「・・・・・は?」

 

「おっと、少し予定が狂ったな。まぁいいか、どうせこうなる運命だったんだから」

 

 

その異様な光景を、上条は目の当たりにしてしまった。少年がなにかを呟いた直後、その右手の先にいた美琴の体が、跡形もなく消え去ったのだ

 

 

「アイツ…!アイツかっ!!!」

 

 

それを見て直感した。あの少年こそが全ての元凶であると。クラインと美琴の仇であると。そう気づいた上条は怒りに我を忘れそうだったが、その感情を奥歯で嚙み殺し、まだ安全とは言えないシリカの元に駆け寄った

 

 

「み、美琴さん…?美琴さん!美琴さん!」

 

「シリカ!無事か!?」

 

「か、上やんさん!美琴さんが…美琴さんが…美琴さんがぁ…!!」

 

「ッ!?まさか…いるのか…?そこに…美琴が…?」

 

 

上条はシリカの元へと駆け寄ると、シリカは泣きながら『見えない何か』を抱きながら、うわごとのようにある少女の名を何度も繰り返していた。そしてその様子から嫌でも分かってしまった。シリカが抱いている『見えない何か』は、間違いなく先ほどまでそこにいた御坂美琴であると

 

 

「こらー!プレイマナーを守れー!」

 

「ッ!それ以上こっちに来るなリズ!」

 

「え?か、上やん…?」

 

「おや?これは少し驚いたな。まさかSAOを終わらせたヒーロー様にこんなところで出会えるなんてね」

 

「お前ッ!!美琴に何をした!?」

 

ガボンッ!!!!!

 

「ッ!?!?」

 

 

いよいよ怒りが限界に達しきった上条は謎の少年に掴みかかろうとしたが、少年が右手を前に突き出すと、上条の真横を通るように地面がぼっかりと抉られ、上条は思わずその場に立ち止まり生唾を飲み込んだ

 

 

(・・・い、一体なんなんだコイツの右手?俺の右手と同じ…いや、違う。具体的になんなのかは全くもって分かんねぇ…いや分かりたくもねぇよこんなもん!ただコイツの右手を見ただけなのに悪寒が止まらねぇ…!)

 

「・・・おや?君、本当にあの上やんかい?たかだか見知らぬ一般人の右手を見ただけで萎縮するとは他愛ないな。SAOに終止符を打ったヒーロー様も、所詮はただの腑抜けか」

 

「ッ!?んだとテメッ…!!」

 

「おっとその辺にしておきなよ。僕はこう見えてもそんなに気が長くはないんだ。こちらとしてもまだ『未完成』の君を向こうに送りたくはないからね。今日はこの辺で退散させてもらうよ」

 

「・・・は?ど、どういう意味だ!?」

 

「僕の名前は『上里翔流』。君とはそう遠くない日にきっとまた会うことになる。せめてそれまでに死なない程度に思い出しておくことだね上やん…いや…『上条当麻』」

 

「お、おい待t…!」

 

「ギオオオオオオオオオオッッッ!!!」

 

ボゴオオオオオオオオオオッッッ!!!

 

「どわっ!?」

 

 

上里と名乗った少年の後を追おうとした上条だったが、突如その眼前に先の咆哮を放っていたであろう黒く禍々しいドラゴンが立ち塞がり猛炎を吐き出し上条は行く手を阻まれてしまった

 

 

ビビビビーーーッ!!!

 

[00:00 TIME UP!]

 

『ざーんねーん!お疲れ様ー!』

 

シュウウウウウウ………

 

「えーっ!?」「うっそーーーん!」「そりゃないよー!」「ボーナスはー!?」

 

 

そして突然周囲に一際大きなブザー音が響き渡った。それはイベントバトルの時間終了を知らせる合図であり、その音を皮切りに二体のフロアボスはその場から姿を消し、ユナも立ち去ってしまった

 

 

「上やん!シリカ!大丈夫!?あーもうなんだってのよさっきのヤツ!美琴もどっか見当たらなくなっちゃうし…!」

 

「・・・いえ、リズさん…美琴さんはちゃんと…ここに…」

 

「・・・え?ここにって…」

 

カチャッ…

 

「・・・美琴…」

 

 

上条は意気消沈しながら耳に付けていたオーグマーを取り外した。その瞬間からオーディナル・スケールのフィールドとなっていた景色がガラリと変わり、未だに喧騒が止まない学園都市の街並みとその人々と、静かに目を閉じた御坂美琴がその目に映った

 

 

「くそっ…くそっ…!ちっくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

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