とある魔術の仮想世界[3]   作:小仏トンネル

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第10話 理想送り

 

「・・・ここか…」

 

 

上条は今、第九学区にある学都工業大学のとある一室の前にたどり着いていた。その扉に明記されている人こそが、先に冥土帰しに紹介をもらった重村教授であった

 

 

コンコンッ!

 

<どうぞ

 

ガチャ!キィッ…バタンッ!

 

「・・・失礼します」

 

 

上条が軽くドアをノックすると、少し低めの渋い声で返答があった。それを聞いた上条はドアノブを回し部屋へ入ると、対面するように置かれた椅子に座っているメガネを掛けたスーツの男性に頭を下げ礼をした

 

 

「君が上条当麻君だね?話は先生から聞いているよ。そちらに腰掛けるといい」

 

「いえ、こちらこそすいません。わざわざ時間をもらった上にお話を聞いていただけるなんて」

 

「いやいや、先生にはメディキュボイドの開発でお世話になったからね。その先生の頼みとあっては断れないさ。さて上条君、先生からは君がオーグマーについていくつか聞きたいことがあるとのことだが、具体的にはどんなことが聞きたいのかね?」

 

「・・・では単刀直入に。最近オーグマーを用いたオーディナル・スケールで多数の意識不明者が出ている事実をご存知ですか?」

 

「・・・ほぉ?それは初耳だな」

 

「俺の友人も被害に遭いました。その被害者を患者として診てる先生も頭を抱えてます。何か原因をご存知なら教えて下さい」

 

「そう言われても心当たりはないね。ARデバイスのオーグマーにはVRのような危険性は伴わない。なにより私は世に出したものにそれ以上の追及はしない主義でね。結果に慢心せず常に先を見据えて新しい技術を発明していく、それが研究者の本望だからね」

 

「・・・そうですか。では質問を変えます。上里翔流という生徒をご存知ですか?」

 

「・・・・・」

 

(・・・少し怪訝そうな顔したな。やっぱりこの人、なんか知ってんな…多分、意識を失う仕組みについても何か知ってるはずだ…そうじゃなきゃ辻褄が合わない)

 

 

上条にそう問われた重村教授は、ほんの少しだけ眉をひそめた。注意して見ていなければ気づかない程度の微細な変化だったが、それに気づいた上条の中では、抱いていた疑念が確証に変わり始めていた

 

 

「・・・上里君か。ああ、彼は僕の担当しているゼミの生徒でね。まだ君と同い年だがVR、AR技術の両方に深い理解があり、非常に頭の切れる生徒だ。君は彼の友達かね?」

 

「いえ、彼は明確な敵です」

 

「・・・敵?」

 

(・・・ちょっとカマかけてみるか。いつもアルゴが俺にやるみたいに)

 

「俺は昨日彼に会いました。そして彼から全ての真相を聞いてここに来ました。本当のことを話してくれませんか?重村教授」

 

「・・・全く。どうしてこうSAO生還者というのは勘が鋭いのかね。君といい上里君といい…しかし彼から全ての真相を聞いたのなら今さら私から何を聞こうと言うのだね?先に言っておくが意識不明者のことは何も…」

 

「やっぱり知ってるんじゃないですか教授」

 

「・・・何?」

 

「俺はたしかに上里から全ての真相を聞いたとは言いましたが、何についての全てを聞いたかは言ってませんよ」

 

「・・・なるほど。まんまと嵌められた訳か。考えてみれば上里君は自分からベラベラと全てを話す人柄ではないか…」

 

「これでもう下らない駆け引きは終わりにしましょう教授。こんなことをする目的は一体なんだ!?上里のあの『右手』はなんだ!?どうやったらみんなの意識は戻るんだ!?」

 

 

重村が納得した様子を見せると上条はソファから立ち上がり、今にも掴みかかりそうな勢いで、その語気を強めながら重村を問いただした

 

 

「・・・ふむ。ではまず二つ目の質問に答えよう。そうすることで一つ目の質問の答えに繋がる」

 

「・・・答えてくれるなら俺はそれでいいです」

 

「彼の右手は『アインクラッドそのもの』だ」

 

「・・・は?」

 

「私は元ARGUSの社外取締役でね。事件解決後SAOサーバーを調査している時に、茅場が隠していたデータファイルを発見した」

 

「そこにあったのは、アレイスターに利用されていた茅場が自身の最後の望みのために作ったもう一つのアインクラッド…それがオーディナル・スケールで彼の右手に宿っている力…『理想送り』だ」

 

「・・・理想…送り…?」

 

「茅場にとっては謂わゆるユニークスキルの一つのつもりだったんだろうが、その効果は至って単純だ。対象をアインクラッドに送る…ただそれだけだよ」

 

「ッ!?」

 

「おそらく茅場はアレイスターと対峙し自身が本懐を遂げた後、それを使って今度こそは他人に介入されることなく自分の理想の城を築こうとしていたんだろう。理想送りの中には文字通りアインクラッドの全てがある。オーディナル・スケールのイベントバトルに出現しているフロアボスは全て上里君の理想送りの内側から出現させているものだ」

 

「じゃ、じゃあまさか…!」

 

「そうだ。私が理想送りにアレンジを加えオーディナル・スケールに組み込み、それを上里君に託した。そしてSAO生還者を再びアインクラッドに飛ばしているんだよ」

 

「そんなことして一体なんになるんだ!?あのデスゲームの続きでもやるつもりなのか!?」

 

「・・・私には、娘がいた」

 

「・・・娘?」

 

 

そう言うと重村は自分のデスクの方へと目をやった。その視線を追うように上条もまたデスクの方を見ると、そのデスクの上には一枚の写真立てが飾ってあり、その中には高校生くらいの少女の写真があった。その写真を見た上条は、一目見ただけでその少女が誰か分かった

 

 

「・・・あの子は…ユナ…?」

 

「『重村悠那』。君の言っているARアイドル『YUNA』のモチーフであり、私の一人娘だった」

 

「・・・一人娘…『だった』?」

 

「悠那は二年前、SAOで命を堕とした」

 

「!!!!!」

 

「そして上里君は悠那がSAOにいた時、同じギルドで悠那と共に過ごしていたらしい。そして彼は悠那を守り切れなかった罪悪感から私の元を訪れ、わざわざ頭を下げに来た。悠那を殺したのはあの日、娘のワガママを断り切れずコネでナーヴギアを与えた私であるのも同然だと言うのに、彼は決して頭を上げようとしなかった」

 

「ってことは上里は…SAO生還者の一人…」

 

「ああ、その通りだよ。そんな必死な彼を見てなんとか出来ないものかと思い悩む日々の中、ARGUS本社で理想送りの存在に気づいた私は決意した。この手で悠那を蘇らせると」

 

「ユナを…蘇らせる…?」

 

「記憶だよ。オーディナル・スケールでフロアボスとの戦闘を通して、SAO生還者に当時の記憶を思い出させた後で理想送りを発動し、対象をアインクラッドへと飛ばす。オーグマーで変換しているプレイヤーの電子構造とフルダイブに必要な五感を支配することでね」

 

「そうしてアインクラッドに集めたプレイヤーの記憶をスキャンし、ディープ・ラーニングを用いながら照合していくことで悠那を再びアインクラッドに蘇らせることができる。そして私と上里君もアインクラッドに飛び、悠那と再び会う。それだけが私たちの目的だ」

 

「じゃ、じゃあ…今意識を失っているみんなは…」

 

「今頃はアインクラッドの中だろう。もっともゲームオーバーになった後の意識の行き先は私の知るところではないがね」

 

「ッ!お前ッ!!!」

 

「私が悪魔に見えるかね上条君?それはそれで結構。この計画を決意した時から既に私は人道を外れている。悠那のためならば、私は悪魔にも魔王にもなろう」

 

「・・・なら最後に聞かせてくれ。俺が『未完成』ってのは一体どういう意味だ」

 

「・・・『幻想殺し』。SAOで君の右手に宿っていた特殊な力。君はそれを取り戻さなければならない。フロアボスとの激闘を経て、SAOの記録を取り戻せば、ディープ・ラーニングによってその力が再び君の右手に宿るはずだ」

 

「・・・なるほど。おおよそ察しはついた」

 

「そう。全てはアレイスターと茅場の理論と同じだ。アインクラッドはAIM拡散力場が基盤になっている異世界だ。そこに君の幻想殺しがあれば、風斬氷華のような集合意識が生成されその方向性を持たせることができる。そうすれば完全に近い形でアインクラッドを解析し、その記録から完璧な悠那を蘇らせることができる。そのためにも君はフロアボスと戦わなければならない。もっとも、仲間を救いたくないのならば話は別だかね」

 

「・・・そうかよ。言っとくが、俺はアンタらに負けるつもりはねぇ。利用されてやるつもりもねぇ。絶対に、なにがあろうとみんなを助け出す。それだけだ」

 

「・・・健闘を祈るよ」

 

ガチャッ!ギイッ!バタンッ!

 

「・・・これでよかったのだろう?上里」

 

「ええ、わざわざすいません教授」

 

 

上条が部屋から遠ざかっていくのを確認すると、重村は誰もいないデスクの方に話しかけた。するとそのデスクの陰から、上里翔流が立ち上がった

 

 

「良かったのか?全て話してしまって」

 

「知ったところで結果は覆らないですよ。僕にこの右手がある限りはね」

 

「・・・君はつくづく計算高いな」

 

「この計画だけは万が一にも失敗できませんからね。……あぁ、それと教授。実は僕のオーグマーに搭載されている『行動予測プログラム』に若干の不具合がありまして…少し見ていただけませんか?」

 

「む?そうかね。では少し貸してみなさい」

 

「はい、お願いします」

 

 

そう言うと上里は自分の耳からオーグマーを外し、重村に手渡した。そしてそれを受け取った重村はオーグマーを起動し、プログラムの確認を行った

 

 

「・・・ふむ…あまり大きな不調は見られないな。具体的にどういう時にどういった不具合があったのかね?」

 

「ええ、オーディナル・スケールのプレイ中です。予測と実際の動きに少しズレがありまして…実際に見てみた方が早いかと」

 

「なるほど。では一度起動してみようか。オーディナル・スケール起動」

 

ガボンッ!!!!!

 

「・・・・・は?」

 

 

重村がオーディナル・スケールを起動した直後、彼の右腕は肩口から先ごとぼっかりと消えて失くなっていた。重村は突然の事態を飲み込めず、動揺しながら失くなった片腕の直線上に視線を受けると、自分が与えた異質な右手を伸ばす上里の姿があった

 

 

「なるほど、対象にSAOの記憶がないとこういうことになるのか。これはこれで面白い」

 

「なっ!?ど、どういうつもりだ!?どうして理想送りが!?アレは二つとないモノ…!君のオーグマーは今私が付けているはずでは………ッ!?」

 

 

[RANK 2 Kakeru]

 

 

「ええ、お察しの通りです。そのオーグマーは僕が用意しておいた身体予測機能をコピーしただけのダミー。今僕がつけているこちらが教授にいただいた理想送りの宿っているオーグマーです」

 

 

重村はまだ現実では繋がっているにも関わらず、自分の視界では肩口からごっそりと失くなっている右腕に経験のない異物感を覚えながら上里を睨みつけた。するとその頭上には彼が装着しているオーグマーが、自分の与えた物である何よりの証拠が表示されていた

 

 

「な、何故だ上里ッ!?なぜっ!?」

 

「なぜ?そんなの聞かなくても分かるでしょう。教授はSAOに行った後は僕とユナを一緒にいれるようにすると仰いましたが、まぁそんなハズはないでしょう。教授が欲しているのは『悠那』であって『ユナ』じゃない。そもそも教授はアインクラッドに行く気がないからARのオーグマーを作り出したんでしょう?自分が愛した娘と現実で過ごすために」

 

「ッ!?き、貴様いつからそれを…!?」

 

「だったらSAOで最も長く一緒にいた僕の記憶を利用しないはずがない。そしてその後で、アインクラッドにあるユナの情報だけをサルベージしてARで人工知能としての悠那を蘇らせる。僕も教授の立場ならそうします。ですから教授………アンタもう用済みだ」

 

「待っ…!!」

 

「 新 た な 天 地 を 望 む か ? 」

 

バツンッ!!!!!

 

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