ザワザワザワザワザワザワ……
「この辺りでいいんだよな?御坂妹」
『はい。情報通りならば後五分ほどでイベントバトルが始まるハズです。と、ミサカは報告します』
学都工業大学を後にした上条は、アクロバイクを漕ぎ丁度8時ごろに第六学区のとある広場を訪れていた。その場所が今回のイベントバトルの発生地と予想され、上条はミサカ10032号のナビ通りに到着していた
(上里はSAO生還者を探すためにこのイベントバトルを仕掛けてる。だったらこのイベントに参加してる生還者をアインクラッドに飛ばすためにアイツはもう一度姿を見せるはずだ)
「リズ達はいないな…よし。エギルに根回しを頼んでおいて正解だっt…」
「へぇ、みんなには危ないからイベントには参加するなって言っておいて、自分は例外なのね」
「んぁ?げっ!?し、シノン!?どうしてここに!?」
上条は広場を見回して自分の知人がいないことを確認していた矢先、自分に喋りかけながら向かってくる少女がいることに気づいた。その少女はプレイヤー名をシノンと名乗る狙撃の名手、朝田詩乃だった
「『げっ』とは随分な言いようね。アンタの考えそうなことだし、場所も近かったからサポートしに来てやったのよ」
「さ、サポートって…本当に危険なんだぞ!クラインや美琴だってもう…!」
「大丈夫。被害が出てるのはSAO生還者でしょ?私はSAO生還者じゃないから心配いらないわよ」
「えっ…あ、確かに…いやでもどうなんだそれ…」
「そんなに心配ならちゃんとアンタが私を守ってよね。BoBの洞窟での約束、忘れたとは言わせないわよ?たとえ世界と戦ってでも私を守ってくれるんでしょ?」
「・・・はぁ〜、分かった分かった。黒子に背中を押されるのは慣れてるって言った手前だもんな…今回はシノンの力を貸してくれ」
「了解。この借りは学舎の園でケーキね」
「それは御免被る。第一あそこ男子禁制だろうが。俺の牛丼クーポンで手を打とう」
「そ、そんなのいらないわよ。じゃあせめて帰りはアクロバイクの後ろに乗せてって」
「いやそれは違反…っと、そろそろだな」
「あっ、そうね」
「「オーディナル・スケール起動!」」
上条とシノンはオーグマーにそう指令を出すと、オーディナル・スケールが起動し見える景色が一変した。広場は異様な雰囲気を放つヒビ割れた地面に変わり、目の前には無数の針が飛び出た異形の火山が現れた。そしてその山の麓から巨大なイノシシ型のモンスターが出現した
「ゴルルルルルル……」
「やっぱ見たことねぇモンスターだな…御坂妹、あのモンスターの名前は?」
『はい。今お2人の前に出現しているのは、旧アインクラッド第18層ボス『ザ・ダイアータスク』です。と、ミサカは分析します」
「・・・え?じゅ、18層!?今日は13層のはずじゃないのか!?」
『確認したところ、現在学園都市の各所で合計10体のボスモンスターが出現し、それに伴いボスの出現場所がシャッフルされています。と、ミサカは他のミサカ達からの伝達に追われ、てんてこ舞いになりながら報告します』
「随分と大盤振る舞いね…って上やん、アンタ誰と電話してんの?御坂妹って…ミコトって妹がいたの?」
「えっ!?い、いやまぁ妹っつーかなんつーか義理の妹みたいもんなんだけど顔がめっちゃ似てて俺がそう呼んでるだけでさ!ネットにすげー詳しくて、美琴が眠っちまった今は俺の手助けしてくれてんだよ!おう!」
「そ、そう…よろしくね、ミコトの妹さん」
『はい。朝田詩乃さんですね。お姉様から話は伺っております。今回の戦闘を最大限サポートさせていただきますのでよろしくお願いします。と、ミサカはデキル女風に挨拶します』
「あ、ありがとう…なんだか少し変わった妹さんね?」
「いやぁーやっぱレベル5って変わり者が多いって話だろ!?やっぱ妹になるとその血も受け継いでるんだろうなー!あははは!」
「え?アンタさっき義理の妹って…」
「ぎくっ!?い、いやそれは…」
『お二人とも盛り上がりのところ申し訳ありませんが、ボスによる斧の投擲が来るので避けて下さい。と、ミサカは横転による回避を推奨します』
「ブギイイイイイイイイッッッ!!!」
ジャラジャラジャラジャラ!!!
「え?どわぁぁぁぁぁ!?」
「くっ!!」
上条とシノンが話している間を遮るように、ダイアータスクが投擲した鎖に繋がれた斧が通り過ぎた。ミサカ10032号のアシストもあり何とか転がって避けたが、後少し遅れていれば間違いなく真っ二つになっていただろう
「あークッソもう終わりかよ…」「いや今のは反則だろ〜」「山から鎖を引っ張ってたのはそういう仕掛けだったのか〜」
「野郎ッ…!あの見た目して遠距離持ちなのかよ!?『猪突猛進』って言葉を知らねぇのかあのイノシシ!」
『いえ、ここからは今のアクションは滅多に起こしません。左手に巻かれた鎖による波状攻撃と右手の斧の攻撃に注意して下さい。と、ミサカはボスの攻撃パターンを伝えます』
「!!よし分かった!シノン!俺が接近してアイツをぶん殴る!援護してくれ!」
「言われなくても!」
ダンッ!!
「うおおおおおおおおっっっ!!!」
「グオオオオオオオッッッ!!!」
『右から斧振り下ろしが来ます。少し左に避けて直撃を避け、衝撃を盾で防いで下さい。と、ミサカは指示します』
「おうっ!!」
ドッ!ゴオオオオオオオォォォッッッ!!
『今が攻撃のチャンスです。と、ミサカは肩に力を入れます』
「オオオオオオラァッ!!!」
バキイイイイイッッッ!!!
「ギイイイイイイッッッ!?!?」
ミサカ10032号の指示通りにダイアータスクの斧を防いだ上条は、その隙に接近しダイアータスクの土手っ腹に右拳を叩き込んだ。ダイアータスクはその攻撃に少し後退すると、今度は鎖を巻いた左腕を振りかぶった
『次、鎖による断続的な攻撃が来ます。攻撃が止むまで動かずに盾で防ぎ続けるか、または距離を取ってください。と、ミサカは防御を促します』
「任せろっ!!」
「ギイイイイイイッッッ!!!」
ジャラジャラジャラジャラジャラ!!!!!ガアンッ!ギィンッ!ガギィンッ!!
「「「うわああああああ!?!?!?」」」
するとダイアータスクは振りかぶった左腕を振り回し、その腕に巻かれた鎖がまるで竜巻のように渦を巻いて暴れまわった。周りにいたプレイヤーは立ち所に吹き飛ばされ、接近もままならなかった
ガガガガガガガガガガガガ!!!!!
「ちょっ!?いくらなんでもこれ攻撃間隔長すぎだろ!?も、もう盾が…!御坂妹これいつ止むんだ!?」
『旧SAOではこの行動をキャンセルさせるための特別なギミックがボス部屋に設置されていたのですが、このオーディナル・スケールでそのギミックは見受けられませんね』
「は、はぁ!?じゃあこんなんどうしたって…!?」
『ので、今回は彼女にお願いしました。と、ミサカはあなたに人の話を最後まで聞けよと暗に伝えます』
バァンッ!!!ガギィンッ!!!
「ブギイイイイイイイイ!?!?」
「ッ!鎖が切れた!?」
「攻めすぎよ上やん!盾に頼りすぎないで距離取れる時は距離取りなさい!」
『シノンさん、寸分の狂いもない見事な狙撃でした。と、ミサカはミサカの指示以上の狙撃を見せてくれたシノンさんを褒め称えます』
「すまねぇ!助かったシノン!」
突如として緑の閃光が上条の横を通過し、ボスの持つ鎖の根元に命中し、千切れた鎖の竜巻は空中分解した。その緑の閃光はシノンのスナイパーライフルの弾丸だったことに気づいた上条は、彼女の注意を聞きながら礼を言い、再びボスの懐に飛び込んだ
「うおおおおおおっっっ!!!」
「ゴォアアアアアアッッ!!!」
ブォンッ!!!
しかし、左腕の鎖を失ってもなお、ダイアータスクの戦斧は健在だった。拳を握りながら向かってくる上条を迎え撃つべく、その斧を思い切り振りかぶっていた
(ッ!?クソッ!間に合わn…!)
『大丈夫です。何があろうとそのままボスに突っ込んで下さい。と、ミサカは突撃指令を出します』
「!!!ああっ!信じるぞ!」
ダンッ!!
ダイアータスクの斧が振り下ろされるまでに自分の拳が届かないと判断した上条は、盾を構えその場に立ち止まりかけたが、オーグマーから聞こえたミサカ10032号の指示を聞くと、もう一度ボス目がけ強く駆け出した
『シノンさん、狙撃をお願いします。斧が振り下ろされるギリギリに目を狙ってボスの視界を…』
バァンッ!!!
「ごめん、指示の前にもうやっちゃったわ」
『・・・いや、もうすごすぎます。と、ミサカはもはや呆然とします』
ドッゴオオオオオオォォォッッッ!!!!!
シノンは狙い通りダイアータスクの片目に弾丸を命中させ、その視界を奪った。するとダイアータスクの斧を振り下ろす手元が狂い、そのまま真っ直ぐ突っ込んだ上条は、紙一重でその一撃を避け、空を切った斧が地面に突き刺さり地割れを起こした
「これでトドメだっ!!!」
ドッゴオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!!!!
「ギイイイイイイッッッ!?!?!?」
ドッバアアアアアァァァァァンッ!!!
そして隙だらけのダイアータスクに飛び込んでいった上条の拳が、不細工なイノシシの顔面へと突き刺さった。規格外の威力を誇る右拳はダイアータスクのHPを減らし切り、その体は無数の光の塵となって消えた
『目標の沈黙を確認しました。お疲れ様です、ミサカのアシストとあなたの見事な勝利です。と、ミサカは自慢げに胸を張ります』
「・・・最後の一発…明らかに威力が強かった…ってことは…これが…」
しかし、ボスを討伐した上条本人は、耳元から聞こえてくるミサカ10032号の言葉にも耳を貸さず、自分の右手を握りしめていた。そして実感した。摩耗し始めていたアインクラッドの記憶が鮮明なまでに脳裏に蘇り、彼の世界で握り続けた右拳もまた、同じように自分の右手に宿ったことを
「流石ね。 すっかりAR戦闘もお手の物って感じかしら?」
「ああ、悪いシノン。助かったよ」
(上里のやつ…今日はここには来てなかったのか…)
『・・・こっち』
「・・・?」
戦闘を終えた上条は周りを見渡して上里の姿を探したが、彼の姿はどこにも見えなかった。しかしそんな中、彼の耳に囁くようなか細く、それでいて綺麗に透き通った声が聞こえたが、その声の主は見当たらなかった
「・・・シノン、今なんか聞こえたか?」
「え?ううん、別に何も?」
「おっかしいな…今たしかに誰かの声が…」
『こっちに来て、上やん』
「ッ!?」
「うわぁっ!?な、なによ急にそんな怖い顔して…ビックリしたじゃない!」
不思議に思いながら後ろ頭を掻いてもう一度周囲を見渡した上条の背後から、再び同じ声が聞こえてきた。そして振り返った先には彼の顔に驚くシノンがいたが、上条が気にかけたのはそこではなく、奥にいる白い服を着てフードを深く被って顔を隠す少女だった
「・・・誰だ?俺に話があるんなら…」
フッ…
「!?!?なっ!?」
上条はその正体を確かめるべく、10メートルほど先にいた白い装束の少女に話しかけようと口を開いた瞬間、その少女との間合いは一瞬にしてなくなっていた。そしてその少女は呆然としている上条のオーグマーに触れると、口中で小さく呟いた
『大丈夫、すぐに終わるから』
「ーーーッ!?」
バツンッ!!!!!