とある魔術の仮想世界[3]   作:小仏トンネル

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第13話 仮想と現実

 

「で?弁明の余地があるならば先に聞こうかしら?それとも懺悔?どちらにせよ貴様の処罰は決まっているわけだけれど」

 

「い、いやこれはその…何といいますか人命救助の一環ということもありまして…そこのところ加味して考えていただけると上条さん的にはとてもありがたいんですが…」

 

「だからって二年に向けてのガイダンスと履修登録を人に任せるバカがどこにいるかこの大バカーーーッ!!!」

 

「不幸だーーー!!!」

 

 

翌日、上条は吹寄にとあるカフェのテラス席に呼び出され説教を受けていた。それもそのはず、特に理由も話さず昨日の大学側で組まれていた予定を全て吹寄に一任したのだから、もはや殴られても文句は言えなかった

 

 

「・・・って、殴れる状況でもなさそうね」

 

「・・・あれ?」

 

 

一発は殴られるのを覚悟し、身構えて目をつぶった上条だったが、いつまでたっても衝撃が来ないため薄目を開くと、その先には落ち着いて席に座りなおした吹寄がいたため思わず目を疑った

 

 

「またなんかあったんでしょ?顔には出るほど酷くはないけど、正直今の貴様の目はあの時と…SAOから一人戻ってきた時と酷くダブって見えるわ」

 

「・・・はぁ〜…吹寄には敵わねぇなぁ…」

 

「話して。じゃないと私これ以上協力できないし本気で貴様の顔面を殴るわよ」

 

「・・・実は……その…」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「・・・そう…オーディナル・スケールでそんなことが…」

 

 

吹寄に言い迫られた上条は、もはや包み隠すことなくオーディナル・スケールを巡って起こった事件を全て話した。話を聞いている最中の吹寄は自分の話ではないにも関わらず酷く落ち込み、時折悲しげな顔を浮かべていた

 

 

「その、ごめんなさい上条。さっき私、なにも聞かないで怒って…貴様はずっと悩んで頑張ってたっていうのに…」

 

「えっ!?そ、それは違ぇよ吹寄!なにも話さずに昨日の大学の予定を全部お前に任せちまったのは一方的に俺が悪いし!えっと…!」

 

「私が気に病むことじゃないって?どうせSAO生還者じゃない私には、なにも関係ないことだから気にするなって?」

 

「ッ!ち、違っ…!」

 

ギュッ…

 

「・・・え?」

 

 

必死になって反論しようとした上条の右手を、吹寄が両手で覆うようにそっと握った。予想外の出来事に呆けてしまった上条は全身の力が抜けていき、立ち上がりかけていた椅子に腰を落とし、握られた右手をテーブルの上へと置いた

 

 

「・・・ねぇ、上条。私、怖いのよ…いつかまた知らないうちに上条が寝たきりになってたらなんて…そんなこと考えたくもない」

 

「吹寄…」

 

「どうして私には、そんな大事なことでも私から聞かないとなにも言ってくれないの?私ってそんなに頼りないの?」

 

「違う…俺は、そんなつもりじゃ…」

 

「SAOで一緒にいた人達には危険だってちゃんと話したんじゃない」

 

「そ、それはアイツらは同じSAOにいたから…!」

 

「いい加減にしてっ!!」

 

「ッ!?」

 

 

吹寄の口から怒号が飛び出した。自分の右手を握る彼女の両手には、彼女の感情の高まりが伝わるほど力が込められていた。その目尻からは涙が伝い、唇の端はキツく絞られ、鼻腔から漏れ出す息は普段の彼女からは想像出来ないほど荒々しくなっていた

 

 

「SAOがなによ!仮想世界がなによ!そりゃ貴様がその世界で過ごした二年間は大層ご立派なモノかもしれないけど…上条が今生きてるのは仮想世界だけじゃない!ちゃんと現実世界でもこうして生きてるじゃない!」

 

「ッ!?」

 

「少しは私のことも気にかけてよ!上条の周りにいるのは仮想世界で関わった人だけじゃないんだから!仮想世界はからっきしの私だって心配するんだから!ずっと寝たままの上条を見てるだけなんて嫌よ…私だってなにかの力になりたいって思うんだから…何も知らないままなんて嫌なのよ…」

 

「・・・その、悪かった吹寄。俺も人を頼れってことあるごとに言われてはいるんだが…どうしても今回の事件は、守れなかったらって不安の方がデカくなっちまうんだ。それぐらい今回の事件は底が知れない…俺も吹寄と同じように、寝たきりになる誰かの姿が頭から離れねぇんだよ…」

 

「・・・そうね、どこまでいっても私と上条は立場が違う…感じる恐怖も不安も違って当然だわ。でも、これだけは覚えておいて上条。誰かを大切に思いすぎることは、時にその誰かを傷つけることもあるの。守ってばかり、守られてばかりの人なんていない。上条も見えないところできっと誰かに守ってもらってるの。だからもっと…自分を大切にして」

 

「・・・ごめんな吹寄…そんな簡単なことにも気づかずに俺は…」

 

ピリリリリ!ピリリリリ!

 

「っと電話か…あれ?オーグマーから?ってことは………悪い吹寄、ちょっと出てくる」

 

「ん、分かった」

 

カチャッ!ピッ!

 

 

バックの中から聞こえた着信音は、オーグマーから発せられていたことから通話相手に察しがついた上条は一度席を立つと、頭部にオーグマーを装着して通話を開始した

 

 

「もしもし?御坂妹か?」

 

『もしもし、こちらミサカ10032号です。今あなたの側に吹寄制理さんはいらっしゃいますか?と、ミサカは確認を取ります』

 

「え、吹寄?今一緒にいるけど…でもどうしてだ?お前ら面識あったのか?」

 

『はい。医学部である彼女はよく病院の施設見学に来るので、その一環で知り合いました。と、ミサカは自分のコミュニケーション能力の高さをアピールします』

 

「へー、そうだったのか。で?吹寄になんか用があるのか?」

 

『昨日のあなたからの報告で受けた、明日のユナのファーストライブまでにオーディナル・スケールのランキング10位以内に入りたい。という要望から今後の方針を考えました。結果、やはりポイントボーナスの多いSAOボスとの戦闘は不可欠であり、ライブまでそう日も残っていないため、1日にそれなりの連戦をこなすことも覚悟しなければなりません。と、ミサカはあなたの要望は困難を極めていることを伝えます』

 

「・・・・・」

 

『しかし、連戦とは言ってもオーディナル・スケールのイベントバトルは場所が離れているので、どうしても移動しなければなりません。もし仮にあなたのアクロバイクを移動の足に使おうとすれば、移動の度に体力を消費しAR戦闘に支障をきたします。と、ミサカはいくら高性能なアクロバイクといっても、所詮は自転車だという事実を突きつけます』

 

「・・・おい待て、それってつまり…!」

 

『なので、イベント発生地への移動の際は………』

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「うおおおおおおおおおおっっっ!!!」

 

ドッゴオオオオオオォォォォォッッッ!!!

 

「グオオオオオオオッッッ!?!?」

 

ドッパァァァァァンッッッ!!!!!

 

『目標、沈黙しました。オーディナル・スケールのランキング、2117位から562位にアップしました。と、ミサカは報告します』

 

「っしゃ!次!」

 

ダダダダダダダダダッ!!!

 

 

その夜、上条は再びオーディナル・スケールのイベントバトルに参加していた。しかし今夜の上条には昨夜と違う点が二つあった。一つは昨日は一戦だけであったのに対し、今日は既に二戦目を終え、次の戦場に向かって駆け出していること。そして、もう一つは……

 

 

ガチャッ!バンッ!!

 

「吹寄!次に行く!出してくれ!」

 

「OK!ちゃんとシートベルト締めるのよ!」

 

ブウウウウンッ!ブオオオオオオンッ!!!

 

「ひいいいいいいい!?!?!?」

 

 

そう、もう一つは移動手段。上条がカフェで受けたミサカ10032号の通話の内容は、大方予想通り、吹寄に車を運転してもらってイベントバトルの戦場へ移動しようというものだった。その提案を快く引き受けた吹寄は、ミサカ10032号のナビに従って学園都市の道路を軽自動車で爆走していた

 

 

『昨晩と同じように学園都市各所で旧SAOのボスモンスターが次々に出現しています。昨晩が合計10体だったので今夜もそれと同数かそれ以上の出現が見込まれます。次の目的地は第九学区の美術館前です。吹寄さん、よろしくお願いします。と、ミサカは最短距離でのナビゲートを開始します』

 

「おい御坂妹ぉぉぉ!?これ本当に人選合ってんのかあああああ!?!?」

 

「なにを言っているのよ上条当麻!これ以上なく最高の人選でしょうが!」

 

『はい、全くもってその通りです。初心運転者とは思えないほどのドライビングテクニックに、法定速度を守る心意気を微塵も感じないスピード…まさにうってつけの人材です。と、ミサカは自分の人選を絶賛s…あ、次の交差点を右折です』

 

「任せなさいっ!!」

 

ギャリリリリリリッ!!!!!

 

「軽自動車でドリフトォォォ!?!?」

 

「こら上条!ちゃんと何かに掴まっときなさいよ!いくら酔い止め飲んだとはいえシートベルトなんて気休めにしかならないわよ!てか交通事故ってのは運転席よりも後部座席の方が負傷率高いんだから!」

 

「そう思うなら少しは減速しろやぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

『吹寄さん、ここは先行車両も対向車両も少ないのでギアを3速から5速に変えて今の速度から30km/hほどの加速が可能です。と、ミサカは軽自動車のスピードの限界に挑戦します』

 

「了解ッ!!」

 

「もう嫌だこの二人ぃぃぃぃぃ!!!」

 

ガチャガチャンッ!グオオオオオオンッ!!

 

「ひゃっほーーー!!ミサカさんのナビゲート最ッ高!今ついてるカーナビと取り替えたいぐらい!」

 

『お褒めに預かり光栄です。ミサカの、ミサカによる、ミサカのためのカーナビゲーション、『ミサカーナビ』が商品化したあかつきにはぜひご契約をお願いします。あ、次の角を左です。と、ミサカは絶叫しているバカを気にすることなくナビゲートを断行します』

 

「不幸だーーーーー!!!!!」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ガルルルルル…ガウッ!!」

 

『突進しながら噛み付いてきます。右に飛んで避けて下さい。と、ミサカは指示します』

 

「おうっ!!」

 

 

その後もSAOボスを倒し続けた上条は、最後に残された第28層ボス『ワヒーラ・ザ・ブラックウルフ』との戦闘を繰り広げていた。出現した10体のうち、3体は他のボスと戦っている間にすでに消えてしまっていたため間に合わなかったが、上条はこの夜だけで実に7体のSAOボスを相手取っていた

 

 

「うおおおおっ!!」

 

ドガァッ!!!

 

「ガウッ!?アオオオオオオッッッ!!」

 

 

「すげぇなアイツ…」「さっきからほとんど一人でダメージ与えてるぜ?」「てか戦ってんの素手だぜ?」「化け物かよ…」

 

 

『このモンスターは実体を持たない黒煙になったり、実体を持つオオカミの姿になりながら攻撃してきます。黒煙になっている間は基本的にどんな物理攻撃も効きませんが、あなたの右腕ならば…』

 

「ああっ!コイツとはアインクラッドで一回やりあったことあるから覚えてるぜっ!」

 

「ガオオオオオオオオオオッッッ!!」

 

ズドドドドドドドッッッ!!ピキィンッ!!

 

「この黒い針の範囲攻撃が俺の右手で消せるってこともな!!」

 

「ガアアアアアアアアッッッ!!!」

 

『突進が来ます。少し体を左に捻ってかわし、腹部に右アッパーでトドメです。と、ミサカは勝利の方程式を完成させます』

 

「オラァァァァァッッッ!!!」

 

「アォォォォォォ!?!?!?」

 

ドッパアアアアアァァァァァンッッッ!!!

 

 

オーディナル・スケールで発現した幻想殺しを駆使して、ワヒーラ・ザ・ブラックウルフの攻撃を悉く防いだ上条は、ミサカ10032号の指示通り最後の一撃を叩き込み勝利を収めた。そしてその瞬間、ついに上条のランクが目標へと到達した

 

 

[Kamiyan Rank 47→9]

 

「ついに10位以内まで来たか…これで後は…」

 

「おや?しばらく見ない間に随分とオーディナル・スケールに心酔していたようだね。お得意の仮想世界から拡張現実に鞍替えでもするつもりなのかい?」

 

「ーーーッ!?」

 

 

戦闘を終え一息ついた上条は、背後から聞こえて来た不気味な声に思わず勢いよく振り返った。振り返ったその視線の先にいたのは、相変わらず高校生と見間違いそうな装いをした少年、上里翔流が立っていた

 

 

「上里っ…!お前!!」

 

「おっと、人の話は最後まで聞いてくれないか?そこは君の悪い癖だ」

 

「何っ!?」

 

ピコンッ!

 

[新国立競技場の地下駐車場に来い。そこで全ての決着をつけよう From K ]

 

「・・・お前を倒せばみんなは元に戻るのか?」

 

「それを知ってどうする?SAO生還者が目覚めようとそうでなかろうと君は僕に拳を向ける。違うかい?」

 

「・・・じゃあ一つ聞かせろ。なんで今ここで決着をつけない?なんでわざわざユナのライブなんだ」

 

「ユナのライブは第三学区の新国立競技場で行われる。ライブは学園都市内外どころか、日本の内外を問わず多くの人が集まる。もうここまで言えば分かるんじゃないか?」

 

「日本の内外……ッ!?!?」

 

「そう、文字通り『全員』集まるんだよ。世界各地にいるSAO生還者がね。そして会場にSAOのフロアボスを解き放ち、彼らの記憶を呼び覚ます。そして最後には僕の右手で全員まとめて…」

 

「テンメエエエェェェ!!」

 

「あと、ここで決着をつけない理由はもう一つ。映像なんて殴っても別に面白くないだろ?」

 

シュンッ!!

 

「・・・立体映像だったのか……いいぜ上里…もしもお前が、これからも現実を否定し続けて誰も望んでいないアインクラッドを創り上げるつもりなら……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まずはそのふざけた幻想をぶち殺す!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして全ての役者は出揃い、舞台の準備は整った。『上里翔流』と『上条当麻』。全ての始まりとなった仮想世界の宿命は、現実世界へと舞台を移し、まだ見ぬ真実と物語の幕開けを告げるように、最後の朝陽は昇っていった

 

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