とある魔術の仮想世界[3]   作:小仏トンネル

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第16話 理想送り VS 幻想殺し

 

「 新 た な 天 地 を 望 む か ? 」

 

「ーーーッ!?」

 

ガボンッッッ!!!

 

 

最大のイレギュラー同士の戦いは、上里の常套句を合図に火蓋が切って落とされた。上条は咄嗟の判断で左に飛んで上里の右手の直線上から身を逃し、上条が立っていた地面はごっそりと抉られていた。従来の異能の力であれば幻想殺しで打ち消していただろうが、そうしないのにはそれなりの理由があった

 

 

「おっと、いきなり尻尾を巻いて逃げる気かい?なんともヒーローらしくない」

 

「へっ、言っとけ。だったらテメエもそんな離れて戦ってないで男らしく拳で語れってんだ」

 

(たしかにアイツの理想送りは俺の右手で消せるかもしれねぇ…だけどその可能性に賭けるのはとんでもねぇ博打だ。もし消せなかったらそれだけで俺の意識はアインクラッドに飛ぶ…正真正銘の一撃必殺!どうにかしてあの右手の有効範囲を掻い潜って接近するしかねぇ!)

 

「 新 た な 天 地 を 望 む か ? 」

 

「おおおおおおっ!!」

 

ドッパァァァァァンッッッ!!!

 

「避けるだけで精一杯か…だけどそれが賢明な判断だと思うよ。この右手はSAO生還者にとっては脅威だ。まぁもっとも、生還者でない者にとってもこの右手が脅威であることには変わらないけどね」

 

「ッ!?その口振り…まさかお前SAO生還者の他にも…!」

 

「ああ。この理想送りをオーディナル・スケールに組み込んだ張本人である、重村教授ご本人をアインクラッドに飛ばさせてもらったよ。でも今君が気にするのはそこじゃないんじゃないかな?」

 

「・・・は?」

 

「考えてもみなよ。僕は君を片付けた後で今ユナのライブを観ているSAO生還者をアインクラッドに飛ばすつもりだ。確かに今この会場には全てのSAO生還者が揃っている。さて問題だ。一万人で始まったSAOに、一万人を集めたこの会場にいる人間。その一万人が全員揃ってSAO生還者だと思うかい?」

 

「ーーーッ!?お前ッ!!」

 

「僕としても総数1万人いる観客からSAO生還者だけを選り好みできるほど器用に右手が使えるわけじゃないんでね。まぁなんの因果か、生還者も一般人も全員合わせて1万人いるんだ。これを機に新しい物語を始めるのもいいんじゃないか?今度は全員で仲良く攻略したら一人も死なずに済むんじゃないかなぁぁぁ!?!?」

 

バキバキバキバキッッッ!!!

 

 

今度はその特異な右手が横薙ぎに振るわれた。まるで暴風が吹き荒れたように地形が変わり、オーグマー越しに見える駐車場はもはや原型を保っていなかった。万が一食らえばHPを無視し対象を必ず屠る『究極の一撃』が猛威を振るい続けた末の光景がそこには広がっていた

 

 

(・・・ああ、皮肉だな上里。俺はそんな簡単なことまで忘れちまってたのか…)

 

 

上条はほんのスレスレでその攻撃を回避していた。しかしそれは上里との間合いを詰めることで理想送りの有効範囲を逃れるというなんとも危険な避け方だった。しかし上条の表情には一抹の迷いも、焦りも見て取ることはできなかった。解けかけていた右の拳を握り直し、歯を食いしばり、眼光は鋭くなり剥き出しの敵意を露わにし、その精神は未だかつてないほどに研ぎ澄まされていた

 

 

(わざわざ敵のお前に言われて思い出すなんてな…いや、お前もSAO生還者だからか…なんにしたっていい。もしも食らったら一瞬で終わり?今ここにいる一万人の命運は俺に懸かってる?確かにそりゃ絶望的な状況だな…けどな…)

 

 

「 そ れ が ど う し た ? 」

 

「ッ!?」

 

「一撃食らったら終わり!?そんなのアインクラッドでも似たような状況はいくらでもあった!一万人の命運!?ああ事あるごとに実感したさ!そしてそれを背中で背負った!俺だけじゃない!あの世界にいたみんなで背負ってきた!ああそうさ!あの世界を乗り越えた俺たちが、お前の右手なんかに負けるハズねぇだろうが!!!!!」

 

ダンッ!!

 

「ーーーッ!?」

 

 

上条の踏み出した一歩は、まるで地球の大地がまるごと震撼しているような力強い一歩だった。眼前に迫ってくる上条を前に、上里はその鬼神のような気迫に気圧され半歩後ずさった。その僅かな隙さえも、上条は見逃さなかった

 

 

「うおおおおおおっっっ!!!」

 

ブンッ!

 

 

上条は左手の手首を捻り空虚だった掌の上に円形の盾を出現させると、そのままそれを上里に向かって投擲した。しかしその投擲は、フリスビーのように横回転ではなく敢えて上里の視界を塞ぐように縦向きの投擲だった

 

 

「小細工をっ!!」

 

 

オーディナル・スケールに、ひいてはAR技術に精通する故に上里は分かっていた。この盾は実体を持たない、避ける必要もない、拡張現実が視覚的に生み出したただの映像に過ぎないことを。だからこそ上里は自分に向かってくる盾に臆することなく右手を伸ばした

 

 

「 新 た な 天 地 を 望 む か ? 」

 

ボゴウッッッ!!!

 

 

上里が右手を伸ばした縦一線に理想送りが放たれた。駐車場のコンクリートは一直線に抉られ、投擲された盾も呆気なく消え去り、その先にいた上条当麻の姿もなくなっていた

 

 

(勝っt………!?)

 

 

上里は自分の勝利に確信したところで、一つの違和感に気づいた。それは自分の視界が少しだけ薄暗くなっていることだった。自分達が戦っている場所は、多くの電灯に照らされる地下駐車場。太陽を阻む雲がある屋外ならばいざ知らず、この場においては電子機器の異常でもない限りそんなことは起こり得ない。残された可能性はただ一つ、人為的に作られた『影』がある場合のみだ

 

 

「なんっ!?上にっ…!?」

 

「うおおおおおおおおおっっっ!!!!!」

 

「ッ!!ああああああああああああ!!!」

 

 

盾を囮にし、上条はありったけの力を脚に込めて飛び上がっていた。そして地球からの引力に身体を任せ、落下するままに右の拳を振り抜いた。しかし、上里もまた間に合わないと判断してか、理想送り本来の使い方を捨て、その右手で拳を作り、上条の拳に真っ向から迎え撃った

 

 

グゴギイイイィィィッッッ!!!

 

 

両者の拳が重なり合ったその瞬間、およそ拳同士がぶつかり合っただけとは思えないほどの轟音が鳴り響いた。両者の指骨の何本かには確実にヒビが入っていた。コンマ一秒にも満たない激突の末、勝利の軍配が上がったのは…

 

 

バツンッ!!!

 

「ーーーーーーッ!?!?」

 

「・・・やはり君の負けだよ、幻想殺し」

 

 

理想送りの方だった。両者の拳がぶつかり合った瞬間、上里の右腕は健在であったのに対して、上条の右腕は肘から先が消失していた。それはあくまでもオーグマー越しに見える拡張現実の映像であり、現実の右腕はそうなっていないと分かっている。しかし右腕があるようでないような混沌とした感覚に、上条はその表情を歪めていた

 

 

「今度こそゲームオーバーだ。僕の理想のために消えてくれ…上条当麻」

 

「新たな天地をのぞm………」

 

 

今度こそ勝ちを確信した上里は、宙を泳ぐ上条に右の掌を差し向け呪いにも似た台詞を口にした。だが、その口は自分でも気づかぬ内に止まっていた。差し向けた右手の指の間から垣間見えたのは、見るのも嫌だった上条当麻の顔。言いようのない異物感で歪んでいた彼の表情は、ほんの一瞬で……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

背筋も凍るほどの不敵な笑みに変わっていた。それはきっと、上条の右手の奥にある『何か』の表情だろう。底知れぬ空腹を満たすための獲物を見つけたような、嬉々とした表情だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーーーーーーーーッ!?!?!?」

 

「ギオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

上里翔流は不思議でならなかった。自分が無意識に口を閉じたことがではない。自分が未だに息をしていることが、不思議で仕方なかった。上条の右手の奥にある『何か』の咆哮を耳にして連想したのは、自身の明確なる破滅。もはや『死』という概念すらも可愛く感じた。瞳は光を失い、足腰は震え、動悸は乱れ、歯はガチガチと悲鳴を上げ始めた

 

 

「ギオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!!!」

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!?!?!?」

 

 

その瞬間、世界は無へと回帰した。上里の眼に映る世界は、遮蔽物が一切無い純白の世界へと塗り替えられていた。上条の右手の奥に潜む見えない『何か』は、ただ一度啼いただけで拡張現実という概念そのものを蹂躙した。そして同時に上里の右腕は、肩口からゴッソリと抉り取られたように無くなっていた。実際の痛みはほとんどなく、右腕が繋がっている感覚は確かにあった。しかし上里の痛覚はうるさいほどに、本当に右腕を失ったかのような痛みを訴え続けた

 

 

「逃げるなよ、上里翔流」

 

「!!!!!」

 

 

そして幻覚的な痛みで薄れゆく意識の中で上里が最後に見た上条当麻は、表情から不気味な笑みが消え、素の彼の顔に戻っていた。誰よりも必死で、誰よりも真っ直ぐな目をした、困った人を見たが最後、片っ端からその右手で救い上げてきたヒーローの顔があった

 

 

「自分の物語の結末からも、ユナの死からも逃げてんじゃねぇよ…しっかり向き合えよ。自分の都合のいい逃げ道作ってんじゃねぇ。お前がやるべき事はなんなのかハッキリ見ろ!今から俺がお前をもう一度だけ救ってやる!しっかりテメエの人生見直して来い!!」

 

(・・・あぁ、君はそういうヤツなんだな。上条当麻…)

 

「いいぜ、テメエのその身勝手な理想で…本当にユナを救えると…自分が許されると思ってんなら…」

 

(人の気持ちも考えずに、土足で上がり込んで来て…その人の全てを理不尽に救ってしまう。ああ、そうだな…出来るなら僕は君と…もう少し違う形で………)

 

「テメエの『理想』は!この右手でぶち殺す!!!」

 

(出会ってみたかった………)

 

ドゴオオオオオォォォォォッッッ!!!………

 

 

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