「・・・んっ…」
「目ぇ覚めたかよ」
上条が放った最後の一撃は、上里のこめかみに直撃し、彼の意識を刈り取るとともに、装着していたオーグマーを粉々に破壊していた。そして数分後、意識を失っていた上里は目を覚まし、自分の左頬に手を当てると全てを理解した
「・・・僕は、負けたんだな」
「ああ」
「そして全ての人が解放された…か。これで全ては水の泡…いや、全てということはないか。こんなボロボロになってやっと…答えを得た」
「・・・俺はお前とはもっと違う形で出会ってみたかった。そうしたらきっと…善悪関係ない、いい友達になれたと思う」
「・・・はっ、本当に酷い話だ」
ピリリリリッ!ピリリリリッ!
地べたに寝そべりながら上里は呆れたように笑うと、上条のオーグマーが着信音を発した。発信相手を見ずともミサカ10032号であると分かった上で上条は電話に応答した
ピッ!
「ああ、御坂妹か?こっちは今片付いた。そのうち意識を失ったみんなも…」
『緊急事態です。完全に想定外の異常事態です。と、ミサカは今起こっている非常事態を報告します』
「き、緊急事態?一体どうしたんだ?」
『先程、ユナのファーストライブが終わった瞬間、大量のフロアボスが出現しました。ライブ会場は完全に封鎖され、一万人が缶詰状態になり現場は大パニックです。と、ミサカは現在判明している情報を伝えます』
「は、はぁ!?冗談だろ!?」
「な、なんだって!?そ、そんなはず…!」
「おいどうなってんだ上里!SAOのフロアボスはテメエの理想送りから出現してるんじゃなかったのかよ!?」
「ぼ、僕が知りたいぐらいだ!現に理想送りは君が僕のオーグマーごと破壊した!第一、僕はこのライブにはSAO生還者が全員いるから、ライブが終わったらフロアボスを会場に放てと教授に…!………ッ!?」
口走る途中で、上里は重大な欠点に気づいてしまった。この状況を生み出したのは誰なのか、誰がこの状況を一番都合よく思えるのか。そんなのはもちろん、『こうなるように仕向けた本人』以外はいないだろう
「・・・まさか…教授が…!?」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ワアアアアアアアアアアアアアア!!!!!
「ギイイイイイイ!」「逃げろー!」「グオオオオオ!」「かかってこいやぁ!」「アアアアアア!」「ここから出せー!」「ギャォォォォォ!!」「いやぁーーー!!!」
ワアアアアアアアアアアアアアア!!!!!
「まったく…まさかこんなゴタついた状態で仕上げに移ることになろうとは…ともかく、これでなにもかもが私の計画通りだ」
そこは新国立競技場のVIP用観覧席の一室だった。観覧に適したガラス張りの部屋の下では、逃げ惑う一万人の観客とSAOのフロアボスが入り乱れる混沌とした光景が広がっていた。そしてまるで望んでいたかのように、重村の姿を模した立体映像がその光景を見下ろしていた
「これで後は『エモーティブ・カウンター』の平均値が10000に達しさえすれば…」
「お父さん!こんなことはもうやめて!」
「!?悠那…!」
そして重村の立体映像に話しかける少女が一人。彼の娘である重村悠那を再現して作られた、人工知能である白いユナが彼を説得しようとしていた
「・・・いや、まだ悠那ではない。まだ記憶の収集が足りていないな。待っていてくれ、あと少しでお前を蘇らせるに足る記憶を彼らから集めることができる」
「私は生き返ることなんて望んでない!」
「それは今はまだ、AIのレベルにあるお前の自己保存プログラムが言わせている言葉に過ぎない。もう少しだから大人しく待っていなさい」
「お父さん……」
「データの収集は、ARアイドルである方のユナのAIクローラーの方に任せてある。丁度仕上げの段階だ。スクリーンに表示されているプレイヤー全員の『エモーティブ・カウンター』の平均値が10000に達した時、高出力スキャンが行われ、プレイヤー全員のSAO時代の記憶を読み取ることができる」
「なっ!?ダメよお父さん!こんな専用の設備もないところで高出力スキャンなんてしたら、共鳴効果で記憶を読み取るどころかみんな死んでしまう!」
「黙りなさい!!!」
「ッ!?」
バァンッッ!!
「重村教授っ!!」
「か、翔流!?」
VIPルーム中にドアが乱雑に開け放たれる轟音が鳴り響いた。そのドアの向こうには、息を切らしながら教授の立体映像を睨みつける上里翔流の姿があった
「・・・上里か…よく私がここにいると分かったな。いや、当然といえば当然か…こんな大それたことができるのは、共にユナ再生計画を立案したお前と私ぐらいのものだからな」
「これは一体どういうことですか!?いや、一体どうやったんですか!?僕の理想送りがなくなり教授の意識が戻ったのはまだ分かります!だけど理想送りのないままこんな大量のフロアボスを一体どうやって…!」
「おや?お得意の勘の良さはどこに行ったんだ上里?お前だって『最初から』私が裏切ると分かっていたから邪魔者になる私を理想送りで飛ばしたんじゃないか」
「!?じゃあまさか最初から…!」
「その通り。私はユナのファーストライブを予定していた当初からこうなるように仕組んでいた。まぁお前に理想送りで飛ばされたのは流石に想定外だったが、予めプログラムを実行に移すだけで済むように準備しておいたのが功を奏した。意識さえ戻れば後は造作もない」
「もう辞めにしましょう教授!僕はたしかにあなたの計画に加担した!ですがユナはもうこんなこと望んでいません!一緒に罪を償いましょう!彼女の死と向き合って、僕たちは僕たちの道を歩まないといけないんです!」
「翔流…」
「はっ…もう遅いよ上里。なにもかもがね。一度実行に移した以上、もうAIクローラーは止まらない。それに、悠那が望んでいるかどうかなんてのは、所詮誰にも分からないさ。そこにいるユナも君も、結局は悠那ではないのだからね。だが一つ確かなのは、望む者もいるということだ。他でもないこの私自身が!誰よりも悠那との再会を望んでいるのだ!そのためならば私は喜んで悪魔に魂を売ろう。たとえその結果、私の教え子だった『あの男』と同じ道を辿ることになったとしても、私はかけがえのないあの時を取り戻したいだけなんだ」
「ッ!このっ!!」
バッ!!
「翔流、待って」
「・・・ユナ…」
上里は重村を見ながら歯噛みしていた。つい先ほどまで、自分は目の前の人間と同じ思想を抱いていたのかと思うと、どうにもやり切れない感覚に囚われて仕方がなかった。そして目の前の重村が映像と分かりながらも殴りかかろうとしたところに、白いユナが手を差し出して待ったをかけた
「・・・翔流、後のことをお願い。私は、今私にできることをする」
「・・・ごめん。僕はずっと君を…」
「ありがとう、嬉しかったよ。私の気持ちを理解してくれたこと」
「!!!…ははっ、お礼なら僕でなく『彼』に言ってやってくれ。彼がいなきゃ僕は、どうしようもない馬鹿のままだった」
「ふふっ、やっぱり翔流は変わらないままだね。そうやっていつも自分を放って他人のことばかり…分かった。そういうことなら彼のところに行ってくる。話はまた今度ね」
「ああ、気をつけて」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ミサカ妹!俺はこれからどうすればいい!?」
『少々お待ちください……分かりました。最初に会場を出たゲートと同じゲートに向かって下さい。ミサカの能力の応用でそのゲートのみを一点集中でハッキングしてゲートの電子ロックをこじ開けます。と、ミサカはここが正念場だと言わんばかりの張り切りを見せます』
「分かった!出たとこと同じゲートだな!頼む!」
ダダダダダダダダダッッッ!!!
一方、地下駐車場で上里と別れた上条はエレベーターを使い上の階層に行き、国立競技場の廊下を奔走していた。ここぞというミサカ10032号のアシストに感謝しながら、一万人が閉じ込められているライブ会場へと急いだ
「着いたぞミサカ妹!そっちはどうだ!?」
『・・・申し訳ありません。どうやらかなり厳重に厳重を重ねたロックが敷かれているようです。ミサカのハッキングではどうしようも…』
「ッ…クソッ!一体どうしたら…!」
ピーッ!ガシャン!
「・・・あれ?あ、開いた…?御坂妹、解除できたのか?」
『いえ、ミサカではありませんが確かにロックは解除されています。と、ミサカはこの状況に首を傾げます』
『あーあー、聞こえるか?上条当麻』
「上里!?」
上条が厳重な電子ロックを掛けられた扉に拳を打ちつけると、急に扉の錠が解除されたような音がした。訳の分からない状況に戸惑っていると、立て続けに廊下のスピーカーから上里翔流の声が聞こえてきた
『今制御室にいてね。君の姿が監視カメラで見えたんでその扉を手動で開けた。だけど開けられたのはその扉だけだ。教授め、僕がその扉を開けた瞬間に、そこ以外のゲートを手動で開かないようにしてくれたようだ。多分そこもすぐに閉められる。今のうちに早く中に入れ』
「分かった!すまねぇ!」
ガチャッ!ワアアアアアアアアア!!!!!
「ギイイイイイイ!」「うわぁー!」「ガアアアアア!」「ここを開けろー!」「ガルルルルル!」「トイレに行かせてくれー!」「ギャォォォォォ!!」「いやぁー誰か助けてー!!!」
「ッ!?なんだこれ…!めちゃくちゃじゃねぇか!」
「か、上条!アンタどこ行ってたのよ!?」
「リズ!それにみんな!無事だったのか!」
ゲートを通過した先では、会場を埋め尽くす数々のフロアボスと一万人の観客が入り乱れ、もはや事態は収拾がつかなくなっていた。そんな周囲に目を配る中で出会ったのは、先ほどライブが始まる直前に別れたリズベット達であった
「おおっ上条!無事だったか!」
「エギル!こっちは一体どうなってる!?」
「ああ、訳分かんなすぎてこっちが聞きたいぜ。ライブが終わったと思ったら大量のフロアボスが出てきてドアは締め切り…おまけにスクリーンには訳の分からねぇ数字…まぁオーディナル・スケール関連って時点で大方ロクなことじゃねぇんだろうけどな…!」
「な、なんで分かっててみんなオーグマーを外さねぇんだよ!?」
「無理よ。私たちも何度か呼びかけてみたけど、みんなパニクって聞く耳持たないのよ。戦ってる人はフロアボスのポイントの多さを知ってるから自ら進んで戦ってる。正直お手上げよ」
「クソッ!何か方法は…!」
「キキキキキキキィィィ!!!」
「みなさん危n…きゃあっ!」
「ッ!?シリカッ!!」
ブオンッ!ガキィンッ!!
上条達が会話に夢中になっているところに、死神を象ったモンスターが鎌を振りかざしてきたのをいち早く反応したシリカが注意を呼びかけたが、声をかけた時には既に遅く、注意を呼びかけた彼女に鎌が襲いかかりそうになったところを上条が庇った瞬間、巨大な盾が死神の鎌を防いだ
「お、お前はユナ!助けに来てくれたのか!?」
「上やん助けて!このままじゃここにいるみんなが危ない!」
「そ、そんなの見りゃあ分かるよ!だけど何がどう危ねぇとか、どうしたらいいかとかこっちはさっぱりなんだよ!」
「あそこのスクリーンの数字!アレはここにいるみんなのエモーティブ・カウンターの平均値を表してるの!あの数値が10000に達した時、オーグマーを通してここにいるみんなに高出力の記憶スキャニングが行われるの!正直ここにいる全員の記憶をいっぺんに読み取るほどのスキャンをしたら、みんなの脳は保たないわ!」
「い、10000って…今もう8000ちょいじゃねぇか!このスピードの上がり方だとほとんど時間ねぇだろ!」
「だから上やん!私と会った場所…旧アインクラッド100層に行ってボスモンスターを倒して!そうすることで今度こそアインクラッドは終わる!ここにいるフロアボスもみんな消えるハズだわ!」
「お、おう分かった任せろ!……ってアミュスフィアも何もねぇこの状況でどうやって仮想世界に行けっつーんだよ!」
「分かってる!今オーグマーのフルダイブ機能をアンロックするからそこに座って!」
「なっ!?お、オーグマーにフルダイブ機能が!?」
「オーグマーはナーヴギアの機能限定版でしかないもの!理想送りでみんなの意識をアインクラッドに飛ばせたのはそういう意味なのよ!分かったら早く!」
「よ、よし!やってくr…」
バシッ!!
「ちょっと、今度は逃がしゃしないわよ」
そう言って肩を叩いたのはリズベットだった。そしてその周りには、仲間が揃いも揃って上条の周りの席に着いていた
「俺はこれでも元攻略組だったんだ。100層のボスと聞いて黙ってるわけにゃいかねぇなぁ上条」
「私はそんなに強くないかもしれないですけど、それでもみんなを助けるために何かできることがあるなら…!」
「突撃するしか能がないアンタには、私みたいな狙撃手が必要だと思うけど?」
「み、みんな…ありがとな。ユナ!始めてくれ!」
「分かった!お願いみんな!」
そう言うとユナは巨大な盾の能力を使い、ドーム型の防護フィールドを貼ると、座席に座った上条達に向けて手を伸ばし意識を集中させた。そしてそれを合図に上条達は、二年前の全ての始まりとなった言葉を口にした
「「「リンクスタート!!!」」」