とある魔術の仮想世界[3]   作:小仏トンネル

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最終話 贈り物

 

「まったく、本当に一時はどうなることかと思ったわよ」

 

「それ美琴が言うのかよ…こっちだって色々と大変だったんだぞ?順位を上げるためにイベント発生地点まで吹寄の暴走車に死ぬほど振り回されて…あんなのは二度とゴメンだ」

 

 

大荒れになったユナのファーストライブの翌日、事件は思いのほかあっさりと解決した。上条達が100層のボスを打倒したことで会場に溢れたSAOボスは全て消え、目立った死傷者はなく、被害者は全員意識を取り戻した

 

 

「ねぇ、ていうか本当にここで合ってるんでしょうね?私からしたら全部似たような石にしか見えないんだけど?」

 

「お前なぁ、んなこと言ってっと呪われるぞ?でも確かにこりゃ探すの大変だなぁ…黄泉川先生の話だとここで合ってるはずなんだけど…」

 

 

そして上条と美琴は今、第10学区にある墓地を訪れていた。上条は右手に一枚のメモ、左手に水桶と柄杓を、美琴は両手で花束を持ってある人物の墓を探していたのだが、どうにも眼前に続くのは似たような光景ばかりなため、文字通り墓地を彷徨い歩いていた

 

 

「さてこりゃどうしたもんか……あっ…」

 

「ん?どうしたのよ急に止まっt…あっ!ちょっと!」

 

スタスタスタスタ…ザッ…

 

「よぉ、上里」

 

「・・・なんだ、妙に騒がしいと思ったら君だったのか」

 

 

上条が周りを見渡すと、一つの墓の前で膝まづいて手を合わせる少年、上里翔流がいることに気がついた。彼が手を合わせていた先には『重村家之墓』と彫られた御影石で作られた墓があった

 

 

「ちょっとアンタ!勝手に行くんzy……あぁ、なるほどね。そりゃコイツ見れば目的地にたどり着くわね」

 

「御坂美琴か…君たちも悠那の墓参りに?」

 

「ああ、黄泉川先生に場所聞いてな。でもいいのかよお前?確か昨日警備員に連れられて拘置所に…」

 

「見張りをつけることを条件に一日だけ外出許可を貰ったんだ。まぁせめて墓の前には一人で行きたいって言って、見張りの警備員には墓地の手前で待ってもらってたところに君らが来たんだよ」

 

「なるほどね…あっ、お花お供えしてもいいかしら?」

 

「えっ?あ、あぁ別に構わないけど…」

 

「ん?なによ、歯切れの悪い返事ね。なんか不都合でもあるわけ?学びの園で人気の花屋さんに見繕ってもらった選りすぐりのお花なんだけど?」

 

「い、いや…いいのかい?だって僕は以前君に…」

 

「あぁ、まぁそりゃ確かに面食らったわよ。目開けたらいきなりアインクラッドの始まりの街にいるんだもの。でもそれはもう過ぎたことじゃない?アンタだって反省してるみたいだし、なにより悠那さんのお墓の前でそんな不粋なことする気にもなれないわよ」

 

「・・・そうか。とても綺麗な花をありがとう。きっと悠那も喜んでくれるよ」

 

「どういたしまして」

 

 

そう言うと美琴は上里に花束を渡し、上里はそれを受け取ると花を包んでいた紙を外し、墓石に備えてある花瓶へと花を丁寧に刺した

 

 

「ところで教授の方はどうなったんだ?国立競技場の方にはいなかったみたいだけど…」

 

「ああ、僕が理想送りで意識を飛ばした後は先生の自宅に押し込んでおいたんだけど、どうやら意識が戻ってからすぐにSAOサーバーのあるARGUS本社跡地に移動していたらしい。だけどあの後すぐに不法侵入の足がついて捕まったみたいだ。僕に関わってくれてる警備員の話しだと罪を認めてはいるってさ。まぁ実刑は避けられないだろうけどね」

 

「じゃあお前の方は…」

 

「まぁ実際どうなるかはまだ分からないけど、期間はどうであれ学園都市の少年院に入ることになるんだろうね。まぁこうして外に出られただけでも儲けものだけどね」

 

「そうだったのか…前から悠那の墓にはよく来てたのか?」

 

「いや、こうしてちゃんとお墓の前に来るのは今日が初めてなんだ。以前にもこの墓地を訪れたんだけど、どうにも行くのが怖くなってね。入り口で引き返したんだ。だけど今日は悠那の死を受け入れたのを伝えるためと、僕の誠意と顔をちゃんと見せに行こうと思ってここに来たんだ」

 

「・・・ねぇ、昨日も言ったけど本当に良かったの?初春さんにお願いすれば、人工知能の白い方のユナさんはもう一度……」

 

「いや、大丈夫さ。あのユナもきっとそれは望んでない。それに、目に見える形で側にいてくれるよりも、目に見えなくても心に寄り添うことが出来れば、今の僕は十分だよ」

 

「・・・そうね。ユナさんもきっと、どこかであなたを見守ってくれてると思う」

 

「あぁ、ありがとう。それに昨日は丁度、悠那の誕生日だったんだ。だから計画が成功すれば新しい悠那の誕生日になる…はずだったんだけどね。だから今日は、少し遅めの誕生日祝いを届けに来たんだ」

 

「なるほどな、いいじゃねぇか。なにを贈ったんだ?」

 

「あぁいや、まだ贈ったわけじゃないんだ。僕がユナに贈るのは…」

 

ガチャッ…

 

「「!!!!!」」

 

「『僕自身』だよ」

 

 

そう言うと上里は自分の腰あたりに右手を回し、ベルトに挟んでおいた黒い何かを手に取った。彼の手に収まったそれは、一丁の拳銃だった。そして上里は拳銃の銃口を自分のこめかみに押し当て、セーフティを解除して親指でハンマーを起こした

 

 

「悠那、僕も今からそっちに行くよ……」

 

「ッ!?待t…!!!」

 

(磁力を使って弾丸の軌道を逸らせば!!いや銃口があんなにピッタリついてたらそれは出来ない!だったら拳銃ごと引き寄せて…!)

 

 

上条は無我夢中で地面を蹴り飛ばし、美琴は即座に思考を巡らせ、能力発動のための演算を開始した。しかし時は既に遅く、無情にも上里の人差し指が引き金を引いた

 

 

カチンッ!!

 

「上里ーーーっ!!………え?」

 

「嘘に決まってるだろ。ただでさえ特別に外出を許された身分の僕が本物の拳銃なんて持ってるわけないだろ。これはその辺で拾ったただのエアガンだよ。どんだけビビってるんだ君は」

 

 

そしてトリガーを引いた瞬間、乾いた空気の音が鳴った。明らかに拳銃が火を吹いた音には聞こえず上条は思わず呆けた顔で立ち止まり、そんな彼を小馬鹿にするように上里はエアガンを指で回し始めた

 

 

「いやビビるわ!展開的にあり得すぎだっつーの!!」

 

「はぁ〜〜〜なるほどねぇ……道理で能力で引き寄せられないわけね。所詮エアガンなんてプラスチックだもの…こりゃ一本取られたわ…」

 

「そういうことだ。まぁ少し早めのエイプリフールだと思ってくれ」

 

「タチ悪過ぎんだろ!?四月まであと二週間以上あるんでせうが!?」

 

「まぁ細かいことはいいじゃないか」

 

「細かくねぇ!むしろ雑すぎるわ!」

 

「それで?今のが冗談だとして誕生日プレゼントには何を贈るの?」

 

「ん?あぁ、それも嘘だ。実はもうあげたんだ。ほら、御坂さんがくれた花とは違う方の花瓶」

 

「えっ?……あぁ〜なるほどね。意外と見た目によらずロマンチストじゃない。とってもいいプレゼントだと思うわ」

 

「ははっ、流石は常盤台のお嬢様だ。見ただけでこの花の意味を理解するなんて」

 

「???なんだお前ら、主語もなしに会話しやがって。美琴が買ってきたのとは違う方の花瓶って…なんだこれ?『ヒヤシンス』?」

 

「はーいはい、これ以上いても私たちはお邪魔だからとっとと帰るわよー」

 

「あっ!お、おい!ちょつ、俺まだなにも分かんねーんだけど!?」

 

「アンタも常盤台の華道の授業受ければ分かるわよー」

 

「だー!別に手引かれなくても歩けるから離せって!」

 

「ははっ、まったく騒がしいったらないな…」

 

 

そう言いながら上条と美琴はおぼつかない足取りで墓地を後にした。そんな彼らの後ろ姿を見送ると、上里は悠那の眠る墓へと向き直りった。そして彼の横顔をなぞりながら春の風が吹き、彼が据えた春の花に秘められた想いを遠くへ運んでいくように、どこか遠い空へと一輪の花弁が舞った

 

 

「悠那、その花は今の僕の気持ちだ。今度はちゃんと自分の罪を償って、月夜の黒猫団のみんなのお墓を回ってから、もう一度ここに来ようと思う」

 

「今回の一件では、本当に君に迷惑をかけてごめん。思えば僕は君に迷惑をかけてばかりだった。君の歌を聴いている途中でいびきをかいて寝てしまったり、君の歌に合わせて歌おうと思ったらハモってしまって邪魔をしてしまったり、赤鼻のトナカイとジングルベルを間違えて歌って君を怒らせたり…あれ?これ歌のことばっかりだな?あはは、ごめんよ」

 

「でも僕としては、迷惑をかけたことよりも一緒に笑った記憶を、君が歌った歌を、悠那やみんなと過ごした日々を、大事にしていきたいと思う。今日までは蓋をしていた思い出だけど、これからはきちんと記憶に刻みつけておくよ。そして少しずつ歳を取って…もうお腹いっぱいだって思うぐらい幸せを噛み締めたら、君のところに行くよ」

 

「そしてまた君に出会えた時には、君がもっと喜んでくれるプレゼントを贈ると約束するよ。だから今は……………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕の『変わらぬ愛』を君に贈るよ。悠那」

 

 

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