Fate/different world 聖杯戦争は異世界とともに 作:あおある
セイバーとそのマスターは、マスターである彼女の住居であったタワーマンションから都市郊外を目指す途中だった。
「伏せろマスター!」
セイバーに半ば突き倒されるように、マスターは道路脇に駐車してあった自動車の陰に入った。
マスターは何が起こったか分からないままにしていると、彼女の頭上に車のガラスの破片が降り注いだ。
「随分と気が早い連中がいるらしいな……」
セイバーがマスターに覆いかぶさったことでマスター自身は怪我一つ無い。
何があったのか、マスターはセイバーの脇から目線を動かすと、コンクリートに小さな穴が幾つも出来ていた。弾痕だ。
「飛び道具ってことは……。よぉ! アーチャーだろ。手荒い挨拶ありがとよ! ただなぁ、日本じゃ、まずこんにちはって言うんだぜ?」
セイバーがアーチャーと見なした襲撃者は姿を現さない。セイバー達はどうやってこの場から脱出するかを思考していた。
既にここはアーチャーのレンジの中。脱出は容易ではないように思える。そして、それはただ一つの正解である。
「なぁアーチャー。まだ聖杯戦争が始まって三時間も経ってないだろ。もうちょっと、現世ってのを楽しむ余裕があってもいいと思わねぇか?」
返答は物が壊れる音だった。
「小粋なトークを楽しむ余裕も持とうぜ!?」
セイバーが「野蛮人!」などと言ってはみるものの、まるで機械に話しかけているみたいだ。いや、これは最後に残った一人が決まるまで終わらぬバトルロワイアル。当然ではあるのだが。
セイバーは手元にあったコンクリートの瓦礫をアーチャーが撃ってきた方向に向かって投げたが、それがセイバーの手から離れた瞬間に撃ち抜かれたのを見るや、セイバーは慌てて手を引っ込める。
マスターは「何やってるのよ……」とぼやくとセイバーは人相の悪い顔を歪めて、「悪い悪い」と返した。
「ホントにどうっすか。最初から躓いちまったよ」
「あれ、もしかして想像以上に使えない……?」 とマスターが思い始めていると、彼女のすぐ鼻先を銃弾が通り抜けた。
「気を抜くなマスター。だが、俺の小粋なトークのおかげで緊張は和らいだみたいだな」
セイバーは軽めな調子でサムズアップしてそう言う。マスターは彼の性格が少し分かった気がした。
「口より頭を動かしなさい」と言うと、「全く仰る通りです……」と。
「ベア子の奴がいたらどうにかなるんだが……。何が魔力が少ないかしら、だよ」
マスターは自身の手の甲に浮かび上がった令呪と呼ばれる三画で構成される模様に目を落とす。
これはサーヴァントに強制的に言う事を聞かせる絶対命令権だ。対象に死ねと命令すればその通りに実行するほどの強制力を持った代物である。
そして令呪は魔力そのものであり、たった三画しかない令呪を使えば、セイバーの言うベア子に魔力を供給することが出来る。
だが……、と迷っている暇は無いとマスターは決断した。ここで死んでしまえば令呪を温存したところで意味が無い。
マスターはセイバーに向けて、令呪を起動させる。
「令呪を以て命令す……っ!?」
「うおっ!? なんだ、あのデカいのは!」
呪文を唱えていたその時、セイバーらの視界に空飛ぶ巨人が現れた。驚いて詠唱は途中で途切れてしまう。
青く、そしてその顔面は鬼のよう。その大きさも相まって鬼神とはこういう存在だと言われれば信じてしまいそうだ。
「複座型に改造していて遅参してしまいました! 何やら銃声が聞こえてきたのですが、今晩のパーティ会場はここであっていますでしょうか?」
鬼神の声はやたらと可愛かった。