Fate/different world 聖杯戦争は異世界とともに   作:あおある

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常夜異界都市 前哨戦Ⅲ

「文明の利器とはかくも偉大だな」

 

 アーチャーは家電量販店で部下に持てるだけの電子機器を運ばせていた。

 

 長年連れ添った副官が「大隊長殿、これって泥棒なのでは……」などと、なんかアタフタしていたが、アーチャーは一笑に付す。

 

「戦時中は、徴発も当たり前だったろう副官」

 

 この女性将校、どうにも英霊というフォーマットで再現されているとはいえ、気弱な部分まで同じにしなくてもいいだろ、とアーチャーは思う。

 

 「カメラ類は全て持っていく。コンピュータもだ。配線コードも片っ端から袋に詰めろ!」

 

 これらを使って都市全体とは言わないまでも広域をカバーした監視網を作るというのがアーチャーの目論見だった。

 

 指揮官は盲目ではいけない。合理と効率を求め、常に最適化し続けることが指揮官の役割だ。

 

 アーチャーは己が化け物と戦えるほどの器ではないと分かっているし、別に戦いたくもない。

 

 人殺しの才能のせいで死後もダラダラと命令されて人殺しを強要されている。

 

 己の評価に見合う仕事は願ったりだが、労組も無ければ労基も適用されない。ブラック企業だって泣いて逃げ出す。楽しい楽しい聖杯戦争。

 

 アーチャーは溜め息を吐く。

 

「なんだったら副官。貴官が軍票でも書くかね? 宛先は我らが参謀本部か?」

 

「ご冗談を」

 

 副官と会話をしているアーチャーの前に兵士達が集合する。

 

「カメラ類他、回収作業が終わりました」

 

「よろしい。撤収するぞ」

 

「大隊長殿、店は爆破しますか?」

 

 副官はさっきまでの顔と変わらない表情でそんな風に進言するが、アーチャーは「不要だ」と返す。

 

「目立つ行動は避けるべきだ」

 

 アーチャーは心中で、戦闘狂のウォーモンガーめ、と愚痴る。この性格が一番治って欲しかったのだが……、いや、戦争という非経済的活動を推進するような連中にまともな人間がいないのはアーチャーがよく知っている。つまり、聖杯戦争に参加した人間も与した存在も総じてイカレテいるのだ。それでは部下が蛮族なみに好戦的なのも治らなくて当然だ。アーチャーはそう結論付けるしかない。

 

 その時、副官が背負う無線機が唸り声を上げた。

 

 副官が素早く受話器を取る。

 

「大隊長殿、中隊長から報告が。敵サーヴァント二騎が戦闘を開始したと」

 

 アーチャーは早速警戒網が上手く機能していると実感しつつ、そして血気盛んな獣の群れに放り込まれた自身の不幸を恨んだ。存在Xのせいであることは明白である。

 

「観測を続けろ。それと、手隙の小隊から一人づつ当該中隊の応援に回せ。そうだ、中隊長にはくれぐれも観測に努めろと付け足しておけ」

 

 アーチャーは小隊長を先行させて家電量販店を後にする部下達の背を追いつつ、次は連絡用の通信機器でも揃えるかと思考していた。

 

「副官の無線機なんてこっちの時代換算で百年前の物だしなぁ」

 

 演算宝珠が起動し重力が自身の周囲をすり抜けるのをアーチャーは感じる。

 

 何べんと体感した飛べるという確信を以てアーチャーは家電量販店の屋上から飛び上がった。

 

 気持ちの悪い色をした空に月は浮かんでいない。

 

 生活の残滓を残しつつもゴーストタウンと成り果てたこの都市。都市の規模から推定できる何万人という人はどこへ行ったのだろうか。

 

 そんなことをアーチャーが考えていると副官が無線機に耳を当てて笑っていた。

 

「作戦中だぞ副官」

 

「す、すみません大隊長殿。でも、中隊長の報告にあった敵サーヴァントの様子が可笑しくってつい……」

 

「様子?」

 

 英霊というのは実際の姿より大小のアレンジを加えられて召喚されることが多々ある。これは没後の、大衆の想像する偶像的な存在として現世に甦るからだ。かくいうアーチャーとて子供の頃の逸話が世間で蔓延しているせいでこの姿なわけだが。

 

「なんでも大きな青いブリキの玩具みたいだって言うんですよ」

 

「ブリキ……」

 

 一体どんな生き方をしたらブリキになれるのだろうか、とアーチャーは少し、本気で考えてしまう。ブリキ人形をこの世で最初に作った、とかだろうか。

 

 アーチャーはなんとなくそのサーヴァントの姿としてブリキのロボット人形を想像するのだった。

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