Fate/different world 聖杯戦争は異世界とともに 作:あおある
「……ッ!」
セイバーはタワーマンションの一室、魔法陣の中心に立った状態で意識を取り戻した。
肺は正常に稼働しているはずなのだが、それがセイバーには凄く久方ぶりに感じる。
あぁ、そうか、とセイバーは何が起こったのかを確かに自覚した。
「あの、大丈夫ですか……?」
近くの公立高校の制服を着る少女、セイバーのマスターである少女は、不安気な眼差しでセイバーを見つめていた。
「おう! 大丈夫だぜマスター。俺はセイバーだ。剣は持ってなくてもセイバー! よろしくな!」
「あ、えっと……その……」
マスターはセイバーの情緒不安定ぶりに完全に引いていた。応答の代わりに首を縦に振るだけで、あとはうんともすんとも喋らなくなってしまう。
「驚かせて悪かったからそんなに引くのはやめてくれよ……」
セイバーはそれから数分、なんとか屁理屈をこねてマスターが少女が抱いてしまった誤解を解くのに成功する。
セイバーはチラリと壁掛け時計に目をやる。深夜〇時を少し過ぎている。
「なあマスター。隠してもしょうがないからぶっちゃけるんだが、俺個人の戦闘力は皆無に等しい。頑張って魔獣をちょっと倒せるかどうか。英霊として聖杯戦争に参加する他のサーヴァントと比べると俺なんて地面を這う蟻んこだ」
唐突にそんなことをこれから命を預けるサーヴァントに言われたのだからマスターは目を白黒させていた。
「だが、安心してくれ。俺のオマケは俺より億倍マスターの力になるからな!」
「オマケ……」、そう零したマスターを見て、セイバーは自分に対する信頼度が急降下していくのを感じつつ、今回の聖杯戦争セイバー陣営に於ける期待の星、大本命の名前をややゴマ擦りつつ紹介する。
「では登場していただきましょう! 我らの希望、ベアトリスさんでーす!」
マスターも「お、おお……!」とセイバーに釣られて小さく手を叩いた。
「よいしょが気持ち悪いかしら」
どこからともなく現れた金髪縦ドリルツインテロりにマスターはビビっていた。
「よぉベア子。あちらに御座すのが俺のマスターだ。ほら、ご挨拶しろー?」
「ベティーは別にそっちの人間と契約したわけではないのよ」
この幼女。外見のせいで騙されそうになるが数百年生き続ける大精霊である。
セイバーは初めにちゃんとこの大精霊様に補給をしていればな、と心の中で後悔しつつベアトリスに呼び出した理由を告げる。
「外は他のサーヴァントがうろついているだろうし、俺の攻撃性能は絶望的。そしてどっかの偉い人は言った。三六計逃げるに如かず、と! でも、俺の足だとマスターの安全を確保したまま敵をまくのは厳しい、というかだいぶ期待値が低い。だから……ベア子頼んだ!」
セイバーは腰を折り、頭を下げて、右手を差し出した。
「はぁ……お前はいつまでもベティーがいないと駄目なのかしら」
溜め息を零し、そう契約者をなじりつつも、ベアトリスはセイバーの手を握る。
セイバーを脱力感が襲うのだが、どうにか足腰踏ん張って耐える。
今、セイバーからベアトリスへ魔力を委譲した。ベアトリスは諸事情により自分で魔力を確保できない体質なので、こうやってセイバーが補給してやらねばならない。
「ま、前金としてはこのぐらいかしら」
「だいぶボッたなベア子……俺の膝がニッコリスマイルだぜ……」
「役立たずはそこで這いつくばってるがいいかしら」
「痛いところ突きやがって……ガクっ……」
セイバーはそう言い残して限界に達したのか、床に顔から倒れた。ゴンと痛い音がした。
「えっと、あのベア子さん……?」とマスターは倒れたセイバーと心なしか肌艶の良くなったベアトリスの両者間で視線を右往左往させる。
「気安く呼ばないでちょうだい」
ベアトリスはマスターに対してあまり友好的ではない様子で、マスターは気弱に「ご、ごめんなさい」と言う他なかった。
「まあ、そこの役立たずに頼まれた仕事ぐらいはこなしてやるかしら」
部屋にいる男女三人。ただ一人、幼女だけが強気だった。
▼
セイバー陣営の三人はベアトリスを先頭にマスター、セイバーの順で勇者のパーティーよろしくタワーマンションを出た。
セイバーはしきりに上空を警戒していると、何かが光ったのを捉えた。
「やっぱり居やがったなアーチャー!」
アーチャーの放った弾丸はマスターではなくセイバーの足の腱を貫いた。
幸か不幸か、セイバー陣営には現在三人。アーチャーはマスターが三人のうちの誰なのか分かっていなかったのだ。
「セイバー!?」
「構うなマスター! なんてことない!」
不意打ちを外したことを悟ったアーチャーは慌てて再装填を開始するが、セイバーの次の一手の方が早かった。
「マスター、ちょっと気張れよ……! シャマク!」
セイバーを発生源とした謎の黒煙が辺り一面を包み込んだ。
正しい用途とはいえないが、この状況に限っては煙幕程度で構わなかった。足の腱を撃ち抜かれて上手く歩けないセイバーをベアトリスが左手で引き摺り、右手でマスターを引っ張って、セイバー陣営はアーチャーの捕捉から離脱した。
しばらく引きずられるままにされていたセイバーだが、途中でマンホールを見つけると、マスターに、この下の下水道に潜伏することを提案する。女性陣は心底嫌そうな顔をしつつも、セイバーの提案に同意した。
薄暗い下水道は思っていたよりも嫌な臭いというものが無く、汚水というのもなかなかまじまじと見た経験も無かった三人だが、想定よりも遥かに澄み渡っていた。
空気は地上よりも肌寒いぐらいにひんやりとしていて、時たま空気が肌にひりつくみたいな感じがあった。
「下水道ってこんなんなのか……?」
セイバーはかえって警戒心を強める。
その時、セイバー達が進んでいた向こう側から話声が聞こえてきた。こちらに向かっているらしい。
「ちょっとカズマ~。どうして私みたいな女神がこっんな所にいなくちゃいけないわけ~? ちゃんと聞いているのかしらカズマったら!」
「おい駄女神! 真名をそうポンポンポンポン叫ぶんじゃねぇ!」
「ぶっはぁ~! カズマさんがアサシンとか超ウケるんですけど~! プ~クスクス!」
複数人いるようだ。しかも、無遠慮に片方は大声で笑っている。
そして、どうも馬鹿な奴がいるらしい。はっきりとアサシンと言ったことをセイバーもマスターも聴いていた。
「だからお前それを止めろって言ってるだろ!」
「大丈夫よカズマ、そもそもこんなところにいたがるのはネズミとカズマぐらいなんだか、ら…………あ」
馬鹿な方が小さく、悲鳴のような声を漏らす。
青い髪の女だ。見てくれはそこそこいいが、馬鹿っぽさが全面から滲み出ていた。
「どうしたアクア~……って、ああ!?」
「どうしよカズマさん」
ここにセイバーとアサシンは出会ってしまったのだった。