ダンジョンにSCP-710-JP-J伝承者がいるのは間違っているだろうか 作:猫屋敷の召使い
翌日。巧はアイテムの補充のために『青の薬舗』へと来ていた。
「ナァーザー。お客様がいらっしゃったよー」
「いらっしゃい……何が欲しいの?」
巧は店内に入ると中にいる女性の
「
「わかった……はい、これ……」
彼女は試験管のような容器に入った液体をいくつか巧の前に出すが、すぐに彼はあることに気づく。
「いや、薄めてある奴じゃなくて」
水で薄めてある不良品を目の前に出されたのだ。その事がバレたナァーザは悪びれた様子はない。それどころか、
「ちっ……」
舌打ちをする始末だ。
その態度に呆れながらも払う金を追加する。
「『ちっ』じゃねえよ。いいじゃん。いつも定価の二倍で買ってあげてるんだから。ついでにその薄めたものも
「毎度あり……」
巧のその言葉を待ってましたと言わんばかりに口元を歪める。それをはっきり見た巧は青筋を額に浮かばせながら、少し荒い口調で告げる。
「ニヤッってすんなや。何処にわざわざ買い取ってもらうために薄める馬鹿がいるか」
「ここにいる」
「精々ほざいてろ。次やったらミアハ様にチクるかんな」
「…………………………………………………………わかった」
「不承不承に返事してんじゃねえよ。じゃ、これ代金ね。お釣りはいらないから」
その後、ベルとダンジョンに潜り何事も無く、ホームへと帰還する。が。
「ベル。表に出てきて」
「えっ?」
「昨日言ってた指導をやるよ」
「い、今からですか?」
「もちろん。ちなみに朝やらなかったのは、やるとその日は疲れに疲れてダンジョンに潜れなくなるだろうから。ま、ハイ・ポーションなり使えばいいんだろうけどね。流石にそこまで過保護じゃない」
「……………」
唖然とするベルを引きずって、表に出て行く巧。いつも修練に使っている空地に来るとベルに言う。
「さ。武器を抜いて」
「え、でも、刃引きしてないですよ?」
「むしろ当てられると思ってんの?」
「………」
巧の挑発じみた発言にムッとしながら、短刀を構えるベル。それに対して、『解放礼儀』を行って準備を整える巧。ベルもそれが終わるのを待つ。
「………………」
「………………いつでもいいぞ」
「……やっ!」
ベルは勢いよく踏み込んで
「はい駄目ー」
「わっ!?」
しかし、いとも簡単に腕を掴まれて地面に転がされる。その事に驚き、目を瞬かせるベル。
「はぁ……。ベル。短刀の利点と欠点、握り方による適した攻撃方法は?そもそも短剣との違いは理解してる?」
「え、ええと……」
巧に問われて、すぐに答えを返せずに口ごもってしまうベル。そんな彼を見て溜め息を吐きながら、話を続ける。
「……だろうな。分かってたらいきなり大振りで攻撃して来ねえか。じゃあ、まずはそれを理解しようか。短刀はリーチが短い超近距離武器だ。そのうえ持ち方で戦い方も変わる。俺が知っているのだけでも四種類存在するからな。逆手と順手での戦い方の違いは分かるか?」
「いえ……」
「なら試しに順手で持ってみろ」
「はい」
巧に言われた通り、ベルは短刀を逆手から順手に持ちかえる。
「その状態だと手首の可動域は逆手と比べてどうだ?」
「……広い、ですね。少し無理をすれば色々な方向に攻撃できそうです」
「そうだ。しかし力を込めづらいから致命傷となる一撃を打ちづらいことが多い。順手の場合手数で攻める戦い方になるし、距離が近すぎると動かしづらいという欠点もある。だが逆手だと可動域が少なくなるが、手首が固定される分、体重を乗せやすくなって力を込めやすい」
「そうなんですか……」
「そうなんだよ。順手よりも至近距離での対処がしやすいが、リーチが短く必然的に敵との距離が近くなり、相手との距離感が大切になる。」
「距離感……」
「そうだ。短刀を持って腕をたたみ、攻撃の際にもあまり腕を伸ばさない。これが基本だ。だが短刀は短剣とは違い、敵を切り裂くことが出来る。短剣は引いて斬るようには出来ていないが、短刀は引いて斬ることも視野に入れられている。どんな武器でもそうだが、自身のリーチは正確に把握しておくことだな」
「へぇ~……」
「じゃあ立て。先ずは懐への潜り方を指導する。短刀は一旦しまえ」
「はい!」
巧の言葉に元気に返事をして立ち上がるベル。
「無理に踏み込む必要はない。ほぼ確実に攻撃を当てられる瞬間に接近して斬るなり突くなりしろ。相手の攻撃は受け止めるのではなく受け流す。そして体勢を崩したところに踏み込んで攻撃する」
そういって、ベルの身体に腕を押し付けるまで体を近づける。
「基本的にリーチの短い短刀だと、最も致命傷となるのは突きだ。後は頸動脈といった弱点を斬ることだ。突きの一撃で仕留められないようなら、短刀を刺したまま斬ってしまえ」
身体を近距離に近づけた状態でベルに話しかける巧。
「理想としては一撃で仕留めるべきだな。一対一なら時間をかけてもいいかもしれないが、ダンジョン内だと時間をかければかけるほど他のモンスターも寄ってくる。それに下の方に行けば一対一の方が珍しくなる。一対多なら各個撃破で一体ずつ確実に減らす戦法が好ましい。囲まれたのなら下手に突っ込まず、攻撃してきた相手をカウンターで仕留めろ。同時に襲い掛かられたら相手を冷静に観察して見切れ。睨み合いが続くようなら無理やりにでも隙を作って確実に一体を仕留めれば、そこからは済し崩し的に上手くいく」
ゆっくり身体を離し、ベルに教える巧。その彼の言葉に首を傾げながら質問する。
「えっと、隙を作るってどうすればいいんですか?」
「モンスターも生物だ。弱点は多くある。眼、鼻、首。後は顎に衝撃を加えて脳を揺らすとかか。方法は何でもいい。拳でも蹴りでも、投擲や突進とかでも構わない。相手を摑んで引き寄せ、体勢を崩させてもな。その時その時で最適なものを選べ」
「最適なもの?」
「初動が一番早く一連の行動で隙が少ないもの、だ」
「……距離が近ければ、拳や蹴り。距離があれば投擲。相手を大きく崩したければ突進ってことですか?引き寄せるのは相手との間合いが変化しない場合ですか?」
「概ねはそうだ。詳しくは実戦で試してみた方が理解が深まる」
ベルの言葉に満足そうに頷く巧。そのままさらに話を続ける。
「さらに相手がモンスターなら最大の弱点が存在する」
「……魔石ですか?」
「ああ、そうだ。それにより攻撃さえ、刃さえ通ってしまえば、理論的には全てのモンスターを討伐可能だ。まあ、切羽詰まった状況でない限りあまりオススメはしないが」
「わかりました」
「だがまあ、10階層まで行けば自分よりも大きなモンスターを相手取ることになるだろう。その時は戦い方を考える必要がある。もしくは大してこだわりが無ければ、武器を変えるのも一手だろう。そこまで潜れる実力があれば、稼ぎもそこそこだろう。安物の武器の数本ぐらいは買えるはずだ。【ステイタス】の補助も受け、大剣のような鈍重な武器も持てるようになっていると考えられる。だが、武器だけをただ振り回しているのは無意味だから注意しろ」
「………その時はまた武器の扱い方を教えてくれますか?」
「構わん。相当奇天烈な武器でなければ可能だ。まあ、ほとんどの武器は力で押し切るの基本なのだがな。技術を必要とするのは攻撃方法が限定的か、真逆の幅広い場合ぐらいか。だが今は少し体術を教えてやる。お前に合わせてやるから努力しろ」
「ありがとうございます!」
その後、バイト終わりのヘスティアが帰宅して空地に様子を見に来るまで、二人は指導を交えた組手を行っていた。
巧がベルに指導を始めてから数日が経過した。彼は巧に教えられたことを苦戦しながらも少しずつ着実に吸収している。
「ハッ!」
「斬り払うには踏み込み過ぎだ。もう半歩後ろでいい。それと腕を伸ばし過ぎだ。それでは大して深くは斬れない」
「フッ!」
「突きの場合は逆に踏み込め。力強く踏み込んで力を乗せて素早く突け」
今日もダンジョンから戻ると空地でベルと組手方式で指導する。
巧の方からは攻撃はせずに避けるか受け流すだけでベルの相手をしている。
「やぁっ!」
「―――ハッ!」
ベルの攻撃に合わせて、腕を掴んで地面に転がせる。出来るだけ衝撃がない様に優しく投げる。
「少し休憩とする。息を整えろ」
「……はい」
地面に寝転がって荒い息をしたまま返事をするベル。
「……あの」
「なんだ」
少し呼吸が落ち着いたベルが巧に話しかける。巧は彼の方を見つめながら用件を尋ねる。
「僕って、強くなってますか?」
「……実感が湧かないか?」
ベルの問いに少し目を見張る巧。そしてすぐに彼に問い返す。
「そう、ですね。あまり……」
「……安心しろ。格段にというわけではないが、強くなっている。ただ場数が足りていないだけだ。あまり極端な変化がないからそう感じてしまうのだろう」
「……場数、ですか?」
巧の言葉に首を傾げながら聞き返すベル。それに頷いて肯定する。
「ああ。経験と言ってもいい。戦えば戦うほど身体の動きというのは洗練されていく。相手の動きを目で追おうとすれば、自然と『視る』力が養われていく。そして死地から生還すればするほど『勘』が培われる」
「死地って……」
「事実だ。生存本能と言い換えてもいい。どう動けばいいか。どうすれば生き残れるか。そういったものを感覚的に捉えられる。ま、自ら死地に突っ込むことを勧めはしないがな」
「勧められてもしませんよ!」
「当然だ。それにさせるつもりもない。安心しろ」
「ほっ……」
「今のところはな」
「えっ!?」
小声で呟いた声をベルが拾い上げて、跳び起きて巧に振り向く。素早く反応したベルに巧は笑いながら告げる。
「落ち着け。冗談だ」
クツクツ、と愉快そうに含み笑いをする巧。それを見て揶揄われたと分かったベルは少し気恥ずかしそうに顔を赤くする。
「ほら、十分休んだだろう?続きをするぞ」
「はい……」
巧の言葉にゆったりと立ち上がって静かに短刀を構えるベル。
「今度は攻撃だけでなく防御も意識してもらうために、こちらからも軽く攻撃する。それを受け流すなり避けるなりしろ。無論攻撃の手を緩めるようなら、こちらの方から攻める回数を増やす」
「……はい?」
「なに。向上心がありそうだから次の段階に進めようと思っただけだ。今からやるのは先ほど言った『目』と『勘』を育てるためのものだ。覚悟は良いか?そら、行くぞ?」
「わわわわわっ!?」
巧はベルの攻撃の隙間を縫って、ギリギリ視えて反応できる速さで攻撃を繰り出す。ベルも冷静に観察して出来る限り直撃を避けようとするも、身体が追い付かない。
「『攻撃』を見るんじゃない。『相手』を見るんだ。そうすればいつ攻撃が来るかおおよそわかるぞ」
「じゃあ、攻撃の際の隙を衝いてこないでください!?腕や身体にタクミさんが隠れて見えてないですから!!それに視えたとしても反応しきれませんって!!」
「反応できるようにする訓練だぞ?それに攻撃の際に隙を作るのが悪い。分かったら隙を減らす努力をしろ。ついでに言うなら口を動かすぐらいなら手と足を動かせ」
「う、うわああああああああああああああああああああっ!!!」
その後、陽が暮れるまで巧の攻撃を受け続けたベルであった。
今日の巧メモ
人として:ナァーザ、借金返済頑張ってね!
武人として:加藤巧のスパルタレッスン☆
研究者として:ふえぇ、ポーションってどういう理屈で回復してるのか全然分かんないよぉ……。
ヒロインアンケート最終結果
・ヘスティア(5票)
・アイズ(6票:うち1票はハーレム可)
・リリ(2票)
・ティオナ(7票)
・レフィーヤ(2票)
・その他女性キャラ
・ウィーネ(1票)
・リヴェリア(1票)
・上記の複数(ハーレム)もしくは『メイン(一人)』と『サブ(複数可)』
(リリとヘスティアのハーレム1票)
(アスフィやフィルヴィスを含めたハーレム)
(アイズとリヴェリア)
(アイズメインのハーレム)
(アイズ、ヘスティア、ティオナ、レフィーヤのハーレム)
(とりあえずハーレム)
・いなくていい
最終結果は上の通りです。24名の方が投票してくださいました。
単独票数だけ見るとティオナです。ただハーレム票を含めるとアイズ、ヘスティアもそこそこ。
えー………単独票の方には真に申し訳ないですけど、アイズ、ティオナ、ヘスティアをヒロインとさせていただきます………………。
自分勝手な判断で本当にごめんなさい………。
この更新の後でタグ編集を行っておきます………………。
うぼぁー……苦手な恋愛描写だぁー……頑張るぞー……。実戦で練習だぁー……。
前話でも言った通り、投稿ペースが落ちます。
年度が替わるので理由はお察しください。
そのうえFGOの第二部も始まってしまうので。
ではでは次回の更新でお会いしましょう!
それと黒帽子様、誤字報告ありがとうございました!
以下クレジット
「解放礼儀」は”aisurakuto”作「INTRODUCTION OF 財団神拳」の「新たな奥義」欄に基づきます。
http://ja.scp-wiki.net/sakagami006-portal-of-foundation-shinken