ダンジョンにSCP-710-JP-J伝承者がいるのは間違っているだろうか   作:猫屋敷の召使い

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第一八話

 陽は既に西の空へ沈もうとしていた。

 早朝とは違い、人の往来が絶えない西のメインストリートを通り、周囲からは怒声や大笑の声が聞こえてくる中、『豊饒の女主人』へとやってきた巧とベルの二人。

 

「~~~♪」

「………」

 

 鼻歌を歌いながらさっさと入店する巧。それに恐る恐るといった感じで続くベル。何度かこの店には来ているが、未だにここの雰囲気に慣れることが出来ていなかった。

 巧の鼻歌が聞こえたのか、女将さんであるミアの声が飛んでくる。

 

「来たね!胃袋モンスター!」

「来たよ!それとシルのお客も一緒だよ!」

「ハハハ!なんだい?あの時の白い坊主かい!」

「うん!」

「その坊主もタクミと同じ大食漢らしいじゃないかい!」

「えっ!?そうだったのベル!?」

 

 ミアの言葉に驚きの声を上げながらベルの方に振り返る巧。目を向けられた当の本人であるベルも驚いた顔をしており、慌てた様子で首と手を左右に振って、必死に否定の意を示す。

 

「いや、僕自身初耳ですよ!?シルさん!?」

「……えへへ」

「えへへ、じゃねー!?」

「ごめんねぇ……今まで気づいてあげられなくて……これからは満足するまで食べていいよ……?」

「タクミさんも乗らないでください!!」

 

 泣いたふりをしていた巧にベルが突っ込むと、彼の思った通り冗談だったのか、すぐにクスクスと笑っていつもの席に座る。それを見たベルも疲れた表情を浮かべながらも席に着く。

 

「とりあえずここからここまで!それとこっちの方も!」

 

 さっさと座った巧はメニューを開くと、すぐに傍に居た店員に注文を告げる。ベルもそれに便乗して注文をパパッと済ませる。しばらくして注文した料理が運ばれてきて食事を始める二人。その後、ベルの横にシルが座って二人で談笑をする。そんな彼らを横目で一度確認すると、すぐに食事に集中する巧。

 すると、酒場に冒険者の一団が入ってくる。騒ぎながら入ってきた彼らの音につられて、つい目を向けてしまう巧。ベルも気になったのか入り口の方を覗き込んでいる。

 

(ウゲッ……)

 

 その面々を見た巧は心の中で苦い声を出しながら、積み重なった皿で顔を隠すようにする。

 いま酒場に入ってきたのは【ロキ・ファミリア】の一団だった。そんな彼らに気づかれないように、気配をできる限り希釈させながら料理を食べ続ける。しばらくは彼らと関わり合いになりたくはなかった。出来る限り自身の存在を気づかせないように努力をする巧。そのまま息を潜めるように静かに食事を進める。そして一人の人物が音頭を取る。

 

「よっしゃあ、ダンジョン遠征みんなごくろうさん!今日は宴や!飲めぇ!!」

 

 【ロキ・ファミリア】の主神、ロキがそう言うと、『ガチン!』とジョッキをぶつけあって騒ぎ始める。それを見た周囲の客も自分達の食事へと戻る。巧も静かに追加の注文を取って食事を続ける。が、彼の努力虚しく、近づいてくる気配に心の中で舌打ちをする。

 

「隣に座って良いかな?」

 

 背後から静かに近寄り、黙々と料理を食べ続けている巧に声をかけてくる。

 さすがに積み上がった皿の違和感までは誤魔化せなかったようだ。

 表情を歪めながら、話しかけてきた人物の方を見ないようにしてぶっきらぼうに答える。

 

「……お好きにどうぞ。誰も座ってないし」

「じゃあ失礼するよ」

 

 巧の心底嫌そうな声に表情を変えずに彼の隣に座ろうとするが、テーブルの上に積み重なっている皿を見て、身体をずらしてさらに一つ隣の席に座るフィン。

 

「先日は助かったよ」

「礼はいいよー。好きでやったのと巻き込まれたのが半分だからねー」

「そうかい?」

「そーですよー」

 

 フィンの言葉に次々と料理を口に運びながら話す巧。フィンはその料理の量に僅かに頬を引き攣らせる。

 

「それで?用はそれだけ?礼だけならダンジョンで別れる前にも聞いたけど」

「……君のことを主神に紹介したいんだ。君のことを話したら少し、興味を持たれてね」

「此処の代金全額そっち持ちでいいなら。ちなみに俺はまだまだ食えるよ。不慮の事故でそちらのテーブルに座らされても全額肩代わりしてもらう。それでもいいなら喜んでついていこうかな」

「……………………………」

 

 巧の言葉にフィンは静かに目の前にある皿の山を見る。少しずつ店員に運ばれてはいるものの、巧の食べる速度の方が速く数が減っているようには見えない。汗を一筋流しながら険しい表情を浮かべる。しばしの葛藤の後、フィンは口を開く。

 

「君がここに居ない時にまた話を持ってくるよ」

「それは良い判断なこって。じゃ、後ろの人が怖いんで戻ってもらっても?」

 

 そう言って自身の後ろを指さす巧。そこには何か黒いオーラを醸し出しているティオネ・ヒリュテが立っていた。

 そんな彼女の恐ろしい形相を見ながら巧はため息交じりで彼女に話しかける。

 

「……男相手に嫉妬しないでほしいね、まったく。話は終わったから、お持ち帰りして良いよ。なんならホームの自室にでも行って既成事実を―――」

「それ以上は止めてくれないかな!?」

 

 初めてフィンが焦った声と表情で巧の言葉を止めにかかる。

 これ幸いといった風に、フィンの弱点を見つけたことを内心喜ぶ巧。そして彼女に手を摑まれて、宴会の席に連れ戻されるフィン。しかしそれを眺めていた巧も不意に持ち上げられる。いや、気配自体が近づいていたのは分かっていた。だが持ち上げられるとは予想していなかった。荷物のように抱えられた巧は持ち上げた人物を見上げる。

 

「……なんでしょうか、ガレスさん」

「こんなところで一人寂しく食っとらんで、お前さんもこっちへ来い!今回の遠征に参加したようなもんなんだからのう!」

「いや、一人じゃないし。ちゃんと連れがいるし」

「ほう?それはそこにいる白髪の少年か?だが、あの者は女子と楽しげに談笑している。その邪魔をしてはいかんだろう?」

「……正論なだけに腹が立つ」

「ほれ、では行くぞ」

 

 すぐに抜け出すことも出来たが、巧はガレスにされるがまま【ロキ・ファミリア】が宴会をしているテーブルに連れてかれる。そのまま椅子に強制的に座らされる。正面には神ロキが居り、巧の顔を正面から見つめる。

 

「おう!自分が助けてくれったちゅうタクミ・カトウか?」

「ええ、まあ。初めまして。主神ヘスティアと仲の悪く、そのまな板のような胸がコンプレックスな神ロキ。私が貴方と正反対の胸を持つ神ヘスティアの最初の眷属のタクミ・カトウですが何か?」

 

 無表情な巧の挑発交じりの言葉を受けた神ロキが動きを止めて、その身体を怒りで震わせながらもなんとか堪える。一応眷属の恩人であるため、何とか耐えきることが出来たようだ。

 

「お、おう……そ、そうらしいなぁ……で、でもまぁ!今回は感謝するで!おかげでみんな無事やしな!」

 

 巧はロキの言葉を聞くと、感情を移さない目を静かに伏せながら口を開く。

 

「……それは、どうでしょう?私なんかが居らずとも【ロキ・ファミリア】の面々ならば切り抜けることが出来たと予想されます。まあ、物資の消耗はより酷かったかもしれませんし、『カドモスの泉』の泉水を失っていたでしょうが」

 

 丁寧な物腰と言葉遣いで若干距離を取るような話し方をする。そんな彼に口角を引き攣らせながらも笑顔を保つロキ。

 

「ず、随分嫌味ったらしいやっちゃなぁ……!」

「もしものことを言っているまでです。ですが、あの状況をどうにか出来る実力が彼らにはある。嫌味ではなく素直に称賛を送っているんですよ」

「そ、そうか……?」

「ええ」

 

 これは巧の紛れもない本音だった。深層で【ロキ・ファミリア】の実力を間近で見た巧は、素直に感心していたのだ。団長のフィンは実力がある上に頭が回る。アイズは付与魔法(エンチャント)を用いた高火力の近接戦闘。それ以外の面々も一部を除き、状況に応じた対応を行えていた。流石はオラリオの最強ファミリアの一角と言われるだけのことはあると、納得するだけの力が彼らは持っていた。

 そんな若干遠回しの称賛とはいえ、自身の眷属を褒められて思わず気を良くするロキ。そんな彼女は後先考えずに、ある発言をしてしまった。

 

「今日は助けてくれた礼も兼ねて奢ったる!好きなもん頼みや!全部払ったるで!」

「―――へえ?」

 

 チラリ、と横にいるフィンの様子を見る巧。その表情は色々と諦めており、巧に視線で好きにしてくれと訴えかけていた。それを理解した巧は無表情をやめ、ニタリとした笑みを浮かべて店員に声をかける。

 

「追加―!メニュー表の料理全部!食材かミアさんが限界を迎えるまで持ってきてー!」

「ニャー!?ついに胃袋モンスターが本性と本気を出したニャー!!」

「「「「「「「「「「…………………………」」」」」」」」」」

 

 巧の注文を聞いてアーニャが騒ぎ立てる。周囲にいた神ロキを始めとした【ロキ・ファミリア】の面々も驚きで動きを止めてしまう。

 注文を終えた巧は自身の正面にいる神ロキへと視線を戻す。

 

「奢って、くれるんですよね?」

「……………………………………………………お、おう」

 

 そして、驚きのあまり、頬を引き攣らせている神ロキに向かって口角を上げ、三日月を描くような凶悪な笑みを見せつけた。

 




今日の巧メモ
・人として:タダほど美味いものはない。故に遠慮はしない。
・武人として:強い人は強い。だから褒めるときは褒める。
・研究者として:どんなに不思議な構造でも自分の身体には興味がない。


 どうも。作者の猫屋敷の召使いです。はい。二週間ぶりですね。
 とりあえず今回から週一更新に()()()()戻してみることにします。
 えっ?書き溜めは大丈夫なのかって?HAHAHA!……まぁ、マズいです。でもとりあえず原作一巻終了までは週一で頑張ります。もしかしたらその時に少し休んで執筆作業に集中するかもしれませんが。まだ先なので予定は未定です。もう一つの作品の方も更新再開しないといけなくなるので尚更ですね。

 とはいえ、大きな理由としては……二週間空くとサボり癖が出そう。ていうか危なかったからです。三日坊主の私が二週間空けたらマズいですね、やっぱり。
 いや、学校の課題もあったので一概にサボったとは言えないですけど……。

 まあ、というわけで次の更新は来週の水曜日18:00(予定)です。
 それではまた次回!

今回はクレジット無し!

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