ダンジョンにSCP-710-JP-J伝承者がいるのは間違っているだろうか 作:猫屋敷の召使い
ベルに夜通しダンジョンアタックをやらせた日から既に一日が経過していた。昨日は一日中眠りこけていた二人に苦笑しながらも、ベルの装備の整備をヴェルフに頼んだり、消耗品の補充をしたり、『豊饒の女主人』に店内の空気を悪くしたことについて謝罪したりと、巧は街を忙しなく駆けまわっていた。
そんな彼は今、日を跨ごうかとしている時間帯に一人、いつもの修練場にボロボロの服を身に纏って乱れた息をどうにか整えようと努力していた。
51階層から帰還した日から『仮想組手』の強度を上げ、より苛烈な修練を積んでいるのだ。
「……ラスト、一戦!」
そういって幻影の天野博士に突っ込んでいった。
……結果だけ言うと、巧は惨敗した。内容は口にするのも可哀そうなほどのワンサイドゲームだ。
そんな修練と言えるのかすら定かではないものを終えて、部屋に戻ると中にはヘスティアの姿しか見えず、ベルは既にいないようだった。
「ベルはもうダンジョンに行ったんだ?」
「うん。ついさっきね」
巧の言葉に答えながら自身のクローゼットを漁って、服を見繕っているヘスティア。そんな彼女を見て、首を傾げながら尋ねる。
「……?そんなに服を出したりしてどうしたのさ?どこか出かけるの?」
「出る気はなかったけど、ガネーシャ主催の宴にね。それで礼服を探してたんだけど……」
「……?それなら店で仕立て依頼してそのままじゃなかった?」
「あっ!」
それを聞いて思い出したように声を上げるヘスティア。それを見て彼は呆れてしまう。
「そうだったそうだった。なら焦る必要はないね。あっ、ボクは数日留守にするからさっさと更新しちゃおうか」
「はーい」
ヘスティアの言葉に返事をしつつ、上着を脱いでベッドに横になる巧。その上にいつものようにヘスティアが跨る。
「……ふふっ」
「……?どうかした?」
【
巧の問いに微笑を浮かべながら理由を告げる。
「なんか、久しぶりに二人だけって感じがしてね」
「んー?……そっ、かー。ベルが来てからは、賑やかになったもんねー」
「うん。此処に越してきて一ヵ月半以上経つのかな?」
ヘスティアの言葉を聞いて、巧は目を瞑って少し前のことを思い返す。
【ヘファイストス・ファミリア】に居候していた神ヘスティアと顔を合わせたときのこと。
神ヘファイストスに紹介されて、ヴェルフと出会ったときのこと。
家具とかを買い漁って、二人で此処に越してきたときのこと。
ベルを勧誘し、新しく団員として加わったときのこと。
色々なことが思い出される。
「そうだね。此処に越してからは最初の一ヵ月は二人だけ。その後はベルも増えて賑やかになったかな。あっ、収入は減ったけどね?その上、支出も増えたし」
くすくすと笑う巧。ヘスティアも釣られて笑いそうになるが、内容的に全く笑えずに終わる。
「……はい。終わったよ」
タクミ・カトウ
Lv.2
力:B703→SS1011
耐久:C670→S969
器用:A879→SSS1199
敏捷:S925→SSS1199
魔力:I0
頑強:I
「……もうSSSかぁ。やっぱりこれ以上はないのかな?」
「頭打ちがなくて、ほぼ修練だけでこんなに上がるのは十分すごいと思うけどね」
「俺は自分に限界を感じてないからー」
渡された用紙を見ながらへらへらと笑う巧。ヘスティアは苦笑を浮かべつつ、巧の上から降りると礼服を受け取りに向かう準備を始める。
「それじゃあ、少しの間留守にするからよろしく!」
「はーい。よろしくされたー……あっ、少し待って」
「……?なんだい?」
彼女は出口へと向かっていた足を止めて、声をかけてきた巧のことを見やる。
「はいこれ。すっかり渡しそびれてたや」
彼女を呼び止めた巧は、自身が使用している小物入れから、小箱を取りだしてヘスティアに渡す。
「これは?」
「ネックレス。宝石樹の宝石をヴェルフに頼んで加工してもらったんだー。今までお金しかあげてなかったからさー。こういうのもあげた方がいいのかなーと思ってねー」
箱の中身は加工された青色の宝石が嵌めこまれたネックレス。過度な装飾はないが、それを補うほどに宝石に視線が向いてしまうものだった。
上着を着直しながらヘスティアの問いに答える巧。彼の言葉に彼女は目を瞬かせる。
「……いいのかい?」
「えっ。むしろもらってくれないと困るよー。そのためにヴェルフに土下座してまで頼んだのに」
「……タクミ君って、極東出身だったっけ?」
「さぁー?どうだろうねー?」
土下座という言葉に反応したヘスティアに、くすくす笑いながら誤魔化す巧。
「何する気かは分からないけど、楽しんできてねー?」
「……うん。分かったよ」
笑顔で手を振ってくる巧にヘスティアも微笑を返すと、部屋を出て行く。
「さてと、俺はどうしようかなぁー?ベルは昨日の今日で無茶はしないだろうしなー。……となるとー」
にたり、と口角を鋭く上げて、誰も見たことがない笑みを浮かべる巧。
「ソーマ様とザニスへの
その笑みは、とても恐ろしく、見たものを恐怖に陥れるほど凶悪なものであった。
この日、巧が帰ってきたのはベルが帰ってきた後であった。
ヘスティアが出かけて二日が経った。
今巧とベルは共にダンジョンに潜っている。そしていつも通り巧はベルの戦闘を遠巻きに眺めている。
ゴブリンとダンジョン・リザードを相手取っているベルの動きを見て、二対一でも危なげなく戦えていることを確認して安堵の息を吐く。
しばらくして二体が沈黙するのを見ると、ベルは肩から力を抜いた。
「……よし」
「お疲れー。やっぱり問題なさそうだねー」
「……タクミさん」
「んー?なにー?」
「僕って、強くなってますよね?」
彼のとぼけたような問いに首を傾げながらも聞き返す。
「この前の夜通しダンジョンアタックで理解したんじゃないの?」
「はい。でもちょっと、途中から記憶が曖昧で……最初の方と、帰り道での話は覚えてるんですけど……」
ベルは頬を搔いて苦笑を浮かべる。そんな彼に巧も苦笑を返しつつ、質問に答える。
「今日の戦闘ではまだ攻撃も受けてないし、状況判断能力も養われてきてるし、大丈夫だよ。ま、ベルはあまり小道具とかを使わない方が強くなれるかもしれないねー」
「小道具……?」
巧の話の中の単語に反応を示したベル。彼が首を傾げながら呟いたため、巧はそれについても話を続ける。
「閃光弾とか煙玉とかだよ。ベルは速度を生かした戦闘をした方が強いだろうから、ポーションとかはまだしも、道具を使うくらいなら接近して攻撃した方が早いよ。使うのは倒すのに困って逃げる時ぐらいだね。搦め手では微妙だね。それらを使うぐらいなら速さで翻弄した方が手っ取り早いだろうし」
「……そうですかね」
「そうだよ」
納得してなさそうに口を噤むベルに対して、満面の笑みを向ける巧。今度は逆に巧からベルに質問する。
「それよりもさ、どうする?まだやるかな?」
「……いえ、今日はもうやめておきます」
少し逡巡したような様子を見せるが、すぐに首を振って引き上げることを決めるベル。
笑みを崩さずにその言葉を聞き入れると、帰り道の方向を指さしながら告げる。
「なら帰ろっか。ほら先導して」
「……今日ぐらいタクミさんが―――」
「俺が君のダンジョンアタックに付き合ってるんであって、君が俺のダンジョンアタックに付き合わされている訳じゃないんだよ?なら帰りもベルが先導するのが筋でしょ?それともなに?俺のダンジョンアタックに付き合ってくれるの?俺の最高到達階層は51階層なんだけど、主な狩場は37階層だから安心して良いよ?」
「僕が悪かったですごめんなさい!」
巧の言葉にベルがすぐに謝る。彼の言う事に従ってベルが先導し、『始まりの道』とも呼ばれる横幅が限りなく広い1階層の大通路を進み終え、地上へとつながる大穴まで辿り着く。
多くの冒険者やサポーターがひしめく中、ダンジョンの大穴から少し離れた場所にいくつも置かれいる巨大なカーゴにベルの視線は向いていた。
「っ!?」
それを興味深そうに見ていると唐突にガタゴトッ、と箱が揺れた。その瞬間に身体をびくっ、と震わせる。そして巧に近寄りながら小声で尋ねる。
「あ、あれってなんですか?」
「んー?……あー、多分
「
「年一回のお祭りで闘技場でモンスターの
「へぇー、そうなんですか!」
「開催は……明日だったかな?……どうする?見てみたいなら明日はベルの好きにしてもいいよ?」
「……考えておきます」
ベルの返答を聞きながら、巧は歩を進めてシャワー室に向かう。ベルも彼のことを小走りで追いかけた。
そしてギルドでの換金を終えたあと巧はベルと別れると、ある場所へと向かった。
「ハッロ~♪ソーマ様にザニスさーん。今日も質問しに来たよー?」
「「…………………………」」
「って言っても、聞こえてないよねー♪」
あはははー♪と笑いながら二人に手を振る巧。
いま彼がいる場所は【ソーマ・ファミリア】にある神ソーマの部屋。巧の目の前には神ソーマと団長のザニス・ルストラがいるが、微動だにすることは無い。なぜならば、巧の手によって深い催眠状態にあるからだ。彼らは、巧にとって都合が良かった。【ファミリア】の環境も悪く、団長のザニスは何かと裏で動いているため、巧の
そして催眠状態の際に様々なことを聞いた。
神ソーマには
ザニス・ルストラには
どちらも巧にとって興味深い内容であり、話を聞いて満足そうだった。
「すこーし期間が空いたけど、催眠は全然解けてないみたいだねー。面白いぐらい簡単に根付いちゃって、俺もびぃっくりしちゃってるよー。今後はたまーに見に来るぐらいでいいかなー。やっぱ、下界に降臨した後は神も人と大して変わらないね~。嘘が見破れるのと神威、恩恵を授ける、ぐらいかな?後は個人個人で違うかなー。身体の構造とか調べてみたいけど、流石に解体したらバレちゃうよねぇ……殺してもいい神がいたら楽なのにー。あ、でも死んだら死体って消えちゃうのかな……?死んだら天界に強制送還されるらしいけど……どういう風になるんだろ……?……うん。そういうところも含めて調べてみたいなぁ……」
まぁ、
そう呟いた巧はその場でクルリクルリと踊り始める。
「あぁー、本当にこの世界は飽きないなぁ♪好奇心が尽きないよー♪モンスターもちょいちょい調べてるけど、どうせなら新種を調べたいよねー♪
くるくると踊りながら、独り言を弾んだ声で言う。その声は外に漏れず、目の前の二人にも聞こえてはいない。
「まぁ、そこらへんは追々考えようかー♪ふふふふー♪いいねぇいいねぇ♪楽しくなってきたぁー♪好奇心が止まらないよぉ♪」
にたり、と口角を鋭く上げて邪悪な笑みを浮かべる巧。そして回るのをやめると、目の前の二人を鋭く見つめる。
「今はまだ、こういうのをバレるわけにはいかないよねー♪外面はよくしないとー♪みんなの前ではいい子ちゃんでいないとねー♪まあ、この世界は好ましい人が多いからあまり好き勝手出来ないし、したくないけどさー♪このままいい子ちゃんのまま過ごしてもいいけど、残念ながらそれじゃあ俺の好奇心は満たされないんだよねー♪あっ、Dクラス職員みたいな奴には容赦しないけどねー♪」
人に恐怖を与える悪人は滅ぶべしー♪
一人で声高らかに喋る巧。
「あー、でも、ベルがなんか目をつけられてたからその関連とかー?彼自身が何かに巻き込まれる可能性があるー?そうなって俺の好奇心を満たしてくれれば万々歳ー?そうなったらいい子ちゃんをずっと続けててもいいもんなぁー♪にへへへー♪それなら少しの間は大人しくして様子を見るのもいいかなー♪……でもまぁ、結局は光の中では生きられないのかもねぇ……やっぱり暗闇の中の方が居心地いいんだろうねー……」
少しだけ悲しそうな表情を浮かべるも、すぐに部屋の中をスキップしながら機嫌良さげに動き回る。
「ま、こんな状況じゃ『財団』も何も無いよねー。なら休暇だと思って光の世界を堪能しようか♪財団職員としてじゃなくて、人として、さ♪」
明るい声で今後の方針を口にする巧。そのまま窓の方へと近づいていく。
「さーて、そろそろ帰るねぇー!今度からは【ファミリア】を修正しに来るからよろしく!」
数分後に目覚めてね?
彼は二人にそう告げると窓からそそくさと退散する。
巧が部屋から消えた数分後、二人は何事も無く意識が戻り、一日普段通りに過ごした。
今日の巧メモ
・人として:光の中で人として生きよう!休暇(仮)だし!
・武人として:久しぶりに深層に潜りたい……。
・研究者として:ソーマ様とザニス君とは
ちなみにこれ以降の話にザニス君の登場予定はありません。彼が好きな人にはごめんなさい。
今回の話は狂気と善意が入り混じった感を出したかっただけです。それ以上はないです。ではまた次回!
今回もクレジット無し!早く奥義をおおぉぉッ!!