ダンジョンにSCP-710-JP-J伝承者がいるのは間違っているだろうか   作:猫屋敷の召使い

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第二三話

 巧が自身の主神と団員の気配を探りながら移動していると、なんとかベルとヘスティア、何故か一緒にいたシルを見つけることが出来た。おそらく偶然合流したのだろうと巧は考えた。そんなことに納得していると、向こうも巧に気づき慌てた様子で駆け寄ってくる。

 

「タクミさん!神様が!」

「んー?」

 

 ベルがヘスティアを抱えたまま駆け寄ってくる。どうやら彼女は気を失っているようで、それに気づいた巧はすぐにヘスティアを診断する。そして驚きの声を上げる。

 

「なっ!?こ、これはっ!?」

「ま、マズいんですか!?」

 

 巧の大きな反応にベルが焦ったような声を上げる。彼女の容態を見た巧は自身の所見を口にした。

 

「ただの過労だねー」

「か、過労……?」

「うん。過労。疲れすぎ。疲労困憊。体力の限界とか言い方はいろいろあるけどね。それに食事もしてなかったのかな?見た限り胃の中が空っぽだし。ま、とりあえず今は休ませとけば大丈夫だよ。シルさん、『豊饒の女主人』で休ませてもらってもいい?俺もお腹すいちゃったや」

「はい、大丈夫だと思います」

「じゃ、れっつごー♪」

 

 シルがそう答えると、すぐさま先導して『豊饒の女主人』へと足を向ける巧を追いかける二人。そして二階の一室を貸してもらった。その部屋のベッドにヘスティアを休ませる。今はシルが男性である巧やベルでは確認できないような場所に怪我などをしていたら大変なため、その確認を行っている。その間、二人は部屋の外の廊下で待機して、部屋から彼女が出てくるのを待っていた。

 一先ずヘスティアを休ませられる場所に移動できたことに安堵の息を吐いて、脱力する巧。先ほどまでは元気そうに振舞っていたが、やはり自身の主神のことだ。心配しないはずがない。ましてや元の世界では過労死なんてものもあったほどだ。ただの過労と侮ることはできなかった。だが、あの様子では何の心配も無いだろうということは、なんとなく理解していた。

 

「ま、これで安心かな。それにしても何してたんだろ?ベルは何か聞いてない?」

「いえ、聞いてません……。あ、でもこれを頂きました」

 

 そういってベルは腰につけていたナイフを鞘ごと巧に渡す。彼は渡されたそれを見て目を丸くする。

 

「うわ……。マジかよ?随分頑張ったな、ヘスティア様」

 

 口調が崩れるほど驚いてしまう巧。彼の引き攣った笑顔を見たベルも流石に気になったのか彼に尋ねる。

 

「え、えっと、どういうことですか?」

「あー……鞘のこの部分。読めなくても見たことは流石にあるでしょ?」

 

 巧の指さす部分にはヘファイストスを意味する【神聖文字(ヒエログリフ)】が刻まれていた。確かにベルには読むことはできないが、見た覚えはある。あり過ぎた。いつも店頭の陳列窓(ショーウィンドウ)から武器を覗いていた、その店の看板の文字と同じだった。その看板と文字列を繋ぎ合わせて意味を理解したベルも表情を驚愕に染める。

 

「えっ!?じゃ、じゃあこれって……!?」

「【ヘファイストス・ファミリア】の作品だねー……。しかも一級品武具だよ……。でもこれ、ヘスティア様が伝手を頼ったんなら、あの方が打ったんだよなぁ……?一体いくらしたことだか……」

「や、やっぱり高いんですか……?」

「……聞かない方がいい。聞かないで、大事に使ってあげなさい。使われない武具ほど悲しいものはないから」

「えっと……?」

「返事ぃッ!!」

「は、はいっ!?」

 

 困惑してるベルを叱責するように恐ろしい形相と声で叫ぶ。その彼の様子に反射的に返事をするベル。それに巧は満足したように頷くと、ナイフを返して立ち上がる。

 

「よろしい。じゃあ、ヘスティア様の様子を見に行こっかぁ」

「そ、そうですね……」

 

 先ほどの巧の形相にまだビクビクと怯えた様子のベルが彼を追いかける。

 

「あ、シルさーん。お疲れさまー。どうだったー?」

「タクミさんの言う通り過労でしたよ」

「あはははー。やっぱりねー。それじゃ、部屋ありがとー!」

 

 それだけ告げてベルを置いてさっさと部屋の中に入って行く巧。

 ミアに頼んで借りた小さな部屋の中にはベッドで横になっているヘスティアがいる。彼女の傍まで寄り、近くにあった椅子に腰かける。

 

「……」

「……」

 

 椅子に座った巧はベッドに目を瞑って横になっている自身の主神を見つめる。そして呆れたように溜め息を吐きながら言葉を溢す。

 

「……ヘスティア様。起きてるでしょ。こんな状況で狸寝入りしないでほしいな」

「うっ……バレるか……」

 

 気まずかったのか意識があるにも関わらず、寝たふりを決め込んでいたヘスティア。しかし、巧は小さな機微を感じ取り、彼女が起きていることを察知した。

 巧はもう一度だけ溜息を吐くと、話を切り出し始める。

 

「そりゃね。伊達に一ヵ月以上一緒に暮らしてませんよー、だ。それで、何してたんですか?ヘファイストス様のところにいたのはベルのナイフを見ればわかりますけど。いや、その前にアレいくらしたんですか?」

「……………………2億」

「でしょうね。でも、あの方が打ったにしては安い方かな。友情価格って奴なのかな?ま、月一千万ずつ返せば二年はかからないか」

「えっ……?」

「しばらく一人で潜らなきゃダメかなー。そうなると別途の貯蓄が欲しくなってくるねー」

「い、いやっ!?これはボク一人で返すから、タクミ君は別に―――」

「駄目でーす。主神の借金は【ファミリア】の借金です。なら団長としてともに背負います。俺は武具を使いませんし、団員の武具ぐらいはしっかり管理したいんです」

「タクミ君……」

「それにあのナイフを頼んだのって、俺の言葉が原因でしょ?なら、なおさらだよ」

 

 ヘスティアが目を潤ませながら巧のことを見つめる。そんな彼女を見てさらに巧が告げる。

 

「それになにより『借金』っていう単語が嫌いです。大ッ嫌いです。早く消し去りたい。本音を言えば、なんて物を頼んでるんですか。助走をつけて奥義で殴りたいぐらいです」

「…………………………」

 

 先ほどまでの感動を返して欲しい。ヘスティアはそんなことを思った。流れかけた涙が引っ込んでしまったじゃないか、と。

 

「それと」

「ん?なんだい?」

「あまり、心配をかけさせないで下さい」

「………………」

「貴女は、俺の主神なんですから」

 

 巧の本音の吐露に、言葉を失ってしまうヘスティア。表情こそ変わってはいないが、彼が纏う周囲の雰囲気が哀愁を漂わせるものに変化したのを、ヘスティアは敏感に感じ取っていた。

 そんな二人は少しの間、沈黙してしまう。多少気まずい空気の中、ベルが扉を開けて中へと入ってくる。

 

「か、神様……?」

「あ、ベル。遅かったねー。話し込んでたのかな?」

「はい、少しだけ。それよりも神様は大丈夫ですか?」

「ああ!この通り大丈夫だとも!」

「こら。見栄張らないの。立つのもやっとのくせして」

「うっ……」

 

 巧に本当のことを言われて、しょげてしまうヘスティア。先ほどまでの雰囲気は鳴りを潜めて、いつも通りの声音で会話をする巧とヘスティア。

 そんな巧の言葉を聞いたベルが驚きの声を上げる。

 

「えっ!?だ、大丈夫なんですか!?」

「ただの体力不足だよ。きちんと食べれば治るって」

「そ、そうですか……」

「それで、結局何してたの?そこまで体力を消耗するなんてさ」

「そ、そうですよ!何があったんですか?」

 

 ふっ、と遠い目をしながら口にするヘスティア。

 

「土下座だよ」

「ど、ドゲザっ?」

「……」

「首を縦に振ろうとしない頑固女神の前で、土下座を三十時間続けるという耐久レースを……」

「さっ、三十時間……!?ご、拷問なんですか、ドゲザって!?」

「いや、奥義さ」

「そう。奥義だね」

「最終奥義さ」

「いや、究極奥義だよ。最終奥義は別にあるんだ」

「な、なんだって……!?」

「土下座の限界を超えた最終形態……そう、土下寝がねッ!!」

「そ、それは一体……!?」

「これはすればどんな頑固者や融通の利かない相手でも一発でOKをくれるという最強で最終の奥義!だが、その強力さゆえに習得できるものは限られており、才能のある者の中でも一握りの者の更に一握りの者しか会得はできないという。そしてこの俺でさえも出来ていない恐ろしい奥義だ。そしてヘスティア様も土下座で三十時間かかったのなら、これの習得は不可能だろう」

「そ、そんな恐ろしいものが……!?」

「あの、話についていけてないんですけど……」

 

 巧の土下座講義に驚きの連続であるヘスティアの二人に対し、まったくついていけていないベル。

 そこでベルが思い出したように声を上げて、ヘスティアからもらったナイフを取りだす。

 

「あ、あの、神様……これ……」

「ああ、それかい?大丈夫だよ。話はつけてるから」

「そんなものを作らせるんだったら、俺にも話をつけて欲しかったなぁー」

「うっ……ご、ごめんよ……」

「いいでーす。過ぎたことを掘り返しても意味ないですしー?ただ今度からは言ってほしいかなー」

「き、気を付けるよ……」

 

 巧の怒りが混じる拗ねたような声にヘスティアはたじたじになりながらも反省する。

 

「ベル。さっきも言ったけど、値段なんて気にしないでしっかり使ってあげなよ?使わなかったら俺がベルを殴るから」

「……それ、ベル君が死んじゃわないかい?」

「『耐久』の値が上昇するからいいんじゃない?」

「死んでたら意味ないよね!?」

「大丈夫。冥府が見えるぐらいでとどめるから」

「死にかけてるじゃないですか!?」

「でも死んでないよ?大丈夫!加減は分かってるから!」

「神様……短い間でしたけどありがとうございました……先立つ不孝をお許しください……お祖父ちゃん、僕ももうすぐそちらに逝きます……」

「べ、ベル君!?まだ殴られてないよ!?それにそのナイフをちゃんと使えば殴られないからね!?」

 

 巧の言葉に顔を青くしながら床に倒れ込むベル。その彼を心配するヘスティアの騒がしい声が部屋に響いていた。そんな様子を見た巧が声を上げて笑う。そして釣られて二人も、大きな笑い声を上げてしまう。

 その後も部屋でわいわい騒いだ三人であった。

 

「うるさいよッ!!」

「「「ごめんなさいッ!?」」」

 

 だが、『豊饒の女主人』の女将であるミアに怒られて、多少声の大きさを下げる三人であった。

 

 

 

 

 

 

 

 ―――極彩色のモンスターの討伐地点。

 巧が去った後すぐに神ロキとアイズ・ヴァレンシュタインがティオネ、ティオナ、レフィーヤと合流し、現場の見分、というよりは残っているモンスターの死体を観察する。特に最初に巧が切断した死体を。他の二体は外傷もなく死んでいるため、それ以上調べることに意義がないからだ。

 ロキは黒い焦げ目のついた切断面の始点を触っている。その次に滑らかに切断されている断面を触る。

 

「……一体どうやったら素手でこんな切断面を作れるんっちゅうんや」

「さ、さぁ……?で、でも彼は確かに素手だったよ?」

 

 ティオナが疑問の声を上げるロキに返答する。そんな彼女にロキは手を振って反応する。

 

「それはわかっとるわ。子供の嘘ぐらい見分けられるしな。それに『摩擦熱切断手刀』とか言いながら斬りかかったんやろ?ならこれは摩擦熱による切断っちゅうことは分かる。だがこれが現実っちゅうんが信じられへんねん」

「……?どういうことですか?」

 

 レフィーヤがロキに質問する。すると彼女は断面を触っていた手で困ったように頭を掻く。そして意を決したように彼女たちに質問する。

 

「なら自分らは摩擦だけでものを斬れるか?手や錆びに錆びついた剣でもええ。物の切れ味に頼らずに、摩擦だけでや。たったそれだけで此処まで綺麗な断面を作れるか?」

 

 顔をアイズを含めた四人に向けて質問を投げかけるロキ。それにレフィーヤは困ったような表情を浮かべる。

 

「私は魔法使いですからちょっと……。皆さんはどうですか?」

 

 そう答えた彼女も残った三人に顔を向けて答えを待つ。そして、当の三人はロキの質問に答える。

 

「無理!」

「……練習してもいいなら、可能……。でも一朝一夕じゃ無理ね。一生かけて、できるかどうかってところ、かしら……。もしかしたらそれでも無理かもしれないわね……」

 

 ティオナとティオネの二人がそう答える。その答えにさらにレフィーヤは困惑したような表情に変化し、自身が尊敬する最後の一人に尋ねる。

 

「ア、アイズさんはどうですか?こういった芸当は……」

「……私でも、できない、かな。普通の剣を使うならまだしも、手刀や錆びた剣じゃ、今の私には……」

「……っ」

 

 その言葉でレフィーヤは、あの少年のような容姿の冒険者がどれほどの技術を以ってして、このような所行を成し遂げたのかを理解した。

 ロキは三人の答えを予想していたのか、納得したように頷く。

 

「そうやろうなぁ。こんなこと、リヴェリアはともかくフィンやガレスでも無理やろうなぁ。酒場での殺気もそうやけど、一体どれほどの経験を積んだらできるようになるんだか……」

 

 訳分からんわ、と呟いてガシガシと乱暴に頭を掻くロキ。そんな中、アイズは眼前に倒れ伏しているモンスターの切断面をじっと見つめる。

 自分ならどれだけ練習すればできるだろうか?そしてそれを実戦で使えるのだろうか?そんなことを考えてしまう。そして、さらに考えてしまう。

 なぜ、武器を使わないのだろうか、と。これほどのことができるのであれば、武器も相応に使える筈。なのに、使わない。でも、もしかしたらただ使えないのかもしれない。

 

(少し、話してみたいな……)

 

 偶然とはいえ、巧と接点を持つ機会はた多少なりともあった。だが、他所の【ファミリア】ということもあって、積極的に交流しようとはしなかった。でも、彼には助けてもらったり、失礼なことをしてしまったりと、アイズ自身のことではないが迷惑をかけてしまっている。だけど、彼については名前と所属、実力程度しか知らない。

 だからこそなのだろうか。アイズは、彼がなぜそこまでの強さを持っているのか。それが気になってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

「―――くしゅん!」

「タクミさん?大丈夫ですか?」

「……うん。大丈夫だと思う。これは風邪じゃなくて噂されてる感じだし」

「……なんでそんなことが分かるんですか……」

「経験則。それよりさっさとヘスティア様を運んじゃおっか」

 

 ある通りで、一人の少年のような風貌の青年が仲間に笑顔を向けて言った。

 




今日の巧メモ
・人として:借金は嫌い。
・武人として:不完全燃焼気味。でも暴れる理由(借金)が出来て少し嬉しい。
・研究者として:一応生物全般的な医学的知識はあるんだよ?じゃないと生物を研究できないからね!

蛇足:現在の【ヘスティア・ファミリア】の財産
・現金:5000万ヴァリス。
・巧のへそくり:超硬鉱石(アダマンタイト)。モンスターの素材と魔石。換金すると2000万ヴァリス程。時価変動の激しいものばかりで、需要が高まったら売り払おうと考えてる。扱い的には株。


 とりあえずこれにて原作一巻と外伝一巻終了です!
 それで次の投稿(原作二巻・外伝二巻以降)なんですが、早くて二週間後。遅くても一月後ぐらいにします。
 何故かって?ちょっと試験があるからです、はい……。それに書き溜めも危ないんですよ。
 いや、プロットはありますよ?清書してないだけで(人はそれを出来ていないという)。
 まぁというわけで、どうかご了承ください!

 一応次の投稿も水曜日の18時予定!その時間に投稿なければ察してください!


 以下クレジット

「摩擦熱切断手刀」は”Central_ECH”作「耐久実験」に基づきます。
http://ja.scp-wiki.net/central-ech-2
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