ダンジョンにSCP-710-JP-J伝承者がいるのは間違っているだろうか   作:猫屋敷の召使い

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 今更なんですが、こんな小説を読んでくださってる方々、誠にありがとうございます。
 完全に趣味の範囲で書いてる代物ですが、多くの方(作者からしたら)に読んでいただけて嬉しく思っています。

 では、本編どうぞ。

 ……あっ、別に打ち切りとかじゃないです。ただ励みになっているってことを言いたかっただけで、深い意味は無いです。


第二七話

 巧に言われてフィン達と合流を果たしたヴェルフは『リヴィラの街』の中央広場で戦闘していた。

 

 食人花のモンスターと戦いながら、上空の戦闘を横目に見ていた。

 巧が女体型のモンスターに拳を打ち込んで爆発が起きる様を。

 

 モンスターの攻撃を躱しながら、上空の戦闘の音を聞いていた。

 爆発音と衝撃音の中に微かに混じる彼の雄叫びを。

 

 モンスターに攻撃を加えながら、上空の戦闘に加われない自身の無力さを嘆いた。

 自身の友と共に戦えないことを。

 自身に、彼の横に並んで戦える力が、ないことを。

 

 もし力があったのなら、彼は空ではなく地上で戦ってくれたかもしれない。

 だが、それは自分の妄想で、願望であり、決して現実ではない。

 結局は戦闘を楽しみたいからという理由で、邪魔をされない空で戦うことになるかもしれない。

 実際はどうなるか分からない。実際にそのような状況にならない限りは。

 

 でも、それでも、悔しいものは悔しいのだ。

 歯を食いしばり、その感情を無理やり抑え込んで自身の戦いに集中する。

 食人花の蔓を斬り払う。だが、少しの傷が付くだけで斬り落とすことはできない。

 

(チッ……!こんな奴ら斬り続けてたらすぐ刃が駄目になっちまうぞッ……!)

 

 事実、彼が持っている大刀は幾つかの刃こぼれを起こしていた。数度切っただけでこれなのだから、戦えば戦うほど不利になっていくのは間違いないだろう。

 それでも目の前の敵を倒すために武器を振り続ける。

 斬って、払って、流し、魔石を突く。そうやって時間をかけながらも、巧に教わったことを十全に発揮しながら敵を屠る。

 一瞬のよそ見すらも許されない極限状態。

 

 だが、その集中が途切れ、モンスターに突き飛ばされて地面を転がる。

 彼が、思わず動きを止めてしまう事態が起きていたのだ。

 石畳の上に転がされた彼は、痛みなどを忘れてただ一点から目を離せなかった。

 

 巧が、友人が、仲間が。

 空から、上から、天から。

 降ってきた、下りてきた、落ちてきた。

 

 ヴェルフにはその光景が、酷く、緩慢なものに見えた。

 

 地面に強く叩きつけられ、衝撃に耐えられずに石畳が割れる。

 それでも衝撃は消え失せず、彼の身体を何度も激しくバウンドさせる。

 跳ねるのが止まると、彼は地面にうつ伏せに倒れたまま指一本動かさなくなる。それこそまるで死んだように。

 

 実際、周囲の冒険者たちは皆、彼が死んだと考えた。

それはヴェルフも決して例外ではなかった。

 

 だが、それでも、彼は立ち上がった。呻き声を上げながら、誰の力も借りずに、自身の両足で地を踏みしめて。その両足さえも、骨が砕けているというのに、筋肉で骨を無理やり押さえつけ、震えながらもその足でしっかりと立ち上がっている。

 

 そして、笑った。天に向かって口を開いて、声高らかに。街の全域にまで響き渡るような大音量で。満身創痍の彼の身体から、どうしてそこまでの声を上げられるのか、たった一人を除き、誰にも理解はできなかった。

 

 その光景を見た者は口々に言う。

 

 ある者は狂っていると。

 

 またある者は化け物だと。

 

 狂ったように笑う彼のことを指して言う。

 

 だがヴェルフだけは、彼が楽しんでいると、純粋に心の底から歓喜しているということを理解していた。

 

 そんな奇異の視線で見られている彼は、いつものように奥義で傷を癒して、上空の女体型のモンスターへと再度突撃していく。

 

 ヴェルフは、ただそれを、見送ることしかできない。それしかできなかった。

 

 しかし、もう一度同様の事態が起きれば巧は確実に死ぬ。本人ではないが、そんな確信に近い予感が、彼にはあった。

 

 事実、先ほど使用した巧の奥義の一つである『元素功法』は、一度使うと再使用まで二時間のクールタイムを必要とする。再び叩き落されれば、万能薬(エリクサー)を使わない限り巧が生き残る術はないだろう。いや、それすらも間に合うのか定かではない。先ほどの負傷でどれだけの血が流れ出たかは分からない。だが、広範囲の地面を赤く染めているのが窺えるため、相当量の血液が彼の身体から失われているのは一目瞭然だった。人は血液総量の二分の一を失うと失血死を起こすと言われている。おそらく、もう一度同じ事態が起きれば、その量を超過するだろう。それどころか即死の可能性もある。

 

 そう考えたヴェルフは視界の端に映る大きなバックパックに意識を向ける。

 

 ―――意地と仲間を秤にかけるのは止めなさい。

 ―――自分の身を守るために使え。

 

 自分の主神の言葉と友の言葉が、彼の中で反響する。

 

 ―――俺の戦闘を邪魔しないでね?

 

 その言葉がさらに響くとヴェルフは歯を食いしばり、怒りを顕わにする。

 

「ッ!……んなこと、知るかよ……っ!!」

 

 自身の中で爆発した感情をむき出しにしたまま、力を振り絞ってバックパックまで近づいていく。そして手が届く距離まで来ると中からハイ・ポーションを取りだして飲み干す。

 

「お前の身勝手で死なれたら、こっちが困るんだよッ!!」

 

 さらに白布に包まった武器を取りだし、一振りする。そしてその飾り気のない柄と剣身の長剣から大炎塊を放ち周囲の食人花を焼き払うと、出来るだけ高い建物へと駆けあがる。『魔剣』の魔法に反応して食人花が彼に向かうが、ヴェルフは曲芸じみた動きで躱し、突き進む。

 そして、上空の彼に向けて叫ぶ。

 

「タクミイイイイイイイイイイイイイィィィィィィッッッ!!!」

『ッ!?』

 

 その叫びに周囲の冒険者が驚き、ヴェルフの方へと向く。だが彼はそれを意に介さず、上空の巧だけを見る。

 ヴェルフの声が聞こえたのか、巧は彼の方に振り向く。そして彼が肩に担いでいる魔剣(もの)が見えたのか、先ほどのような獣の笑みではなく、無邪気な、子供のような笑みを浮かべ、ヴェルフに向ける。

 彼はモンスターの背後に回ったかと思うと、息を吸い込みながら体を仰け反らせる。

 

「『喰期玉』!」

 

 口元に集中させた運動エネルギーを吐き出して、ヴェルフの方へとモンスターを弾き飛ばした。

 自身に向かってくる女体型のモンスターを冷静に観察する。最適な距離。地面からの高さ。それらを考えながらヴェルフは、先ほどの使用で既に亀裂を生じさせている『魔剣』に心の中で謝罪する。

 

(悪いな。勝手に捨てておいて今更お前の力を使うなんて、俺も十分身勝手だよな。でも俺以上に身勝手な(やつ)を助けるために、お前を砕かせてくれ……!!)

 

 下段に構え、腰を捻じり、長剣を背後で溜める。

 高速で飛来する女体型のモンスターを睨みながら、その一撃を放つ。

 その一撃の為だけに名付けられた『魔剣』の真名を叫びながら振り抜く。

 

「火月ぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」

 

 その瞬間、誰もが目を炎の色に焼かれた。

 放たれる真紅の轟炎。下段からの振り上げられた剣身から巨大な炎流が迸り、一直線に女体型のモンスターを飲み込もうと上空へと昇っていく。

 炎は女体型の巨体を飲み込み、その身体を焼き焦がす。

 そして、甲高い別離の音がヴェルフの傍で響き、無数の破片が散っていく。

 

 ―――すまねぇ。

 ―――ごめんね。

 

 二人からの謝罪が、砕けた『魔剣』へと贈られる。

 しかし、『魔剣』の一撃ではモンスターを倒すまでには至らなかった。女体型のモンスターは食人花の半身を切り捨てて、女体の半身だけで逃げおおせようとする。

 だが、それを許さない者が、背後から迫っていた。

 

「逃げられると思ってんじゃねえよ!」

『ッ!?』

 

 顔を炎から守るために腕で覆いながら、女体型に肉薄する巧。そして、()を女体型に振り下ろす。()()()()()

 

「『時間差共振爆砕脚』ッ!」

 

 本来は共振現象を利用し、地面を破壊する奥義。そしてその破壊力はクレーターを作り上げるほどのものだ。

 ではそれを、モンスターの身体、ましてや魔石付近に目掛けて放てばどうなるか?

 答えは単純明快。

 

『――――――――』

 

 魔石が、体内で粉々に砕ける。

 巧の目の前で魔石を無くしたモンスターが灰となって消えていく。

 それを確認した巧は、重力に身を任せて下へと落ちていく。地面が近くなると、小石を地面に向けて投げて反作用で落下の勢いを殺しながら着地する。

 しかし休む暇もなく、地上のモンスター達を掃討するために即座に駆けだした。特にモンスターに囲まれているヴェルフを助けるために。

 

 

 

 

 

 

 その後、地上に無事に降りてきた巧やフィンたち第一級冒険者によって全てのモンスターが倒されるも、赤髪の女性には逃げられた。

 そして巧はいま、ヴェルフに背負われて地上へと帰還している最中だった。別に負傷したわけではない。

 

「……お腹すいたよぉー……」

「もうちょっと我慢しろ。もうすぐ地上だから」

「……はーい……」

 

 騒動が落ち着くと、盛大に腹の虫を鳴かせて空腹を訴え、そのまま倒れてしまったのだ。いつもの数倍は動いていたのだ。それこそグリーンドラゴンの時よりも多くの体力を消耗している。心だけはその時以上に満たされているが、身体が空っぽになってしまったのだ。

 その結果、一人で動くことも出来ず、ヴェルフに背負われながら地上へと帰還している最中なのだ。彼らの他にも負傷者たちがフィンをはじめとした第一級冒険者に護衛されながら、地上を目指している。

 

「そういえばー、『クロッゾ』のことでとやかく言われなかったー?エルフとか冒険者とかにー」

「冒険者の方は言われたけど突っぱねたさ。エルフの方は真摯に話したら理解してくれた」

 

 一部はな、という言葉を隠しながらヴェルフは説明する。巧はそれを少し訝しげな目で見つめるも、何も言わずに背中で大人しくする。

 

「そっかー……ごめんねぇー」

「お前は関係ねぇよ。これは俺の、『クロッゾ』の問題だからな」

「じゃなくて、『魔剣』を使わせちゃってさー……嫌いな『魔剣』と言えど、砕けるところなんか見たくなかったでしょー?」

「……まぁな。でも、お前を助けるために俺が決めたことだ。俺の意志だ。お前が悩むことじゃない」

「んー……」

 

 巧は軽く頷いて、ぐでーんと力を抜いて全体重をヴェルフにかける。

 

「まだ、『魔剣』は嫌い?意地とか矜持とかもあるの?」

「……意地はなくなったさ。ただ目標がはっきりしただけだ」

 

 神ヘファイストスを超える最高の一振りを打つ。それがヴェルフの中で決意として固まった。

 巧はそれを聞いて小さく頷く。

 

「そっかー……。頑張ってねー。その一振りが見れるのを、楽しみにしてるよー」

 

 その言葉にヴェルフは唖然とする。まだ誰にも言ってない、話していないことがバレている。そこまで考えが及ぶと一つの考えが彼の中を過る。それは『ヴィリーの宿』での巧の長い思考のこと。

 

「……まさか、お前……宿屋の事件から此処までのことを計算に入れて……?」

 

 断片的に聞き取れた呟きには、自身のことは無かったはずだ。だが、途中でやめさせてしまったから表に出ていない部分で、自分のことすらもなにかしらの流れに組み込まれていたのではないか。

 その時の思考で自分が無茶をしてヴェルフが『魔剣』を手にすることまでも、彼の狙い通りだったのでは?

 そう思ったのだ。

 いや、もしかしたらヘファイストスから『お守り代わり』と言われて渡されたと言っていたが、わざわざ巧自らが頼みこんで受け取ったのでは、とも考えた。そう考えると、この計画はいつからのものなのか?その疑問が残る。しかし、それはヴェルフには分からない。この一連の流れを作り出した張本人である巧だけが、それを知っている。

 ヴェルフは戦慄しながら、背中の彼に尋ねる。しかし巧は彼の背中で子供のように微笑みながら、

 

「さぁねー♪」

 

 そういって、誤魔化すだけだった。

 これは途中から()()全部狙ってたな、とヴェルフは確信しながら、ヴェルフの為()()に今回の件を理解しながら利用した巧に対して慄いていた。

 すっかり陽の暮れた地上に無事帰還すると、巧はまず【ヘスティア・ファミリア】のホームに向かうようにヴェルフに言って、財布を取りに行った。そこで、鉢合わせたヘスティアとベルに軽く説明をすると一緒に連れだして『豊穣の女主人』へと向かう。

 

「いらっしゃいませ。……どうなされたんですか?」

「……お腹すいてるだけー……」

『っ!?』

 

 酒場の中にいた、というより胃袋モンスターとしての巧を知っている全員の顔が驚愕一色になる。

 巧はこの酒場で一度も腹が空いて動けなくなった彼の姿など見たことが無い。そんな彼が腹を空かせている。何かすごいことが起こる前触れのような、そんな気がした。

 いつもの席に案内されて着席すると、リューがメニューを受け付ける。席をいくつか空けて三人が座る。

 

「では、ご注文は?」

「メニュー表の料理全部ー」

「……またですか」

 

 リューのため息混じりの返答に巧は力なくだが、クスクスと笑い声を少し上げる。すると彼女はすぐに表情を取り繕い、対応を続ける。

 

「……かしこまりました。そちらのお三方は?」

「……ゆっくり考えるよ」

「……俺も」

「……僕も」

「かしこまりました」

 

 巧以外の三人はじっくりと注文するメニューを考えるようだ。

 巧は顎をカウンター席の天板に乗せて料理が来るのを心待ちにする。

 そんな彼の横顔を見ながらヴェルフは隣にいるヘスティアとベルに尋ねる。

 

「……アイツ、いつもあんな注文の仕方なのか?」

「大体はそうだよ。でも、今日は本当にお腹が空いてるみたいだね。メニューの料理を全部なんて……」

「そうですね……。いつもは範囲を決めて程々にしてましたもんね……」

「……ぜんぶ収まるのか?あの体に」

「残してるのは見たことが無いかな?」

「僕も無いです」

「……嘘だろ」

「それはこれから分かるよ」

 

 ヴェルフは信じられない様子で巧のことを見つめる。すると彼の注文した料理が届けられる。

 

「お持ちしました」

 

 彼の前にリューが皿に盛られた料理を置く。巧は両手を合わせ、しっかり感謝の挨拶をする。

 

「いただきます」

 

 シュッ!というような音が聞こえて料理が消える。リューは料理が消えた皿を静かに見つめていたが、すぐに下げる。

 そんな光景を横で見ていたヴェルフは唖然とする。

 

「……」

「最初はそんな反応ですよね」

「大丈夫。すぐに慣れるよ」

「………………おう」

 

 二人の言葉に釈然としないが、ヴェルフはとりあえず頷いておいた。

 その後、女将のミアが悲鳴を上げる寸前まで巧の空腹は収まらなかった。

 ……正確には空腹を紛らわせる程度、だが。

 




今日の巧メモ
・人として:結果としては上々かな?
・武人として:大変満足である。
・研究者として:……『魔剣』に魔法かぁ。まだ観察対象が少ないかな。

 次回更新も水曜日の18時、かなぁ?
 インターンシップで疲れてなければ投稿します。
 最悪ストック無くしてでも頑張ります。

以下クレジット

「元素功法」は”sakagami”原案及び”Central_ECH”改稿「INTRODUCTION OF 財団神拳」の「新たな奥義」欄に基づきます。
http://ja.scp-wiki.net/sakagami006-portal-of-foundation-shinken

「喰期玉」は”aisurakuto”原案及び”Central_ECH”改稿「INTRODUCTION OF 財団神拳」の「新たな奥義」欄に基づきます。
http://ja.scp-wiki.net/sakagami006-portal-of-foundation-shinken

「時間差共振爆砕脚」は”Central_ECH”作「耐久実験」に基づきます。
http://ja.scp-wiki.net/central-ech-2
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