ダンジョンにSCP-710-JP-J伝承者がいるのは間違っているだろうか   作:猫屋敷の召使い

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 インターンシップ中だけど投稿頑張ります
 ( ´Д`)・;’.、


第二八話

 18階層の騒動から翌日。ベルは朝早くにダンジョンに向かい、【ヘスティア・ファミリア】のホームには巧とヘスティアの二人がいた。巧は先日の疲れからか眠そうに目を擦り、ヘスティアも偶然全てのバイトが休みで、両者ともにつかの間の休息をとっていた。

 そんな二人がいる地下室へと、正午過ぎにヴェルフが乗り込んできた。そして開口一番に巧のことを呼ぶ。

 

「おい!タクミはいるか!?」

 

 突然【ヘスティア・ファミリア】のホームに訪ねてきて、大きな声で巧のことを呼ぶ。そんな彼の後ろから気配を溶け込ませていた巧が声をかける。

 

「私、カトーサン。今貴方の後ろにいるの」

「おわああぁぁっ!?」

 

 突然背後からかけられた声に、ヴェルフはビクンッ!と体を跳ねさせて前に転ぶ。

 

「お、お前!?急に後ろから話しかけるなよ!?」

「それ言うならホームに入ってきて急に叫ばないでよ。地下だから余計反響しやすいのに」

「うぐっ……」

 

 巧にそういわれてヴェルフは押し黙ってしまう。しかし、すぐに顔を上げると巧に話しかける。

 

「そ、それよりも聞いてくれよ!俺ついに―――」

「はいはい。【ランクアップ】したんでしょ?はいはい、おめでとー。パチパチパチー」

 

 巧はヴェルフが用件を言う前に怠そうに手を叩いて、口でも拍手音を奏でる。それにヴェルフは呆然としてしまう。

 

「………………」

「ふあぁー……ねむ……」

「それぐらい自分で言わせろよおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉッ!!!」

「俺が十二番目に好きなことは人の嫌がることをすることだから」

「それまた随分と半端だな、おい!?そして相変わらずいい趣味してんなお前!!?」

「それで、ギルドには申請したのー?」

「これから行くところだよ!!」

「そっかぁ、いってらっしゃーい」

 

 巧がひらひらと手を振ってヴェルフを見送る。しかし、叫び疲れて肩を上下させて息を整えようとしていた彼の目が怪しく光った。

 

「……お前も行くんだよ」

「……?なんで?」

「お前もまだ申請してないだろうが」

「………………………………」

 

 ヴェルフが最大の意趣返しとして言い放つ。それを聞いた巧は彼から目を逸らしながら言い返す。

 

「ソンナコトナイヨ?オレ、チャントシンセイシタヨ?」

「毎回言っているが目が泳ぎまくってるし、言葉が片言なんだよ!良いから行くぞ!」

「うわーん!ヘスティア様ー!助けてー!」

「いってらっしゃいタクミ君!」

「裏切者ぉー!こうなったら定期的に両足が同時に攣る呪いが掛かるように祈るからなー!」

「それは地味に嫌だよ!?ていうか君がかけるわけじゃないんだね!?」

「俺にそんな力はない!」

 

 巧は助けてくれなかった主神に恨み言を吐くも連れ去られていく。そのままギルドに引き摺られていく。その光景を周囲の人を奇異の視線で見つめる。

 しばらく引き摺られていると、その状態のままでギルドの受付まで進んでいく。

 

「ほら、着いたぞ」

「はーい」

 

 ヴェルフに言われて巧はエイナがいる受付に向かう。ヴェルフもそれに追随する。そして彼女の前まで行くと、彼女も巧に気づき声をかけてくる。

 

「あら?タクミ君じゃない。今日はどうしたの?」

「【ランクアップ】の申請ー」

「……タクミ君の?」

「ううん。ヴェルフのー」

「お前もだろうが。いつかバレるんだから罰則がつく前にさっさとやっちまえ」

「えー……?」

「……?結局誰の?」

 

 話がごちゃごちゃしていて、エイナはあまりその内容を理解できてなさそうな。その言葉にヴェルフが巧の口を押さえながら答える。

 

「二人の申請だ。俺とこの馬鹿の分」

「……タクミ君っていつ冒険者になったんだっけ?」

 

 彼女は口を押えられている巧に尋ねる。彼はヴェルフの手をなんとか外すと口を開く。

 

「んーと、二か月、弱ぐらい?三か月は過ぎてないと思う!」

「【ランクアップ】したのは?」

「昨日!」

「嘘つけ。約半月前だろうが」

「……ごめんなさい。頭が追いついていけてないわ」

 

 エイナは眉間を押さえて今の話の内容を整理し始める。巧の言っていた言葉を全て取り除き、ヴェルフの言葉だけを拾い集める。

 

「えーと、タクミ君が【ランクアップ】したのが半月前ね。それでヴェルフ君はいつ?」

「俺は昨日だ」

「じゃあ、晴れて《鍛冶》の発展アビリティを取得できたのね?」

「ああ」

「なら、タクミ君は面談ボックスに行きましょう」

「えー?ヴェルフも一緒に連れて行こうよー。どうせ昨日の18階層の騒動について聞かれるんでしょー?」

「いえ、それは【ロキ・ファミリア】の方たちから聞いた内容で十分だと判断されたわ。さ、行くわよ!」

「あーれー?」

 

 巧はズルズルとエイナに引き摺られて奥へと消えていく。ヴェルフはそれをヒラヒラと手を振って見送る。

 

「さて、何が言いたいか分かるわね?」

「【ランクアップ】申請のことー?」

「そうよ。なんで黙っていたの?」

「騒ぎになるからー。だって一か月半だよ?一か月半!絶対面倒なことになるじゃん」

「……いつやるつもりだったの?」

「んー、ベルが【ランクアップ】したらって考えてた」

「……いつになると思ってるのよ」

「……さあ?ああ、もしくは俺のLv.が3になったらとも考えてた!」

「そう……。まあ、今回の遅れは半月だけだから罰則は無しで良いわ。でも次からは罰則を科されるから気をつけてね」

「はーい!」

 

 反省したのか、反省してないのか。どうか分からない彼の返事を聞いて、エイナは疲れた表情を浮かべる。

 

「……じゃあ、昨日のことを聞くわね」

「……?聞かないんじゃなかったの?」

「ギルドとしては、ね。私個人として聞きたいのよ」

「ん。わかった」

「……大丈夫だった?」

「うん!最高に楽しかった!」

「怪我は?」

「最終的には全部治った!」

「……したのね。……あまり、心配させないでね?」

「大丈夫!目標を達するまで死ぬつもりはないから!」

「………」

「なんならまた指切りする?」

「……いえ、いいわ。信じてあげる」

「……ありがとー♪」

 

 にぱー、とエイナに笑みを向ける。それを見て彼女は苦笑を浮かべる。

 

「もういいわよ」

「はーい」

 

 巧は面談ボックスから出て行く。エイナもそれに続いて受付へと戻る。そしてそこで見知った顔に遭遇した。

 

「あれー?ベルー?早くなーい?」

「あっ!タクミさん!ヴェルフさんも!」

 

 白髪赤眼の少年、【ヘスティア・ファミリア】に所属する冒険者であるベル・クラネルがそこにいた。いつもならまだダンジョンに潜っているはずの時間帯にギルドにいることに首を傾げる。ヴェルフもそれを疑問に思って、巧の代わりに尋ねる。

 

「おう。コイツの言う通り随分早いな?なんかあったのか?」

「いえ、むしろ何もなかったというか……サポーターのお試し契約をして少しだけ潜ってみた帰りなんです。ただその子が解毒薬を忘れたみたいで……」

「ああ、なるほどな」

「そういうお二人は何しに来たんですか?」

「【ランクアップ】の申請ー!」

「えっ!?あ、あれ?タクミさんってまだ申請してなかったんですか!?」

「うん!でも、もう報告も終わったし、帰るとこー!」

「あっおい!?悪いなベル!」

 

 じゃーねー!と巧は元気よくギルドを出て行く。ヴェルフもそれを慌てて追いかける。

 残されたベルは少しの間呆然とするも、すぐにハッとして受付にいるエイナの下に寄っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 ギルドを出た巧はふらふらと街を歩く。ヴェルフも彼の横に並んで一緒に歩く。

 

「……急いで出るなんてどうしたんだよ?」

「……気づかなかった?ベルの短刀がなかったのを」

「なに……?ヘスティア様のナイフか?」

「うん。手癖の悪いサポーターを雇っちゃったみたいだねー」

 

 クスクスと笑いながらも巧に気にした様子はない。いつもなら呆れるところだが、事が事だけにそれほどうかうかしていられないはずだ。ヴェルフは声を潜めながら巧に聞く。

 

「……どうするんだ?」

「そうだねー……この件は任せてほしいかなー。どっちにしろこっちの【ファミリア】の問題だからね」

 

 何か考えがあるのか、巧は不敵な笑みを浮かべる。ヴェルフはその顔をよく知っていた。物事に乗り気になった表情。こうなったら彼に任せた方が方法はどうあれ、最終的には収束する。

 

「……はぁ。わかった。お前に任せた方が上手く収拾するもんな。でも一個だけ聞かせてくれ」

「なぁにぃー?」

「昨日の一件、もしかして俺の【ランクアップ】も想定済みだったのか?」

「ふふふー♪ご想像にお任せしまーす♪……って、言いたいけど、すれば御の字程度に考えてたよ。本命はヴェルフに魔剣を使わせること。あ、でも戦闘で手を抜いたわけじゃないからね?あれはマジで強かったから」

「そうか……わかった。次からはもうやめてくれ。心臓に悪すぎる」

「善処する!」

(やめる気ねぇな、コイツ)

 

 巧の言葉に渋々ながら一つ頷き、ヴェルフはすぐに別れの挨拶を告げて立ち去っていく。それを見送った巧は、屋根を駆けてある場所へと向かう。

目的地は、『ノームの万屋』。

 その屋根に気配を誤魔化し、目的の人物が現れるのを座って待つ。

 そうして待つこと少し。背が低く大きめなローブにバックパックを背負った人物が訪れて中に入る。が、すぐに外へと出てくる。巧はその瞬間を見計らってその人の脇をすり抜けて、《ヘスティア・ナイフ》を掠め取る。

 

「これは返してもらうよ」

「ッ!?」

 

 少年は驚き一色に顔を染めて、巧から遠ざかる。

 

「まあ、待ってよ。少しお話しない?【ソーマ・ファミリア】所属のリリルカ・アーデちゃん。ほら、俺のこと覚えてない?半月ほど前に助けてあげたじゃーん。魔法で姿を変えられても、気配までは変えられないんだよ?」

「ッ!?」

 

 巧の言葉に顔を青くして震えだす少年。いや、少年へと姿を変えている少女。

 

「それでさ、俺と取引しない?」

「な、んでしょうか……?」

「一千万ぐらいでうちに、【ヘスティア・ファミリア】に来ない?」

「……っ」

「俺調べでは、【ソーマ・ファミリア】の現在の総資産は約二千万ヴァリス。君の退団の際に退団に要求される額は、恐らくはその半分の一千万ぐらいだと思うけど。ま、今のところはね」

「な、んで……」

「なんで知っているのか、かな?どれのことを言っているのか知らないけど、俺が調べれば、ある程度の事は分かるんだよ。……で、だ。悪くない取引だと思うけど?それとも足りない?」

「……なにが、目的ですか?」

「君の引き抜き以外にあると思ってるの?ベルの専属サポーターにでもしようかと考えていてね。手癖はともかく腕はいいしね。なによりも自ら命を絶とうとしなかったのが好感を持てる。精神が強い子は好きだからね」

「………………」

「返事は無し、か。ま、いつでもいいから返事ちょうだいよ」

「……」

「不安なら、しばらく彼の傍に居てみなよ。彼は、底なしにお人好しで、優しいからさ。君が今まで見てきた冒険者とは全然違う人物だよ」

 

 じゃあね、と囁くように告げると巧は姿を消す。

 

「………………」

 

 彼が消えた後も、リリルカはしばらく呆然としてその場に立ち尽くしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 巧はリリルカのところから立ち去るとベルの気配を探って、その場へと急ぐ。気配の位置はまだギルドを示していた。

 巧がギルドに着いて中に入ると丁度叫び声が聞こえた。

 

『お、落としたぁああああああああああああああああああ!?』

「そして俺が拾ったー♪」

 

 叫びが聞こえた面談ボックスに乗り込んで、ベルの目の前にナイフを垂らす。

 

「タ、タクミさん!?」

「落としたら、駄目じゃないかー。冒険者の商売道具をさー」

 

 そういってベルに話しかける巧は笑っていた。……眼以外は。眼だけは光を映さず「なに落としてんだ、仕舞いにゃシバくぞ」と彼に語り掛けていた。

 

「ご、ごめんなさい……!!?」

「次やるようなら街中全裸で引きずり回すからな?」

「は、はぃいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!」

 

 ベルはナイフを引っ手繰るように取ると、面談ボックスから逃げ出すように立ち去っていく。

 

「まったく……アレの価値を分かって欲しいものだねー」

「……どこで拾ったの?」

「街中ー。あれは少し特殊だからねー。そのおかげで見つけられたよー、もう」

 

 平然と嘘を吐きながら説明をする。

 《ヘスティア・ナイフ》にはヘスティアの髪と『神血(イコル)』を用いてるためか微弱だが気配があるのだ。とはいえ長い間、傍にいたヘスティアの気配が精々で、他の神が同じようなことをしてもはっきりとは分からないだろう。

 少し疲れたような表情を浮かべる巧に、エイナは静かに質問を投げかける。

 

「……タクミ君は、【ソーマ・ファミリア】って知ってる?」

「知ってるー」

 

 よく知っている。色々悪戯をしているからだ。今でこそ、その悪戯は無くなったが今でもたまに主神ソーマとは交流がある。現在水面下で【ファミリア】の立て直しを図っており、その相談を受けたり、手伝いをしているからだ。

 素直に教えてもいいけど、それでは()()()()()

 

「でも、知りたいならまずは自分で調べたら?他の人に先に聞くと偏見が混じっちゃうから。なんでも人に頼るのはよくないよ?」

 

 じゃーねー!と巧は再び立ち去っていく。エイナはそれを黙って見送ることしかできなかった。

 




今日の巧メモ
・人として:一度はやってみたかったメ〇ーさん風登場!
・武人として:精神的にはお腹一杯。
・研究者として:ヘスティア・ナイフをファンタジーの一言で片づけたくはない。

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