ダンジョンにSCP-710-JP-J伝承者がいるのは間違っているだろうか   作:猫屋敷の召使い

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 ちょっと短めだけど許して。


第二九話

 ベルが《神様のナイフ》を盗まれた事件から一夜が明けた。

 巧は朝早くにホームを出て、一人でヴェルフの工房へと来ていた。

 

「やっほー。元気?」

「……ああ、お前か」

 

 武器を打ってらしいヴェルフは、腕で額の汗を拭いながら巧の方へと顔を向ける。

 

「そうです、俺ですよー。暇だから仕事風景を見に来てみたー。『鍛冶(アビリティ)』の影響も気になるしー」

「……そうか」

 

 それだけ聞くと、ヴェルフは作業に戻って集中する。巧も邪魔をしないように適当な場所に腰掛ける。

 

「結局、ナイフは見つかったんだよな?」

「まぁね。さすがにあれほど独特なナイフはあれ以外にないからね。生きてるみたいな気配を醸し出してるのなんて、ね」

 

 作業をしながら近くにいる巧に声をかける。鎚が金属を打つ甲高い音の最中でもはっきりとした声で会話をする二人。

 

「……手癖の悪いサポーターとやらはどうするんだ?」

「……今のところは放置かな。ベルに感化されるのを待つよ。されなかったらその時はその時で考える」

 

 難しそうな表情で巧は呟く。それを横目で確認したヴェルフは苦笑する。

 

「珍しいな?お前がそんな表情するなんざ」

「そうかもねー……。問題が山積みだからなぁー。18階層の件にしろ、今回の件にしろ。色々手を回してるけど、それらがすべて上手くいくわけじゃないし……今は流れに任せるしかないんだよねー……」

 

 はぁ、と溜め息を一つ吐いて組んだ腕の上に顎を乗せる。

 

「まぁ、頑張れよ」

「それぐらい分かってるよ」

 

 ヴェルフが苦笑しながら放った言葉に、巧は拗ねたように口を尖らせながら返す。

 その後、ヴェルフの作業が終わるまで言葉を発することは無かった。

 

「よし!完成だ!」

「お疲れー。『鍛冶』を得てからなんか変わった感じする?」

「……まあ、マシなもんができるようにはなったな」

「そんなもんか」

 

 巧はこれからに期待、と呟いて立ち上がると伸びをする。そのまま出入り口から出て行こうとするのを、ヴェルフが止める。

 

「おい、少し待ってくれ」

「……?なんぞ?」

 

 ヴェルフの静止の声に振り返った巧は不思議そうに首を傾げる。そんな彼にヴェルフは一本の短剣を投げ渡す。

 

「持っとけ」

「いらない」

 

 ヴェルフの声に即答し、すぐさま手元の短刀を圧し折ろうとする巧をヴェルフは即座に羽交い絞めにして押さえる。

 

「まてマテ待てッ!?」

「いや、だってこれ『魔剣』じゃん。俺事前に宣言してるからね?『勝手に打ってきたら目の前で叩き折る』って。だから折る」

「話ぐらい聞けッ!!いや、頼むから聞いてくれ!!」

 

 巧によって端と端を摘まられて少しずつ歪められている短剣を、ヴェルフはどうにか折らせまいと彼の両手を摑む。しかしそれでも抑えきれずに、短剣は少しずつ変形し続ける。

 自身の力では押さえきれないと瞬時に理解したヴェルフは口早に渡した理由を告げる。

 

「ただのお守りだ!!非常用だ!!」

「なら折るのも俺の自由だよね?だってこの手に収まってる時点でこれはもう俺のものなんだから」

「だから待てって言ってんだろ!?」

 

 理由を告げても止まらない巧の頭をゴンッ!と殴って無理やり止める。そこまでやってようやく巧が短剣から手を放す。手から零れた短剣が甲高い音を立てながら地面に落ちる。それを気にせずに頭を殴られた巧は、殴った本人であるヴェルフに顔を向けると怒鳴りつける。

 

「殴ったね!?クソ恩師にも四肢を粉々に砕かれたことしかないのに!!」

「いや絶対そっちの方が被害大きいだろう!?」

「……?あれ?それもそうだね?」

 

 巧は彼の言い分にあはははー、と元気に笑っている。ヴェルフはそんな彼を見て呆れてしまう。ヴェルフに限らず他の者たちもだが、彼に付き合うと呆れることが多いような気がしてならなかった。少なくとも彼に関わったことで頭を悩ませる者が増えたのは確実だろう。

 ヴェルフは地面に落ちた短剣を拾うと、傷がないか軽く確認すると改めて巧に向けて差し出す。

 

「これは、俺の意思表示だ。もう『クロッゾ』には縛られない」

「それとこれを渡す理由が分からないんだけど?」

「……けじめみたいなもんだ」

「ならそれを他人に持たせるなよ。自分で大切にしまっとけよ」

「お前にこそ持っていてほしいんだよ!使わないお前が持っているからこそ意味があるんだよ!!」

「意味不。それと男のラブはノーサンキューでーす」

 

 両手でバツを作って首を左右に振る巧。それを聞いて額に青筋を浮かべながらも、どうにか堪えきるヴェルフ。

 

「とにかくッ!持っておいてくれ!」

「へーい……」

 

 不満たらたらの声で返事をする巧。その表情も歪んでおり、拒否したいという感情が溢れ出ていた。それでも渋々受け取ってくれる辺り、理解はしてくれているのだろう。

 渡された短剣をポーチにしまうと、今度こそ外へと出て行く。

 一度、拠点に帰るとバッグパックを三つ抱えてダンジョンへと向かう。目指すは37階層だ。借金返済のためにも稼がなければならなかった。

 そう考えて、奥義『鰒猫拳』を用いて自身の最高速度で深層へと向かう。

 

「……………」

『オオオオオオォォォォォォ!』

「……やっぱ、つまらないな。単調すぎる」

『グオオオォォォッ!?』

 

 上段から白骨の武器を振り下ろしてくる『スパルトイ』と呼ばれる骸骨のモンスター。Lv.4相当のモンスターだ。

 その攻撃をゆったりとした単調な動きで避けて、すぐに拳を叩きつけて倒す。周囲にいるスパルトイも同様に倒すと、魔石を取りだしてバックパックにしまう。

 

「もっと深くに行こうかなぁ……でもここって良い採掘場所なんだよなぁ……」

 

 ぶつぶつと何かを呟きながら、ダンジョンの壁を壊して超硬鉱石(アダマンタイト)を採掘する巧。そこから転がり落ちてきた大きな塊をバックパックにせっせとしまい込む。

 そのまま探索を続けて闘技場(コロシアム)と呼ばれる大型空間が存在する。そこでは一定数の上限はあるがモンスターが無限の如く湧き出る場所だ。そして、巧はそこへ踏み込んだ。

 すると、モンスター達が四方八方の壁や地面から現れ始める。

 

「……暇つぶし、かな。せめて修練程度になるといいんだけど」

 

 小さく呟くと、彼は襲い掛かってくるモンスター相手に()()を始めた。

 奥義も使わず、ただの作業として敵を屠っていく。

 金のため。巧はそう考えて、この楽しくない地獄を続ける。

 バックパックの隙間を埋めるために。

 その光景を誰かに見られていることにも気づかずに。

 




今日の巧メモ
・人として:借金嫌い。
・武人として:暇である。もっと手応えのある相手が欲しい。
・研究者として:闘技場が無限湧きかどうかの調査を兼ねています。

 いずれ後書きとかで感想返しとかしたい。しっかり確認してはいるんですけど、返す余裕がなくて申し訳ありません。
 いや、返信はしたいんですよ?でも、何か失礼なことを言ってしまったらどうしようとか思ってしまって……。ええ、チキンですけど何か?ツイッターも読み専ですが?
 まあ、非ログインユーザー様いましたので、その返信の為にも後書き等で いずれ 書きます。ええ、いずれ。多分外伝三巻の終わり頃(かなり先)。

 あ、あと今さらですが、hibikilv様、黒帽子様、SERIO様、誤字報告ありがとうございます!見落としている部分を気づかせていただいて、いつも助かってます。そして「こんなミスをしていたなんて……!?」と赤面して悶えています。
 これからも誤字脱字がありましたら、皆様ご報告お願いします。


以下クレジット。


「鰒猫拳」は”sakagami”作「INTRODUCTION OF 財団神拳」の「新たな奥義」欄に基づきます。
http://ja.scp-wiki.net/sakagami006-portal-of-foundation-shinken
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