ダンジョンにSCP-710-JP-J伝承者がいるのは間違っているだろうか   作:猫屋敷の召使い

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第三二話

 フェルズからの依頼ですぐにダンジョンに潜り始めた巧は、その日のうちに24階層に到達する。途中、18階層の『リヴィラの街』で話を聞いたりもしたが、大した情報はなかった。例を挙げるなら、モンスターが溢れかえって困っているという内容ぐらいだ。詳しいことは何も分からなかったため、実際にこの目で調べてみるしかないと、巧は判断した。

 そして、協力者よりも先に一足先に24階層の調査を行い、原因を発見した。

 

「……食料庫(パントリー)への道が、すべて塞がっているのか……?」

 

 モンスターの数を減らしながら見て回ったところ、肉壁のようなもので通れなくなっている通路だった。緑色の肉壁に触れると生温かく、僅かな律動を感じ取ることができた。

 そして、その肉壁で塞がれた通路のいずれもが、食料庫(パントリー)へと繋がるものであった。考えずとも、食糧庫(パントリー)で何かをしているとわかるほどだ。

 

「これで大量発生(イレギュラー)の線は消えたか。食料庫(パントリー)に行けなくなったことによるモンスターの一斉移動、といったところか?」

 

 今回の騒動の原因を発見するも、その壁から先に行くのは相手側にバレてしまう可能性があったために、24階層の入り口まで戻ってきた巧は腰を下ろして、壁に背中を預ける。

 

「問題はあの壁の先に何があるかだが……」

 

 巧は気配を探ってみたが、巨大な気配が空間を支配していて、詳細は分からなかった。そのため協力者との合流を静かに待つことにした。

 そして約一日経過した頃。

 

「えっ?あ、あんた……こんなところでなにしてんの?」

「……」

 

 おそらく協力者と思われる一団が到着した。先頭の方を歩いていた犬人(シアンスロープ)の少女、【ヘルメス・ファミリア】のルルネ・ルーイが巧へと声をかける。

 巧の予想通り、【ヘルメス・ファミリア】に依頼をしたようだ。おそらく前回と同じように脅迫(おねがい)されたのだろう。近くにはアイズ・ヴァレンシュタインの気配もあることから、フェルズは上手く依頼を受けさせられたようだ。

 巧の姿を発見して、戸惑うような彼女の声に巧は面倒そうな表情で言葉を返す。

 

「ようこそ、くっそ危険で面倒な厄介事に巻き込まれた同士諸君。歓迎するよ」

「……ここで待ってる協力者ってアンタのことかよ」

「そうだ。既にこの階層は一通り見て回った。何か聞きたいことがあるのなら、今のうちに頼むよ」

 

 ヘラヘラと笑いながら巧は一同に話しかける。その声に反応して水色の髪の女性がルルネに尋ねる。

 

「ルルネ、知り合いですか?」

「う、うん。『リヴィラの街』で助けてくれた冒険者。たぶん、いい奴……」

 

 少し自信なさげにルルネはアスフィの質問に答える。それもそうだろう。彼女は巧から名前を教えてもらっていない。彼が一方的にルルネのことを知っていただけで、彼女の方は巧の仲間が彼のことを『タクミ』と呼んでいたことしか知らない。

 だが、危ないところを【ロキ・ファミリア】のレフィーヤ・ウィリディスともども助けてもらったのは確かだ。そんな彼が悪い人物とは思えなかった。いや、思いたくなかった。

 そんな彼女の返答を聞いた水色の髪の女性は前に歩み出ると、巧へと話しかける。

 

「まずは、初めまして。私は【ヘルメス・ファミリア】団長の―――」

「存じているよ、【万能者(ペルセウス)】アスフィ・アル・アンドロメダ。公的にはLv.2の冒険者だが、実際にはLv.4の実力者」

「なっ……」

「おや、間違っていたかな?」

 

 巧の言葉に驚愕の表情を浮かべるアスフィだが、彼は揶揄うようにおどけた調子で聞き返す。

 そんな彼の態度に彼女はすぐに表情を戻して、警戒を高めながら会話を続ける。

 

「……いいえ、合っていますが……貴方は、一体何者ですか?」

「俺は【ヘスティア・ファミリア】団長、タクミ・カトウ。Lv.2冒険者で、まだ二つ名はもらってない。以後、お見知りおきを」

 

 巧は不敵な笑みを一同へと向ける。しかし、アイズとルルネを除く者たちは未だ彼に対する警戒を解いていない。

 

「おいおい。そこまで警戒しないでくれよ。こっちだって黒衣の奴に頼まれてここに来ているんだ。なぁに、俺のことは情報収集が趣味の冒険者という認識で構わないさ。あぁ、Lv.2だからといって実力に関しては心配しなくていい。一人でここまで来れるほどの実力は有してるつもりだ。足を引っ張るつもりは毛頭ないからな」

 

 フェルズの名前を伏せながら、警戒している面々に話す巧だが、その表情には薄い笑みが浮かんでいた。この状況を楽しんでいるようにも見えるが、彼としては真面目に話しているつもりだった。

 そんな彼をしばらくじっと見つめていたアスフィだったが、事実かどうかはともかく、ルルネを助けてもらったということもあり、少しだけ警戒を緩めて彼との会話を続ける。

 

「……いいでしょう。では、早速ですが、貴方は先ほどこの階層を見て回ったと言いましたが、食料庫(パントリー)は確認しましたか?」

「ごもっともな質問だ。今回の問題はそこの可能性が高いからな。だが残念なことにそこに続く通路は全て封じられてしまっていた。中の方はそんな状況を作り出した者達に気づかれる可能性があったため、確認できていない」

「なんですって?」

「まあ、こんなところで話し続けていても仕方ない。移動しながら話すことにしよう」

 

 そういって立ち上がった巧は24階層を北に向けて歩き始めた。他の一同もある一定の距離を保ちながら彼に続く。一人を除いて。

 

「貴方も、頼まれたの?」

 

 アイズだけは巧に駆け寄って横に並ぶと話しかける。彼もそれを横目で確認して言葉を交わす。

 

「ああ。この階層で問題があると多くの場所が困るから、早めに解決したくてな」

「そうなんだ……」

「……そういえば、【ランクアップ】でもしたのか?少し雰囲気が変わったように思えるが」

「うん。Lv.6になった」

「ほう、そうか。それはおめでとう。喜ばしいことだ」

 

 会話をしながら進んでいく二人だが、この間も前方から寄ってくるモンスターを討伐している。

 巧は遠距離攻撃で遠くの敵を潰して数を減らす。

 アイズは剣で近寄ってきたモンスターを斬り払う。

 それぞれが別の【ファミリア】に所属しているとは思えないほどに、役割の分担がされていた。

 

「……あの人たちのこと、詳しいの?」

「……お前よりは詳しいだろうな。例えば【ファミリア】の到達階層は37階層だとか、それを可能にしている方法だとかな」

 

 巧のそんな言葉に後ろにいた者達が反応を示した。

 

「まあ、他の冒険者の手札を軽々と口外するつもりはないから、これ以上深くは聞かないでくれ」

「……うん。わかった」

「まあ、団長の彼女がどういう存在か考えれば、すぐに想像できるとは思うが……」

 

 そう話しながら巧は、遠くに見えたモンスターの群れの中にいる毒茸(ダーク・ファンガス)だけを綺麗に『量子指弾』で撃ち抜く。『耐異常』のアビリティを習得していない彼にとっては十分脅威となりえる存在だ。そのため見つけ次第迅速に対処する必要があった。傍目から見れば技名を叫ぶと、モンスターが倒れているようにしか見えない。

 そんな彼の不思議な実力を目にしたルルネ以外の【ヘルメス・ファミリア】の者達は驚き、大人しく彼についていくことにした。

 そんな中、アスフィが彼に問いかける。

 

「カトウさん。一つお聞きしてもよろしいですか?」

「構わない。それと、タクミでいい。姓で呼ばれるのは慣れてない」

「……わかりました。改めて、タクミさん。この依頼についてどう思いますか?」

「……危険極まりないな。貴方達には申し訳ないかもしれないが、正直実力が足りていないかもしれないという懸念がある」

「私達ですか?それとも貴方のですか?」

「【剣姫】を含めた全員だ」

『ッ!?』

 

 巧のその言葉に一同が驚き、一瞬だけ足を止めてしまう。

 

「『リヴィラの街』での赤髪の女()()が今回の件に関わっているのなら、まだマシだろうな。アイズが【ランクアップ】していたおかげで、この戦力で十分対処できるかもしれない。だが、そうでなかった場合が問題だ。最近の調査では闇派閥(イヴィルス)が生き残っている可能性も出てきたから、なおさら―――」

「ま、待ってください!闇派閥(イヴィルス)ですか!?」

「そうだ。とはいえまだ事実確認を出来ていないため、不確かなものだが、話しておいて損はないと判断させてもらった。故に気を付けろ。もし出てきたら下手なことはせずに躊躇なく殺した方が、損害は少なく済むだろう」

「……肝に銘じておきます」

「それでいい。それと、アイズ。おそらく近くまで行けば赤髪の女がお前を狙ってくるはずだ。留意しておけ」

「うん」

 

 巧の話で少々雰囲気が暗くなってしまった一同。

 そんな一同が歩みを進めていると、宝石樹の傍を通り過ぎる。樹の根元に体躯を寝かせていた木竜(グリーンドラゴン)が目を開けて、巧たちの方を見つめる。アイズがそんな木竜と目を合わしている。

 

「……突撃するなよ?」

「………………うん。大丈夫」

 

 似た者同士なのか、アイズの心情を汲み取った巧は先に注意する。

 自分だって我慢しているのだから抜け駆けはしないでくれ。そんなことされたら俺も歯止めがきかなくなるから。そんな思いも込めて。

 返答に少し時間がかかったが、彼女は素直に足を進ませ始めた。

 宝石樹を通り過ぎた一同は、前方に潜む気配を感じ取って、歩みを止める。

 視線の先の巨大な十字路には薄暗い中、無数の影が蠢いているのが窺えた。ダンジョン内でこれほどの数が存在しているのは、冒険者かモンスターの二択。だが、冒険者ならば明かりの一つでもつけるだろう。よって、あの無数の影の正体は後者、モンスターだ。

 そのことを認識した【ヘルメス・ファミリア】の面々は顔を顰めるが、すぐに討伐の為に動き始める。が、それを巧が制止させる。

 

「消耗はできる限り抑えたい。お前らは力を温存させておけ」

「……いいんですか?」

 

 アスフィが巧に確認の声をかけるが、彼は軽く頷くことでそれに応える。そして、アイズの方に顔を向ける。

 

「アイズ」

「なに?」

「行ってくるか?【ランクアップ】してからまだそこまで経っていないのだろう?なら今の自分の能力の確認には丁度いいとは思うが」

「……いいの?」

「構わない。無駄な消耗を抑えられるのであればその方が良い。遠慮などせずに行ってくるといい。ああ、嫌ならば俺が―――」

「わかった」

 

 巧からのゴーサインを出された彼女は、彼の言葉の途中で既に愛剣《デスペレート》を抜き放って、一気に駆けだしていた。

 

『オオオオォ――――――――――ッ!?』

 

 モンスターの断末魔が響くとともに、彼女による掃討が始まった。

 一度の斬撃で複数の敵を巻き込む。回避行動中に放たれる回転斬り。空中へ身を躍らせてモンスターの顔面を一閃する。

 アイズが進むと、彼女の周囲からモンスターが物言わぬ骸か灰へと変貌する。

 彼女の剣のリーチに侵入したモンスターは瞬く間に切り刻まれる。

 時には技で。時には力で。敵を屠っていく。

 巧はその光景を見つめながら、眉を顰める。

 

(やはり、無駄が多い。人よりもモンスターを相手に長くやってきていたからか、そのための動きになってしまっているな。あの様子では対人経験はそこまで多くはないだろうな。……剣一辺倒といった動きか。……そうだったな、まだ16だったか。どんな状況でも戦えるように考えるのは、まだこれからなのかもしれないな……。俺は師が師だったからな……)

 

 巧は少し達観したような表情で、眼前の戦闘を見守る。【ヘルメス・ファミリア】の面々も静かに見守っている。彼女の戦闘に圧倒されて押し黙っているだけだが。

 

「……」

「……」

「安心しろ。お前達にはあとで存分に活躍してもらう。アイズ一人で十分だとか、帰るなどということは冗談でもほざくなよ?」

「「「「「ッ!?」」」」」

 

 何故分かった!?といった風に一斉に巧の顔へと視線を向ける。

 そんな視線を受けた巧はため息を一つ吐きだす。その様子は「お前らの顔を見ればわかる」と物語っていた。

 それを理解した一同は、今度は逆に巧から視線を逸らして気まずそうな表情を浮かべている。

 そんなやり取りを一同がやっている間にもアイズは腕を休めることなく剣を振るい続ける

 魔法を使用せずに、純粋な剣技と身体能力で身体を動かし、【ランクアップ】で生じたずれを修正していく。

 そして、最後のモンスター『ホブゴブリン』を斬り伏せると、愛剣(デスペレート)を鞘に納めて、巧たちのいる場所へと戻ってくる。

 

「ずれは消えたか?」

「うん。たぶん、大丈夫」

「……そこは言い切っておけ。不安になる」

「……じゃあ、大丈夫」

「今さら言い直しても遅いと思うが……まあ、いいだろう。この先にもモンスターはいる。不安ならそいつらでさらに調整しろ」

「わかった」

「さて、それでは先を急ごう。このまま北に向かう。いいな?」

 

 反論する者はいなかった。今この場で、現在の24階層に一番詳しいのは、紛れもなく彼なのだから。

 一同は表情を引き締めて、奥へと足を運んでいく。

 




今日の巧メモ
・人として:百聞は一見に如かずって感じ?聞いた意味がないぐらいすごい状況だった。
・武人として:Lv.6か、俺も負けていられないな!
・研究者として:食糧庫(パントリー)で一体何が行われているのか……私、気になります!

 次回投稿は来週の水曜日18時予定!

以下クレジット

「量子指弾」は”sakagami”作「INTRODUCTION OF 財団神拳」の「新たな奥義」欄に基づきます。
http://ja.scp-wiki.net/sakagami006-portal-of-foundation-shinken

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