ダンジョンにSCP-710-JP-J伝承者がいるのは間違っているだろうか   作:猫屋敷の召使い

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第三六話

 巧は今いる25階層を疾走して24階層の食糧庫(パントリー)を目指して急ぐ。

 

「あぁ、もう!鬱陶しい!」

 

 道を塞ぐモンスターの群れを殴り飛ばしながら、巧は階段へと()()する。

 彼は今、特殊な歩き方でトンネル効果を発生させて壁をすり抜ける『量子歩法』を使いながら、壁をすり抜けて移動しているのだ。

 しかし、物体はすり抜けることができても、生物はすり抜けられないのでモンスターは片手間に始末しなければならなかった。

 ダンジョンも生きているようなものだが、『量子歩法』ですり抜けることができることは既に検証済みだった。

 

「あんのクソ雑魚ッ!『自分は強いんだぜ?』的な雰囲気醸し出しておきながら余裕で弱いじゃねぇかッ!『あっ、実力隠してるのかな?』ってちょっとでも思った俺が恥ずかしいじゃん!!」

 

 愚痴を吐き出しながら八つ当たり気味にモンスターを潰して進み、階段を駆け上がる。

 セサルは気配操作に特化しており、巧でさえも『気配を操作している』ということしか分からず、それが強くしているのか、弱くしているのかを悟らせなかった。実際には実力よりも少し強く見せることで巧に対し、実力を隠していると思わせていたが、実際に戦った結果、大して手傷を負わせることすら叶わずにずたぼろにされた。

 そのことに今更ながら気づき、自分への恥ずかしさと苛立ちを募らせた巧は、感情のままに24階層に戻って再び緑壁の迷宮を突き進む。

 緑壁を引き剝がし、ダンジョンの壁をすり抜ける。気配も周囲に溶け込ませながら密かに進み続ける。

 『鰒猫拳』を使用することも考えたが、移動するだけならば『量子歩法』の方が速く通り抜けられる。それに緑壁の迷宮を通ることを考えれば、正規のルートを通るよりも壁を通った方が余計な敵を相手にせず済むと思っての選択だ。

 そうして進んでいくと、徐々に巧の耳に入ってくる戦闘音が大きくなっていく。

 最後の壁を通り抜け、視界が開ける。そこに広がる光景は、決して良いものではなかった。

 【ヘルメス・ファミリア】の面々と、巧の予想通り【ディオニュソス・ファミリア】のフィルヴィス・シャリアがそこに居り、神ディオニュソスが神ロキに協力を仰いだ結果送られてきたベート・ローガとレフィーヤ・ウィリディスが大量の食事花に包囲されている光景と、武器を手放したアイズが赤髪の女と食人花に押されている光景。

 その状況を理解した巧はまず、冒険者達を襲っている食人花を『共振遠当て』、『テレポ遠当て』、『量子指弾』で彼らの近くにいるものを倒した。

 突然食人花が灰になって死んだことに呆然としている冒険者達が、後はどうにか体勢を立て直して打開してくれると信じて、声をかけることもせず、すぐにアイズの方へと駆けだして地面に突き刺さっている彼女の愛剣《デスペレート》を摑んで引き抜く。

 

「悪いが、少しだけ俺に使われてくれ。お前の主人を助けるためだ。『鰒猫拳』!」

 

 自分が握っている《デスペレート》にそんなことを言う。それから、奥義を使って一気に加速する。

 食人花にすら気付かれないほどに気配を周囲に溶け込ませた巧は、赤髪の女へと突撃する。

 

「フッ!」

「ッ!?」

 

 そして、巧による鋭い突きが女へと真っ直ぐ向かう。速度が乗り、不意打ちに近いそれに、彼女は辛うじて反応するも、少しだけ遅かった。

 

「チッ!」

 

 舌打ちをしながら、女は後ろへと飛び去る。そんな彼女の肩口からは鮮血が流れていた。

 

「やはり武器を使えば手っ取り早いものだな。返すぞ、アイズ。もう手放してやるなよ」

「……うん。もう大丈夫。ありがとう」

 

 巧は《デスペレート》を本来の持ち主であるアイズに返却し、改めて拳を構える。アイズも手元に帰ってきた愛剣をしっかり握りしめ、赤髪の女と対峙する。

 

「まずは、周りの雑魚からだな」

 

 彼がそう呟いた瞬間には、すでに周囲の食人花の数体が灰へと変貌し、そこから伝播するように食人花は次々と灰へと姿を変えていく。

 三人が衝突する頃には、周囲にはモンスターの姿はなくなっていた。

 

『【――間もなく、焰は放たれる】』

 

 エルフの少女の詠唱を背中に受けながら、巧は向こうが上手く体勢を立て直したことを確信しながら、身体を酷使させていく。

 アイズが剣を捌き、巧が体術を捌く。

 お互いが別のファミリアとは思えないほど、その連携は上手くかみ合っていた。

 だが流石の巧も、上がり立てとはいえLv.6の冒険者の動きに合わせるのは、かなり厳しいものがある。ましてや相手にしているのが自分よりも格上の相手ならば、なおさらだ。

 骨はギシギシと軋む音が、筋肉はブチブチと千切れる音が、巧の体内でずっと響いていた。

 それでも体を止めることはしない。

 女の蹴りや拳を、『共振遠当て』、『テレポ遠当て』でリーチを分からないようにしながら弾き、『共振脚衝』や『臨界パンチ』を放つ。たとえ牽制にしかならずとも、撃たないよりはマシだと思ってのことだ。

 体が悲鳴を上げる中、巧はそれを表情に出さずに拳を振るう。

 と、そこへ―――灰色の毛並みの狼が疾走してきた。

 

「退け、クソチビ!」

「喜んで退いてやるとも、犬っころ!」

「よこせ、アイズ!」

「!」

 

 ベートの声に反応した巧は数発、力強く撃ち放って数瞬の隙を作り出す。その間に後方に飛び退き、場所を作る。アイズも彼が何を欲しているのか理解した。

 

「風よ!」

 

 伸ばされたアイズの手から風が揺らぎ、すれ違ったベートのメタルブーツに吸い込まれた。

 白銀の長靴に埋められた黄玉が輝き、両脚に凄まじい風の気流が宿る。

 

『【忍び寄る戦火、免れえぬ破滅。開戦の角笛は高らかに鳴り響き、暴虐なる争乱が全てを包み込む】』

 

 ベートに風を渡したアイズは巧と同じように離脱する。そして彼女と入れ替わるようにベートが赤髪の女に真っ向勝負を仕掛けた。その間に巧は万能薬(エリクサー)を飲み干して、身体を癒す。

 アイズは巧の横まで来て、彼と共にベートと女の戦闘を見守る。

 

「大丈夫?」

 

 彼女は戦闘から目を離さずに、隣にいる巧に声をかける。それに対して、巧も同じように視線を正面に向けたまま答える。

 

「問題ない。それよりもここからどうするかだ」

 

 今更ながら近づいてきた食人花の魔石を砕きながらそう呟く。

 

「見ての通り、アイツじゃ長くは押さえきれない。性格も加味して考えるとレフィーヤ・ウィリディスの詠唱が終わる頃が限度だ」

『【至れ、紅蓮の炎、無慈悲の猛火。汝は業火の化身なり】』

 

 レフィーヤの詠唱を聞きながら、冷静に分析する。

 確かに、今のベートは押され気味だ。放つ蹴りは全て捌かれ、一撃たりとも命中していない。だというのに、女が攻勢に出れば、戦闘衣が千切れ、片方の手甲が吹き飛び、掠めた肩口から血が飛び散る。

 

「だから、俺も参戦して隙を作る。それを逃さないでくれ。今のところ、お前が一番有効な攻撃を与えられるだろう」

「……わかった」

 

 アイズが頷いたのを確認すると、巧は戦闘中の二人を目掛けて駆けだす。

 

「『テレポ遠当て』!」

「【ことごとくを一掃し、大いなる戦乱に幕引きを】」

 

 少女の歌声を耳にしながら、地面を力強く駆けていく。

 振り下ろされかけていた紅の大剣に向けて拳を振るい、その軌道を逸らす。

 

「チビが邪魔すんじゃねぇ!」

「知るか!こっちが勝手にやることだから無視でもしてろ!それとも俺が代わりに全部やってやろうか!?」

「Lv.2如きがうるせぇんだよ!」

 

 二人は口論しながらも、手と脚は休めずに相手を攻め続ける。

 自分勝手に攻撃をするベートを、巧が上手くカバーして女をその場に留まらせる。

 

「あぁクソッ!硬いんだよこのアマッ!」

「あぁ!?もう限界か、チビ野郎!?」

「ほざけ!口じゃなくて脚を動かせ!それと意地見せろや!?」

「ンなもん言われなくてもわかってらァ!!」

 

 相も変わらず口論しながら攻撃を続ける二人。

 

「「限界なんざ、知るかぁ!!」」

 

 二人で吠えながら、ベートは暴れ狂う風の力を纏った脚で、巧は細胞を原子核分裂させた拳で、それぞれ攻め立てる。

 そんな二人の攻撃で防御を強いられていた赤髪の女は、瞳を苛立ちに吊り上げ、紅の大剣を振りかぶった。

 ベートもそれに対抗し、地面を粉砕させるほど力強く踏みしめ、己の左脚を振り上げる。逆に巧は邪魔にならないように一歩二歩下がり、どのような状況にも即座に対応できる距離で待機する。

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!」

 

 哮り声と共にベートは一撃を繰り出した。

 振り下ろされた大剣に、渾身の風脚。

 それぞれが衝突する。

 吹き飛ばされた風の渦に、貫通する紅刃。

 大剣とぶつかり合った白銀のメタルブーツに、夥しい亀裂が走り抜けた。

 ブーツを装着した足の皮膚が、肉が鮮血を吐き散らし、骨が粉砕する。

 甚だしい衝撃と激痛に、ベートの瞳が血走った。

 

『【焼きつくせ、スルトの剣―――我が名はアールブ】!』

 

 そして同時に、レフィーヤの詠唱が完了する。

 光の音響が弾け、巧やベートの足下に、大空洞中に拡大する翡翠色の魔法円。

 次の瞬間、その『魔法』は放たれた。

 

『【レア・ラーヴァテイン】!!』

 

 召喚された巨炎が魔法円より放出する。

 レフィーヤ達のもとから放射状に連続する火炎の極柱。ベート達を避けて天井まで昇る業火は全ての食人花を呑み込み、焼き尽くして、絶叫までをも溶かす。

 

「―――はッ」

 

 熱と紅の光に横顔を焼かれながら、ベートの口が吊り上がる。

 殲滅されたモンスター、やり遂げて見せた少女、弱者が上げた咆哮。

 琥珀色の瞳に光が宿る。このまま大剣に押し切られようとする左脚になけなしの力をそそぎ込み、血潮を撒き散らしながら―――強者も負けじと咆哮した。

 

「るォおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!」

 

 白銀の蹴撃が、紅の大剣をはね返す。

 

「なっ!?」

 

 ベートが最後の力を振り絞って放った一撃によって、赤髪の女は反動後屈(ノックバック)―――上半身が大剣ごと仰け反る。その代償としてベートは真後ろへと吹き飛んでいくものの、傍で見守っていた巧がすぐに受け止め、ファイヤーマンズキャリーという相手の腋の下から自分の首を差し入れた後、肩の上に相手を乗せる担ぎ方でベートを抱き上げる。

 

「何もできなかった俺が言うのもなんだが、よくやった」

「雑魚どもが足掻いてんのに、俺がやらねぇでどの面晒すってんだ!つーか下ろせ!助けなんかいるかっ!」

「はっはっはっ。ちょっと何言ってるかわからんなぁ。怪我人は口を閉じて大人しくいてろよ!」

「クッ!?このッ!?」

 

 担がれているベートがどうにかして降りようと足掻くが、巧が器用に関節を決めて動きを制限する。どうにか抜け出そうともがくベートだが、巧相手ではそれも叶わず、しばらくすると諦めて大人しくする。が、歯を強くに噛み締める音が僅かにするので、相当悔しがっているのだろう。

 そんな風にして二人が遊んでいる間に、女に向かって一つの影が疾走した。

 炎の柱の間を一直線に突き進み、銀の剣を装備した、金髪金眼の少女が。

 女に向かって、突貫した。

 

「【目覚めよ(テンペスト)】!!」

 

 風を纏い直し、アイズは弾丸になった。

 仲間が作った隙を絶対に逃すまいと、《デスペレート》を振りかぶって斬りかかる。

 

「ぐッッ!?」

 

 渾身の袈裟斬り。

 咄嗟に構えられた敵の大剣を切断。

 

「っっ!!」

 

 技の斬り上げ。

 『魔石』が埋め込まれた胸部中心をずらし、それでも赤髪の女は血飛沫を飛ばす

 

「―――あああああああぁぁッ!!」

 

 止めの、振り下ろし。

 宙に跳び、両手で柄を握り締め、猛り狂う風渦を付与した剣身を、眼下の女性に叩きつける。

 

「ッッッ!!」

 

 体重も乗ったその攻撃を、両腕を交差させて赤髪の女は受け止める。

 途轍もない力の反発が発生し、剣身の気流が叫び声を上げながら暴れ回る。

 次の瞬間、女は決河の勢いで後方に押し飛ばされた。

 両足で地面に二本の線条を刻みながら、それでも勢いは止まらず大空洞の最奥へと、弱々しい赤光を漏らしている大主柱に、背中から叩きつけられる。

 その光景は、アイズが競り勝ったことを明確に示していた。

 

「はぁ、はっ……」

 

 剣を片手に持ちながらアイズは息を切らす。

 唸る風の鎧を解除し、赤髪の女のいる大主柱のもとへ歩んでいく。

 巧はそんな彼女の背中を見守りながら、疲れ果てて地面にへたり込んでいる冒険者達の近くへと移動を始める。それにまだ、あの女の気配が感じ取れるため警戒を続ける。だが、流石の巧もあれほどの攻撃を受けて、逃げられるほどの体力が残っているとは思っていなかった。

 それが、浅はかだった。

 こちらでの生活に馴染み過ぎていたのか、人智を逸した存在が、そう簡単に()()()()()()()()()()のだ。

 アイズが近付くと、片膝をついていた女は、ゆっくりと立ち上がった。

 出血している全身から蒸気、『魔力』の粒子を立ち上らせ、傷の治癒を始める。

 遠目ながら、巧はその光景に驚愕していると、彼女は口を開いた。

 

「……今のお前には、勝てないようだな」

 

 周囲の者達には聞こえていないであろう音を、巧の耳は拾っていた。

 緑色の瞳に何の感情も浮かべず、淡々と発言している。

 巧は現場を見たわけではないために知らないが、『魔石(オリヴァス)』を食らい、力が増した彼女だったが、それでも『風』を纏うアイズに未だ劣ると述べる。そんな彼女には、もう既に味方も、モンスターもこの場には残っていないにも関わらず、謎の冷静さと余裕があった。

 その余裕は一体何処から来るのか?

 彼女の様子を怪訝に思った巧は思考を巡らせ始める。そして彼女の背後の大主柱に視線が向いた。

 

「ま、さか……!?」

 

 考え得る限り、最悪の事態が頭をよぎった巧の視線を追うかのように彼女は、背後の石英(クォーツ)を見上げる。

 

「今すぐ立ってここから脱出する!荷物を置いて動けない奴には手を貸してやれ!此処が崩落させられるッ!!」

『ッ!?』

 

 ベートを担いだまま、巧は座り込んだ冒険者達に叫ぶ。

 そして、彼が言い終わるとほぼ同時に、赤髪の女の横殴りの一撃が大主柱に叩き込まれる。

 儚い赤光を帯びていた石英(クォーツ)の柱にたちまち竜の爪痕のような巨大な亀裂が生じ、罅が天辺まで上ったかと思うと、次には甲高い破砕音を響かせた。散々利用されて摩耗していた大主柱は、その一撃で容易く倒壊してしまう。

 それに連動するように食糧庫(パントリー)の天井が崩れ始めた。

 

「悪い!この意地っ張りの犬を頼んだ!」

「えっ!?あっ、おい!?」

「てめっ!?ふざけんな!?」

 

 たまたま近くにいたルルネにベートを投げ渡すと、宙に跳び、上から降ってくる岩石の雨を冒険者達の頭上から遠ざけるように捌く。

 殴り飛ばし、蹴り飛ばし、粉砕し、守り通す。

 その間も巧は考えていた。あの女は、本当に頭の回転が速い、と。彼女はおそらくアイズの手に剣が戻った段階で、この状況を作ることを考えていたのだろう。早々に敵わないと判断して。

 巧は考えが甘かったと歯噛みする。そして、続けて聞こえた言葉によって、自分がしばらくは彼女と関わることは無いかもしれないとも考えた。

 

「『アリア』、59階層へ行け」

 

 今の自分では、実力不足だ。それに、自分がそこへ行ってもきっと意味がない。そう確信した巧は、岩石の処理に集中する。

 

「一先ずは十分です!こちらへ!」

「了解した」

 

 アスフィが巧にそう声をかける。それを聞いた彼は短く返事をすると、降ってきた岩石を蹴り飛ばした反動でアスフィ達の元へと退避する。

 

「おい、【剣姫】!」

「アイズ、急げ!」

 

 そして、ルルネとベートが大空洞の内部にいるアイズへと呼びかける。それにより出口に集う彼らの元へと走り出す。

 彼女は途中、背後を振り返り赤髪の女の方を確認するが、落石でその彼女の姿が消えるまで見続けていた。

 やがて、怪我人を担いで崩落する迷宮から一同は退避する。

 

 この日、24階層の食糧庫(パントリー)は崩落した。

 

 冒険者の一行は、それに巻き込まれることなく、何とか脱出することに成功したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 24階層から撤収し、『リヴィラの街』で一息つくこともせずに地上へと帰還する一同。

 道すがら、巧は自身がいなかった時の出来事を細かく尋ねていた。赤髪の女の名前がレヴィスであることや、死んだはずの【白髪鬼(ヴェンデッタ)】オリヴァス・アクトが生きていたが、レヴィスによって体内の魔石を捕食されたことも。

 彼らを使っている()()は死者すらも利用できる存在なのか、と考え人知れず戦慄していた。おそらく誰もが口には出さないが、近しいことを考えているだろう。とはいえ、相手として出てくるのはきっと、オリヴァスのような下種しか出てこないのなら気兼ねなく殺せる、と巧は楽観的に考えた。

 そんなことを考えながら地上へと帰還する道中で、彼はアイズから話しかけられた。

 

 

「あの……」

「……?なんだ?」

 

 声をかけられて彼女の方へと巧は振り向く。彼女は巧が良く見慣れた緑玉石(エメラルド)色のプロテクターを手に持っていた。

 

「これ、君のところの子が落として……」

「……ああ、拾ってくれたのか。エイナあたりにでもベルを助けてほしいと頼まれたか?その際に落としていったか」

「うん」

「そうか……。他所の【ファミリア】なのに悪かった。感謝する」

 

 巧はアイズからそれを受け取ると、微笑を浮かべながらプロテクターを見つめる。その様子に彼女は首を傾げてしまう。

 

「もう、随分とボロボロだな。つい此間(こないだ)与えたばっかだと思ったんだが……」

 

 くつくつ、と巧は一人含み笑いを上げ、ベルが努力し成長していることを喜ぶ。

 しかし、アイズは彼が笑っている理由が分からずに首を傾げ続ける。

 

「うん。改めてありがとう。もし何かあれば言ってくれ。この恩を返す必要があるからな」

「……でも―――」

「以前のことを気にすることは無い。あれはあれ。これはこれ、だ」

 

 巧は微笑のままアイズと話す。彼は柔らかく言っているが、その言葉は強く、芯があり、早々曲げることが無いことはアイズでも察せた。そのため、それ以上は何かを言うことは無く、静かに頷いて了承した。

 

「なら、さっさと地上に帰るとしよう。今回の件の報告は早急にすべきだろう」

 

 コクリ、と巧の言葉にアイズは小さく頷き、足を進め始める。

 その後、冒険者の一行はその日のうちに地上へと帰還することができた。

 




今日の巧メモ
・人として:冒険者依頼達成!
・武人として:……疲れた。
・研究者として:できれば研究してみたかった。


以下クレジット

「量子歩法」は”Kwana”作「SCP-710-JP-J」に基づきます。
http://ja.scp-wiki.net/scp-710-jp-j

「鰒猫拳」は”sakagami”作「INTRODUCTION OF 財団神拳」の「新たな奥義」欄に基づきます。
http://ja.scp-wiki.net/sakagami006-portal-of-foundation-shinken

「共振遠当て」は”Kwana”作「SCP-710-JP-J」に基づきます。
http://ja.scp-wiki.net/scp-710-jp-j

「テレポ遠当て」は”Kwana”作「SCP-710-JP-J」に基づきます。
http://ja.scp-wiki.net/scp-710-jp-j

「量子指弾」は”sakagami”作「INTRODUCTION OF 財団神拳」の「新たな奥義」欄に基づきます。
http://ja.scp-wiki.net/sakagami006-portal-of-foundation-shinken

「共振脚衝」は”Indigolith”作「INTRODUCTION OF 財団神拳」の「新たな奥義」欄に基づきます。
http://ja.scp-wiki.net/sakagami006-portal-of-foundation-shinken

「臨界パンチ」は”sakagami”作「INTRODUCTION OF 財団神拳」の「新たな奥義」欄に基づきます。
http://ja.scp-wiki.net/sakagami006-portal-of-foundation-shinken

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