ダンジョンにSCP-710-JP-J伝承者がいるのは間違っているだろうか 作:猫屋敷の召使い
24階層の事件から三日後の朝。
その間、巧は忙しなく動いていた。
まず24階層の調査の依頼の件だが、巧はフェルズに直接会って報告した。それが終わると彼から一本の鍵を渡された。ノームの貸し出し金庫の鍵とのことで、そこへ向かい鍵が合った689番の金庫を開けると、中には様々な色の貴石に、金銀の指輪、数冊の
次に【ソーマ・ファミリア】の改革の件だ。
巧の予想通り、ギルドからの忠告を受け『
そして、この恩で巧はリリルカ・アーデの引き抜きを締結させる。時機は巧の方から申し出たタイミングで
それと、件のベルのサポーターのリリルカ・アーデだが―――
「―――まぁ、というわけで【ソーマ・ファミリア】の件は俺がどうにか手回しして、ザニスは団長から解任、牢へと入れられた。問題行動が目立つ輩も追放処分。とはいえ、そういった奴らがもう狙ってこないとは限らないから、リリルカちゃんにはもう暫く身分を隠してもらわにゃならんけど」
大丈夫かな?と首を傾げながらカフェの白いテーブルを共に囲んでいる彼女、現在は獣人の子供に姿を変えているサポーターに問いかける。それに対して彼女は頬を引き攣らせながら聞き返す。
「……い、一体いつからリリの引き抜きをお考えに……?」
「さあ、いつでしょう?ま、ある時からずっと【ソーマ・ファミリア】に手を加えていたんだよ。弱みがある奴ほど制御しやすいからね♪」
君みたいな、ね?と、さらっと恐ろしいことを笑顔で口にする巧に、もう一段階リリルカは頬の引き攣りを大きくする。
何かすれば集めた情報をふんだんに活用して脅す。そんなことを言われて彼女の背中に寒気が走った。
「もう少し事態が落ち着いたら、神ソーマに頼んで
「は、はぁ……」
「それと今後の寝泊まりは俺達のホームですること」
「えっ……?」
「そのほうがベルのサポーターとして面倒がないし」
「……」
リリルカは沈痛そうな表情を浮かべ、自分の心中を話そうとする。が、そこに最後の待ち人が三人の下へ姿を見せる。
「おーい、タクミ君!ベル君!」
「あ、ヘスティア様ー。こっちこっちー」
巧達の主神ヘスティアが、三人で囲んでいるテーブルに駆け寄ってくる。
「お待たせ。すまない、待ったかい?」
「まさか。それよりもバイトはどうにかなった?」
「ああ、平気だとも。それより……彼女が?」
「あ、はい。この子が前に話した……」
「リ、リリルカ・アーデです。は、初めましてっ」
向けられる視線にリリルカは慌てて椅子を降りて一礼する。
ヘスティアがこの場に同席することになったのは、彼女自身が言い出したことだった。
彼女の真意は明らかだ。自分の眷属に関わるサポーターをこの目で確かめようとしている。その事には巧も反対しなかった。むしろ賛同した。嘘を見抜ける『神』という存在はこういった場では大きなアドバンテージとなる。そのため、巧は特に何かを言うことなく彼女の同席に賛同した。
「さて、全員揃ったわけだが、ヘスティア様の椅子が無かったね」
「ああ、気にしなくていいよ!この客の数だ、代わりの椅子もないだろう!ボクはタクミ君の膝の上に座らせてもらうよ!」
「そう?じゃあ、はい。いいよ、ヘスティア様」
ヘスティアが座りやすいように椅子を軽く引き、深く腰掛けて軽く手招きをする。その対応にヘスティアはツインテールを踊り狂わせながら、満面の笑みを浮かべながら意気揚々と巧の膝へと座る。しかし、身長差がほとんどない二人だ。巧は何とかヘスティアの肩に顎を乗せることで、辛うじてリリルカの方を見れるようにすると、手をヘスティアの腹に回して固定する。
「さて、こんな格好で悪いけど、話を進めようか。リリルカちゃんも椅子に座り直して」
「は、はい……」
真面目な話をする体勢でないことを一番理解している巧が口を開く。リリルカは何かを察したのか口を噤み、何を言われてもいい様に覚悟を決め、表情を引き締める。
「まずは……と、言いたいけど……ベル、悪いけど席を外してもらっていいかな?ちょっときつい質問やベルに聞かせたくないことも含まれてるから」
「はぁ……わ、わかりました」
「なんなら何か注文してきてもいいよ。此処は奢るからさ」
巧の申し出を受け入れて、ベルは席を立ってその場から離れていく。途中途中でリリルカを心配するように何度も彼女の方に視線を向けていたが、それを見送った巧はリリルカの方に視線を戻して、口を開く。
「それじゃあ、まず先に言っておく。俺はお前に安い同情なんぞぶつけるつもりはない」
「―――っ」
はっきりと巧は口にする。
「もちろん、目を見れば心を入れ替えたというのは理解できる。今までの状況から抜け出せて、重圧から解放された。そう見える。だが、今度はベルの優しさのせいで、罪悪感に押し潰されそうになってるだろう。罰を欲しているのに、ベル自身はそれを与えてくれはしない。それほどまでに、優しいからだ」
「……」
巧の言葉にリリルカは軽く顔を伏せる。
その通りだ、と心の中で呟く。巧もそれを分かっていて特に返事は求めない。
「だから、俺とヘスティア様からお前に贖罪の機会を与える」
「―――」
「傲慢かもしれんがな。人が人を裁くなど。ま、そのために神であるヘスティア様と協議したんだけど」
リリルカは驚き、すべてを見透かしているかのような黒い瞳を真っ直ぐ見つめてしまう。そのせいで軽く委縮しながらも、巧とヘスティアの方に顔を向ける。
「お前はベルのサポーターとして、誠心誠意働き、彼の面倒を見ること」
「……えっ?」
「これは俺とヘスティア様の決定だ。これを反故にするようならば、二度と救いの手は伸ばさないものとする」
「……」
「お前は、ベルと違い社会の裏を少しなりとも知ってる者だ。だからこそ、あいつが騙されないようにしっかり見てやって欲しい。本来ならばもっと厳しくしたいが、ヘスティア様からの進言もあって、この程度で
「……はいっ……わかりました……!」
震える声で、けれどもしっかりとした彼女の返事に、満足したように巧は頷く。
「ではこれにて、【ヘスティア・ファミリア】主神ヘスティアと、その眷属タクミ・カトウの両名は、リリルカ・アーデのパーティの加入を正式に認める。……彼のことをよろしくね?」
鋭い視線と厳しい口調をやめて、巧は彼女に優しく微笑む。
そしてヘスティアの肩に顎を乗せたまま、更に脱力して悩ましげに息を吐く。
「あとは、
「そう、ですね。それぐらいならリリも問題ありません。でも、ベル様達のホームにお邪魔してもよろしいんですか?いらぬ火の粉が飛んでくるのでは……」
「むしろドンと来い。そういう奴らを見せしめにして、リリルカちゃんに手出しさせないようにするのが目的だし。『この馬鹿どもみたいになりたくなければ、二度と手を出してくるな』的な?」
「「………」」
ヘスティアとリリルカの両名に若干引かれる巧だった。が、それでもヘスティアだけは巧の膝の上を満喫出来、終始にやけ顔だったが。
その後、戻ってきたベルと共に注文した飲み物や軽食を堪能すると、カフェを後にした。
一通りやることを終えて、一息つけた巧はギルドへと足を向けていた。エイナにベルのことで礼を言うためだ。自身がいない間に一悶着あったのは、アイズから渡されたプロテクターを見れば、一目瞭然だ。
「……あのクソジジイ。『最近、腑抜けてますね』とか言って、ちょっとだけ本気出してんじゃねぇよ」
「ははは……」
そう一人溢す巧の身体は傷だらけだった。痣が身体中に見え、口の端からは血を流していた。服こそ着替えているものの、身体はまだ少し汚れが見える。致命的なものこそないが、痛々しいまでのそれは、彼の身体にまだ鈍痛が残っていた。
カフェでヘスティア達と別れた巧はベルを引き連れて移動していたのだが、途中で幻影の天野博士が巧を攫って、
しかし、傷を負ったのならば
そんな怪我を負っている巧の傍にはベルがいて、何とも言えない表情で付き添っていた。
道行く人達も巧を見ては怪訝そうな表情をしている。しかし、それを気にした様子もなくしっかりとした足取りでギルド本部内へと足を踏み入れる二人。そのまま真っ直ぐエイナが担当している窓口へと向かう。
「エイナー」
「あら、タクミく―――ッ!?」
巧の呼びかけにより彼の方を見たエイナは目を見開く。まぁ、担当している冒険者が全身傷だらけならばそうなるだろう。
「そ、その傷、どうしたの……?」
「……あぁー……師匠に喝を入れられただけ。気にしないでいいよ」
どう言えばいいのか、数瞬だけ迷った後に、未だ口の端から垂れてくる血を指で拭うと、素直に口にする。エイナはそれを聞いて微妙な表情を浮かべる。ベルはそんな彼女の表情を見て苦笑する。きっと自身も聞いた時はこんな表情だったのだろう、と頭の隅で考えた。
「それで、今日はお礼を言いに来たんだ」
「お礼……?」
「ベルのこと、気にかけてくれてありがとう。エイナがアイズさんに頼んでくれなきゃ、ベルは危なかったからさ。本当なら俺が何とかしなきゃいけないはずなのにさ。今回は本当にありがとう」
ほら、ベルも。と言ってベルを前に出させて彼女に一緒に頭を下げさせる。その二人の様子にエイナは慌てだす。
「ちょ、ちょっと……!?私は別に、大したことはしてないわよ!だから頭を上げてちょうだい!」
「いや、実際エイナが行動してくれなきゃ、多くが手遅れになるところだったから、どうしてもお礼が言いたかったんだ」
ま、上げろというなら上げるけどさ。と言って巧は頭を上げる。隣のベルもそれに倣う。
「さーて、あとはアイズさんかぁ」
「私から伝えておこうか?」
「いえ、僕の方が直接お礼を言いたいので……」
エイナが二人にそのような申し出をするが、それをベルが断る。助けてもらった時は急いでおり、まともに礼も言えずに走り去ってしまったため、しっかり面と向かって伝えたいのだろう。
「なんてったって、所属が【ロキ・ファミリア】だから、【ヘスティア・ファミリア】の俺らじゃ、拠点に行っても神ロキが出張ってきて門前払いだろうしなぁ……。そのうえ塩も撒かれそうだ」
さて困ったぞ。珍しく困り顔の巧がカウンターに頬杖を突きながら、どうすべきかと悩み始める。
そうして悩んでいると、ギルド内に今まさに求めていた気配が踏み入れてくるのを感じ取る。
「ジャストタイミーング!」
ガバッ!と上体を起こして、巧はギルドの入り口の方へと振り返る。その行動にベルとエイナも入り口の方を注視する。
そこにはベルが感謝を伝えるべき相手であるアイズ・ヴァレンシュタインがいた。彼女も巧達の姿を認識すると、真っ直ぐ向かってくる。
「やっほー、元気そうだねー」
「そっちは、そうじゃなさそう」
向かってくる彼女に巧は暢気そうに挨拶をする。対してアイズは怪我をしている彼を見てそう返してくる。
「気にしないでー。これは俺の自業自得だからー」
「そう……」
「それよりもアイズさんに用事があったんだー」
「私も、貴方に用があって」
だから、ここに来た。と続けるアイズに思わず巧は首を傾げてしまう。確かにここに来れば自分に会える可能性は高いだろう。だが、自分に用があるとは一体何だろうか、と。
「あー、先にこっちの用を済ませてもいい?」
「うん」
「じゃあ、ベル」
「は、はい!」
アイズの了承を得た巧がベルを前に押し出す。彼女の前まで歩み出たベルはしっかりと見据えて、口を開く。
「あの、10階層では助けてくれてありがとうございました!」
「……こちらこそ、酒場では私の仲間が、ごめんなさい」
「い、いえ!あれはタクミさんが代わりに怒ってくれましたから……!」
「でも……」
「あの
頭を下げるのはベルだけのはずが、何時の間にかベルとアイズがお互いに頭を下げる光景が作られていた。
このままでは収拾がつかなくなりそうだと思った巧が、手をパンパンと二回ほど打ち鳴らし、その状況をやめさせる。
「はい、そこまで」
二度の破裂音に二人は口を閉ざして、その発生源である巧に視線を向ける。そんな両者の目を見つめながら巧は更に口を開く。
「お互いに受け入れてもらえたんだからそれ以上話を広げない。堂々巡りになると面倒だから」
「「……」」
巧の言葉に口を閉じて彼の方を見やる二人。そんな両者の様子に満足したように一つ頷く。
「よろしい。それで、アイズさんの用件は?」
「……うん」
巧の言葉に彼女は何か覚悟を決めるかのように頷くと、巧の目をしっかりと見つめて切り出した。
「私に、格闘戦を教えて欲しい」
「…………………………はい?」
そして、何故か。
『第三級冒険者』である巧は。
『第一級冒険者』のはずのアイズに師事されることになった。
今日の巧メモ
・人として:やるなら徹底的に!
・武人として:なんで俺が教えにゃならんのぉ……?
・研究者として:ザニス?えぇ、彼は実にいい試料でしたよ。
一段落したので次回の投稿は最短でも二週間後です。遅くても一か月後の同じ時間(水曜日の18時)です。書き溜めがヤバいから。あと展開もじっくり考えたい。
それではまた次回!
以下クレジット
「元素功法」は”sakagami”原案及び”Central_ECH”改稿「INTRODUCTION OF 財団神拳」の「新たな奥義」欄に基づきます。
http://ja.scp-wiki.net/sakagami006-portal-of-foundation-shinken