ダンジョンにSCP-710-JP-J伝承者がいるのは間違っているだろうか 作:猫屋敷の召使い
二週間挟んでの投稿です。
いろいろと忙しくなり、執筆時間が取れずに苦しんでいる作者です。
あと戦闘描写めっちゃシンドイ。
本編どうぞ。
第三八話
アイズから指導を乞われた日から翌日。
いつもと同じ時間帯に起床した巧はベルを引き連れ、道中でヴェルフを拉致すると、北西寄りの都市の外縁部、巨大な市壁の上へと来ていた。
早朝なのは巧とベルの都合。市壁なのは有名人であるアイズのことを慮ってのことだ。
「つーか、なんで俺まで……」
「俺がベルの相手をできないから、その代わりだよ。それにヴェルフは素早い相手が苦手だから丁度いいでしょ」
「だからって有無も言わさず連れ出すんじゃねぇよ……」
ふわぁ、とヴェルフは大口を開けて欠伸する。そんな彼の様子をクツクツと含み笑いしながら、巧は見つめる。
ベルを助けてもらった借りがあるために、アイズの申し出は断りづらく、渋々ながら承諾した。だが、そうするとベルの相手がいなくなるために、ついでとばかりにヴェルフを連れ出したのだ。
「いい機会だから別の人との対人戦も少しぐらい経験させようと思ってねー」
「まぁ、別にいいけどよ。かなり世話になってるし、お前が無駄なことをするとも思えないしな」
「………なんか随分素直だね?熱でもあるの?」
「ねぇよ!俺が少し素直になったらこの扱いかよッ!?」
「冗談だよ、冗談」
ヴェルフを揶揄って、暇を潰していると、最後の一人が市壁へと到着する。
「少し、遅かった?」
「いや、そんなことはないよ。こっちがちょっと早かっただけ」
じゃ、始めようか?と三人に声をかけて、それぞれが準備を始める。が、ヴェルフに向かって巧は声をかける。
「あ、ヴェルフ」
「……?なんだ?」
「ベルと戦う時は殺気を増し増しでお願い。打撃は容赦なく撃ち込んでいいよ。いつもそういう風にやってるから」
「……わかった」
巧の言葉にヴェルフは素直に頷いて、すぐに準備を進める。
「アイズさんはとりあえず俺と模擬戦、ベルはヴェルフと模擬戦。致命傷は避けて、致命傷となる部位への攻撃は寸止め。そしたら一度仕切り直して再開して」
「はい」
「おう」
「じゃ、そっちは始めてて」
ベルとヴェルフの返事を聞いた巧は、自分の担当であるアイズへと向き直る。
「さて、まず聞きたいんだけど、教わりたいのは純粋な格闘戦?それとも武器を持った状態での体術なのかな?」
「できれば、両方」
「そっか、わかった」
アイズの返事を聞いた巧は、持って来ていた荷物から安物の片手直剣を取りだすと、右手で握って正眼に構える。
それを見た彼女も愛剣を抜いて、同じく正眼に構える。
二人の間にピリピリとした空気が流れ、互いの戦意が高まっていく。
「ふっ!」
「っ」
先に動いたのは巧だった。
駆け出して、剣を中段から下段に下げ、近づいたとともに斬り上げる。
アイズはそれを落ち着いて剣で弾こうと身体を動かす。だが、巧は剣を振る腕で上手く隠していた左拳で腹部を狙う。
彼女はその攻撃に目を見開き、左手でその拳を受け止めようとするも、嫌な予感を感じて後ろへと飛び下がる。
その判断は正しい。もしそのまま受け止めようものなら、巧に手首を摑まれ、投げられていただろう。
巧は彼女の動きに合わせて、剣を振りきらず、再び地面を蹴って突きへと移行させる。
アイズもまた巧の動きを見切り、剣で軌道を反らしながら、蹴りを放ってくる。しかし、彼女の蹴りは巧の目から見ればまだまだ拙く、力を込められていない軽いもの。それこそ【ステイタス】頼りのものだった。だが、技術も何もないものの方が、下手にあるものよりも避けづらい。でも、重心も軸もしっかりしていない蹴りだ。対処自体はいくらでもできる。
巧はその蹴りを
その一回転する際に、彼女の視界から巧が消えた瞬間。彼は瞬時に接近し、剣で斬りかかる。しかし、それを感じ取ったアイズは背面で剣を構えて受け止める。そのまま数度の剣戟を繰り広げると、アイズは体勢を整えて地面へと降り立とうとする。
そして、着地する瞬間。
巧は彼女の足を刈り取った。
剣に意識を割いていて、ましてや地面に降りる直前に足を払われたのだ。表情を驚愕に染めて、左手を地面に突いて体勢を整えようとするが、既に首元には巧の剣がそっと添えられていた。
「まずは、一本」
「……うん」
「とはいえ、少し休憩させてくれ。流石に第一級冒険者との戦闘は神経が磨り減り過ぎる」
模擬戦が終わると同時に急激に汗をかき始めた巧が、持って来ていた荷物から
その間に、アイズは目を閉じて先ほどの戦闘を反芻する。
どうすれば良かったのか、どこが悪かったのか。そんなことを考えながら思い返す。
しかし、巧がそれを邪魔するように声をかける。
「反省は後にしろ。お前は単純な経験不足だ。今までずっとモンスターばかりを相手にしてきたせいで、対人戦の経験が薄いんだ。考えたところで、大した問題点は見つからないだろう。今はとにかく数を増やす。ほら、次をやるぞ」
「……うん」
剣を構えた巧に向かい合い、アイズは再び剣を構える。
得意な戦闘で負けてしまっては立つ瀬がないため、必死になった巧はなんとか負けることなく、その日の修練を無事に終えた。
巧は肩を回しながら、身体の節々をほぐす。
市壁から場所は変わって、いつも修練に使っている空地に巧はいた。
そこにベルやヴェルフ、アイズの姿はなく、巧一人だけがそこに立っていた。
ベルはリリと共にダンジョン。ヴェルフは思いの外疲れたのか、自身の工房で休んでから鍛冶をするようだ。アイズはホームである『黄昏の館』に戻った。彼女自身は一日中やりたがっていたようだが、今日は少し巧の事情で切り上げさせてもらった。
「さーて、今日もボコられますかぁ……」
腕の腱を伸ばしながら、突如として現れた幻影の天野博士に立ち向かっていく。勝てる未来が一片も見えない中。
言うまでもなく天野博士にズタボロにされた巧は、それ以降は奥義の復習だけを行い、就寝した。
そして翌日。
前回と同じように市壁の上に集まった四名。
「じゃ、昨日と同じように」
「はい!」
「おーう」
ベルとヴェルフは巧とアイズから距離を取ると、早速組手を始める。それを見届けた巧はアイズへと向き直り、剣を構える。
「んじゃ、こっちも始めようか」
「……うん」
昨日とは違い、ほぼ同時に駆けだし、互いの剣が交差する。
一戦一戦が長く、決着が中々つかないほどに、この試合は拮抗していた。
アイズはLv.6の【ステイタス】がある。
だが、巧は鋭すぎる五感と経験則と技術を持っている。
その結果、アイズとの差が埋まってしまっている。
しかし、彼女はまだ余裕があるように窺えるが、巧はあまり余裕がなかった。
純粋な近接戦闘術での試合だ。彼女は魔法の使用が禁じられているが、対する巧は最も得意とする『
ただ、巧は天野博士を相手取るよりは簡単なように感じている。……そもそも普通の人間である天野博士がなぜ、Lv.6冒険者を超える動きをしているのか甚だ疑問ではあるが。
そのうえ、彼女は呑み込みが早く、数を重ねる度に身体の使い方が上達していっている。巧はそのセンスに戦慄しながらも、口角を上げて戦っている時間を楽しんでいた。
「いやはや、末恐ろしいなッ!昨日の今日で上達が早すぎるんじゃないかッ!?」
「そう?……もしそうなら、嬉しい」
「ヒハハッ!無自覚か!ならお墨付きを出してやるとも!昨日とはまるで別人だとなッ!!」
でも、まだ負けるつもりはない。
巧は剣で彼女の剣を絡め取るようにして、上へと打ち上げる。アイズはその事に少し動転したような様子を見せるも、すぐに体勢を整えて、蹴りを打ち込んでくる。
しかし、悲しいことに放たれたそれは、昨日と同じく軸も重心も僅かとはいえずれているお粗末な代物だった。
彼は簡単に受け流すと、首元に剣を突きつける。
「なんとか、俺の勝ちだな」
「……」
そういってから巧は首元から剣を離して、
その間にアイズは何が悪かったのかを振り返る。今日は一戦一戦、反省点や問題点を考える時間が巧から与えられている。流石の呑み込み速度のため、解禁したのだ。
だが、それでも最後の蹴りの何が悪かったのかを理解できていないようだった。
「アイズ、お前は剣を手放すな」
「……?」
「お前の身体は完全に『剣士』としてのものだ。剣を握っていないだけで身体のバランスが崩れてしまっている。あまり意識していない重さだろうが、もう既に身体の一部のような役割を剣が担ってしまっている。剣込みでの重心や身体の軸が身体に染み込んでいる。それを今から矯正し直すのは無理だ。変に弄ったら両方とも悪化するかもしれないからな。だから、お前は戦闘中、絶対に剣を手放すな。手放すぐらいならお前自身が剣と一緒に跳べ。その方が良いだろう」
一体いつ拾ってきたのか分からないが、そう話す巧の手には先ほど飛ばされた《デスペレート》があり、柄をアイズへと差し出していた。
それを静かに受け取ると、立ち上がって構える。
「……」
「その意気やよし。では、続きをやろう」
巧が言い切る前に、既にアイズは駆けだして、斬り込んできていた。
それでも負けるわけにはいかず、身体全部を使って攻撃、防御、回避を行っていく。
また、長い一戦が始まった。
決着がつけば、小休止を挿み、また戦う。
そうして太陽が中天を通り過ぎるまで、それが続いた。
既に市壁の上には巧とアイズの二人しかおらず、朝陽が顔を出したころには、ベルはダンジョンに、ヴェルフは工房へと向かってしまっている。
「……流石に、疲れるな」
「……ごめんなさい」
「まったくだ。本音を言えば、なぜLv.2であるはずの俺が、数値で言えば圧倒的に格上なLv.6冒険者を指導せにゃならんのだ」
「……………」
巧の本音を聞いたアイズが申し訳なさそうに顔を伏せる。
そんな彼女の様子を見た巧は、クツクツと笑い声を上げる。
「そんな顔をするな。別に責めているわけではないからな。こちらも楽しませてもらっている。俺は戦闘だけが生きがいのような、つまらない人物だからな。こうして制限をかけた戦闘というのも、中々スリルがあっていいものだ」
「……君は、変わってるね」
「あははっ!よく言われる!アンタに言われるとは俺も相当なようだッ!」
お前でもそう思うのか。と、何が面白いのか分からないが、巧は一人でゲラゲラと大口を開いて、大きな笑い声を上げる。
「そっちはそういうことはないのか?戦っているときに勝手に口角が上がったり、気持ちが昂ったりは?」
「あまり、ないかな」
「ハハッ!そうか!ないか!そいつは残念だッ!」
戦闘が終了しても、未だに気分が高揚してるのか、彼女の一言一言の後に大きく笑う。
「でも、俺と戦っているとき、俺を負かせようと躍起になっているんじゃないか?」
「……うん」
「攻撃が当たらないからって意地になって、どうにかして当てようと必死だろう?」
「……そう」
「ならばそれでいい。そういった感情が新たな発想を生んでくれる時もあるからな」
市壁に寝転がった巧は、青く澄んでいる空を見上げながらそんなことを話す。
「君も、そうだったの?」
「……否定はしない。だけど俺の場合は『好きこそ物の上手なれ』みたいなのもあるからなぁ」
人生を振り返って、しみじみとしながら巧は答える。
始まりは憧れ。
途中からは殺意。
現在は守るため。
その全てに含まれていたのが、ただ好きだったから。鍛えてるうちに、自分の成長が実感できるのが嬉しかった。楽しかった。だから、只管に没頭した。
その結果が今の巧だ。
「ま、俺は楽しければどうでもいいんだけどな。強い奴と戦ったり、未知のものを調べたりとかな」
そこまで言うと、巧は上体を起こして腕を上げて、身体を伸ばす。
「んじゃ、次で今日は最後にしよう。流石にそれ以上は俺の身体が持たない」
「わかった」
今まで同様、互いに剣を構えて、次の瞬間には駆けだす。
本日最後の、長い長い一戦が火蓋を切った。
だが、今まで少し違うのは、巧だけでなく、アイズの口角も少しながら上がっていたことだった。
今日の巧メモ
・人として:俺は自覚のある変人です。
・武人として:たーのしー!
・研究者として:特に特筆すべき点はなし。
次の投稿は一週間後の同じ時間です。
クレジット無し。