ダンジョンにSCP-710-JP-J伝承者がいるのは間違っているだろうか 作:猫屋敷の召使い
鍛錬三日目の午後。
ベルは既にリリルカと共に
巧もアイズとレフィーヤを連れてある場所に来ていた。
「―――というわけで、レフィーヤさんを指導してくださる特別講師、【ディオニュソス・ファミリア】団長のフィルヴィス・シャリアさんでーす。はい、拍手!」
パチパチパチ、と巧が手を鳴らす。アイズも控えめであるが手を鳴らしている。しかし、レフィーヤとフィルヴィスだけは状況が呑み込めずに唖然としている。
ここは北のメインストリートにあるオープンカフェ。そこのテーブルを囲んでお茶を飲んでいた。
「ど、どういうことですか……?」
レフィーヤは暫くしてようやく冷静になって、一体この状況は何なのかを巧に尋ねることができた。
「いやー、これ以上教えられることも無いし、やっぱり『並行詠唱』は本職に聞いた方が良いかなーって。ということで、面識があって同じエルフ、そのうえLv.3である彼女を拉致、じゃなくて、誘拐してきましたー」
「言い直せてないですよ!?」
巧の説明を聞いて突っ込みを入れずにはいられなかったのか、レフィーヤは椅子から立ち上がる勢いで叫ぶ。
彼はそれをものともせずにケーキを頬張る。
「以前から神ディオニュソスの方には伝えてあるから大丈夫ー。彼女の方も暇そうだったし」
「いや、確かに時間はあったが……」
フィルヴィスの方も何とも言えない表情でお茶を飲んでいる。
彼女は【ディオニュソス・ファミリア】で神ディオニュソスと談笑しているところを、横の
その結果が今に至る。
「というわけで、レフィーヤさんをお預けしまーす。『並行詠唱』の指導をよろしくー」
「……まぁ、構わないが……ディオニュソス様も先日の件で他の者に話を聞きたいと言っていたからな」
そんな彼女の言葉を聞いた巧は、全員分の代金を置いて店を後にする。アイズも二人に対して軽く会釈をしてから、巧を追ってその場を去っていく。
その二人を見送って、残されたレフィーヤとフィルヴィスの二人は紅茶とケーキを楽しんでから店を出て、神ディオニュソスの下に向かった。
レフィーヤとフィルヴィスの二人と別れ、市壁の上へと再び戻ってきた二人は、剣を構えて対峙する。
「先手はどうぞ?」
「……」
そういって微笑を浮かべる巧に、アイズは剣の柄を握る力を少し強めると、地を蹴って急激に距離を詰めていく。巧は彼女の動作から目を離さず、一挙手一投足を逃さず観察する。
巧に接近したアイズは下に構えていた剣を振り上げる。そのことを予想していた巧は既に軌道上に置いていた剣で受け止めようとするが、突然剣の軌道が曲がり、彼の剣を避けるようにして巧の身体へと差し迫る。彼女がしたことに驚きながらも、巧は上体を反らし、そのまま後ろへと転回して距離を取る。
「……怖っ。こんな短期間でそんな芸当を覚えるか、普通?」
「……君に、勝ちたいから」
「いや、そもそも魔法ありにしたら俺に勝ち目はないんだが……」
巧は冷や汗を流しながら、アイズの成長ぶりに慄きながらも、彼の口は弧を描いていた。
そして、今度は巧の方から近づいていく。地面すれすれまで体勢を低くし、顔までも地面に擦りそうになりながら突撃する。足首を狙って剣を横振りで振り切ろうとする巧の攻撃に、アイズは後ろへ跳んで躱すが、巧も詰め寄って追撃を行う。巧の超低姿勢からの連撃の対処に、アイズは悪戦苦闘しながらもどうにか凌いでいくが、少しずつ余裕がなくなっていく。
そこから均衡が崩れるのは遅くなかった。
「……そろそろ危ないだけど、まだ、今日のところは負けるつもりはないかなぁー」
「……むぅ」
胴に剣を当てながら、巧が勝ち誇ったように宣言する。それを聞いてアイズは悔しそうに唸って、剣を下ろす。
「少し休憩したら、再開するとしよう」
「……うん、わかった」
その後も市壁の上で二人による剣戟の音が響いていた。
日が沈み、街灯の明かりが道を照らす頃に、巧はアイズとの模擬戦を終え、本拠へと戻ってきた。
「ただいまー」
「おかえり、タクミ君!」
本拠にいたヘスティアが言葉に返す。既にベルとリリルカも帰っており、夕食の準備を進めていた。
「二人とも、おつかれー。
「あ、はい。無事に終わりました、けど……」
ベルの歯切れの悪い返事を聞いた巧は、首を傾げながら問いかける。
「どうかした?」
「えっと……その……」
「ベル様。言い難いでしたらリリから話しますが?」
「……うん。お願い」
ベルはどう伝えたらいいのか分からず、最終的にリリルカに任せることにした。
「ナァーザさんに依頼のものを届けて達成報告をしたのですが、その報酬に渡された
「……」
リリルカの話を聞いて、額に手を押し当てて、頭痛を誤魔化そうとする。
「アイツ……まだそんな阿漕なことしてんのか……。こんなことなら俺が受け渡しに行くべきだったな。悪い、俺が浅慮だった」
「い、いえ!タクミさんのせいじゃ―――」
「待ってください。まだ?まだって言いましたか?」
「言った」
リリルカの疑問を巧は素直に肯定する。それに三人はまさに三者三様な反応を示す。
ベルは愕然と驚き、リリルカは予想していたのか溜息を吐いて呆れ、ヘスティアは怒りを顕わにしていた。
「タクミ君は、知っていたのに何も言わなかったのかい?」
「無論、その事は咎めたとも。それでもバレると分かっていて俺に売りつけるんだから図太いよなぁ……。まぁ、結局不良在庫として買い取ったし……金額も増して払って、良いカモしてたと思うんだけどなぁ……俺以外にしないように釘刺しときゃよかったかぁ……」
あぁー、マズったなぁ。と、巧は零れるように呟く。
彼の言葉を聞いた三人は口を開けて、呆然とする。
「えっ!?まさか僕に『青の薬舗』に買い出しに行かせなかったのって!?」
「ベルなら絶対不良品摑まされて来るもん」
「というか料金増やして払ってたってどういうことだい!?ボクはそんなこと聞いてないぞ!?」
「言ってないからね」
「……今回の
「それについてはノー。君らに
今回の件については、本当に巧はベル達に
「それで?結局そのあとはどうなったの?話から察するにヘスティア様とミアハ様にも知れ渡ったみたいだけどさ」
「えっと、その、ディアンケヒト様がミアハ様を訪ねてきまして……」
「おっけ。理解した。そこは飛ばして。というか結論を言って」
「……新しい
そういって、ベルは一枚の羊皮紙を差し出してくる。そこにはこう書かれていた
【
・
・報酬:新薬の完成品。
・内容:モンスターの『卵』の採取。
・備考:『一緒に頑張ろう。よろしく(タクミ・カトウを除く)』
「破り捨てていい?」
「「ダメですッ!!」」
「ちょっとだけ!ちょっとだけだからっ!」
「「絶対ダメッ!!」」
備考部分に書かれていることを見て、巧は反射的に手に力が入り羊皮紙の上部を両手で持つ。
それを見たベルとリリルカが彼に飛びついて、どうにか羊皮紙の奪還に成功する。その奪い取った羊皮紙を見ると、若干切れ目が入っており、本気で破る気だったのが窺えた。
「それで、俺は行かなくてもいいの?」
「えっと、できれば、ついてきてほしいかなぁ、なんて……」
「……………………………………………………」
「……ベル様。タクミ様が形容しがたい表情になっていますが……。本気で嫌がってますよ、あれ」
人とはそんな表情ができるのか、と見た者に思わせるような壮絶な表情を巧は浮かべていた。そんな彼の表情を見た三名は、つい顔を引きつらせたように痙攣してしまう。
「……ナァーザ君と仲が悪いのかい?」
「生理的に無理。相性が悪い」
ヘスティア様の言葉に巧は即座に断言する。
それを聞いて、またしても顔を引きつらせる一同だった。
今日の巧メモ
・人として:犬は好き。でもナァーザは駄目。
・武人として:魔法なんぞお門違いすぎて知るか。
・研究者として:モンスターの『卵』、ねぇ?
2018/11/28 19:27改稿
ごめんなさい。奥義名出してないから忘れてましたけど使ってました。
以下にクレジットです
「量子歩法」は”Kwana”作「SCP-710-JP-J」に基づきます。
http://ja.scp-wiki.net/scp-710-jp-j