ダンジョンにSCP-710-JP-J伝承者がいるのは間違っているだろうか   作:猫屋敷の召使い

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注:そこそこ長いです(8000文字弱)


第四一話

 ナァーザから新しい冒険者依頼(クエスト)を受注した翌日。

 アイズとの訓練四日目。

 既に彼女との訓練を切り上げた巧は、ベル達と共に手続きを終えて都市外へと出ていた。

 一同は馬車へと乗って目的地へと移動しているのだが、巧が不機嫌な気配を周囲へと撒き散らしていた。そんな彼にベルは勇敢にも話しかける。

 

「えっと、タクミさん……大丈夫ですか……?」

「あ゛?」

「ひぃっ!?なんでもないですッ!!」

 

 今まで聞いたこともないようなドスの利いた声で返答されたベルは、即座に巧から距離を取って縮こまる。

 ナァーザと一緒にいるだけでも不機嫌になるというのに、協力するとなれば瞬時に限界を突破し、苛立ちが最高潮を超えるのは自明の理であろう。

 

(ど、ど、どうするんですか、アレ!?)

(ボクらに聞くんじゃないよ!なんにせよ無理に連れてきたのは君だろう!?)

(そうですよ!タクミ様の対応はベル様にお任せします!)

 

 ベルがヘスティアとリリルカの二人に相談しようとするも、今の巧の様子を見た二人は関わり合いになりたくないのか、彼の話を一蹴する。

 

「「…………………………」」

「「「ひぃっ!?」」」

 

 彼らが巧とナァーザの方を向くと、両者は睨み合い、巧の後ろには悪鬼羅刹の、ナァーザの後ろには巨躯の狼の幻が見て取れた。その光景を見てそれぞれ身体を震わせて、身体を抱きしめ合う。馬車という閉所空間のため、逃げ場がないので、互いに恐怖を和らげようとしているのだろう。

 

「貴方は、来なくてもよかったのに。むしろ、来ないでほしかった……」

「ハッ。こっちだってお前の面を拝むのは『青の薬舗』だけで十分。大体、依頼を大した数受けたこともねぇ奴に、何のモンスターかも明記されてないモノに『はい、行ってらっしゃい』なんて言って送り出せると思ってんの?」

「外のモンスターは、ダンジョンにいるのよりも弱い。心配し過ぎ……」

「ンなこたぁ重々承知だが、生憎ベルはお世辞にも経験豊富とは言えねえ。外のモンスターがどういったものなのかもな。知っていても精々がゴブリンぐらいだ」

「私がいる……」

「ハッ。冗談だろ?Lv.2の【ステイタス】を侮っちゃいねぇが、気に食わないとはいえ、依頼者の手を煩わせるほど腐っちゃいねぇよ。そもそもお前が真面目に商売してりゃ、こんなことにはなってねえ」

「騙される方が悪い……」

「ものの見事にその不良品を見破った奴が俺を含めて二人いるが?騙せる奴すら目利きできねえなら最初からやんなや」

「それ以前に客がほとんど来ないから、来る人全員にやった方が効率いい……」

「それで糾弾されるなり脅されるなりしたら意味ないだろうが。そうなったらミアハ様にも被害が行くんだぞ。周りのこともしっかり考えて行動しろ、このダボが。俺がお前のところでカモられてやったのは、借金嫌い故のただの恩情だ。少しでも足しにしてやろうと不良在庫を引き取ってやっていたんだ。それすら理解できずに踏みにじられてよぉ……。こっちは(はらわた)が煮えくり返る思いだ」

「………………」

「………………ふん」

 

 巧にそこまで言われてようやくナァーザは押し黙り、俯いてしまう。巧もそこまで言って満足したのか口を閉じる。

 

「タ、タクミ君……御者の人もいるんだからそう言った話は……」

「金を握らせているから問題ない。それにナァーザは犯罪者予備軍であって犯罪者ではない」

「いや、現にベル君は騙されかけてるじゃないか……」

「そういう意味では加害者と被害者ということになるな。それでも未遂の範囲だ。対して犯罪者というのは社会にその人物の罪が知れ渡ることで、初めてその烙印が押される。だが、コイツがやったことを知っているのは此処にいる俺達だけだ。ならば、犯罪者ではない。それにもし、御者が口を滑らすことが心配であるなら、あとで記憶を消しておこう」

「そこまではしなくていいよ!?」

 

 巧の言葉に御者台で手綱を握り、馬を操っている御者の人は一瞬、身体をビクリと跳ねさせるも、顔は此方に向けずに前だけを向いていた。おそらく巧の方を向いたらマズいと思ったのだろう。

 ヘスティアの突っ込みで、ようやくピリピリとしていた空気も鳴りを潜め、一同を静寂が包む。

 そんな沈黙に耐えられなかったのか、ベルがナァーザに尋ねる。

 

「そ、そういえば行き先を聞いてなかったんですけど、どこに向かってるんですか?」

「……うむ。そうであったな。私達が目指しているのはセオロの密林だ。長丁場と言うほどではないが、もうしばらくはかかる」

 

 ミアハがそう答えると、ベルから視線を外して巧へと移し、声をかける。

 

「タクミは何故、そこまでナァーザを嫌うのだ?やはり騙していたからか?」

「そういうわけじゃない。別に俺は犯罪に対して忌避感は持っていない。しなければ生きていけない者もいるからな。コイツに関しても、どうせならもっとうまくやれとすら思っていた。だけどコイツは、周囲のことをあまり考えていなかった。主神への被害も、迷惑も、感情さえも気にしていない様子が気に食わなかった。それに腕が良いのにわざわざ商品を薄めるせこい真似をするのも気に食わない。結論としては全体的に気に食わない。生理的にコイツを受け付けていない」

「そ、そうか……」

 

 巧が述べた理由にミアハは口角を引きつらせながらも頷き、それ以上追及することはしなかった。

 

「腕が良い、というのは『調合』のアビリティを持っているということですか?」

「その通りだ。コイツはこんなでもLv.2だ。それに新薬の開発も行えるのだから能力はある。真面目にやれば簡単に稼げるはずなんだがな。そういうところも気に食わない」

 

 巧は顔を顰めて嫌そうな表情を浮かべる。

 

「私は、モンスターとは戦えない……」

「そんなことは既に調べがついている。その義手を付けることになった件だろう?モンスターを前にしたら震えが止まらなくなる、だったか?一種のトラウマだな。自分で戦えないのならば依頼を出せばよかっただろう。それこそ、今回のようにな」

 

 そんなことを言い訳にするな、と巧はバッサリと切り捨てる。ナァーザはそれを聞いて手を強く握り、唇を噛み、顔を俯かせる。

 

「……何があったんですか?」

「それは俺が話すべきことではない。知りたいのなら本人に聞け」

 

 ベルの問いに巧はそう告げて、再び閉口する。その様子を見たベルはナァーザへと視線を移して、目で尋ねる。それに気づいた彼女は小さく頷いて、事の顛末を話し始める。

 冒険者時代にモンスターに丸焼きにされ、四肢を食い荒らされたこと。

 食い荒らされた四肢の内、骨も残さず食された右腕は駄目だったこと。

 そして、どのモンスターでも前にすると、震えが止まらなくなること。

 

「ベルも、冒険者をやってるなら気をつけて……。失う時は、一瞬だから」

「……はい」

 

 ベルは巧からも口酸っぱく最大限に注意を払えと日常的に言われているが、ナァーザの実体験を聞き、改めてダンジョンがどういう場所なのかを再認識した。

 

「それにしてもその義手、本当によくできてるよなぁ。動かすのに支障とかはないのかい?」

「はい、自由に動かせます……」

「【ディアンケヒト・ファミリア】の主神ディアンケヒトは守銭奴ではあるが、誠実な商売をしているからな。それにミアハ様をライバル視しているようだからな。相手にする分には面倒な奴だろうがな」

「むっ?そうなのか?」

「……ミアハ様よ。他者の機微に敏感になれとは言うまい。決して言うまい。言って治るようなら既に治っているだろうからな。だが少しぐらい、それこそ身近な者には敏くなってはどうだ?貴方様がそんなんだから眷属が苦労するんだぞ?」

「む、むぅ……これからは気を付けるとしよう……」

「……近すぎるせいで気づけないのか、それともその日常が当たり前だからなのか……。ナァーザ。お前も少し、主神にはっきりと物申したらどうなんだ?文句にしろ、甘えるにしろ、言葉にしなければこの朴念仁には伝わらんぞ。苦労さえもな」

「……貴方に言われずとも、分かってる……」

「なら実行しろ。お前達は身近にいるのにすれ違い過ぎだ。そのせいでこちらが迷惑するのは今回だけで十分だ」

「「………………」」

 

 ミアハは、それだから今回の不祥事にも気づけなかったんだぞ、と言われているように感じた。

 対してナァーザは、巧に自身の恋慕がバレていることに感付き、表情を歪めていた。

 

「たしかに、ミアハ様は神様なのか、疑いたくなるほど鈍感……」

「わかります。女性として見て欲しいのですが、(こぶん)扱いされてる節がありますから」

「タクミ君は察しが良いから、ボクはそう言った思いをしたことはないかなぁ……。察しが良すぎるのもどうかと思うけどね」

「「「……」」」

 

 女性だけでひそひそと繰り広げられる内緒話にベルとミアハは顔を見合わせる。巧だけは会話が聞こえているが、聞こえないふりをしておいた方が面倒がないと考えたのか沈黙を決め込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 太陽が上空に昇りだす頃、一同は目的地へと到着した。

 オラリオから真っ直ぐ東に進んだ先に連なるアルブ山脈、その麓に広がる大森林『セオロの密林』。

 樹高が高く、幹も太い樹木が森を構成しており、野花や苔を始めとした植物の隆盛も顕著な場所だ。

 巧達は馬車から降りて、各々がそれぞれの荷物を背負う。

 雇った御者には森から離れた場所で待機しているように言いつけ、密林へと足を踏み入れた。

 

「モンスターの『卵』を、取りにいくんですよね?」

「そう、ドロップアイテムとは違う、モンスターの『卵』……」

 

 今回の冒険者依頼は、この密林でのモンスターの『卵』を入手すること。それを材料にして新薬を製作し、その完成品を報酬として受け取る。

 いま世界中にいるモンスターの起源は『ダンジョン』へと帰結する。地上にいるものは遥か古代に地上へと進出し、繁栄したモンスターの末裔たちだ。

 ただダンジョンから直接生み出されたわけではないので、魔石は大分小さくなり、同種のモンスターでもダンジョン産と比べて全然弱い。

 

「……ベル、止まって」

 

 ベルを先頭に隊列を組みながら進んでいると、ナァーザが呼び止める。

 彼女の視線の先には開けた窪地。

 すぐに彼女は指示を飛ばし始めた。まずヘスティアとミアハにこの場に残るように伝え、ベルとリリルカには神達の護衛を任せる。

 

「で、俺ってわけか」

「……ついてきたからには、働いてもらう」

「……上等。バックパックだけ寄越せ。剣はいらん」

 

 巧はナァーザからバックパックを受け取り、窪地の手前まで迷いなく進んでいく。そして密閉されていたバックパックの口を開く。そこから立ち上がる刺激臭。

 その間に巧は開いた左手に握った右手を合わせて、45度きっかりの礼をする。それを5秒間維持すると、顔を上げて、前方を鋭く睨む。

 

「かかってこいよ、図体だけの爬虫類ども。ただ、俺の腹の虫の居所はすこぶる悪い。覚悟しておけ」

 

 血肉(トラップアイテム)の臭いに釣られて向かってくる恐竜を彷彿させるモンスター、『ブラッドサウルス』。

 巧はそれを数体ほど引き連れて窪地から離れる。卵の採取をしやすいようにできるだけナァーザたちがいる場所とは違う方向へと走る。

 

「あ、あれって……?」

「ブ、ブラッドサウルスです……。30階層から出現する凶悪なモンスターですっ……!タクミ様なら大丈夫だとは思いますが、まさかこんなのが相手だったなんて……」

 

 五Mはある紅色の肉食恐竜(モンスター)を引き連れながらも、余裕綽々といった様子で軽い身のこなしで付かず離れずの距離を保っている。

 その様子を見てナァーザはベル達の方に向くと小声で告げる。

 

「今の内に窪地へ。アイツがモンスターを誘い出してる今が好機(チャンス)

 

 ベル達を引き連れて窪地へと移動する。

 木々の生えていない空間には至るところに数十からなる『卵』の一塊があり、まさにモンスターの巣であることが知れた。

 

「これ、結局タクミ様が居なければ難しかったのでは……」

「ううん。ベルでも、大丈夫だった……。地上のモンスターは迷宮のモンスターと比べて、格段に能力が低い。繁殖の際に、自身の『魔石』を削って子に分け与えてきたから、ほとんど残ってない。だから、地上のブラッドサウルスは、ダンジョンの『オーク』より少し強いくらいかな……」

 

 そう言いつつ、ナァーザは巧の方へと目を向ける。瞬間、彼がいる方向から濃密な殺気を感じ取る。それにより、背に備えていた長弓(ロングボウ)を素早く取りだして構える。同様にベルも殺気に反応して短刀を抜き放ち、ヘスティア達の前へと出て、守るように立つ。

 少しすると、次第に殺気は治まったが、ベルとナァーザは警戒を解かずに、その方向を見つめ続ける。

 地を揺らす足音が鳴り響き、次第にベル達の方へと近づいてくる。そして、

 

「―――終わったか?」

「へっ?」

 

 近付いてきた三体のブラッドサウルスの内、先頭にいた個体の頭に座っていた巧が、一同に声をかける。

 

「だから、『卵』の回収は終わったのかって聞いてるんだ」

「えっと……」

 

 問われたベルは、後ろにいるヘスティア達へと顔を向ける。そこにはぱんぱんに膨れ上がったバックパックを背負うリリルカとヘスティアの姿があった。念のため、ナァーザにも視線を向けて、もう十分かを視線で問う。彼女はモンスターを前にしているせいで震えていながらも、なんとか小さく頷くことができた。

 

「は、はい。大丈夫そうです……」

「ならさっさと撤収しよう」

「……あの、そのブラッドサウルス達はどうしたんですか?」

「ん?ああ、少し殺気で脅したら腹を見せて怯えたような声を出してな。服従の仕草のようだったから殺すのも忍びなく、とりあえずここにいる間だけでも従えさせてみた」

 

 そう説明した巧はブラッドサウルスの頭から降りると、ブラッドサウルス達に「もう行っていいぞ」と告げて解放する。三体のモンスターは素直に従い、巣へと向かっていった。

 巧の説明で先ほどの殺気が放たれた理由が分かり、ベルは溜め息を一つ吐いて短刀を鞘に収納する。

 

「あの殺気はそういうことですか……」

「そうだ。……ああ、怖がらせたのなら済まない。多少ムカついていたのでな。まぁ、ただの憂さ晴らしと八つ当たりだ」

「「「「「…………………」」」」」

 

 何故か一同はブラッドサウルス達に対して申し訳ない気持ちになった。

 

 

 

 

 

 

 

 オラリオに帰還した巧はベル達とは別れて、すぐに【ヘスティア・ファミリア】のホームへと向かっていた。そのままついていけば、色々と手伝わされると直感したからだ。

 大通りに面していない入り組んだ路地を進みながら、ゆったりとして歩調で足を進める。

 

「―――なんの用かな?」

 

 突然足を止めて、周囲に誰もいない空間で巧は声をかける。

 

「いるのは分かってるんだから、さっさと出てきてくれない?面倒事は嫌いなんだ。ましてや第一級冒険者に付き纏わられるなんてのはね。身の周りでちょろちょろされても鬱陶しいだけなんだよ」

「……チッ」

 

 舌打ちと共に姿を現したのは黒と灰色の毛並みを持つ小柄な猫人の男。その手には何も持っておらず、交戦の意思はないように思える。

 

「……あの方が、お前のところの白髪の少年の成長を気にしている」

「なるほど。貴様は『戦車』か。『あの方』というのも予想できた。それならば、こちらの返答は一つだ」

 

 巧は『戦車』と呼んだ男に何の感情も見えない冷めた目を向ける。

 

「……ッ」

 

 その目を見た男は一瞬、目に感情を浮かべるが、すぐに平静を取り戻す。

 それをつまらなさそうに一瞥すると、巧は口を開く。

 

「勝手にしろ。こちらも勝手にやる。俺はあいつが成長するのであれば、お前らさえも利用する。だが、あいつを殺すような事態を引き起こすのであれば全力で邪魔をする。お前の主にはそう伝えろ」

「……」

 

 巧の返答を聞いた男はすぐにその場を離れていった。巧も男が離れるのとほぼ同時に、再びホームへと足を動かし始めた。

 

(接触してくるとは思っていなかったな。()の神は俺の予想以上に面倒な性格のようだな……。以前よりも警戒しなければいけないか。それにオッタルがダンジョンに潜っているようだし、近いうちに何かしてくるのは確実か……)

 

 近い未来のことを考えて、溜め息を吐いてしまいそうになるのを抑える。これ以上幸せが逃げていくのは嫌だからだ。巧は別に迷信を信じているわけではないが、気分が沈まないように、そういったことにでも縋りたいだけだ。

 そして、その後は何もなくホームに帰還すると、まだベル達は帰ってきておらず中には誰もいなかった。食事の準備を済ませ、その後はしばらく買っておいた本を読み漁っていると、ベル達がくたびれた様子で扉を開けて中へと入ってきた。

 

「あぁー!?やっぱり帰ってきてたな、タクミ君ッ!」

「当たり前ー。依頼を受けたのは俺じゃないからねー。新薬開発の雑用まで請け負うなんてしないよ」

「それが分かってて逃げたんじゃないのかい!?」

「さぁーて、どうだろうねー♪」

 

 問い詰めてくるヘスティアに、巧はくすくす笑いながら答える。

 そんな彼の様子を見て、一瞬で事を理解したヘスティアは巧へと飛びかかる。

 

「よくも逃げたなぁー!?ボク達がどれだけ大変だったと思ってるんだぁっ!!」

「あはは、ごめんって♪俺も手伝っても良かったけど、やっぱりアイツのためにこれ以上手を貸したくないと思ってねー♪」

 

 ヘスティアに捕まらないように無駄に洗練された技術を発揮させて、まるで踊ってるかのように逃げる。ヘスティアはそれを向きになって必死に追い続ける。その攻防はヘスティアの息が切れるまで続けられた。そして息を切らしてる彼女を後ろから抱きしめて、お疲れ様、と言って頭を軽く撫でて労う。

 それで少しだけ機嫌を良くしたヘスティアは、巧から離れて食卓へと向かう。そこには巧が用意していた食事が並べられていた。

 それを見送った巧はベルに視線を戻す。

 

「それで報酬はもらえた?」

「は、はい。二属性回復薬(デュアル・ポーション)、だそうです」

「やっぱりやればできるんだから、あんな(こす)い商売しないで真面目にやればよかったのに」

 

 巧がそんなことを言う。それを聞いたベルが言いづらそうにしながらも、彼に尋ねる。

 

「タクミさんは、ナァーザさんのこと嫌い、なんですよね?」

「昨日も言ったけど、嫌いだよ」

 

 ベルの問いに巧はあっさり、そしてばっさりと答える。しかし巧は、でも、と言葉を続ける。

 

「ナァーザの力を認めていないわけじゃない」

「……そうなんですね」

「これからはもう不良品なんて売らないだろうから、ベルも普通に買い物しに行っていいよ」

「わかりました」

「でも、ベルだけじゃ不安だから、リリルカちゃんは付き添いをお願いね?」

「勿論です」

「それじゃあとりあえず、冒険者依頼(クエスト)お疲れ様。今回のことで受けるときは慎重にならなきゃダメだってわかったでしょ?」

「……ええ、まぁ」

 

 自分だったらブラッドサウルスを相手にしていたらどうしていただろう。

 ベルはふと、そんなことを考えてしまう。

 きっと無様に逃げまどっていたかもしれない。今回の場合はその行動が正しかったのかもしれない。ナァーザも大型級を相手にするようの大剣を持って来ていた。それを借りれば多少は相手にできるかもしれない。ナァーザからの援護も受けられれば討伐はできたかもしれない。ただ、平静を取り戻すのにどれだけの時間が必要だろうか。

 ベルは考え込んでしまう。しかし、そんなベルの思考を遮るように巧が声を上げる。

 

「あー、どうせならベルに大型モンスターの相手をやらせればよかったかな?」

「……えっ?」

「経験はほぼないでしょ?」

「……………」

 

 ベルは返事をしなかった。この問いに返事をしたら不味いと考えたからだ。はい、と答えたら何をやらされるか分かったものではない。その事はベルの経験が物語っていた。

 ベルのそんな思考はお構いなしに巧は話を続ける。

 

「多分あってもオークくらいかな?五Mぐらいの相手はしたことないでしょ?」

「あ、と……ええと……」

 

 しどろもどろになってベルは上手く言葉を返せない。その様子に巧は薄く微笑む。

 

「冗談だよ」

「で、ですよね!もう、怖がらせないでくださいよ!」

「でも最近はヴェルフの相手ばかりしてるから、久しぶりに俺とやろうか」

「…………………………」

「それに大型モンスターを相手にするときは大剣を使うだろうから、今の内に基本ぐらいはレクチャーしといてあげる」

 

 その日、ベルの『耐久』の熟練度の伸びが凄まじいことになったとだけ記しておく。

 




 今日の巧メモ
・人として:どこでも手続きって長いのね。
・武人として:遠足前日の子供のようなテンションになりつつある。
・研究者として:……一個ぐらい研究用に確保しておくべきだったか?

以下、クレジット。

「解放礼儀」は”aisurakuto”原案”Central_ECH”改稿「INTRODUCTION OF 財団神拳」の「新たな奥義」欄に基づきます。
http://ja.scp-wiki.net/sakagami006-portal-of-foundation-shinken
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