ダンジョンにSCP-710-JP-J伝承者がいるのは間違っているだろうか   作:猫屋敷の召使い

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第四二話

 鍛錬五日目。

 昨日と同じように市壁の上に巧とベル、ヴェルフ、アイズが集まる。レフィーヤは午前中はフィルヴィスとの訓練に打ち込むようで、この訓練には来ていない。

 そんな中、ヴェルフがベルの方を見て驚いたような表情を浮かべながら尋ねる。

 

「……。ベルは一体何があったんだ?」

「あ、あはは……」

 

 訓練が始まる前からすでに身体中が生傷だらけの彼を見て、ヴェルフが呟く。問われたベルも特に答えることはせず、愛想笑いで誤魔化す。

 

「最近ちょっと訓練を甘くしてたから軽く扱いただけだよ」

「そ、そうか……」

 

 これが()()か……?と、ヴェルフは内心思ったが、口に出したらこちらに飛び火するかもしれないと考えて、その疑問を飲み込んだ。

 巧の方に視線を向けないようにしながら、ヴェルフはベルを引き連れて自分達の訓練を始めた。

 巧はそれを一瞥すると、アイズに視線を移した。

 

「さて、やろうか」

「今日こそは、勝つ」

「冗談に聞こえなくなっているのが恐ろしいな」

 

 互いに剣を抜いて、同時に駆けだす。

 斬って、斬って、斬って、斬り合う。

 巧は拳や蹴りを繰り出そうにも、その暇がないほどの猛攻を防ぐので精一杯だった。

最初とは全く違う、無駄のない最小限の動きだけで剣を振るい、次の攻撃へと流れるように繋げていく。

 この短期間で対人戦に最適な戦い方を彼から盗み取ったということだろう。

 その才能に戦慄し、僅かな冷や汗を流しながら、隙間を見つけ出そうとする。が、見つからない。それほどまでに洗練されていた。

 

 ―――この短期間で戦い過ぎたか。

 

 巧は少しだけ、後悔していた。現時点で完全な味方でなく、いつ敵になるかも分からない相手に技術を教えすぎたことを。

 だが、この数日で彼女が成長したことを喜んでいた。

 彼の口が、自然と弧を描いて歪んでいく。

 

 ―――ああ、愉しい。

 

 本音を言うと、『財団神拳』を使って、『魔法』を使わせて、全力で死合たい。互いの死力を尽くしたい。

 しかし、それが叶わないからこそ、こうして抑えて、師事という形で我慢している。

 この時間もあと数日で終わりを迎える。

 それが少し、物寂しい。

 だからこそ、全力で愉しむ。

 感情が昂ぶり、巧の剣が激しさを増す。今まで防戦一方だったのが不思議なほど、攻めへと転じた。アイズも彼に応えるように迎え撃つ。

 そして―――

 

「……」

「……ハァ。俺の負けか」

 

 巧の手に剣はなく、いや、正しくは剣の柄だけが残っていた。剣身は砕け、小さな金属片となって地面へと散乱していた。残った柄を握って振り切った状態の彼の喉元には、アイズの《デスペレート》が鋭く突きつけられていた。

 巧は興奮して少し剣を乱暴に扱ってしまった。それが、この結果を導いてしまった。

 

「……」

「おめでとう。ようやく俺に勝てたな」

「……武器が同じなら、結果は分からなかった」

「だが、負けは負け。勝ちは勝ちだ。本当の殺し合いなら負けた瞬間に命などない」

「……納得いかない」

 

 不満そうな表情を浮かべながらも、剣を鞘に収める。巧は地面に散らばった剣の破片を集めて、小袋へと仕舞いこむ。そして、新しい剣を取りだす。

 

「つまらないかもしれないが、もう一度()るか?」

「……」

 

 巧の問いに、アイズは無言で剣を抜いて構えた。そんな彼女の様子に困った風に眉尻を下げる巧だが、内心は楽しみで仕方なかった。

 そして、もう一度。両者は同時に駆けだした。

 

 

 

 その日、午前中は市壁の上で剣戟の音が鳴り響いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 日が真上付近にまで昇りつめた頃、市壁の上には巧とアイズの姿しかなくなっていた。

 ベルはリリとダンジョン探索に。ヴェルフはいつも通り鍛冶へとそれぞれ向かった。

 今まで只管に剣を交えていた。だが、巧はアイズの剣筋が鈍っていることを理解していた。

 

「―――今日はやめにするか?」

「……?どうして?」

「身体の動きが悪い。見た感じかなり眠そうだ。別に遠慮などせず、拠点に帰って休むべきだと思うが?」

 

 剣を鞘に仕舞った巧が彼女に向けて告げる。

 

「いつもこれほど早く起きることはないのだろう?こちらの都合で無理やり時間を合わせてもらっているんだ。少しぐらい休んでもいいだろう。むしろ休め。自分の体調を理解するのも大切だ。それに、そんな状態で戦うのは此方としても不安だ。いらぬ怪我をさせてしまうかもしれないし、させられるかもしれないからな」

「…………」

 

 確かに、アイズは一日のほとんどを巧との模擬戦に時間を奪われている。それもいつもよりも早い起床時間でだ。その生活が五日も続けば、睡眠負債が溜まること間違いないだろう。

 

「……わかった」

 

 そう呟いて、アイズは地面の上で横になる。

 その行動に呆然と口を開ける巧の姿を最後に、アイズの意識は沈んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

「マジかよコイツ」

 

 巧にしては珍しく、間抜けな表情を晒す。言葉もどこか語彙が乏しくなり、言うに欠いて出た言葉がこれだった。

 一男性の前で何と無防備な。他所の【ファミリア】とはいえ、彼女は自分自身の容姿を理解しているのか、心配になってしまう巧だった。

 

「……はぁ。ひとっ走り、軽食でも買ってくるかね」

 

 理解できないことを考えても仕方ないと考え、巧自身も少しだけ混乱した頭を鎮めるために、買い物のために市壁を後にする。

 それでもできるだけ長い時間、一人にしないように早急に買い物を済ませるため、一人急いだ。

 




 今日の巧メモ
・人として:……剣って消耗品だっけ?
・武人として:やっぱり追い抜かれちゃうよねぇ……。
・研究者として:そろそろ試料が尽きそう。補充しなきゃなぁ。


以下クレジット

「財団神拳」は"Kwana"作「SCP-710-JP-J」、及び”sakagami”他作「INTRODUCTION OF 財団神拳」に基づきます。
http://ja.scp-wiki.net/scp-710-jp-j
http://ja.scp-wiki.net/sakagami006-portal-of-foundation-shinken
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