ダンジョンにSCP-710-JP-J伝承者がいるのは間違っているだろうか   作:猫屋敷の召使い

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第四四話

 鍛錬最終日。

 まだ暗い時間帯から剣戟の音が激しく響き渡っていた。

 剣を持ち、()()()()()をやめた巧がアイズと全力で斬り合っていた。

 ただ、相手を倒すためだけに身体を動かす。娯楽を、二の次にした。

 そこまでして、やっと、彼女と対等に斬り合えている。そこまでしなければ、もはやまともに斬り合えない。

 巧には細かな切り傷が無数にあるのに対して、アイズの方には傷一つ無かった。致命傷こそないが、今や差は歴然だった。

 流石にLv.2とLv.6では、こんなものだろうと。巧は理性でそういうものだと理解していた。だが、逆に本能はそれを覆したいと、訴えかけていた。

 剣を壊さないように振りながら、打ち合いを続ける。

 そして、

 

「……時間だな」

 

 東の空から太陽の一部が顔をのぞかせ、辺りを明るく照らし始める。流石に遠征の前日に一日中拘束するわけにもいかず、日が昇れば最終日の鍛錬は終わりだと決めていた。

 

「今日まで、ありがとう。楽しかった」

「いい。こちらもいい経験だった。第一級冒険者というのがどのような存在なのか痛感した。だがいずれ、超えてみせよう。その時はまた()ろう」

「……うん。いいよ」

 

 アイズは微笑を浮かべ、巧はそれに対して不敵な笑みを返す。

 

「では、此度の遠征の成功を祈っている」

「うん。そっちも、頑張ってね」

 

 それを最後にアイズは市壁から立ち去っていく。彼女を見送った巧は、今度はベルの方に顔を向けて、声をかける。

 

「んじゃ、久しぶりにやろうか」

「お、お手柔らかに……」

 

 言うまでもなく、巧は彼を全力で叩き潰した。

 

 

 

 

 

 

 

 ベルを朝と夜に徹底的に扱いた翌日。

 ここ最近芳しくない体調を不思議に思いながら、いつものように日課を済ませる。ここ一週間は睡眠時間を削ってまで行っていたが、今日から生活リズムを元へと戻せることを巧は少しだけ喜んでいた。

 そしてそれを終わらせて、地下室に戻ると、ベルとリリの二人と入れ違いになる。

 

「タクミさん!いってきます!」

「いってきます」

「ああ、いってらっしゃい。気をつけて」

 

 軽く言葉を交わし、巧は二人を見送る。扉をくぐって中に入ると、難しい表情をしているヘスティアの姿が目に入った。

 

「……?どうかした?」

「ん?ああ、ベル君の【ステイタス】がね……」

 

 ヘスティアは先ほどまで見ていたベルの【ステイタス】を思い返し、巧に伝える。

 

 

力:S 997

耐久:SS 1059

器用:SS 1068

敏捷:SSS 1103

魔力:B 732

 

 

「……へぇ?やるじゃん。魔力がある分、俺よりいいね。羨ましいよ」

「いや、普通はSまでなんだよ?これがどれだけ異常なことなのか分かってるかい?」

「分かってるよ。スキルの影響だと思うよ。本当、俺達は恵まれてるよ。ていうか、ベルの様子を見守らないといけないからそろそろ行くよ」

「……気を付けてくれよ?ついさっき、二人のカップが不自然に壊れちゃったからさ」

「そういって、ヘスティア様が壊したんじゃないのー?」

「むっ?誰がそんなことするか!とにかく、気を付けるんだぞ!?三人とも無事に帰ってくるんだッ!」

「りょーかい」

 

 巧はヘスティアの頭をぽん、と一回撫でると、ポーチを腰に取り付けて地下室を出て行く。

 そんな彼の後ろ姿をヘスティアは不安そうに見つめていた。どうしても嫌な予感がするも、彼女は拠点で皆の帰りを待つことしかできない。

 ヘスティアは、自身のホームであるにも関わらず、居心地悪そうに身体を小さく揺らした。

 

 

 

 

 

 

 

 巧はベルとリリルカの姿が見えないほど後方から二人の後を追う。見えないながらも、流れる空気を感じ取り、ベルに立ちはだかる苦難を想像し、無意識に眉をひそめてしまう。

 

「―――あぁ、嫌な感じだ。身の毛がよだつような、身体が縮むような気配……。果たしてベルは乗り越えられるかなぁ……。なぁ、アンタはどう思うよ、【猛者(おうじゃ)】」

「……」

 

 巧の目の前には2Mを超える身の丈の猪人がいた。その四肢は筋肉で覆われていた。そんな彼の錆色の双眼が巧のことを見据えていた。

 広大な長方形な広間(ルーム)の中心付近に、巧と【猛者(おうじゃ)】オッタルは向かい合って立っている。

 巧はいつものように不敵な笑みを浮かべている。しかし、それはどこかぎこちなく、不自然なもので、無理をして形作っているように見える。そのうえ、彼の頬には冷や汗が浮き出て、重力に従い下へと流れ落ちていく。

 緊迫した状態。すぐにでもベルの()姿()を見に行きたいが、おそらくは許してはくれないだろう。

 聞くだけならただだろうと判断し、巧は試しに尋ねてみることにした。

 

「あー……駄目元で聞くが、通してもらうことってできるか?別にベルの邪魔をするつもりはないんだが……」

「……あの方から、お前を殺す命を受けている」

「……チッ。世の中って、ままならねぇよなぁ……」

 

 舌打ちして、天井を仰ぎ見る。その表情は少しだけ疲労の色が浮かんでいた。

 

「はぁ……。それは決定事項か?俺が何か改善すれば見逃してもらえるとかない?」

「あの方が決めたことだ」

「……わぁーったよ。んじゃ、死合おうかぁ……『解放礼儀』」

 

 握った左拳。開いた右手。それぞれを合わせて45度の礼を5秒続ける。その間、オッタルは動くことはなく、静かに巧が顔を上げるのを待っていた。

 

「……武器はいいのか?確実に殺すのなら使う方が賢明だと思うが?」

「……せめてもの手向けだ」

「……感謝感激雨あられ、てか?『剛力・羅漢の構え』」

 

 特殊な構えで全身の筋線維を刺激し、ドーパミンやアドレナリンなどの脳内物質の分泌を操作する。

 そして、広間(ルーム)に濃密な殺意が満ち溢れた。

 

 




今日の巧メモ
・人として:人生ってホント、理不尽だよね。
・武人として:生き残るのが最優先事項。
・研究者として:調べたいものがまだあるのに死んでたまるか。


以下クレジット

「解放礼儀」は”aisurakuto”原案”Central_ECH”改稿「INTRODUCTION OF 財団神拳」の「新たな奥義」欄に基づきます。
http://ja.scp-wiki.net/sakagami006-portal-of-foundation-shinken

「剛力・羅漢の構え」は”blackey”原案”Central_ECH”改稿「INTRODUCTION OF 財団神拳」の「新たな奥義」欄に基づきます。
http://ja.scp-wiki.net/sakagami006-portal-of-foundation-shinken
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