ダンジョンにSCP-710-JP-J伝承者がいるのは間違っているだろうか 作:猫屋敷の召使い
「勝ち、やがった……」
呆然と、ベートは呟いた。
信じられないものを見るかのように、視線の先で佇むベルを見つめる。
先ほども信じられないものを見せつけられたばかりであるというのに、言葉を無くしてしまう。
他の者達もそうだ。眼前の少年を見て唖然としている。
そんな彼らを見て、巧はバレないようにほくそ笑む。
一同の、何よりもベートの度肝を抜いたことがつい嬉しくて自然と笑みが零れる。それだけでしばらくはご飯のおかずに困らないぐらいには嬉しかった。それだけで三杯はおかわりできるぐらいに。
そんな彼らの視線の先で、ベルは背中から地面に倒れる。巧はベルに静かに歩み寄ると、しゃがんで、目を合わせて声をかける。
「ベル、起きてる?」
「……はい」
意識が朦朧としているのか、焦点の合っていない瞳が、巧の目の先で忙しなく揺れる。それを見て、苦笑を浮かべながら口早に用件を告げる。
「良いものを見させてもらったよ。よく頑張ったね。でも、今はゆっくりお休み。後は任せてさ」
「……あの」
「ん?なに?」
ベルが無理をして空気が漏れるかのような細い声で尋ねるような言葉を吐いた。
「僕は、タクミさんに、少しでも近づけてますか……?」
「……」
巧は一瞬面を喰らった表情を浮かべるが、すぐに優しい笑みを浮かべると、答えを返す。
「う~ん……まぁ、及第点は上げるよ。辛うじて
「……はいっ」
ベルは最後にはっきりと返事をすると、目を閉じて静かな寝息を立て始める。
巧はそんな彼を担ぐ。そこそこの重量が彼の肩にかかり、今でも相当無茶をしている巧の身体はふらつきながら歩き始める。
しかし、すぐにその重さが消えた。
「お主も相当だろうに。こやつは手前に任せよ」
「……いいの?遠征の途中なのに?」
「僕は構わないよ。良いものを見させてもらったしね」
【ロキ・ファミリア】の団長、フィンが承諾する。それを聞いた巧が顔をしかめる。
「大手ファミリアに借りは作りたくないけど……その言葉に甘えるしかない現状に陥ってるのが猛烈に悔しい」
「そんなことを言ってる場合ですか、タクミ様……」
リリルカが巧の言葉にため息を吐く。対する巧も、ため息を吐きながら髪をポニーテールに縛る。その行動に呆れていたリリルカが目をひん剥く。
「タ、タクミ様!?【ステイタス】が見えちゃいますよ!?」
「どうでもいい。スキルは隠してるし、基礎アビリティを見られた程度どうとも思わないよ。それよりも素肌に髪が擦れて鬱陶しい」
「じゃあ、なんでそんなに長くしてるんですか!?」
「死角を作りやすいんだよ。ただでさえ体格が小さいんだ。こういった工夫でもしないと戦っていけやしない」
「だからって―――!」
「あー、うっさいうっさい。てか、お前も大分血を流したんだ。寝てろ」
「えっ……!?」
トスン、と軽い音が鳴ると、リリルカの身体ががくんと崩れ落ちる。
よく見ると、巧の腕が彼女の腹部にめり込んでいた。かなり投げやりにやったとはいえ、的確に意識を失わせる程度に加減して当て身を行ったのだ。【ステイタス】の差を考慮すると相当な技術が必要だろう。
意識を無くしたリリルカを担ぐと、地上へ向かう通路に進み始める。
「……いいのかい?」
「ここでぐちぐち言われようが、地上で言われようが一緒だろ?それに実際コイツはかなり無茶をして俺を呼びに来たからな。失血量もそこそこだったし、休ませるに限る」
「……無理やりでも?」
「無理やりでも、だ」
巧の言葉にフィンが苦笑する。が、その口端は痙攣していた。彼のあまりの破天荒ぶりに少し引いているのだろう。
「それにしても、なぜお主はオッタルとやり合っていたのだ?因縁などありやしないだろうに」
「そこで幸せそうに寝てる俺の弟子が彼のご主人様に気に入られてな。俺は悪影響を与えると判断されただけだ」
「……災難だの」
「まったくだ」
くつくつ、と巧は含み笑いをする。その様子からはとても災難だと思っているようには見えなかった。
「あっ、そういえば……」
「……?」
帰り道を最短ルートで進んでいると、途中でティオナが思い出したように声を上げる。
「ねえねえ!あの【
「……あぁ、あれか。慣れただけだ」
「……?」
「体格と力はどうあがいても勝てるわけがない。だが、速さだけは反応できないほどのものではなかった。だから、目と身体が慣れるまで、ああして避けに徹していた」
「……?力で勝てないなら、拳を弾けてたのはどうして?」
「奥義。以前も言ったけど、俺の武術は門外不出の代物でね。自分の武器をわざわざ曝け出すつもりはない」
「えー……」
巧の答えにティオナは残念そうな声を上げる。そして一区切りついたと思うと、今度は姉のティオネから尋ねられた。
「なら、地面が簡単に崩れたのは?確かに崩れることはあるけど、あの程度の攻防ではあれほどまでに崩れることはないはずよ?」
「【
「……意外と余裕あったわけね」
「あるわけないだろう。奥歯に
「……そんなこともしてたわけ?」
「……生憎、俺はまだLv.2だぞ?それに格上がどういうものかもよく理解している。死なないために最善を尽くすのが当然だろう」
忘れてないか?とでも言うように目を細めて睨むようにティオネを見つめる。
なんなら【ステイタス】を見るか?とでも言うように背中を隠している髪を、肩にかけるようにして前にずらす。
それを食い入るように見つめたのは、【
「……本当に、Lv.2なんだな」
「意外か?だが、それが事実だ」
「それに、基礎アビリティがオールSSS、というのは……」
『―――ッ!?』
「ああ、そういえばそうだったな。とはいえ、俺も何がどうなってそうなったかは分からん。スキルの影響なのか、努力の結晶なのかはな。今のところはこれ以上上がらないな。ここでストップなのか、はたまたこれより上があるのか……」
「……」
「まぁ、どうでもいいことだ。技術や戦い方には関係しないのだからな。扱いに困っているのは事実だが……」
巧はつまらないことを言うかのように、投げやりに言葉を吐き捨てる。
巧からしてみれば『
「ふむ……スキルは見せてはくれないのか?」
「……あー……ヘスティア様がぐちゃぐちゃにしてるから解読しようと思えばできんじゃない?読み解いたところで大した情報はないと思うがね」
巧のスキル、【
巧がなぜ、【ステイタス】の限界突破の原因はまったくもって謎なのだ。
「……無理だな。読めそうにない」
「じゃあ、ここから先は『有料コンテンツ』ってことで」
「……?何と言ったのだ?」
「んーん、なんでもないぜー」
『有料コンテンツ』のところだけを共通語ではなく
もしも共通語で口にして『有料』の部分だけでも信じてしまったら、本当に金を渡されそうな気がしたからだ。
「ふむ……。では、手前からも一つ、いや二ついいか?」
「……もう、この際だからいくつでもいいから答えるよ」
「では遠慮なく。最後に二度、閃光があったであろう?二度目はお主の『技』であろうが、一度目は何だったのだ?」
「ただの閃光玉。自作だけどね。それを瓦礫の裏に隠して、オッタルの視界に映らないようにして、炸裂する瞬間に瓦礫を除けて目を潰したんだ。閃光で潰れれば最高、最低でも目を瞑ってくれればよかったからねぇ……」
「……とても隠しておけるような場所があったようには……」
「あっはは、人の身体って不思議だよねー♪訓練さえすれば、いつでも吐けるようになるんだからさー♪」
『……』
巧の言葉で大体を察した一同。
巧が閃光玉を隠していたのは、胃袋の中だ。それを使う時になって吐き出し、破裂させる。
そんな芸当を戦闘中に行うのは巧ぐらいしかできないだろうし、進んでやろうという者もおそらくいないだろう。
「では『技』についてはどうだ?」
「門外不出」
「……で、あろうな」
椿は答えが分かりきっていたが、巧に最後の奥義について聞くだけ聞いてみた。が、返答は予想通りのものだった。
「他には?今ので最後?」
「……最後に僕からいいかい?」
「どうぞ、ご自由にー」
フィンが軽く手を挙げて巧に返答する。それに巧は軽く答えて質問を促す。
「君は、なぜオッタルと戦ったんだい?君ならいくらでも回避することができただろう?」
「あー、確かにできたよ?でも、オッタルの目的は俺を殺すことだったからね。それじゃ意味がない。執拗に追いかけられて終わりだ。ならばと思って、実力で退かせるしかないと判断したんだ。上手くいったかは知らないけどさ……」
まぁ追ってきてないし、今のところは成功かな?と軽く溢す。
そんな巧を見て、唖然とした表情を浮かべる一同。
「……アンタ、馬鹿なの?」
「……?いきなり罵倒される覚えはないけど?」
「いや、普通はLv.2がLv.7に実力行使しようとは考えもしないわよ」
「じゃあ、馬鹿でいいよ。実際、頭のネジが足りてないとよく言われるし」
巧は元の世界でよく一般職員などから「頭、大丈夫?」と心配されることが多かった。もちろん、これには頭を強打された意味合いも含んではいるが、比率的には圧倒的に『脳内の思考回路』の方の意味合いが強かった。
そうして、一同は他愛のない会話をしながら進んでいくとダンジョンの出口に到達する。そしてベルとリリルカをバベルの治療施設に運び込み、ベッドへと寝かせる。
「うん。ありがとねー。正直、助かったよー」
「なら、一つ貸しにでもしておこうかな?」
「あっはっはっは」
フィンの言葉に巧は笑って誤魔化そうとする。対するフィンも本気で言っているわけではなかったようで、笑みを浮かべている。
巧は笑うのをやめ、眼前の面々を眺めてから微笑を浮かべて言葉を投げかける。
「それじゃ、遠征頑張ってね。何もないわけがないだろうから」
「分かっているよ。君も気を付けるんだよ?」
「理解してる。ていうか、こっちの心配をしてる余裕なんてあるの?」
「お互い様だと思うけど?」
軽口を言い合い、改めて遠征に向かい始める一同をベッドに腰掛けながら、巧は手を振って見送った。
アイズは姿が見えなくなる前に、巧に向けて軽く会釈をしてからこの場を去っていった。
そして、全員の姿が完全に見えなくなると、息を一つ吐きだす。
「さて、問題は山積みだ」
ベル。
女神フレイヤ。
オッタル。
考えただけで思考放棄したくなるような面倒事ばかりだ。
そのうえ、もう一つ。今の巧には問題があった。
―――――――――ッ
今も、懐かしい声が聞こえる。
「うるさいよ。今からそっちに向かうって。昔みたいに存分に
そう呟いて、目を瞑る。
そのまま彼の身体はベッドから崩れ落ち、床に倒れて動かなくなってしまう。
そして、次に意識が浮上したときにはそこは――――
――――360°地平線まで続く何もかもが赤い平野、そして「夕焼けより赤い」と表現された空だった。
今日の巧メモ
あかしけ やなげ 緋色の鳥よ くさはみ ねはみ けをのばせ
今回で原作三巻は終わりです!
というわけでしばらくお休みをいただきます。
……いえ、ね?これから卒論と就活ですので……その時間が厳しいわけですよ。ですので今後は恐らく不定期更新になるかと思います。本当に申し訳ないです。
今後の投稿は水曜日の縛りはなく、時間だけ18時に固定して更新するようになるかと思いますので、今後ともお付き合いしてくださると狂喜乱舞です。
というわけで次回はみんな大好きなオブジェクトの登場です!
なぜこの世界にいるのか?
どうして巧は幻覚世界に引き込まれてしまったのか?
というのも含めて次回から!詳しく書いていこうかと思います!
それでは皆様!次回がいつになるか残念ながら分かりませんが、また次回!
……エタりませんのでご安心くださいね?
以下クレジット
「SCP-444-JP」は”locker”作「SCP-444-JP」に基づきます。
http://ja.scp-wiki.net/scp-444-jp