ダンジョンにSCP-710-JP-J伝承者がいるのは間違っているだろうか   作:猫屋敷の召使い

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 ……はい、皆さんお久しぶりです。
 まだ読んでくださっている方、また待ってくださっていた皆様。
 待たせてしまったという申し訳ない気持ちと共に猫屋敷の召使いはハーメルンに帰ってきました。
 卒論と就活に追われる日々の中、何とか内定を頂き、卒論も何とか軌道に乗ってきたので、これからも書いていくという報告も兼ねて最新話を投稿します。
 もし、愛想を尽かしていらっしゃらないのでしたら、またこれからもよろしくお願い致します。
 以前のように週一投稿とはいきませんが、不定期投稿で頑張っていこうと思っております。
 では、前書きが長くなってしまいましたが、本編をどうぞ!


原作4巻5巻+外伝5巻
第四九話


 薄暗い室内。窓から夕陽の赤い日差しが仄かに差し込んでくる。そんな室内でフレイヤは背後ではオッタルが跪きながら控えていた。その顔には主人の命を全うできなかったことによる不甲斐なさが滲み出ていた。

 

「……申し訳ございません」

 

 いかようなる処分も受ける心持ちで、静かに謝罪の言葉を口にする。

 しかし、主人であるフレイヤから返ってきたのは、予想だにしない言葉であった。

 

「……いえ、構わないわ」

「しかし―――」

「今回のことで彼にも少しだけ興味が湧いたわ」

「……分かりました」

 

 主人の言葉を素直に受け取り、床から膝を上げて直立の体勢へと正す。

 彼の動きが止まった瞬間、でも、とフレイヤが口を開く。

 

「一つだけ聞かせて欲しいの」

「なんでございましょうか?」

「貴方は、彼を殺そうと思えばいつでも殺せたはずよ。それなのに、そうしなかったのは何故かしら?」

「……」

 

 彼女の疑問が、肩越しの鋭い視線と共にオッタルに向けられる。

 確かに、あの戦闘中にオッタルはいつでも巧を手に掛けることはできた。それが成功するとは限らなかったが、仕掛けるタイミング自体は巧自身がわざと作ったものも含めると多数存在した。しかし、オッタルは手を出さなかった。

もちろん、巧自身もそれを理解していた。なぜ仕掛けてこないのか、と戦闘中にもかかわらず不思議に感じていた。その原因と思われる存在に今、存分に理解させられているのだが。

だがそれが分からないフレイヤは、抱いた疑問を解消させるために彼に問うた。

 主人の問いに逡巡するオッタルであったが、数瞬後には答えた。

 

「本能的に()()()()()()だと、感じたからです」

「……そう。なら、あれはそういうものなのね」

「……どういうことでしょうか?」

 

 オッタルが尋ねると、フレイヤは何かを思い出すように目を伏せる。

 

「一週間ぐらい前から、彼の魂の色が()()()のよ。変わったわけではなく、まるで、彼の身体に彼とは()()()()が入り込んだかのように、ね」

「……」

「おそらく彼を殺したら、()()が表に出てくるんじゃないかしら?今は頑張って押さえているようだけれど」

「では、しばらくは静観ということでしょうか?」

「ええ、そうね。……それに、貴方と戦っているときの彼の色に、不覚にも見入ってしまったもの」

 

 ベルを覗き見る片手間とはいえ、オッタルと巧の戦闘を眺めていた。その際の、彼の魂は黄金色に輝き、気高い獣を幻視するほど異質なものだった。そして、その彼を邪魔するかのような、赤い色。

 ()()()()()()彼の魂でも、『赤』というのは見たことがなかった。

 ベルやヘスティアと接するときは『白』。

 裏で動くときや悪だくみをしているときは『黒』。

 本気の戦闘時には『金』で、最も輝いていた。

 『赤』、それも()()()()()()()()()()、どのように表現してもいいか分からないような『赤』だ。見ているだけで、恐怖を抱くような、そんな色は知らなかった。それも彼の魂とは離れており、別に存在している。時折逃げようとしているのか、激しく動くが、すぐに彼の傍へと引き戻される。ここ最近は、そういったことを特に繰り返している。

 

「……ふふっ。彼の中に、一体何が巣食ったのかしらね?」

「……」

 

 『赤色』の何かを気にしながら、フレイヤは巧にも興味を深めていく。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁッ……はぁッ……ッ!」

 

 巧は、夕焼けよりも赤い空の下で、荒い呼吸を繰り返し、捕食され、失ってしまった左腕の断面を右腕で押さえる。

 

「クソッ、どれだけ多くの奴らを食ったんだ、貴様はっ……!?」

『―――――――』

 

 驚愕する巧の足元には、両翼を捥がれ、地に倒れ伏す赤い巨鳥がいた。

しかし、その巨鳥は巧の知っている姿よりも二回り以上の大きさを誇っていた。

 そのうえ、翼の切断面からは既に次の翼が生え始めている。

 その様子を見ながら、舌打ちを鳴らし、忌々しげに表情を歪める。

 

「チッ……埒が明かないな。一度現実世界に覚醒するか。肉体は強制的に昏睡状態にして動かないようにしてるはずだが、コイツの影響がどれだけ変化しているのか、分かったものじゃない。……『摩擦熱切断手刀』!」

 

 そういって、眼下にいる巨鳥の血走った眼を覗き込みながら、手刀で首を切り落とす。

 

「これで襲われるまではしばらくは猶予があるだろう。後は、現実世界で筆記すればいいはずだが……」

 

 巧は巨鳥の上から降りて距離を取ると、意識的に現実の肉体に筆記させる。

 『あかしけ やなげ 緋色の鳥よ くさはみ ねはみ けをのばせ』と、手を動かす。

 

「……現実の肉体が、迷惑をかけていなければいいなぁ……」

 

 脳を休眠させて昏睡状態へと無理やり移行し、寝たきりの状態だから迷惑は少なからずかけているだろうが、もしも暴れていて、誰かに怪我などをさせていないかどうか、巧は覚醒する数瞬前に考えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

「―――ここ、は…………?」

 

 現実世界へと覚醒した巧は、目覚めたばかりでぼんやりしている頭で周囲の状況を確認する。

まず一番に気が付いたのは、自分の手に頑丈そうな手枷がされており、服装はダンジョンから帰還したときから変わらず、襤褸布のような状態だということだった。

次に自分がいる場所のことに気が付いた。【ヘスティア・ファミリア】が拠点としている教会の地下室の床とは違い、煉瓦が敷き詰められており、部屋の中には簡素なベッドが一つと、隅にトイレが設置してあるだけ。そのうえ、四方の一つは壁ではなく鉄格子であった。ここは、陽の光が差し込んでくる小窓も無く、湿っぽい牢屋の中だとすぐに理解した。

地面には、歪ながらも先ほど筆記した文字列が刻まれていた。書くための物がなかったため、無理やり地面を傷つけて書いたためか爪が剥がれかけ、その指の先や爪の間から出血していた。

 じゃら、と自分の両手を拘束している鎖を眼前に持ち上げながら、巧は今の状況を理解した。

 

「あー……これは、暴れちゃった、かな……。最初に少しだけやられちゃったのがマズかったか……。それに身体の機能の多くを停止させてあったというのに……。やっぱ、想像以上にアイツの力が大きくなってる。一体、どれだけの人を喰らったんだか……」

 

 そんなことを呟きながら、天井を仰ぎ見る。

 

「……ここからすぐに、出られたりするのかなぁ……。【ステイタス】の更新もしたいんだけどなぁ……。服も欲しいし……」

 

 ぶるり、と少しだけ肌寒さを感じ身体を震わせる。

 それから立ち上がり、鉄格子に近寄って声を上げる。

 

「誰かぁー!いませんかぁー!?」

 

 そこそこ大きな声で叫ぶ。その声が管理者の耳に届き、巧のいる牢の前までやってくる。その人物はギルドの制服を着込んだ男性であった。つまりここはギルドの管理する冒険者の用の牢獄だというのが分かった。

 

「あ、どうもー」

「……貴様、ようやく起きたのか」

「おかげさまで?って言っていいのか分からないけど、とりあえずは。で、ここが何処なのか聞いても?」

「……ここは【ガネーシャ・ファミリア】が管理する冒険者用の牢だ。自分が何をしたかは分かっているのだろう?」

「いや?」

「……まさか、覚えていないのか?」

「ええ、これっぽっちも。最後の記憶は白髪の少年のいるベッドに腰掛けてたところまでかなー」

「き、貴様はあれほどのことを仕出かしたというのに、それを全く覚えていないというのか!?」

 

 その叫ぶような声に、巧は驚いてさらに尋ねる。

 

「もしかして、誰か殺しちゃった?」

「……いや、幸いにも誰も死んではいない。怪我人もいない。だが、貴様はバベル内の医療施設を破壊した後、昏睡状態に陥り、即座に此処へと隔離された」

「そっかぁー。なら、まだマシかな……。『あれだけのこと』って言うからもっとヤバいことやっちゃったかと思っちゃったよ」

 

運よく、本当に運よく近くのベッドに寝かされていたベルやリリルカにさえも被害はなかったようだ。

そのことに巧は男性の説明に安堵の息を吐く。

 

「それでさぁ、俺って今すぐここから出られたりする?」

「駄目に決まっているだろうッ!目が覚めたのならこれから事情聴取だッ!」

「ならそれは、俺をここから出さないでやって欲しいな。もう暴れることはないと断言できないし、また倒れるだろうからね」

「……なに?」

「あの行動は俺の意思を無視した行動だ。現状、俺は寄生虫のような奴に蝕まれて、その影響であのような行動を取ってしまった。まあ、俺が言う『奴』に勝ち続ければ、暴れることはないのだろうがな……」

 

 男性は巧が何を言っているのか理解できなかった。きっと、理解できない方が断然幸せだろう。なにせ、知ってしまえば終わりなのだから。いや、その条件さえも変化しているかもしれない。これ以上、迂闊に話すことは危険だと判断して話を切り上げる。今はまだ、自分に執着しているから、下手に他の奴に手を出すことは少ないかもしれない。だが、ここから無事に出られたら、意味不明な言葉を呟きながら無差別に攻撃を行った事例がないかを調べようと巧は決めた。

 

「できれば、あいつに負けないようにするためにも、可能ならここに俺の主神を呼んで【ステイタス】の更新も行いたいんだけど。……ダメ?」

「……まずは貴様が目を覚ましたことを上に報告する。話はそれからだ」

 

 それだけ告げて、男性はこの場から立ち去っていく。それを横目で見送ると、ベッドの上に横になって身体を休める。この場合は身体よりも精神の方を休めたい欲求の方が強いだろうが。

 

 

 

 

 

 

 

 巧が地上に帰ってきて三日後のことだった。

 

「もう!もうもうもうっ!!もうッッ!!」

「……ヘスティア様はいつから牛になったの?」

「違うっ!!怒っているんだよっ!!ボクはッ!!」

 

 鉄格子越しに自慢のツインテールを天に向けて尖らせながら、声を荒げる巧の主神がそこにいた。

 倒置法を使うほど怒り心頭なのだろう。

 あの後、幾度にわたる交渉の末、どうにか主神であるヘスティア様との面会と、【ステイタス】の更新を許された。

 巧はこれが本物の怒髪天を衝くという奴なのだろうか?などと眼前の怒れる主神を見ながら、少しだけほんわかした気持ちになった。

 

「ヘスティア様が怒っても全然怖くないよー。むしろ可愛いぐらいだよ」

「にゃ、にゃにおぅ!?」

 

 怒りで顔を真っ赤にしていたと思うと、今度は羞恥で顔を赤に染める。

 そんな様子を見て、巧はさらに口元を歪めてしまう。

 

「……お前達を面会させたのはイチャつかせるためじゃないんだが?」

「わかってまーす」

「べ、別にこれぐらいはいいだろう!?」

 

 ここの管理者の男性の声で、巧は剥き出しの背中をヘスティアの方へと向ける。

 

「じゃあ、更新するよ」

「お願いー」

 

 ヘスティアの小さな手が巧の小さな背中を這うようにして【ステイタス】を弄る。ここまではいつも通り。

 だが、まだ終わっていないはずなのにヘスティアの手がふとした瞬間に止まる。

 鉄格子越しで背中を弄りづらいのかもしれない。しかし、それにしても止まっている時間が長すぎる。

 そのことを不審に感じた巧が尋ねる。

 

「……どうしたの?もう終わった?まぁ、更新しても数値は変わらないだろうから少し早い―――」

「【ランクアップ】できる……」

「あっそう?ならおねがーい!発展アビリティがあるなら、ぜひとも『耐異常』で!」

「軽い!?もう少し感動とかはないのかい!?」

「ない。そして今の俺には時間もない!早くしてー!俺がまた倒れる前にー!」

 

 必死な巧の声に促され、ため息を吐きながらも【ランクアップ】させる。

 

「はい、これ。写しね」

「うん。ありがとう。いつもすまないねぇお婆さん」

「それは言わない約束でしょうお爺さん……って誰がお婆さんだいッ!!」

 

 綺麗なノリ突っ込みをしながらツインテールを自在に動かして巧の首に纏わりつかせる。

 一方の巧はこのノリが神相手に通じたことに驚きを隠せずにいた。傍にいる男性は少しだけ首を傾げて不思議そうにしているため、これは世界共通ではなく神相手にしか通じないのだろうと考えた。そこから天界では巧の元いた世界、地球と似たような文化が少なからずあるのだろう。以前からこの世界の文化では生まれない言葉などがあり不思議に思っていたが、神達が広めたのだろうと、ここで確信した。

 そしてようやく思考が一周して落ち着いた巧は渡された紙に視線を這わせる。

 

 

タクミ・カトウ

Lv.3

力:I0

耐久:I0

器用:I0

敏捷:I0

魔力:I0

頑強:I→H

耐異常:I

 

 

スキルはいつも通り省略されており、変化がなかったことを示していた。

 

「そういえば、ベルはどう?やっぱり心配してた?」

「治療室で丸二日眠りこけてたけど、今はもう大丈夫そうだよ。それと、タクミ君のことを聞いて動転してたよ。言葉すらまともに出せないぐらいにね。【ランクアップ】したのに、全然嬉しそうじゃなかったよ」

「そっか。それは、悪いことをしちゃったかな……」

「タクミ君の方も話して欲しいんだけどな」

「ここから出られたら、話せることは話すよ」

「なら、いま陥ってる状況は?」

「……それは、ごめん。巻き込みたくない。話すだけでも影響が出るかもしれないから。それに()()に神という存在を与えたら、どうなるか分からないし、知りたくもないんだ」

「……うん。分かったよ。何を言っているかは分からないけど、タクミ君がそういうのなら信じるよ」

「ありがとう。ああ、それとベルがLv.2になったなら、是非ともヴェルフと一緒に潜ってやって欲しいな。リリルカとの二人じゃ流石に厳しいだろうし、お互いにとっていい経験になると思うから。俺も行きたいけど、こんな状況だしね……」

「そうだね……。ああ、しっかり伝えておくよ!」

 

 それを最後にヘスティアはホームへと帰っていった。巧はそんな彼女を手枷が嵌められた両手を振って見送る。

 そして、格子の前にいる男性に目を向ける。

 

「それで、これからどうすればいいわけ?」

「事情聴取だ」

「ずっと言ってるけど無理だね。下手にアイツの餌を増やしたくはない。今も俺に勝つために貪ってるかもしれないのに、どうしてこちらが不利になるようなことをしなきゃいけないんだよ」

「チッ……貴様はそればかりだな」

「こればかりは人智を、いや()()すらも超えているかもしれない存在だ。理解できなくてもいいよ。いや、理解させちゃマズい、の方が正しいのかな?」

 

 まるで言葉遊びをしているかのような会話を男性としていると、巧の視界が歪み始める。

 

「あぁ、クソ。いくら何でも早すぎるだろ。あれだけやってものの二時間でまた仕掛けてくるのかよ」

「……?お、おい?大丈夫なのか?」

「分からない……。また、暴れるかもしれないからここには近づかない方が良いかもね……あぁ、でも、紙と書くものが欲しいかな……それさえあれば、多分大丈夫だから……」

 

 それを最後に巧の意識は完全に幻覚世界へと降り立った。

 生物ではない、『言葉』という不可思議な存在を撃退すべく。

 




クレジット

「摩擦熱切断手刀」は”Central_ECH”作「耐久実験」に基づきます。
http://ja.scp-wiki.net/central-ech-2

「SCP-444-JP」は”locker”作「SCP-444-JP」に基づきます。
http://ja.scp-wiki.net/scp-444-jp
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