ダンジョンにSCP-710-JP-J伝承者がいるのは間違っているだろうか   作:猫屋敷の召使い

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前回の投稿から半年と少しぐらいでしょうか?

本ッッッ当に申し訳ございませんでしたァッ!!

前回の投稿の時に『卒論も軌道に乗ってきた』と申し上げましたが……全くそんなことはございませんでしたッ!!

前話の投稿後、実験に次ぐ実験で挙句の果てには小規模ではありますが学会での発表及びその準備なども相まり、月日が過ぎ、今話の投稿時間になりました……。

これからは不定期更新とはいえ、頑張って投稿を続けていく所存ですので、どれだけの人が待っていてくださっていらっしゃるかわかりませんが、これからもよろしくお願いいたしします。

それでは最新話をどうぞ。



第五〇話

 『夕焼けよりも赤い』空の下。赤い巨鳥が支配する幻覚世界だ。

 そこには地に落ち、倒れ伏した巨大な赤い鳥と、その上に居座って鼻歌を歌い、上機嫌な少年のような容姿の男性が一人いた。

 

「やっぱ、【ランクアップ】って偉大だわ。身体の感覚が違うもん。まぁ、代わりにずれの修正が少々面倒だけど、まぁ問題ないかな?すぐに慣れるでしょ」

『―――――』

 

 翼は捥がれ、足も斬り落とされ、首と嘴さえも落とされ、それでもなお血走った眼を自身の上に座る少年、巧へと向ける。そんな彼は赤い鳥とは対照的に疲労の色が見られる目で、地面に転がる生首へと視線を向ける。

 

「とはいえ、これでも大分つらいねー。腕を持っていかれなくなっただけで、儲けもんってことで我慢しとくべき?」

 

 巧の全身には嘴や爪によってつけられたと思われる生傷が多数見られた。

 手の平にも裂傷があり、相当な無茶をしたことが見受けられた。

 

「でも、これでまたしばらくお別れかな?しばらくは回復に専念してくれると助かるかな」

 

 そして、右手を意識的に動かして文字を綴る。

 

 

 

 

 

 

 

 幻覚世界から現実世界へと意識が浮上する。巧は最初に右手に握られたペンの先へと視線をやる。

 そこには羊皮紙が地面に直に置かれており、紙面には()()()でSCP-444-JPが筆記されている。

 共通語(コイネー)で書かれていないことを確認すると、ペンを紙の上に置き、空気を大きく吐き出す。これで安全なのかは巧にも分からない。意味が理解できなければセーフなのか、理解できなくても見た時点でアウトなのか。性質が大きく変容している可能性のある存在に対する細やかな抵抗かもしれないが、しないよりはマシだろう。

 その後、紙を見えない場所に隠すと、備え付けの硬いベッドに横になり、頭と身体を休ませるために脱力する。

 そして、巧のいる牢に一つの足音が近づいてくる。ここ数日で聞き慣れた音だ。音の主はそのまま歩いてくると巧のいる牢の前で立ち止まる。

 

「……寝ているのか?」

「……起きてるよ。すごい疲れているけどね」

 

 男の言葉に巧は気怠げに返す。赤い鳥に四六時中襲われているようなものだ。精神も身体も休ませる暇が少ない。そのため僅かな時間でも身体を効率的に休ませることに努めている。

 

「それで、何の用?」

「……貴様の処罰が決まった」

「そいつは嬉しいねぇ。此処に入ってもう十日かな?ま、すぐ出れようが長くなろうが大して気にはならんけどねー……」

「……被害者もおらず、初犯ということで罰金と治療室の修繕費だけで済ませるそうだ。どう見ても、あの行動は貴様自身の意思ではないと判断された」

「ありがたいこって……ちなみに、今すぐ出なきゃダメ?」

「……それについても貴様の自由でいいそうだ。出るときに声をかけろ。牢を開けてやる」

「寛大な処遇をどうもー……」

 

 最後にそれを告げて牢の前から立ち去っていく。その様子を目で確認せず、音だけで理解すると、ため息を吐く。

 

(……とはいっても、どう対処すべきか……『熱血健康法』と『冷血健康法』で除去してもいいが、アイツがこの世界に蔓延っているのか、それとも別世界でも関係なく付き纏ってきただけなのか判断ができないんだよな……。そもそも本当にアイツは『言葉』なのか?餌を摂取して成長する?完全に生物だな。……あぁ、意識の世界を飛ぶ認識の鳥だったな。とはいえ、その存在が『在る』として、いる場所は俺の中なのか、別の場所、それこそ幻覚世界という別世界なのか……分からないから、オブジェクトとして収容されたんだが。いやすでに収容違反だったな。財団が実験をし過ぎた結果だが……。組織内でも存在を()()()()()のは、一部の伝承者クラスの職員のみだったか……そう考えると、分からないことが多いってことでもあるのか……考えても仕方ないか。今はこの状況をどうにかすることだけを考えるべきだな)

 

 そのまま考えることを放棄し、目を閉じる。

 せめて、数時間は眠れることを祈って。

 

 

 

 

 

 

 

 360°地平線まで続く赤い野原。『夕焼けよりも赤い』空。

 いい加減鬱陶しく感じてしまうほど見慣れた景色。

 既に赤い巨鳥は巧の手によって地に堕とされている。だが巧も今回は無傷で勝利することは叶わなかった。

 左肩が抉られ、左腕があるべき場所についておらず、遠くに落ちていた。実際に赤い鳥にやられたのは肩だけだが、動かない腕がついていても邪魔だからと、巧自身が斬り捨て、止血を行った。

 今までの巨鳥であれば『元素功法』を使い、治療する余裕があっただろうが、今回はさらに成長し、より強くなっており、使う暇がなかった。

 それでもなお、巧は巨鳥を打ち倒すほどの実力があった。

 そして、すでに巨鳥は身体の治癒が始まっている。

 

「……随分と回復が早くなったな」

『―――――』

「そう睨むなよ。こちらも抵抗せずにやられるわけにはいかない」

 

 巧はそう告げると、斬り落とした巨鳥の頭部を持ち上げる。

 

「この十日間、考え続けたがあまりいい案は浮かばなかった。結局のところ、『熱血健康法』と『冷血健康法』による除去が前例もあり確実という結論に至る。まぁ、お前については分からないことも多い。それを調べる良い機会だと考え、努力してきたが、流石に限界が近い」

 

 そう言いながら、巧は持ち上げた頭部を見ながら、顔を顰める。

 

「ただ、まあ、誰もお前を『食べる』という試みをしていなかったと思ってな」

『―――――』

「まぁ、食べて腹の中で再生でもされたらトラウマもんだからな。かく言う俺も、少々怖い。だが、試せるタイミングは限られているからな。とはいえ長々話しても仕方ない。んじゃ、こうしていても再生する一方だし―――」

 

 そこまで告げ、巧はいよいよ口を大きく開ける。

 

「――― イタダキマス

 

 

 

 

 

 

 

 巧の意識が戻る。幻覚世界から帰還し、真っ先に向かったのは、牢の隅にあるトイレだった。便器に顔を突っ込むと胃の中身を盛大にぶちまける。もう昼も近く、朝食はほとんど消化されてしまっているのか、黄色い胃液が大半だった。苦しみながら、不快感を吐き出すために胃の中身を逆流させる。

 なぜ、こんなにも彼が苦しんでいるのか。その理由は意外と単純だった。

 

「ぉえ……流石に、羽毛が生えたまま食すもん、じゃねぇな。まだ口と喉に感触が残ってるし……。いや、そもそもの話、いくら錯乱気味だからって『食べる』って……さっきの俺の思考回路、ヤバいな……睡眠不足や疲労が相まって、苛立ってるとはいえ……流石にひくわ……」

 

 羽のついたままのSCP-444-JPを腹に詰め込んだからである。羽のふさふさとした毛が食道を撫で下りていく感触。羽の硬い軸が喉に突っかかる感覚。それらがすべて脳と身体が鮮明に記憶していた。

 たとえそれが、幻覚世界でのことで、実際に胃の中には無いと理解していても、気分的に胃の内容物を戻すと、少しだけ楽になった気がする。それも、気休め程度ではあるが。

 そんなことよりも、より気がかりなことが巧にはあった。

 

「つか、成功したのか?俺が書いた形跡はないが……」

 

 傍に落ちていた羊皮紙をじっくりと眺めるも、真新しい書き込みは存在しない。つまり、現実世界で筆記することなく、幻覚世界から脱出したことになる。しかし、これが成功といえる結果なのかは分からなかった。

 

「しばらく、様子見かな……うっ」

 

 もう少しの間、牢の中で過ごすことに決めた巧は、再び便器に顔を突っ込んでせり上がってきた胃液を吐き出した。

 




前書きでお話したように不定期更新ではありますが、続けていきます。今後ともよろしくお願いいたします。


蛇足

序盤の『翼は捥がれ~』の文章書いてるとき、「ん?似たような表現をどこかで聞いたような……??」と思ったら、遊戯王の【征竜】君でしたね……。なお、緋色の鳥よりも凶悪だったし、しぶとかった(遊戯王界隈に限る)。そんなことを書いてて思いました。当時は地獄だったけど、今思い出すと少し笑えてくるあたり、いい思い出だったのだろうか?


以下クレジット

「SCP-444-JP」は”locker”作「SCP-444-JP」に基づきます。
http://ja.scp-wiki.net/scp-444-jp

「熱血健康法」は”Central_ECH”作「百問百答」に基づきます。
http://ja.scp-wiki.net/central-ech-5

「冷血健康法」は”Central_ECH”作「百問百答」に基づきます。
http://ja.scp-wiki.net/central-ech-5

「元素功法」は”sakagami”原案及び”Central_ECH”改稿「INTRODUCTION OF 財団神拳」の「新たな奥義」欄に基づきます。
http://ja.scp-wiki.net/sakagami006-portal-of-foundation-shinken

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