メガネを踏む。村人に転生する。   作:青原 匠

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01 異世界だ! 魔法だ! 村人だ……

 "異世界転生"と聞いて君達は何を想像する?

 

 例えば、とんでもないチートスキルを持って無双し、ハーレムを築くだとか、魔王になって世界を牛耳るだとか、色んなことを思いつくだろう。

 

 でもな、これだけは言える。

 

 

 

 

 誰もただの村人に転生するなんて普通考えないよなぁぁぁぁぁ!?

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

「んんー! んんー!」

 

 声を出そうとするのだが、何故か上手く声が出ない。

 すると、金髪で碧眼の美女、というか美少女が、俺のことをのぞき込みながら抱き抱えてくる。

 あぁ、目の前に自然のものよりも美しい谷が……ありがとうございます。

 そして、その金髪美少女が俺に話しかけてくる。

 

「どうちまちたかー、ドロズたーん」

 

 ん? なんだ? ドロズ? 誰だそれ?

 というか俺の体重60kgは超えてるぞ? こんなにも華奢な美少女にしては、軽々と持ちすぎたろ……

 

「ご飯でちゅねー」

 

 何で赤ちゃん言葉で話しかけてくる?

 てかこの美少女、でかくね? 特にお胸とか……っておっと……

 でも、それにしても何もかも大きくね?

  視界に入ってくる家具諸々は全て俺の知っているそれよりも大きいのだ。

 いや、それとも俺が小さくなってるのか?

 駄目だ、訳が分からない。

 

 

 そもそもなんでこんなことになったんだっけ……

 

 

 

 まず1つ、俺は極普通の高校三年生で名前は田中 京介という。間違ってもドロズなんていう外人みたいな名前じゃない。

 確か昨日はいつも通り高校から家に帰宅して、自室で着替えをして……あぁ、そうだった、思い出したぞ。

 着替えようとブレザーを脱いで、その時にかけていたメガネが床に落ちたんだった。そして、それを拾おうとしたときにうっかりメガネを踏んづけてしまって、すってんころりん。机の角で頭を打ったんだった。

 その後の記憶は全くない。恐らく意識を失ったのだろう。

 

「はーい、あーんしてくだちゃいねー」

 

 そんなことを考えていると、金髪美少女がカップから何かを木製のスプーンですくい上げ、俺の口へと半ば無理やり入れてきた。

 温かくて少し甘い。これは米か?

 でもなんか、食感はぐにゅぐにゅだ。というかこれ離乳食じゃね?

 そりゃあ、離乳食なんてものの味は覚えちゃいないが、伝聞とかから入ってきた離乳食の情報と照らし合わせて判断するに、俺の口に入ってるこれは離乳食だ。

 

 

 待てよ? ということは、俺は赤ちゃんなのか!?

 

 それなら、周りのものが総じて大きいということも理屈が通る。

 

 いやいやいや、流石にそれはないよな……

 

 

 

 

 

 

 

 ◆ 1ヶ月後

 

 

 

 

 

 

 

 俺はようやく事態を呑み込むことが出来た。

 そう、俺は異世界に転生していたのだ。

 

 両親と思わしき共に20歳前後の2人の会話を聞いていたら、聞いたこともない地名や単語などが聞こえてきて、家には電化製品がなく、照明は燭台に蝋燭を立ててまかなっていた。

 窓辺から見える景色は、なんというのだろうか。RPGゲームで初めて訪れる村の様な感じであった。

 

 ただ、一つだけ不可解なことが。

 なんと、異世界だというのに言語が理解できるのだ。

 さっきも言った通り、両親の会話も聞き取れるし、本棚に置いてあった書物のタイトルも読めた。

 

 まぁ、でも、そんなことをも吹き飛ばせることがある。

 美少女の母乳を吸えるのだ!

 なんということだろうか。異世界に転生したと分かって、色々と思うところはあったが、この事実さえあれば後はどうでもいい。

 母乳万歳! 美少女万歳! 異世界万歳!

 

 

 

 

 

 

 ◆半年後

 

 

 

 

 

 

 生後6ヶ月にして、俺は二足歩行をしていた。

 こんなにも早すぎたら、不審がられるかもと思ったが、

 それを見た両親は、

 

「きゃー! ドロズたんが歩いたわよー!」

 

「まだ半年だぞ! この子は天才だ!」

 

 ただただベタ褒めをしてきた。

 うん、俺の両親は馬鹿だな。

 

 

 それでこの家だが、木造建ての平屋建てで、部屋数は3つ。それぞれ寝室、書斎、俺の部屋であった。こんなにも早くから俺の部屋を用意している辺り、両親の俺への溺愛具合が如実に伝わってくる。そして、近所の家などと比較した感じだと比較的平均的な大きさだった。

 

 

 

 

 で、そんなある日、俺は書斎にある書物を漁っていた。

 半年も経ったが、未だにこの世界のことについて俺は何も知らないからだ。

 

 俺の背丈より一回りも二回りも大きな本棚を物色していると、興味深いものを発見した。

 

 背表紙に書いてあったタイトルは、『今日から君も魔法使い 初級編』。

 

 そう、魔法だ。魔法なのだ!

 誰しもが1度は憧れる(あくまで個人のイメージです)ものが、今目の前に……

 そう思うと、気持ちが高揚してたまらなかった。

 しかし、その書物が置いてあるところと俺の身長には絶望的な差があり、周りに足場になりそうなものもなく、両親を呼ぼうにも上手く声を出せないから今回は諦めるしか無さそうだ。大人しく成長を待とう。

 

 

 

 

 

 ◆一年後

 

 

 

 

 

 母親の名前は、リーシャ・デレス、

 父親の名前は、ダームズ・デレスということがわかった。

 ということは、俺のフルネームはドロズ・デレスということになる。

 

 身長はまだまだ低いが、俺はもう喋られるようになったから、母親に

 

「魔法に関する書物を読みたいのですが」

 

 と、言うと。

 

「あらやだ、ドロズたん賢いですわねー! もう本を読めるなんて!」

 

 相変わらずベタ褒めをしてきた。

 

「そんなことはありませんよ、お母様」

 

「もうやだ、お母様だなんて言っちゃって!」

 

 もうあれだ、何を言ってもこの人ははしゃぐな……

 

 そんなこんながあったが、リーシャは俺の希望していた書物を手に取り、渡してきてくれた。

 少しばかりホコリをかぶっており、ずっしりとした重さだ。

 

 俺はその本を手に取り、書斎のテーブルに座ってページを1枚1枚めくっていった。

 初級編とは言うものの、魔法に関する知識が皆無な俺にとってはかなり難しく見える。

 しかし、夢にまで見た魔法だ。ここで諦めてはならない。

 その一心で、三日間かけて600ページにも及ぶ書物を読み終えた。

 

 

 内容を抜粋すれば、

 

 

 1 魔法を大きく分けると4つになる。

 

 ・攻撃魔法>物理的に相手を攻撃する。

 ・干渉魔法>非物理的に相手を攻撃する。

 ・支援魔法>恩恵を与える。

 ・召喚魔法>生物を召還し、使役させる。

 

 

 2 魔法を使うには、詠唱をしなければならない。

 

 各魔法ごとにそれぞれ違った詠唱があるらしく、それを一語一句間違えずに言わなければならないらしい。

 一応、無詠唱で出来ることには出来るらしいが、難易度が高く、殆どの人は詠唱をしていると書いてあった。

 

 

 3 魔法を使うには魔力(MP)が必要となる。

 

 魔法を使うためには己に秘められた魔力を使う必要があるらしく、魔法によって使用量が異なるとのこと。魔力量は生まれつきの体質によるものが大きいらしいが、ある程度は努力で増やすことも出来るらしい。

 それとは別に、何らかのアイテムを用いて一時的にだが魔力の足しにすることも出来るらしい。

 もっとも、それらのアイテムは非常に高価であり、一般的な人には手を出しにくい代物だとのこと。

 予断だが、魔力(MP)とは別に体力(HP)のことも書いてあった。なんか、ゲームのような世界だ。

 

 

 

 これくらいだ。

 案外単純なものだとは思ったが、この書物が置いてあった隣には中級編、上級編も置いてあり、ただでさえ分厚いものがさらに分厚くなっていたから、掘り下げたら色々と奥が深いのだろう。

 まぁしかし、俺はまだ1歳児だし、魔法に関する才能があるかもわからないから取り敢えずはここまでにしておいた。

 

 

 

 ではさてさて、早速魔法を使ってみるか。

 例の書物によると魔法の難易度はFからSまであるらしく、俺は一番簡単な難易度Fの魔法を探し出す。

 

 そして書物に書いてあった通り右手を突き出し、

 

「闇夜を照らす猛る炎よ、出でよ! 照炎(ヴァレスト)!」

 

 と詠唱すると、右手から突如として燦爛たる炎が現れた。

 

「うお!」

 

 そのことに少しばかり驚くが、炎が出てるというのに右手は不思議と熱さを感じない。

 その炎は鮮やかさを保ちながら、行き場を見失ったかのようにぽとりと床に落ちる。

 

「あっ……」

 

 炎属性の魔法を使うまでは良かったけど、その先のことを考えてなかった……

 

 床に落ちた炎は瞬く間に引火し、炎の強さは度合いを強める。

 

 

 俺はこのことに危機感を募らし、

 

「命の源、清らかなる水よ、我が手に集え! 流水(ウォーター)!」

 

 急いで水属性の魔法を延焼しつつある炎に向かって唱えた。

 

 右手から勢いを持って水が排出されるが、これもまた不思議と冷たさは感じられない。

 

 排出された水は炎へとピンポイントに向かい、程なくして無事に消化された。

 

「ふぅ……」

 

 何とか大事には至らなくてよかったよかった。

 まぁ、少し床は黒焦げてしまっているが……

 今度から魔法を使う時は、場所にも充分に留意しよう。

 

 そう思い、左手で額の汗を拭おうとしたとき、俺はふと書斎の入口付近を見た。

 

 すると、そこには俺の事を見ながら放心している、リーシャの姿があった。

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