「弟君?昨日に引き続き、何をやっているのかな?お姉ちゃんはすごく心配なんだけど」
「いや、これは……今、絶賛痴女に襲われ中で……」
「なっ!?何を言うのですか、この変態!」
「ふふふ……この態勢でどちらの言うことが真実に聞こえるかな?」
「くっ……」
謎の美少女は、俺からぱっと飛び退いた。
今だ。
俺はその場から一目散に逃げ出した。
「あっ!」
「弟君!?」
「じゃあ、また後で!」
「逃げて大丈夫なのか?」
「義姉さんへの上手い説明が思いつかない!」
時間が経てば多分忘れてくれるだろう。
そんな希望的観測を抱きながら、俺は学校への道のりをただただ駆け抜けた。
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「ふぅ……」
何とか遅刻は免れた。
義姉さんと謎の美少女をあの場に残してきたのは心残りだが、あの状況を姉さんに上手く説明できる自信がない……いや、これはこれで自分自身で傷口を広げた気がする。今の内に言い訳を考えておかないと。
息が整ったところで、オッサンが話しかけてくる。
「お前、どうしたんだよ。モテキか?これから沢山の美少女と出会っちゃうのか?」
「俺もそんな気がしてきた」
朝から変態扱いされたとはいえ、あんな美少女と(二次元において)ベタな出会い方をするなんて思いもしなかった。
昨日から、美少女に縁があるようだ。どうやら……ついに俺にも恋が攻めてきたか。
多分、この後さっきの美少女が転校生として……いや、あの子は中学生か。いや、待て。もしかしたら、俺が落とした生徒手帳を届けに来てくれるとか。
俺は胸ポケットを調べる。
生徒手帳はしっかり入っていた。
「お前、やっぱりバカだろ」
「別に。なんも期待してねーし」
「…………」
しまった。
普通にオッサンと会話していたら、前の席の女子が不審そうな目をこっちに向けてきている。
これといった特徴のない眼鏡。そのレンズの向こう側の、怯えたような目。肩にかかるくらいの、少し癖のある黒髪。派手さはないが、上品に整った顔立ち。見覚えはないので、今年から同じクラスになった女子だろう。
……やっちまった。ちなみにオッサンは床に寝そべり、ゲラゲラ笑っている。
内心テンパっている俺から、彼女は何故か目を逸らそうともしない。……お願いだから、そんな怯えたような目を向けないで欲しいんだけど。
「…………ぃ」
「はい?」
彼女の口から何か声が漏れた気がしたので聞き返す。ほのかに赤い小さな唇は小さく動いていた。
しかし、彼女はさっと前を向き、何事もなかったかのように読書を始めた。
「けけけ、ふられてやんの」
「…………」
とりあえずこいつは無視で。