「あ、新藤君。ちょっといい?」
朝礼が終わると、梛ノ宮先生が声をかけてきた。オッサンは教卓に立ち(?)金八先生の真似をしている。……ツッコむなよ、俺。
ちなみに、さっきの眼鏡女子は読書に耽っていて、こちらが声をかける隙などない。おそらく、遠回しな話しかけるなアピールだろう。……まあ、仕方ない。こんな事もあるさ。いや、やはりダメージはでかい。思春期男子のハートはそんなにタフじゃない。
「どうかした?」
「い、いえ……」
梛ノ宮先生のがいきなりこちらの顔を覗き込んでくる。すらりと整った大人の顔立ちに、さっきまでのモヤモヤは吹き飛んだ。思春期男子ってなんて単純なのかしら。神様、この出会いに感謝します。
「はい、そこの童貞!先生に欲情しない!」
うるせえよ!
「どうしたんですか?」
「ちょっとプリント運ぶのを手伝って欲しいのよ」
「はあ……」
何故真っ先に俺が選ばれたのだろうか。
「桃原先生が、新藤君に雑用は頼むと喜ぶって言われたの」
「……あの年増」
「ダメよ。そんな事言ったら、言いつけちゃうわよ?」
「いや、それだけは勘弁してください」
桃原先生とは、俺の1年の頃の担任である。ふとしたきっかけから、俺に大量の雑用を押しつけるようになった年増……大人の魅力に満ち溢れた三十代半ばの女教師だ。彼女が押しつけてくる一部の熱狂的なファンからは羨ましがられたが、俺としてはちっとも嬉しくはない。ツンデレとかじゃなく。
「君はああいう人がタイプに見えるんだけど……」
「いや、何ですか。その遠回しなM認定。勘弁してください」
「まるで桃原先生が見るからにSって言いたそうね」
「さ、早く運びましょう」
「さらっと逃げたわね」
*******
「新藤君は部活に入ってるの?」
「一応……入ってるといえば入ってます」
「へえ、何部?」
「……すいません。それは聞かない方向でお願いします」
「?……別にいいけど」
「先生はどこかの顧問なんですか?」
「私は吹奏楽部の顧問をすることになってるわ。興味ある?」
「いえ、全然」
「はっきり言ったわね……」
「NOといえる日本人を目指してますので」
「ふふっ、まあ悪い事じゃないけど。定期演奏会くらいは観に来れば?」
「……その日は用事が……」
「まだいつやるかも言ってないんだけど。じゃあ新藤君はプリント係に任命ね」
「じゃあって……話繋がってませんよ。しかもその役職、雑用がどんどん押しつけられそう」
「お願いね♪」
先生が正面に立ち、にっこりと悪戯っぽい笑みを向けてくる。
……はあ。
年上の美人に弱い自分が恨めしい。