謎の毒舌女について行くと、住宅街からやや離れた森の中へと入った。不気味に聳え立つ木々の間にある小道を通り抜け、開けた場所へ出ると、そこには少し大きいだけで、あとは何の変哲もない一軒家があった。赤いレンガ風の高級感のある外観が、この周囲に木以外何もない場所では、やけに寂しく感じられた。
「ここ、お前の家か?」
「このタイミングでそうじゃなかったらなんなのよ」
「……昨日の公園じゃなくていいのかよ」
「ああ、あれ?あれは……」
彼女は振り返り、髪をかき上げ、絵画になってもおかしくないくらいに整った、優雅で可憐な微笑みを向けてきた。
しかし、それはどこか作り物めいていて、触れると壊れてしまいそうな脆さも感じられた。
「いいのよ、別に。昨日の事は忘れて頂戴」
「……そういやまだ名前……」
「人に聞く前に自分から名乗るものではなくて?」
「あ、ああ、そうだな」
「ちなみに今のは私が一度は言ってみたいセリフ第7位にランクインしているわ」
「いや、心の底からどうでもいいんだが……」
「言わせてくれたお礼にウエルカムドリンクくらいは出してあげるわ」
「むしろ何もしなきゃ出ないのか。いよいよ何のために来たのかわからんぞ」
「…………」
彼女は俺の言葉を無視して、背後に浮かぶオッサンをじぃっと見ている。その冷ややかな視線に、オッサンは居心地悪そうにそっぽを向いた。
……そっか。俺じゃなくてこの悪霊に興味があるのか。
まあ、確かにそう考える方が自然だ。突然出会った美少女とトントン拍子で距離が縮まるとか、さすがにそんなラノベ的なおいしい展開は期待していない。それより……
「俺、新藤与っていうんだけど、そっちは……」
「ヒミツよ」
……うぜえ。ていうか、同じ学校に通ってるんだから、調べればすぐにわかるだろうし、隠す意味なんてねえだろ。
俺は名字だけでも確認しておこうと表札に目を向けた。
すると、彼女は立ち位置を移動し、表札を隠してしまった。
「おい」
「ふぅ……わかってないわね、あなた」
「何がだよ」
「名前を秘密にしておくキャラクターって案外おいしいポジションでしょ?」
「いや、わかんねえよ?」
「ほら、いーちゃんとかみーくんとか」
「具体的すぎる例だな……」
「だから私の事は…………みーちゃんとかどうかしら?」
「はあ。まあ何でもいいや」
こいつとは絶対に校内で会わないようにしよう。人前でみーちゃんとか言いたくない。むしろ今も言いたくない。今後一切関わらない方向で。
「つーかさ、みーちゃんって言っても、お前の名前と関係あるの?」
「……………………ないとは言いきれないわね」
うん。絶対に何の関係もないですよね、これ。