「何だって!!?」
静かな境内に、驚愕に染まった俺の声が響く。
他には鳥の囀るささやかな音しか聞こえなかった。今この場所は、周りの空間から断絶したかのような不思議な感覚が頭の中を支配していた。
しかし、穏やかな空気は長くは続かず、辺りは次第にピリピリとした緊張感に包まれ……
「まだ何も言ってないわよ」
「先走んな、童貞」
「こういう人の話を聞かない態度が女を遠ざけるのでしょうね」
「だな。こいつと会話してると、ああモテないなって思うよ」
「本当に困ったものよね」
「…………」
ちょっとボケただけなのに、ひどいツッコミだ。てか、今さり気なく童貞とか言いやがったな、オッサン。それだけではなく、謎の女子も童貞という単語を聞いて吹き出しやがった。おい、傷つくぞ。泣くぞ。いいのか。いいんだろうな。つーか、何でアンタらそんなに息ぴったりなんだよ。
だが、ここで怒っても仕方ないので、気を取り直して、話を続けた。
「とりあえず、アンタにはこのオッサンが見えるんだな?」
「ええ、ばっちりと。普通の人と変わりないくらいに」
「クソッ!足が邪魔で見えねえ!」
「なあ、そいつそのまま消してくれない?」
「いやよ。私が祟られたらどうするの」
オッサンは顔を踏まれながらジタバタしている。みっともない事この上ない。本当に何なんだよ、このオッサンは。さっさと死ねばいいのに。ああ、もう死んでるのか。
風に長い髪を舞わせた彼女は、オッサンを踏んづけた態勢のまま、その赤みがかった黒髪を優雅にかき分け、俺を指差してきた。
「ねえ、どうしてこういうことになってるの?」
「それは俺が聞きたいんだが……むしろ、助けてくれる展開とかじゃないのかよ」
「ふぅん……なぁんだ、ただ取り憑かれてるだけなのね」
「いや、聞けよ……で、誰なんだ?アンタは……」
「名乗るつもりはないわ」
「…………」
いや、同じ学校だから、名簿とか調べればすぐにわかるんで、隠す意味などこれっぽっちもないんですけど。
彼女はそんな俺の内心など余所に、どんどん言葉を紡いだ。
「そりゃあ、私が男だったら、こんなに綺麗で可愛い子と知り合えたら嬉しいだろうけど、ごめんなさい。あなたの気持ちには応えられないわ。時間は有限なの。だから、私のことは諦めて」
「…………」
俺とオッサンは悲しい生き物見る目で、無駄に美人オーラを振りまく謎の女子を見つめていた。
手遅れだ、こいつ……もう手の打ちようがない。
「やっぱ俺帰っていい?」