さらば変人!   作:ローリング・ビートル

9 / 21
第9話

 予想以上に頭がおかしい奴だ。

 朝っぱらから幽霊に取り憑かれるだけではなく、こんなイベントまで発生するとは……今日はどこまでも厄日のようだ。こんな日はさっさと家に帰り、不貞寝するに限る。

 

「待ちなさい」

「いや、帰る。つーか、そのオッサンあげるから、もう帰らせてください。お願いします」

「いらないわよ。こんなの」

「そう、答えを急ぐなよ。傍から見れば中々お似合いだって」

「潰すわよ。この悪霊ごと」

「なあ、お前ら。さっきから、ひどくない?」

 

 彼女は、こちらに了承を得ることもなく、手招きをした。

 

「ついてきて」

「……まじか」

「なあ、そろそろどいてくんない?」

 

 *******

 

 そのまま神社に向かうのかと思いきや、何故か公園に連れてこられた。

 ……おかしい。女子と並んで歩き、公園で今から語り合うというのに、まったくときめかない。オッサンが香椎に首根っこを掴まれて、引きずられているからだろうか。

 彼女は、そんな俺の心情などお構いなしに、ドーム型の遊具の中へ入っていった。

 

「こっちよ。はやく来なさい」

「いや、待て」

 

 何、高校生が普通に入っていってんの?砂場の近くにいる主婦や子供の視線が痛いんですけど。

 俺が躊躇っていると、彼女はクールな目つきに軽く怒気を孕ませた。本気で怖い。

 

「はやくしないと、あっちのマダム達に、あなたに犯されると伝えにいくわよ」

「お前は最低だ!!」

 

 渋々ながら、ドームの中に入る。さすがに高校生の体格となると、少しきつい。気分的にも色々ときつい。

 中は妙に涼しくて、丸や三角の形の灯りが射し込んでいた。懐かしさがふつふつと込み上げ、秘密基地ごっこをしていた頃を思い出した。今は誰の秘密基地なんだろう?

 

「ちょっと。暗いからって、変な妄想はしないで貰えるかしら?新藤君」

「してねーよ……あれ?自己紹介したっけ」

「されてないわ」

 

 彼女は少しずつ距離を詰めてきた。

 見てくれはいいが、初対面から変人すぎて、関わる気などなかったから。それなのに知ってるということは、もしかして……

 

『やっと二人きりになれたね』

『実は私……新藤君のことが……』

 

 ちょっとオッサンが邪魔だけど、まあいいか。おい、馬鹿な生き物を見るような目でこっちを見るな。それとも羨ましいのか?

 隣に座っている彼女の方からは、見た目よりずっと甘い香りが漂ってくる。そのことを意識すると、胸が高鳴った。とうとう俺にも来るべき春が訪れたのか……。

 何か外でゴソゴソと物音が聞こえた気がするが、今は確かめる気にはならなかった。

 

「ねえ」

「はいっ!」

「急に元気ね。それより……」

「?」

「そこにいるのは新藤君の知り合いかしら?」

「え?」

 

 その言葉に慌てて振り向く。

 

「や、やっほ~。弟君」

「……姉、さん」

 

「…………」

「…………」

「…………」

「何だよ、この空気」

 

 どうしてこうなった。

 何故かドーム型の遊具の中で、義姉と初対面の女子と幽霊と並んで座っている。かなりシュールな光景だ。

 姉さんは落ち着かない感じできょろきょろして、俺もつい似たような動きになる。彼女は何事もなかったかのように澄ましている。実際何もなかったけど。

 姉さん曰く、忘れ物を取りに家に戻っていたら、俺を見かけたので、つい後をつけたらしい。今後はコンビニの立ち読みも用心せねば。

 

「あの……」

 

 姉さんがおずおずと口を開く。暗くて表情はよくわからなかったが、何となくイメージはできた。

 

「お邪魔、だったかな?」

「……いや、べ「全然構いません」」

 

 姉さんの問いに答えようとしたら、彼女がぶった切るように割り込んできた。

 

「私はこの男に連れ込まれただけですので。それでは失礼します」

「は?」

「え?」

「ぷぷっ」

 

 爆弾発言を残した彼女は流れるような動作でドームから出て、振り返ることなく去っていった。

 その背中が見えなくなってから、何ともいえない沈黙が訪れる。……何故だろう。さっきより涼しいな。オッサンは腹を抱えて笑っている。

 

「ね、義姉さん。帰ろっか」

「弟君」

「は、はい……」

 

 姉さんから妙なオーラを感じる。

 あ、これヤバイやつだ。

 

「少し話を聞かせてもらえるかな?」

 

 どんなオーラを放っていようが、その笑顔は優しさに満ちていて、そのことが余計に恐ろしかった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。