今だから全力でやりたい事を探して【完結】   作:皇我リキ

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モカっとくる財布を探して

 財布と二文字にまとめても、色々な種類がある。

 

 

 長財布だったり、折り畳む財布とか、がま口とか。見た目も沢山種類があって、俺には良く分からないけどブランド品とか云々。

 要するにファッションの一部のような物なのだ。お金を入れる物にお金を使うという発想が、俺にはなんかもう良く分からないが。

 

 

「そもそもポイントカードが多過ぎるんだよ。それ、本当に全部使うのか?」

「そりゃ〜もう───役に立たないカードなんて、一枚もない。……キリッ」

 一瞬顔が変わったけど。カードゲームしてそうな濃い顔になったけど。いや、ポイントカードの話ですよね?

 

 

「カードは拾ったってか……?」

「このカード達は、モカちゃんをこれまで支えてきてくれた、大切なカードなのだよー」

 ポイントカードの話ですよね?

 

 んで、そのポイントカードが多いものだから財布を選ぶのも一苦労である。

 

 

 とりあえず大前提としてポイントカードが沢山入る財布。

 あと女の子の財布なんだから、そこそこ見た目にも気を使わなければならない。

 あまり高い物を選ぶと俺の財布が死ぬ。財布を買う為に財布が死ぬとはこれいかに。

 

 

 値段はともかく、ポイントカードが沢山入って可愛いデザインの財布ってのが難易度高過ぎると思うんだ。

 

 

「この店は……良さげなのはなさそうだな」

「こう、モカっとくる物は、中々見つかりませんな〜」

 モカっとくる物ってなんですか。

 

 

 ショッピングモールってのは色んなお店があるので、色々見て回るつもりなんだが。

 かれこれ三件目のお店でも、モカっとくる財布は見つからなかったらしい。

 

 俺にはモカっとくる財布がなんなのか分からないので、選ぶのはモカに任せるしかないです。

 

 

 

「あー、しょーくんしょーくんしょーく〜ん」

「はいはい、しょーくんですよ」

 何度も呼ぶなよ恥ずかしい。

 

「あのお店寄っていっても、良き〜?」

「良き。……って、服の店か。財布売ってなさそうだが」

 モカが次に選んだのは、洋服の売っている店だった。なんかイケイケ系(死語)の、格好良い服が売ってる店。

 

 

 財布は売ってなさそうだが、別に急いでる訳じゃないし寄り道くらいしても良いだろう。

 ゲーセンとかで遊ぶのもアリだし、そういえば集めてる単行本の新刊が昨日出てた筈だから本屋も寄りたい。

 

 せっかくショッピングモールまで足を運んだんだ。色々な店を回っておきたい。

 

 

 お店に入りながら、モカは「おー、これはこれは」と服を眺める。

 そんな姿を見ては、モカもやっぱり女の子なんだなとか考えたり。これは言ったら怒られそうだ。

 

 

「似合う〜?」

 俺がそんな事を考えていると、モカがボーイッシュなパーカーを胸の前で構えてそう聞いてくる。

 元々そういう服装が多いというか、むしろスカートを履いている姿を制服以外で見た事がないので違和感はない。

 

 しかし、なんというかいつもと同じ感じで、感心するような事もない。

 なんと言えばいいのか、そう───モカっとこないのだ。

 

 

「似合ってはいるけど、えーとどれどれ」

 俺はそう答えながら、近くのハンガーに掛かっている服を漁る。

 それを見てモカは首を横に傾けるが、俺は手頃なワンピースを手にとって、そんなモカに突き付けた。

 

「こんなのどうだ。ほら」

 それこそ当たり障りのないワンピースだったが、普段制服以外で殆んどスカート姿を見ないのでこれはまた新鮮である。素直に可愛いかもしれない。

 

 

「……ほい」

 しかし、モカはそんなワンピースを左手で受け取ると、手首を捻って前後を入れ替える。

 

 

「……ん?」

「似合ってるよ〜」

 そして、彼女は右手の親指を立てながらそんな事を言った。

 

「いや俺が着るんじゃねーよ!! モカに似合うかなと思って選んだんだけど?!」

「えぇ〜? しょーくんが突然そっちに目覚めたかと思ったのに〜」

「そんな事あってたまるか!!」

 どういう心の心境があったら突然女装しようと思うんだよ!! 見ろ、店員さんが俺達を見て笑ってるぞ。恥ずかしいからやめてくれ!!

 

 

「でも〜、似合ってるよ?」

「似合っててたまるか。……モカはこういうの着ないのか?」

 とりあえず話の路線を変えよう。店員の笑顔がキツい。

 

 

「あたしは〜、ほら。あまりにも可愛い服を着ちゃうと、モカちゃんパワーがマックスになっちゃうからねー」

「モカちゃんパワーがマックスになるとどうなる?」

「……知らんのかー?」

 知らんわ。

 

「……モカちゃんがパワーアップする」

「良いから着てみろよ」

 スルー安定です。

 

 

「モカちゃんがパワーアップしても、本当に良いのー?」

「パワーアップしたモカ、見てみたいしな」

「……なんと、スーパーモカ星人をご所望だったか」

「突然金髪になるのか」

 毛も逆立って、凄いオーラが出る奴。

 

「オラ〜、ワクワクするぞ〜」

「似てなさ過ぎる」

 のんびり口調では合わな過ぎた。

 

 

「……うーん、しょーくんがそこまで言うのなら。スーパーモカ星人ブルーをお見せしよう」

 もう完全にアウトです。

 

 そんな訳でモカは試着室へ。なんというか、普通に楽しみだな。

 モカが着替えている間、ふと店員さんを見てみると、何故が俺を見ながら満面の笑みになっていた。

 

 何が面白いのかね……。いや、モカは面白いけども。

 

 

 考えていると、試着室が開いてモカが出て来る。普通に当たり障りのないワンピース。

 しかし、表情はそのままに後ろで手を組んだモカはいつもより女の子っぽくて───

 

 

「……普通に可愛いな」

 ───なんて、恥ずかしい事を呟いてしまった。

 

 

「普通ー? せっかくモカちゃんがおめかしをしたんだから……超絶可愛いよ〜モカちゃーん、くらいの反応が欲しかったな〜」

「俺はアイドルの追っかけか」

 いや、まぁ、普通っていうか、想像以上に可愛いんだけども。そんな事を面と向かって言える訳がなく。

 しかしモカはそんな俺の態度に不満そうだ。せっかく俺が選んだ服を着てくれたんだから、もう少し何か感想を言ってもバチは当たらないだろう。

 

 

「えーと、アレだ。……スカートも似合ってる」

「……。……えい」

「目がぁぁぁ!!」

 何故か目潰しされた。

 

 アイエエエエ! メツブシ?! メツブシナンデ?!

 

 

「ふっふっふー、モカちゃんの可愛さに目を焼かれてしまったねー」

「いや物理だったけど?!」

 滅びの呪文もなにもねーよ。

 

 

「……えーとー、似合うと思う?」

「はいはい、超絶可愛いよモカちゃーん」

 真面目に褒めると眼球が破壊されるので、このくらいにしておこう。

 

 

「ふふ、そちらのカップルの方。商品はお気に召しましたか?」

 モカと話し合っていると、件の店員さんがそうやって話しかけてきた。

 

 ……んや、ちょっと待て。今なんて? カップル?

 

 

「い、いや、ち、違いますけどぉ?!」

「あ、それは失礼しました。……それでは、ご兄弟でいらっしゃいますか?」

 俺が返事をすると、店員さんはそんな事を聞いてくる。

 

 モカと兄弟とか、同じ屋根の下で暮らすって事になる訳だが。体力が持たないよ。

 

 

「あ、いや、兄弟でもないです。……ただの、バイト仲間? な、モカ」

「……。……いや、モカちゃんとしょーくんは、そんなちゃちな関係じゃーないよ」

 おい待てお前は何を言い出す気だ。

 

 

「あたしとしょーくんは、なんか謎の組織───コンビニクラークのバイト戦士……っ!」

 コンビニ店員じゃねーか。

 

 

「……。……仲が良いんですね!」

 店員さんがどうしたら良いかわからなくなってるよ!! なんかもうごめんなさい!!

 

 

「モカ、脱いできなさい」

「こ、こんな所で、あたしの身包みを剥がそうとー? しょーくんの鬼〜、およよ〜」

「試着室で着替えて来なさいって意味じゃボケェ!!」

 いちいちボケるな!! ツッコミが疲れる!!

 

 

「可愛いお友達ですね」

「面白いお友達の間違いですよ」

 いや、まぁ、可愛いのは否定しないけどな。

 

 

 

 ───それに、俺なんかがこうやって遊んでもらってるのは勿体ない。そのくらい、今を全力で生きてる奴だ。

 

 だから、俺も何か早く全力で取り組める事を探したいね。

 

 

 

 とりあえず探すのは財布だが。

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

「あ、すまん。ちょっとだけ本屋寄って良いか?」

 財布を探して小一時間。通りかけに本屋を見つけたので、俺はモカにそう言って少しだけ立ち寄らせてもらうとする。

 

 

「いいよー」

「まぁ、一冊買うだけだが。確か昨日発売の単行本が……あった」

 漫画の新刊コーナーを探すと、お目当ての漫画は簡単に見つかった。

 

「おー、それは、しょーくんの家にあった漫画の新刊」

「よくそんな事覚えてるな」

「あたしも単行本は買ってないけど、週刊誌で読んでるからね〜」

「マジかよ。これ、青年誌だった気が」

 ゴキブリ人間と人間が戦うバトル漫画なんだが、モカってこんな感じの読むんだな。

 

「モカちゃんは、こういう漫画好きなんだよねー。あ、久し振りに読み直したいから、今度またしょーくんの家に行きたいなぁ」

「まぁ、意外ではないかな。……あれだ、良かったら全巻貸すけど?」

「……。……いやー、持っていくのも面倒くさいし。読みに行くのがー、モカちゃん的にはベストだとおもうのだよ」

 そうか……? それなら、良いけど。

 

 

 またギターでも教えてもらいながら、家で遊ぶとするかね。

 

 

 そんな訳で、単行本を買ってから財布探しを再開する。

 結構な店を回ったが、中々良い物は見付からない。

 

 

「無いのか? モカっとくる財布」

「うーん、これは中々……難しい問題だよ〜」

 俺は財布の形とか気にした事ないからな。そしてモカっとくるがもう意味分からないから、探すのを手伝う事が出来ない。

 

 もう見る店も少なくなってきたし、そろそろ見つからないと厳しいんだけどな。

 

 

 そして最後の店もあえなく撃沈。これは、不味いですよ。

 

 

 

「困ったな……。どーするよ」

 時間が余ればゲーセンでも寄ろうと思ったんだが、これはまた一周してでも本気で探さないといけなそうだ。

 

 

「うーん、モカっと来ない財布は使いたくないから。今日は探すのやめようかな〜。……付き合わせて、ごめんね?」

「んぁ〜……気持ちの良い終わり方じゃないがな」

 壊れたままだと不便だろうし、お礼の面もあったからなんだか悔しい。

 さっきの服でも買ってプレゼントしようかとも思ったが、突然モカは俺の手を掴んで引っ張る。

 

 

「何々?!」

「それじゃー、最後はゲーセンで遊ぼー」

 そんなノリでええんかい!!

 

 財布は良いんですか。俺は結構真剣に考えてたんだが!!

 

 

 モカに連れ去られ、俺はショッピングモールのゲームセンターへ。

 何度も来た訳ではないが、女の子とゲームセンターってちょっと気恥ずかしいな。

 

 

 まぁ、財布の事は今考えても仕方がない。

 

 

 今は、全力で遊ぶ事にした。

 

 

 

「フルコンボだド〜ン」

「上手過ぎでは?!」

 音ゲーしたり。

 

 

「───私は、一発の銃弾。そして双剣双銃(カドラ)のモカ」

「アウト。てか、一人で二個銃を持つな!! 俺のは?! 俺の方のゾンビも倒して?! 死ぬ!! 死んじゃうぅうう!!」

 射撃ゲーしたり。

 

 

「ハハッ、流石にレーシングゲームは負けねーぞ! コーナー二個も抜けりゃバックミラーから消してみせ───お、なんか翼が生えた青色の亀さんがぁぁ?!」

「亀さんはモカちゃんの味方なのだ〜」

 レーシングゲームしたり。

 

 

「必殺、モカちゃん拳〜」

「適当なコマンドで必殺技を出しただと?!」

 格ゲーしたり。

 

 

「一匹残らず、駆逐してやる!!」

「巨人じゃなくてモグラだけどね〜」

 なんか凄いレトロゲーしたり。

 

 

 コイン落としとか、ホッケーとか、目に映ったゲームを全部やるくらいに楽しむ。

 本当にそれだけなのに、それだけがとても楽しくて。時間を忘れて遊んでしまった。

 

 

「しょーくんやい」

「ん、なんだ?」

「プリクラとかー、撮ってく?」

 定番ですね。

 

 いや、女の子同士の友達とか野郎共の悪ふざけとかなら分かるけどもさ。

 男女の友達でプリクラって、気恥ずかしくないですかね。

 

 最近の若者はこれが普通なのか。いや、俺も最近の若者の筈だけど。

 

 

 

「……嫌?」

 そんな、上目遣いで言われると断れない。特に断る理由もないので、良いのだが。

 

 

「んじゃ、撮ってくか」

 特に変な事も考えずに。

 

 正直俺には、写真を撮るだけの為にお金を払うってのが理解できないんだが。だって、携帯で撮れるじゃん。

 ただこういうのって、その場の雰囲気が大切なんだろろうなって。そんな事を考えた。

 

 

「あーこれ写真のシチュエーションを機械が選んでくれるのね。変にポーズ考えなくて済むのは楽だな」

 三種類くらいポーズを取ってくれるらしい。

 

 最初は二人でピース。当たり障りのない感じで何よりです。

 

 

「はーい、坊主」

「坊主」

 さて、次はどんな坊主か。いや、ポーズか。

 

 

「───壁ドン……だと」

 表示されたのはそんな三文字。いや、そうだよねぇ、プリクラってそうだよねぇ!!

 

「えーと、モカさん。流石に恥ずかしいんですが」

「しょーくん、こんな事で恥ずかしがっちゃモカショーとしてグランプリ優勝は遠いよ〜?」

 まだそれ引きずってたのかよ。

 

 

 しかし壁ドンは流石にですね───

 

 

 

「───ひゃっ?!」

 と、間の抜けた声を出したのはモカではなく───俺だった。

 

 突如伸びて来たモカの手が、俺の首元を横切って壁を突く。

 突然の事に驚いた俺は、腰が低くなってモカを見上げる形になって。

 

 俺を見下ろすモカは、キメ顔で口角を吊り上げていた。

 

 

 普通逆ではぁぁあああ?!

 

 

「撮るよ〜」

 嫌だ、ときめいちゃう。

 

 

 二枚目成功。

 

 

 

「ようやるわ」

「モカちゃんにかかれば朝飯前だよ〜」

 そんじゃ、最後に無茶振りされても頼むとするかな。

 

 

 

「……。……あー」

「ん? どうしたモカ。……あー」

 しかし、最後に出て来たシチュエーションが酷過ぎた。流石にこれは従うつもりにはならない。

 

 

「お姫様抱っこってお前な」

 そんな事出来るか!! 男女友達だぞ!! てかこのシチュエーション出来る二人組の方が少ないだろ!!

 

 

「流石にこれは無理か」

「失礼なー、モカちゃんの体重は……えーと、りんご一つ分だよ〜?」

「いや体重の問題じゃないからね」

 羞恥的な問題だ。

 

 

「それじゃー、しょーくんはあたしのことお姫様抱っこ出来るのー?」

「出来るわ!! 男舐めんな!! やってやろうかゴラァ!!」

 そこまでひ弱じゃないからな。スポーツだって嫌いな訳じゃないし。

 

「……。……それじゃー、どーぞ?」

 ま、マジでやるんですか……?

 

 

「じ、じっとしてろよ」

 動かないモカの首元に手を回して、と。ズボンだからそこまで気にせずに、膝上にも手を回して───

 

 

「───よっと」

「……ぅぉ」

 モカの身体を持ち上げる。想像よりはキツいが……よ、余裕ですよ。男の子だもん!!

 

 

「ほ、ほれみろ……」

「……ぅ、ぅん。写真、撮る?」

「ぼ、ボタン押して……」

「……案外ギリギリだなー?」

 うるせぇ。

 

 

 写真を撮って、モカを下ろした。

 

 嫌だ、直接顔を見るのが恥ずかしい。

 

 

 そんな訳で、後はよく分からないのでモカに任せて写真をプリントしてもらう。

 

 

 

 三枚目、これは黒歴史だ。いや、二枚目の方が酷い。モカが見てニヤニヤしているのは絶対これだろう。

 二つは見るだけで恥ずかしいので、俺は無難な一枚目にだけ焦点を合わせた。

 

 

 本当に無難な写真なんだが、自分でも信じられないくらい満面の笑みの男が写っている。誰だこれ。

 

 

「……楽しいな、全く」

 俺、こんな顔するんだな。

 

 どこかで見た顔だけど、どこだったか。

 確か、あの時のライブハウスでのモカの顔が───

 

 

 

「しょーくん、しょーくん、これは……これは、モカっと来てしまったのだよ〜。早く、見て見て〜」

 なんて考えていると、突然モカが俺をクレーンゲームコーナーまで引っ張ってくる。

 珍しく興奮しているようなモカに驚きながらも、彼女が指差すその先には───

 

 

 

「モカっとくる財布、発見〜」

 ───モカっとくる財布がクレーンゲームの景品として飾られていた。




次回『それはきっと彼女達の笑顔に憧れたから』
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