今だから全力でやりたい事を探して【完結】   作:皇我リキ

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学生の本分は遊ぶ事である

 学生の本分は勉強である───

 

 

「んな訳ないけどな」

 ───と、思ってる学生は多分ほとんどいないだろうが。

 

 実際学生がしなくてはいけないのは、お金を稼ぐ事よりかは学ぶ事だ。

 

 

 テスト期間。

 学生が多数働く我がバイト先では完全にシフトから外れるような事は出来ないが、それでもかなり少なめのシフトで組んで貰える。

 社畜だがブラック企業ではないのだ。この考えは危険な気がするが気にしないでおこう。

 

 

 バイトも少なくなったのでとにかく遊んでやろうかとも思ったのだが、一応近々テストを控えている学生だ。

 ある程度勉強してから遊ぼう。幸い、成績は悪くない方である。中の上くらいの成績はある筈だ。

 

 

 苦手な英語(アメリカ語)以外は適当に教科書でも読み直しておけば良いとして。

 アメリカ語をどうするかだな。てか英語ってなんだよ。俺は一生日本から出ないからそんな物習う必要なんて皆無だと思うんだよね。

 

 アイドントスピークイングリッシュとだけ言っておけば世の中何とかなると思う。完全にダメ人間だ。

 

 

 

 さて、閑話休題。

 

 そんな訳なので久し振りに休日を手に入れた俺は、少しだけ勉強でもしてからゲームでもしながらゴロゴロしようと本日の予定を立てる。

 しかし朝からそんなにやる気を出して勉強をする訳がなく、ゴロゴロ漫画を読んでいたら時刻は昼。流石に勉強しようとベッドから離れた所で携帯にメッセージが届いた。

 

 

『しょーくん』

 短文。

 

 

『暇?』

「暇っす」

 即答で返す。

 

 勉強? 何それ? 中華料理か何かですか?

 せっかくの休日に勉強なんてしてられるか。遊びに誘われたら遊ぶに決まってるよね。

 何が学生の本分は勉強だ、だ。遊べる時に遊ぶのが学生なんだよ。きっとモカも同じ気持ちの筈である。

 

 

 学生の本分は遊ぶ事だ!!

 

 

『一緒に勉強しよー』

「畜生!!」

 ───学生の本分は勉強である。

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 昼飯だけを家で済ました俺は、勉強の為の参考書だとかノートの入った鞄を持って羽沢珈琲店に。

 

 

 そこには既にAfterglowのメンバーが全員揃っていて、隅の方にあるテーブルでノートや参考書を開いていた。

 モカと数人だと思っていたのに、まさか全員揃っているとは。女の子五人に混ざる勇気がないです。

 

 帰りたい。

 

 

 よし、帰ろか。

 

 

「お、翔太! 遅いじゃんかー、待ってたのに」

 巴に見つかった。

 

「ふ、ヒーローは遅れてやってくるんだよ」

 こういう時、何故か自分を守ろうとして痛い発言をしちゃう事があるよね。大体倍くらい恥ずかしい目に合うんだけど。

 

「……モカが二人になった」

 ふざけ過ぎて蘭にモカと同類扱いされたんだけど。辛い。

 

 

「えー、モカちゃんはもっとクールに登場するよー?」

「クールって、どんな?」

 ひまりちゃんの問い掛けに、モカは「ふっふっふー。見せてあげよう」と立ち上がり俺の隣まで歩いてくる。

 

 

 そして彼女はどこか気品のある立ち振る舞いで───

 

「ふ、ヒーローは遅れてやってくるんだよ」

 ───格好付けながら一言一句同じ言葉を吐いた。

 

 

「同じじゃん!」

「えー、違うよひーちゃん。分かんないかなー? つぐは分かるよね?」

 無茶振りだよ!! つぐみちゃん可愛そうだろやめなさい!!

 

「え、えーと───ニュアンスが違うよね……っ!」

 優しい!! つぐみちゃん優しい!!

 

 

「バカやってないで早く座れよー」

 何故か俺もモカと同類扱いされたが、おかげで自然に混ざる事に成功する。

 

 それは良かったんだが、なんで俺呼ばれたんですかね。

 特に頭が良い訳でもなく教え方が上手い訳でもない。彼女達とは仲良くさせて貰ってるが、漫画のモブキャラみたいな俺が呼ばれる理由が思い当たらない。

 

 

 そもそも学校が違うので、テスト範囲がズレていたりする可能性もあるのだが。

 

 

「で、俺が呼ばれた理由はなんでしょうかね……」

 そんな訳で、率直に聞いてみる事にした。

 初めて羽沢珈琲店に来た時はつぐみちゃんの父親へのプレゼント選びのアドバイスだったっけ。

 

 

「勉強の後にお───」

「遊びの前にお勉強だよー、ひーちゃん」

 遊び……?

 

「いやさ、同じ教科でも学校や先生によって教え方が違うから。それを見比べたりしたら理解が深まるんじゃないかって……つぐが」

 そう説明してくれる巴の隣で、つぐみちゃんは照れ臭そうに俯く。可愛い。

 

「ひまりちゃんが困ってて、でも私達だけじゃ同じ教え方しか出来ないって気付いたんだよね。だから山田君……お願い!」

 そんな上目遣いで言われたら頑張るしかないじゃないか……。

 

 

「……オーケー、アメリカ語以外なら任せろ」

「アメリカ語……?」

 気にしないでくれ。

 

「てか、他の学校の友人は居ないのか?」

「しょーくんが一番暇そうだったしー?」

 そうだよ暇だったよ畜生。

 

 

 そんな訳で、お勉強会に参加。教えるのが得意という訳ではないが、特に下手という訳でもないので力にはなれた筈だ。

 逆もまた然りで、俺も苦手な所を皆に教えて貰う事に。つぐみちゃんのノートは綺麗過ぎてそれを教科書にしたいレベルですよ。

 

 

 意外───ではなかったのだが。というか、予想通りというか。

 

 モカは頭が良かったです。

 授業中結構寝ているらしいが、それでもテストとかはいつも高得点らしい。いつどんな勉強をしてるんだ。

 というかモカが勉強をしてる姿が思い浮かばない。今だってボーッとしてるか、ひまりちゃんを弄ってるかのどっちかだし。

 

 

 

「大体こんなもんかー」

 背中を伸ばしながら、突然巴がそう言う。

 

 時計を見てみると時刻は午後五時を回って居た。雑談を交えながらだったけど、我ながらとても勉強したと思う。

 これはいつもより好成績が取れるのではないだろうかと、内心自信に満ち溢れながら俺は帰宅の準備をし始めた。

 

 カバンを背負って立ち上がる。

 成り行きとはいえ、五人の邪魔をするのも悪いしな。

 

 

 

「何してんの? 山田」

 そんな俺を見て、蘭はきょとんとした顔でそう聞いてきた。

 

 いや、帰ろうとしてるだけなんですけど。

 

 

「鞄なら置いて行って良いよ山田君。邪魔になるでしょ?」

 そして突然つぐみちゃんがそんな事を言う。

 

「え?」

 ちょ、ちょっと待ってくれ。え、何これ。カツアゲ? 帰るなら鞄は置いていきな、的な? 参考書とノートしか入ってないけど!!

 ていうかつぐみちゃん、そんな笑顔で人の鞄を奪おうとするような女の子だったの?! ショックで口が開かないよ!!

 

 

「何してるの翔太君? 早く鞄置いて行こうよー!」

 ひまりちゃんはそう言いながら、俺の鞄を奪ってきた。

 つぐみちゃんもひまりちゃんも笑顔で、それが怖くて逆に抵抗出来ない。

 

 え、何? どこに行くの? どこに連れて行かれるの?! 小便漏らしそうなくらい怖いんだけど!!

 

 

「山田?」

「ははーん……まさかモカ、また何も説明してないな?」

 首を横に傾ける蘭の隣で、巴が俺とモカを見比べる。

 

 どういう事だってばよ……。

 

 

「……せ、説明しろ」

「えー、モカちゃん説明したと思うけどなー」

 人差し指を口に向けて、天井を見上げるモカ。

 

 携帯を確認するが、連絡アプリに来ているメッセージは『しょーくん』『暇?』『一緒に勉強しよう』の三つだけだ。

 

 

「あ」

 途端にモカは思い出したように声を上げて、携帯を取り出してボタンを四回ほど押す。

 すると、俺の携帯にメッセージが届いた。

 

『終わったら商店街のお祭りねー』

 どう考えても今の動作では打てない文章が届く。

 

 

「貴様まさか……」

「いやー、送信ボタンを押すのを忘れてたみたいだねー」

「俺凄い怖かったんだけどぉぉ!!」

 モカの肩を揺らして抗議するも、モカは視線を逸らして知らん振り。

 

 つぐみちゃんやひまりちゃんは笑っているが、俺はその笑顔に漏らしそうになってたんだからね?!

 

 

「ってな訳で、祭り行こうと思うんだ。モカは聞かなかったみたいだけど、アタシ達と一緒に行かないか?」

「それは、是非とも行こうって話だが。……今度からモカの連絡は監視しといてくれると助かる」

「モカちゃんは悪気があった訳じゃないのにー。かなしみー。えーんえーん」

 くっそ下手くそな泣き真似はやめろ。

 

 

 そんな訳で俺達は荷物を置いて羽沢珈琲店を出る。商店街は普段より少し盛り上がりを見せていた。

 なんでもお祭りというか商店街を上げたセールみたいなのをやっているらしい。少ないが出店も出て回っている。

 

 それで、出店や特定の店で買い物をすると値段に応じて福引券が貰えるっていう良くある感じのイベントだ。

 福引とかティッシュしか当たった事ないので、あまり期待しない。一等はハワイ旅行だってよ。豪華だな。期待しない。

 

 

「いやー、屋台って普段より美味しく感じるよねー」

 そして俺の横には、両手に唐揚げ棒とフランクフルトとりんご飴と綿菓子を持ったモカが歩いている。

 

 その組み合わせを同時に食べる人初めて見たんだけど。

 

 

「私は何食べようかなー」

「あんまり食べると太っちゃうよー、ひーちゃん」

「その姿で言っても全然説得力ないけどな?!」

 なんでモカが太らないか、むしろ不思議だよ。

 

 

「金魚掬いがあるよ! 可愛いなぁ」

「よーし、アタシに任せとけ!」

「モカちゃんも負けないよー」

「俺は昔ご近所さんに金魚山田と呼ばれていたんだぜ!」

 ところでつぐみちゃんが見つけた金魚掬いに、巴とモカと俺で参加する事に。

 

 つぐみちゃんに格好良い所を見せるしかない。

 

 

 最初は巴の番。中々上手いのだが、二回目で網が破れてしまった。

 意外だが、モカは一回目で失敗。これ相当網が弱い奴かもしれない。

 

 最後は俺の番。

 モカすら失敗したという事で、慎重に獲物を見定める。

 

 

 大量にいる金魚達の中から、出来るだけ水面に近くて小さくて動きの遅い奴を観察。

 

 

「───コイツだ!」

 斜めに入れて、淵を使って掬い上げた。

 

 見事に網に乗った金魚を皿に乗せる。後ろで歓声が上がるのが気持ちいい。

 どうだ見たか金魚山田の実力を。別に格好良くないし、普段なんの役にも立たない特技だけどな!!

 

 

 ただ、俺も三回目で網が破れてしまった。まぁ、こんなもんだろう。

 

 

 

「……二匹しか取れなかった」

「それでも凄いよ!」

 人に褒められるって嬉しいですね……。

 

「持ち帰るか? 要らないなら返すけど」

「可哀想だから返してあげようかな……?」

 なら、返してやるか。人間の娯楽に付き合わせてごめんなー。強く生きろよー。

 

「……ジー」

 金魚を店の人に返そうとすると、モカはそれをじっくり見つめていた。

 

 

「なんだ? 欲しいのか?」

 モカって魚とか育てる趣味あるのか?

 

「……美味しそう」

「ダメーっ!」

 モカの爆弾発言につぐみちゃんも思わず声を上げる。

 

 金魚が可哀想なので、直ぐに返してやった。

 さっきあれだけ食べてたのになんでそんなに食欲があるんですか。

 

 

 

 買い食いもそうだが、こういう出店も数人でワイワイやっていると楽しくて時間は一瞬だ。

 

 日も落ちて来た夕暮れ時。そろそろ帰宅ムードになって来た所で、蘭が足を止める。

 

 

「福引きってここなんだ」

 そしてさも興味なさそうな声でそう言った彼女の視線は、ハワイ旅行に釘付けだった。素直じゃない。

 

「丁度福引券は六枚だし、一人ずつ引いてみようぜ」

 そんな蘭に向けて笑顔で福引券を六枚見せる巴。当の蘭は「皆が引くなら」とやっぱり素直じゃない。

 

 ただ、その視線は一等のハワイ旅行に向けられていた。五名様招待と書いてあるしAfterglowの皆で行きたいんだろう。

 

 

「それじゃ、このモカちゃんが蘭の為に一肌脱ぎますかー」

「いや、別にあたしは……」

 意味もなく袖を捲りながら、モカは福引券をスタッフの人に手渡した。

 舌で唇を舐めてから肩を回して、手回しの抽選器を勢い良く回す。

 

 小さな玉を一個だしてその玉の色で景品が決まる、お馴染みのガラガラだ。一等(ハワイ旅行)は言わずもがな金色である。

 

 

「いけー! モカー!」

 ハワイ旅行なんて実際当たる訳ないが、ひまりちゃんの応援と同時にモカはガラガラを止め───黄色い玉が出て来た。

 

 同時にスタッフが手に持ったベルを大きく鳴らす。

 う、嘘だろ?! 本当に当てたぁ?!

 

「おめでとうございます! 五等の山吹ベーカリーパン五つまで無料券でーす!!」

 金色じゃなくて黄色だった。とても紛らわしい。

 

 残念と肩を落とすひまりちゃんの隣で、蘭はとても悔しそうに俯く。なんか、こう惜しいと余計に辛いよね。

 そんな彼女達の態度とは裏腹に、モカは大喜びしていた。パン、好きだもんな……。

 

 

「やったね、モカちゃん。次は私がやってみるよ……っ!」

 両手を胸の前で握りながら、つぐみちゃんは福引券を握りしめてスタッフに渡す。

 福引きとかはあんまり意気込むと後で虚しいのだけど、たまには良いのかもしれない。

 

「いけー! つぐー!」

 ひまりちゃんの応援と同時に、ガラガラから赤い玉が出て来る。

 

 

「おめでとうございます!! 四等の高級ハムセットでーす!!」

 景品が上がったぁ?!

 

 

「う、うぇ?!」

「凄いじゃーん、流石つぐー」

 つぐみちゃんもモカも景品出すとか、ちょっと帰りが怖くなって来た。

 ほら、運を使い果たしたって思ったりするだろう。少なくとも俺はそんな幸運が続くとは思わないタイプだ。

 

 

「これは流れ来てるかもな。いける……いけるぞ!」

 ただ、彼女達は違うようで。巴がやる気になってる隣でひまりちゃんが腕を組んで前に出る。

 

 次はひまりちゃんが引くようだ。

 

 

「頑張れアタシ達のリーダー!」

 え、ひまりちゃんがリーダーだったの?

 

 

「ひーちゃーん、期待を裏切らないでねー」

「任せててって!」

 やる気満々でガラガラを回すひまりちゃん。ガラガラから出たのは───白色の玉。

 

「残念。残念賞のティッシュだよ」

 ティッシュを受け取って、ひまりちゃんはカクカクとした動きで戻ってくる。

 とても申し訳なさそうな表情をする彼女は「ごめーん……っ」と蘭に泣き付いた。

 

 世の中そんなもんである。

 

 

「いやー、期待を裏切りませんな〜」

「もーっ。モカー!」

「あはは。まぁ、そんなもんだよな。次はアタシか」

 そう言う巴もティッシュを当てて、内心一番意気込んでいた蘭もティッシュを当てた。世の中世知辛い。

 

 さて、俺もティッシュを貰って帰るとするかねぇ。

 

 

「翔太、あとは任せた」

 巴はそう言いながら、俺に福引券を渡して来る。

 

 いや、無理ですって。俺にそんな期待されても、ここでそんな運を使ったら明日死ぬ気がするし。

 

 

 ただ、あまりにも蘭が不憫だし。明日頭に鳥の糞が落ちて来るくらいの不幸が起きても良いから、一等当たらないかなぁ……くらいの気持ちで引いてみるか。

 

 

 あまり期待せず、ガラガラをゆっくりと回した。

 金色じゃなきゃ意味がない。そして、普通に出て来たのはどう見間違えても金色じゃないです。ちょっと光ってるけど、白───

 

「おぉ、おめでとうございまーす!! 二等の六名様某遊園地タダ券でございます!!」

 残念、一等じゃな───何? 二等?!

 

 遊園地タダ券?!

 

 

「え、嘘……山田……?」

「やったよ翔太君!! やったやったー!」

「す、凄いよ山田君!」

「ま、まじか翔太……っ」

 ちょ、ちょっと待って。普段ここはハワイ当てて皆に感謝されるシーンじゃないの?!

 

「いやー、しょーくん。……もってるなぁ」

「ドユコトー……」

 ただ一つ分かる事かあるとすれば───

 

 

「皆で遊園地だねー」

 ───明日俺の頭には鳥の糞が落ちて来るだろうという事だけだった。




次回『長い一日の始まり』

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