今だから全力でやりたい事を探して【完結】   作:皇我リキ

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6番目の───。出口にて

 条件反射というものがある。

 

 

 自分の意思とは関係なく、身体が勝手に動く事だ。

 火傷するほど熱いものを触った時、自分を守る為に意思をすっ飛ばして身体を守る。

 

 つまり、身の危険を感じてしまったのだからこれは仕方ないのだ。

 

 

「……あつあつだねぇ」

 見慣れた少女は、お互いに涙目で抱き合う俺とつぐみちゃんを見て目を細める。

 

 青葉モカ。その人だった。

 

 

 

「モカぁ?!」

 開いた扉と壁の間に座り込んでいたモカは、その手を俺に伸ばしながらジト目で笑う。

 お化け屋敷の雰囲気もあって、これが中々怖い。仕掛けかと思ったもんね。

 

「わ、わぁ?! ち、違うんだよモカちゃん!」

 急に俺から離れて、つぐみちゃんは物凄く焦った表情で手を上下に振った。可愛い。

 

「どしたのー? つぐ」

「え? あれ? えーと、何でもないよ!」

 どうしたの……。

 

 

 そんな事より。

 

「どうしてこんな所に座り込んでる訳よ。お化けかと思ったぞ」

「しょーくん酷〜い。……えーと、そのー? モカちゃんはひーちゃんが居ないことに気が付いて、ここで待っていたのであったー」

 こんな意味の分からない場所で待ってないで下さい。てか、ここに来るまでひまりちゃんとはぐれた事に気が付かなかったってどういう事だよ。

 

 そしてなぜか鞄をごそごそしだしたと思ったら、食べかけのスナック菓子を取り出すものだからもうツッコミが追いつかない。

 

 

「はぁ……とりあえず立てよ。ゴールまで行こうぜ」

 モカの手を取って、その身体を持ち上げる。少しだけ違和感を感じた。

 

 

「そ、それじゃモカちゃんも見付かったし行こっか!」

 焦った様子で俺達の前を歩こうとするつぐみちゃんは、突然モカに手を掴まれて「ひゃぁ?!」と声を上げる。

 お化け屋敷で身内を脅かすのはやめなさい。

 

 

「……も、モカちゃん?」

「皆で居れば、怖くないよー。幸せなら手を繋ごう?」

 幸せなら手を叩こうだよ。

 

 言いながらモカはつぐみちゃんの手を取って、何故か俺の左手に重ねた。

 手を繋げという事でしょうか……。

 

 そしてモカは俺の右手を握って、つぐみちゃんに微笑みかける。

 当のつぐみちゃんは「モカちゃんらしいや」と笑って、俺の手を握ってくれた。

 

 

 

 ……これが両手に華か。

 

 

 

「モカ、鞄開いたままだぞー」

「あ、本当だ。……一体誰が。もしかして、幽霊〜?」

「んな訳あるか! お前お菓子出してただろうが。なんか落とす前にしまいなさい」

「ふふっ、山田君お父さんみたい」

 無事にモカも見付かった事だし、俺達は三人で手を繋いだままお化け屋敷を前に進む。

 両手が塞がっているので何か出てきても逃げれないのだが、今日くらいは格好付けて二人を守ろうじゃないか。

 

 

 

 ───握った手の震えは、少しずつ小さくなった。

 

 

 

「……次はなんだ」

 身が凍りそうな程のお化けが並ぶ道を歩いて、俺達は行き止まりにたどり着く。

 まさか引き返せなんていう訳じゃないだろうな。道を間違えた? いや、一本道だった筈だ。

 

 まず急になんか出て来たり変な声が聞こえるような廊下に戻るなんて論外です。

 勘弁してください。格好付けて歩いて来たけどもう限界だ。というか外から見た以上に広くない? おかしいと思うんだけど。

 

 

「ど、どうしよう……。行き止まりだね」

「戻るしかないかー。またお化けさん達に会いに行けるねー」

「バカ言え。もう二度とあんな所に戻ってたまるか」

 しかし、現に道は行き止まりである。三方向全て壁だ。

 よく見てもよく見なくても壁は壁である。仕掛けがありそうにも見えない。

 

 

 目の前の看板にはこれまで通りヒントが書かれていた。

 

 

「ここはどこでしょう〜?」

 馬鹿にしているのか。

 

「お化け屋敷……だよね?」

「もしかしたら知らぬ間に冥界に来てしまったのかもね〜」

「えぇ?!」

 純粋なつぐみちゃんを怖がらせるんじゃありません。

 

「大丈夫。三人いるからなんとかなるよ〜」

「そ、そうかなぁ……」

 なんとかしたいのは山々なんですがね。

 

 

 しかし、何か引っかかるな。モカは今なんて言ったっけか。

 

 

「知らぬ間に冥界……ねぇ」

「山田君……?」

「いや、怖がらせるつもりじゃないんだけど。……なんか気になるんだよな」

 何かある気がするんだよ。何処かで変な事を見落としている。

 

 

「ここはどこでしょう……。もしかして───つぐみちゃん、ゴーカートの優勝商品ちょっと貸してくれないか?」

 一つだけ可能性を見つけ出して、俺はならばとつぐみちゃんにそんな事を要求した。

 つぐみちゃんは首を横に傾けながらも、鞄から丸い形の缶バッチを取り出して渡してくれる。

 

 俺はそれを来た道に立てて、倒れないように少しだけ転がした。

 普通ならバランスの悪い缶バッチは倒れてしまうのが当たり前だが、缶バッチは倒れずに俺達が歩いて来た道を転がっていく。

 

 

「なるほどなぁ……」

 それが倒れる前に拾って、俺は看板───というかその下を見た。

 

 思った通り何かありそうだ。

 

 

「何か分かったの? 山田君」

「ここ、二階なんだよ」

 俺がそう言うと、つぐみちゃんとモカは目を見合わせて驚いた様子で真下に視線を送る。

 

 このお化け屋敷に入る前、建物的には二階部分がある筈だったのだが俺達は一度も階段を上っていない。

 ならあの建物の二階部分が飾りだったのかというとそうでもなくて。俺達が歩いて来た道が微妙に坂になっていて知らぬ間に冥界───じゃなくて二階に来ていたという事だろう。

 

 

 道が妙に長いと思ったんだよ。二階部分を歩いていたなら納得できるし。

 

 

 そしてここが二階という事は、ゴールは下にあるという事だ。

 

 壁にばかり気を取られていたが床を見てみると、どうもヒンジのような物が見える。

 看板をドアノブのように上に持ち上げると、床が扉のように開いて階段が姿を現した。

 

 

「す、凄い!」

「いやー、モカちゃんヒントのおかげだねー」

 否定出来ないからツッコメめない。

 

「さて、やっと出口か。もう流石に何もないだろう───なんて油断なんて絶対しないからな。絶対最後に何かあるからねこれ」

 流石にここが最後の仕掛けだろうが、これまでの傾向的にこの先には絶対に何かがあるとみえる。

 

 

「俺が先に降りるから、付いて来てくれ」

 警戒しながら歩いて俺の後ろにモカ、その後ろにつぐみちゃんの順番で一列になって階段を降りた。

 そこまでは何もなし。下の階に降りて辺りを見渡すと、奥に扉があってそこまで一直線の道が繋がっている。

 

 

 しかもなんか吊り橋になってるし。辺りが暗いからどうなってるのか分からないが、もしかして凄い揺れたりするんですかね。

 

 

 どう見ても何かありそうな道です本当にありがとうございました。

 

 

 ただ、ゴールは目の前。この橋を渡らないと帰れない。何がイージーなのか教えて欲しい。

 

 

「いやー、今にも腐って落ちそうな吊り橋だねぇ〜」

「余計な事言うんじゃありません。えーと何々、二人以上で渡ると落ちてきます」

 モカにチョップを放ってから、俺は橋の前に立っていた看板を読む。ヒントというか脅迫だ。

 

 

「ひ、一人ずつ行かないといけないって事かな?」

「流石に落ちる事はないだろうが……。そうしろというならそうするしかないか。俺が先に行こうか?」

 不本意極まりないが、少しくらい格好付けよう。

 

「いやー、ここはモカちゃんが一番バッターとして先陣を切ろうではないかー」

 そう思ったのだが、余裕そうな表情でモカが足を前に出した。

 止める暇もなく彼女は揺れる橋をスタスタと歩いて行く。

 

 途中で呻き声のような音が聞こえ出して、モカを見守る俺達も怖くなってくる。

 これよく考えたら残されてる方が怖い気がしてきた。次はつぐみちゃんに譲ろう。

 

 

 

 ───なんて考えていたその時だった。

 

 

「ひゃぁ?! や、山田君!!」

「ん? なんだつぐみちゃ───うぉわぁぁぁぁあああああああ!!!!」

 つぐみちゃんに呼ばれて振り返ると、視界に細長い円柱が映る。

 くねくねと浮遊するその先には、不敵に笑う人の頭がくっ付いていた。ろくろ首。

 

 

 モカはまだ橋の上。でもそんなの関係ねぇ!!

 

 

「逃げろぉぉぉおおおお!!」

「うわぁぁっ」

 つぐみちゃんの手を引っ張って橋に向かう。驚いて振り向いたモカは「え〜、落ちちゃうよ〜っ?」と呑気に首を横に傾けていた。

 

 

「モカぁぁぁ走れぇぇぇえええ!!」

「え〜、そんな事言われても、橋が揺れて───」

「ひゃぁぁっ」

 つぐみちゃんが悲鳴をあげる。辺りを見渡すと、骸骨やら妖怪の類が上から下に何体も落ちていくのが見えた。

 二人以上で渡ると落ちて来ますってそう言うことね!! でも今は知らん!! 後ろから来てるから!!

 

 

「良いから走って?! お願い!!」

「しょーくんはせっかちさんだな〜」

「お前がマイペース過ぎるだけだボケェ!!」

 後ろから伸びてくる首がお前には見えてないのか!!

 

 揺れる橋と落ちてくるお化けと追いかけて来るろくろっ首に、俺とつぐみちゃんは悲鳴を上げながら橋を渡る。

 モカが橋を渡りきると同時に、俺は二人の手を繋いで目の前の扉に走った。

 

 後ろから追いかけて来るものを確認しようと振り向くと、眼前に人の顔が映る。

 

 

「もう嫌ぁぁぁあああああ!!!」

 格好とかどうでも良いよもう!! 怖い!! お化け屋敷怖い!!

 

 二人を連れて扉の前に。ドアノブを勢いよく回して、二人を押し込んでから自分も扉の向こうに飛び出た。

 扉を閉めようと振り向くと、目の前に不敵な表情が見える。そのまま扉の向こうから出てくる気すらして、俺はその顔に当てる勢いで扉を閉めた。

 

 

 同時に「またね。ひひっ」と笑い声。

 

 

「はぁ……はぁ……はぁ……。死ぬかと思った」

 怖すぎだよ。本当に作り物かよあれ。

 

「こ、怖かったね……。大丈夫? 山田君」

「オーケーオーケー。なんの問題もない。これは作り物だ」

 作り物……だよね?

 

 

「二人ともそんなに怖かったの〜?」

「も、モカちゃんは怖くなかったの……?」

「お前……あのろくろっ首見て怖がらないってどんな心臓してるの」

 しかし、俺の言葉にモカは首を横に傾ける。

 

 

「ろくろっ首……? そんなの居たー?」

「は?」

「え?」

 お前……何を言っているんだ。

 

 

 

「お疲れ様でーす。怖かったですかー?」

 出て来た俺達を確認して、スタッフの人が労いの言葉を掛けてくれる。

 

 いや、ちょっと待て。これは確認しておこうか。物凄く嫌な予感がするし、確認しない方が良いのかもしれないけれど、それはそれで怖い。

 

 

「めっちゃくちゃ怖かったです……。特に、最初と最後のろくろっ首が」

「えーと、ろくろっ首? このお化け屋敷にろくろっ首はなかった気がしますが」

 首を横に傾けるスタッフさんの返事を聞いて、俺とつぐみちゃんはお互いに顔を見合わせてからお化け屋敷の方を見た。

 

 

「あ、あはは」

 乾いた声が漏れる。

 

 

「もしかしてー、二人共……見ちゃったのではー?」

「「嫌ぁぁぁあああああ!!!」」

 モカの言葉で察してしまった俺とつぐみちゃんは、迎えに来てくれた蘭達を無視して全速力でお化け屋敷から離れるのであった。

 

 

 

 いやもう本当。

 

「もう二度とお化け屋敷なんて入らない!!!」

 見ちまったよ。




次回『大切な財布を探して』
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