二度目は怖くないとか、分かっていれば怖くないとか言うけれどアレ嘘だからね。怖いからね。
もっと言うと前回あった筈の仕掛けがなくなってるとかむしろ怖いからね。
「ろくろっ首なんて出てこなかったねー」
「勘弁してくれ……。てかモカ、別に着いてこなくても良かったんだぞ?」
「モカちゃんはただ、しょーくんとお化け屋敷に行きたかっただけだよー?」
「そうかい」
俺とモカは観覧車に乗り終わった後、再びお化け屋敷に入っていた。
「……手でも繋ぐ?」
「しょーくん怖いのー?」
「怖いよ」
微かな記憶の中の微かな可能性に賭けて。もしかしたらまだ財布が見つかるかもしれないと、しかし何が悲しいのかお化け屋敷である。
急に出てくる系の仕掛けは分かっていたら確かに恐怖も薄れるが、気味の悪い雰囲気だとか出てこなくなった仕掛け(だよね?)はやはり怖い。怖いものは怖い。
「これはお札に行きたいけどなぁ」
最初の扉。財布があるとしたらあの場所だとは思うのだが、それでも俺はモカが通った道を歩く事にした。
もしかしたら道中で落としているかもしれないし。眼を凝らして先に進む。
聞いてみれば、やはりモカはおかしの扉を開いていたらしい。彼女らしいね。
さて、問題の二つ目の扉。
ここでモカはお菓子を食べながら先に進んでいたから、俺はその溢れカスを見付けて彼女が進んだ部屋が分かった。
しかし気になるのが、イージーとエキスパートの扉があってモカがイージーの扉を選んだ事である。彼女ならエキスパートを選びそうではあるが。
「ここさ、なんでイージーを選んだんだ?」
「……。……特に何も考えてなかったかなー」
「ほぅ……」
もっと気になる事を言うと、ひまりちゃんとはぐれた事に気が付いたモカがなんであんな所に座り込んでいたのか。
まぁ、これ以上聞くのは野暮な気がして俺はイージーの扉を開けた。この部屋では何も起きないが、出口の扉を開くと上から骸骨が振ってくる仕掛けになっている。悪ふざけも大概にして欲しい。
しかし、これに関しては分かっていれば怖くない。
扉をあけて、俺は他所を向いた。鈍い音がして、骸骨が扉の前に現れる。
ごめん、怖くないとか言ったけど普通に怖い。二度目とか関係ない。もう音が無理。
しかし怖がってる場合じゃないか。
件の場所はもう目の前だ。
「さて……」
部屋から出て、俺は自分で開けた扉のドアノブを持つ。
この扉と壁の間にモカは座り込んでいた。だから、財布が落ちているならここの可能性が高い。
モカまで連れてきてしまったんだ、これで無かったから最高に格好悪いぞ俺。
それでも良いから、ここにある可能性に賭けたんだけどな。
「あるかな……と───」
扉を閉める。眼をよく凝らした。お化け屋敷ではご法度だが携帯のライトも使って探す。
黒い財布だし、良く見ないと見つからないかもしれないじゃないか。ほら、もう少しちゃんと探してさ。
「───なんでだよ」
分かっていて、口ではそう言いつつも俺は床を何度も見直した。
財布は落ちていない。
「なんでだよ……っ」
床を叩く。普通ここは見つかるところだろよ。
なんでこうも格好が付かないのか。
結局俺には何もないのか。何も出来ないのか。
「くそ……」
「しょーくん」
「なんだ───」
座り込んで意味もなく声を上げる俺に、モカは後ろから抱きついてきた。
顔は見えないけれど、俺の身体を包み込む腕はとても優しく感じる。
「……ごめん。格好悪いな。元からか」
「格好良いよ。……ありがとう」
振り向くと、彼女は笑っていた。
作ったような笑顔じゃなくて、ちゃんとモカらしい笑顔で。
「しょーくんと財布探しに行くの楽しみだなー」
「また、探そうか」
格好悪いけど、俺はこのくらいで良いのかもしれない。
出来るならちゃんと探したかったけどさ。
「モカちゃんはちょっとー、お花を積んでくるのでー。しょーくんはここで待っててねー」
その後、一応注意しながら進むも財布は見つからず何事もなくお化け屋敷の外に出る。
むしろ何事もなかったのが一番怖いんだが、あのろくろっ首は本当になんだったのか。
外に出るなりモカと一旦離れた俺は暗くなってしまった星空を見上げていた。
「あ、キラキラドキドキ!」
「あーはいはい。もう夜だ───って、そうじゃなくて、コレどうすんだよ」
ふと脇から聞こえてくるのはそんな会話。女子高生が二人で歩いているのが見える。
少しだけ気になった俺は、彼女達に視線を向けて耳を傾けた。
「お化け屋敷で拾った財布。ぜってー落とした人困ってるぞ」
「そうだったそうだった! お化け屋敷本当に怖かったよー。途中行き止まりで、どうしようって戻った時に見付けた財布だっけ?」
お化け屋敷で拾った財布……だと?
話しているのは茶髪の猫耳みたいな髪型した女の子と、金髪のツインテールの女の子。
金髪の女の子が持っている財布に視線を合わせると、どうも見覚えのある形をしている。
「あった……?」
直ぐには動かなかった。
「どうする? とりあえず大声で財布落とした人探す?」
「馬鹿か! 普通にスタッフの人に渡せば良いだろ?! なんで直接持ち主を探そうとすんだよ」
いや、忘れがちだが俺はコミュニティ能力がある訳ではない。見知らぬ女子二人に話し掛ける勇気なんて持ってないのである。
「えー、だってー。落とした人困ってそうだし」
それでも───
「ちょっと、二人共。……その財布なんだけど」
───少しくらい、頑張れよ。
「この財布の落とし主さんですか! 有咲ー、やったよ見付かったよ。はいどーぞ!」
俺が一声掛けただけで、茶髪の少女は俺に財布を手渡してくれた。しかし、金髪の女の子が「待てい」と言いながらその手を止める。
「え、えぇ? どうしたの?」
「どうしたの? じゃねーよ。この人が本当の持ち主の人か分からねーだろ!」
「あ、そっか!」
確かに彼女の言う通りで、この財布が俺の物という保証はない。というか俺の物じゃない。
モカが帰って来てくれれば話は早いのだが、どうもこのまま彼女達を引き止めるのは難しいし。
えーい、なるようになれ。
「それじゃ、中に入ってる物を言う。……引くくらい大量のポイントカードと、四百三十円くらい」
知っている限りの情報を提示すると、金髪の女の子は「ちょっと確認させてもらいますね。すみません」と断って財布の中身を確認しだした。
今更だがモカの名前とか入った物が出て来たらどうしよう。いや、青葉モカって別に男の名前でもいけるかもしれない。突き通すか。
「大丈夫……っぽいですね。チラッと見えたプリクラに顔写ってましたし、疑ってすみませんでした」
ただ、中身を確認した彼女は満足そうな表情で礼儀正しく財布を俺に手渡してくれた。
隣の女の子と話してる時とのギャップが激しいけど、オンオフが出来る女の子なんだろう。
プリクラってあの時のか。なんで財布に入れてるんだ。お陰で助かったけども、なんだか恥ずかしく思う。
「ありがとう、助かったよ。……本当にありがとう」
手に取れば、それは間違いなく俺がゲーセンのクレーンゲームで取ってモカに渡した財布だった。
こんな事があるのか。自力では見付けられなかったけど、本当に財布を見付ける事が出来るなんて。
「あ、いえいえ。本人さんに渡せて良かったです」
本人じゃないんだけどね。
「財布君、もう勝手に一人で迷子になったらダメだよ!」
「いや財布が一人でに動いた訳ねーから!」
俺が内心でツッコム前にツッコミを入れるとは、この金髪の子やり手だな。
「しかしさっきのプリクラで隣に写ってたのモカちゃんに似てたような……」
待て、知り合いなのか。いや、ここは変に関わらない方がいいな?! 絶対に変な勘違いをされるし、そうなったらモカに申し訳ない。
「本当にありがとう」
もう一度お礼を言って彼女達と別れて、俺はモカが出て来るのを待つ。
アイツになんて言おうか。
格好は悪いけど、それでも彼女が喜んでくれるなら俺はそれで良い。
俺は───
「よ、モカ。良い知らせと悪い知らせがあるんだけど、どっちから聞きたい?」
「それじゃー、あたしは王道の悪い知らせから聞こうかなー」
「悪い知らせか。さっき蘭から連絡が来てな、もうバス乗るらしいからお土産を買う時間はない。あと走らないといけない」
「うぇ〜……。モカちゃんもうクタクタだよ〜。しょーくんおんぶ〜」
「無理に決まってるでしょ?!」
よしんば出来たとしても恥ずかしいから嫌だよ!!
「それで、良い知らせは〜?」
「これ」
背中に隠しておいた財布を持ち上げると、モカは目を見開いて固まった。
徐々に緩くなる顔が途端に近付いてくる。気が付いたら彼女に抱き着かれていて、おんぶが恥ずかしいとかそんなのどうでも良いくらいに恥ずかしい状態になった。
止めて!! 山田君ウブだから止めて!!
「しょーくん……っ!」
「なんだ」
「───き。……ありがとう」
小さくて聞こえない声の後に、ゆっくりとお礼を言うモカ。
離れると彼女は満面の笑みで笑っていて、顔は少し赤くなっている。
「さて、財布との感動の再会は後だ。走れ。おんぶはしない」
「しょーくんのケチー」
───俺は、そんな彼女の笑顔が好きなんだ。
◆ ◆ ◆
こんな話がある。
幸せの字から一本線を引けば辛いになると。
とても身もふたもない話じゃないか。飽き飽きするね。
しかし、逆も然りで辛いから一本足すだけで幸せになったりするんだ。
何が言いたいかというと、世の中辛いも幸せも変わらないというか。
基本的には半々で、悪い事ばかりが起きる訳じゃないという事である。
「……幸せ、なんだろうな」
遊び疲れたのか、Afterglowの面々は五人全員がバスの中で睡眠中だ。
俺はそんな彼女達を他所に窓から景色を眺める。
夜空に光る星ってのは都会じゃそんなに綺麗なものじゃないと言われているが、街の灯に負けないように健気にも光ってる星を見るのもまた良いものだと俺は思った。
周りと比べるんじゃなくて、その星がどれだけ光ってるかが重要なんだと思う。空気が汚いとか街の灯の方が明るいとか、そんな事を差し引いてもちゃんと俺の目に届いている光は───とても眩しい。
「と、しょーくんは詩的な事を考えるのであった」
「なんで起きてるんですかね。てかエスパーかよ。怖いわ」
唐突に目を開いてそんな事をいうモカは、得意げな表情で笑った。
やっぱり彼女には、そういう笑顔が似合う。
「楽しかったー?」
「楽しかった」
また、こうやって遊びに行きたいなと思う程には楽しかった。
そんな日がまた来ると良いなんて、そんな事を思う。
「しょーくん」
「なんだ?」
「月が綺麗だねー」
「ん? あー、そうだな」
ただ、俺にはまだ少しその光は眩しいような気がした。
次回『個人的主観だがギター弾いてる奴は八割変人』