土下座した。
多分人生で初めて親に土下座した。
「出掛けて下さい!!! お父様お母様!!!」
「嫌よ」
「嫌だな」
「そこをなんとかぁぁあああ!!!」
頭を床に擦り付けて、俺は悲痛の叫びを上げる。
今日は日曜日。晴天で絶好のお出かけ日和だというのにこの両親、家に引きこもると言うのだ。
そんなの勿体ないじゃないか!! 出掛けろよ!! なんでも良いからこの家から消えろ!!
「父さんな、今月全敗してもうパチンコに行く金がないんだ」
「分かった。金ならやる。パチンコに行け。三万くらいやるから今日一日目一杯パチンカスになれ。こんな良い天気にパチンコに行かないなんて損だろ?!」
もうヤケです。
「私は家でゴロゴロゲームを───家事をやらないといけないから。だって主婦だもの!」
「家事なら俺がやっとくんで!! 本当!! お母様いつも大変でしょう?! 三万くらいあげるから商店街の喫茶店巡りでもしてて!! 羽沢珈琲店の珈琲新作出てるよ!!」
もう相当ヤケだった。
「うん、急にパチンコ行きたくなってきたな」
「私も課金してガチャを───近所のお母さん方とお話をしなきゃ」
さらば俺の六万。やったよ、あの時下ろして結局手元にあった大金の使い道が出来たよ畜生!!
「ていうか何ー。彼女さんを家に連れて来て私達を追い出すなんて。高校生らしくいやらしい事でもする予定なの?」
「そ、そ、そ、そ、そ、そ、んな、な、な、な、事、な、な、な、ないよぉ???? そもそも彼女じゃないよ?!」
何を隠そう今日はモカを家に誘って、リサさんや諸々からの作戦を実行してモカを落とそうと計画している日なのである。
両親がいては邪魔なのだ。
「エクストリームシャゲダンみたいになってるぞ」
「まぁ、なんだ。このくらいの歳になると男はエロい事しか考えられなくなるんだよ。大丈夫。俺達は見て見ぬ振りをするから」
「親指立てんじゃねーよ!! 違うから!! そんな事しないから!!」
付き合ってもないのにそんな展開になったら怖いわ。てか僕まだ高校生!! R-18未満!!
「本当に? なんの期待もしてない?」
「……」
嘘ですしてます。だって男の子だもん!! 少しくらい妄想するよね!!
「ねーよ!!」
だけどそれとこれは別だ。俺は本気でモカが好きなんだよ。そんな傷付けるような事はしない。
妄想くらいするけどね!! 男の子だもん!!
「じゃあな、ゴムはしろよ」
「孫の顔が楽しみね」
「なにもしないって言ってるだろエロオヤジ!! 母さんに関しては気が早過ぎる!!」
まさかモカが来る前にここまでツッコミで体力を使う事になるとは……。
そんな訳でやっと親を追い出せた俺は、モカが来る前にもろもろの準備を済ませる事にする。
ここ数日、俺はこの日の為に沢山の準備をしてきた。
全てはモカに「きゃー、翔太さん素敵!」と言わせる為。全然想像出来ないけど、そんな感じになってくれればオーケー!!
そこで、俺は数日前相談に乗ってくれた皆との会話を思い出す───
◆ ◆ ◆
「えー、今日皆に集まって貰ったのは他でもない。日曜日、モカを家に呼んだのでその時にどんなおもてなしをしたらモカに振り向いてもらえるかアドバイスが欲しい。いや下さい!! お願いします!!」
平日の喫茶店で、俺は声を掛けて集まってくれた皆に頭を下げた。
「そんなに畏まらなくても良いってー。皆、山田君の事を応援してるから集まった訳だしさ」
そう言ってくれるのは、先日お料理教室まで開いてくれたのにこの場にも来てくれたリサさんである。
この人どんだけ良い人なのよ。
「そうそう。だってそもそも楽しそうだし? モカちゃんが青葉モカから川田モカになるって思ったら凄いるんってなるよね!」
リサさんの横で呼んでもないのにナチュラルに会話に混じって来るのは、現役アイドルバンド高校生───氷川日菜その人だ。もう一度言うが俺は呼んでない。
「山田です!! てかなんであんたまで居るの?! 呼んでないよ?!」
「え? そこで偶然皆を見付けたからだけど?」
「帰ってくれ頼む!!」
絶対話が脱線する!!
「良いんじゃないか? 人が多い方が意見は沢山出ると思うぞ! 丁度ひまりは用事があって来れなかったし」
「ひまりが居た方が話がこんがらがる気がする」
「ら、蘭ちゃん酷い……」
後は、モカとひまりちゃん以外のAfterglowのメンバー。いつメンだ。
因みに席順は俺の隣にリサさんと日菜先輩。
正面の席に蘭と巴とつぐみちゃんが座っている。
そんな訳で俺含めた六人は、デザートとドリンクバーを頼んでファミレスで会議を始めた。会費は私が持ちますよ。えぇ、勿論です。
「これはお家デートだけじゃなくて、全てのデートに言える事なんだけどね」
そう話し始めるのは、皆がジュースを取ってきて座るのを待っていたリサさんだった。
こういう時、リサさんみたいな人はとても頼りになる。一体どれほどの経験を積んでいるのだろうか……。
「大切なのはその場の空気」
「空気……?」
雰囲気って事か?
「気温だね」
「そんな訳ないでしょ」
「日菜、その通りだよ」
「うそーん」
ドユコト。
「女の子の身体は結構デリケートなの。暑過ぎるのも嫌だけど、お腹を冷やすのはちょっと嫌かな」
「つまり、室温管理が大切だと……」
「そうそう。ほら、男の子って結構部屋を寒くする癖がある人が多いみたいだし」
言われてみれば、確かに。涼しいくらいが丁度いいと思っている節はあるな。
女の子はお腹を冷やしちゃいけないってよく聞くし、基礎中の基礎か。
「な、なんだよ蘭……そんな目で見るなよ」
そんな話をしていると、正面の蘭が巴の事をジト目で見ていた。つぐみちゃんは苦笑いしている。
どうしたのよ。
「そ、そうだ。モカちゃんは寒いのは苦手だから、私も部屋の気温は大切だと思うよ!」
「モカ、あんまりにも寒い日に家のコタツで冬眠するとか言ってたし」
「熊か」
あれだけ食べるのは冬眠する為だったんですかね。
「そんな訳で、部屋の温度は適温を保つ事。暖かめがベストだよ」
「サー、イエッサー!」
メモっとくか。
「そして次に服装かな」
「服装……?」
家なんだし、部屋着じゃダメなの?
「山田君、いつもモカと家で遊ぶ時どんな服装してる?」
「え、普通にシャツとズボンです。ぶっちゃけ寝巻きです」
「アウト」
マジか。
「服の皺とかあるし、その服で寝てたら汗で匂いもついてるかも知れないんだよ? お家デートは自然と身体が近くなるんだから。そういうところもいつも以上に気を付けないと!」
「サー、イエッサー!!」
ヤバイ……俺これまで何も考えてなかった。どうしよう、モカにめっちゃ嫌われてたら……。
「ど、どうした翔太?!」
「なんかもう生きててごめんなさい。既にモカからの好感度最底辺なんじゃない……?」
「そ、そんな事はないと思うけど……。げ、元気出して山田君!!」
既に不安になってきたよ。
「でもさー、モカちゃんはそんな山田君の愚行も気にせずにこれまで遊びに行ってたんでしょ?」
「愚行」
心臓に杭を打たれた気分です。
「それってさー、まだ嫌われてはないって事じゃない?」
「日菜先輩……」
「それか山田君の事をこれっぽっちも気にしてないか?」
「日菜先輩?!」
怖い!! この人怖い!! もう心が痛い!!
「日菜先輩気付いてないんだ……」
蘭がボソッと何か言っているが、もう俺のハートは粉々なので意味を考える余力もなかった。
「どちらにせよ、山田君のこれからに全て掛かってるんじゃないかなってあたしは思うけどなー。だから、これまでの事は関係ない!」
「飴と鞭は良いけどもう少し鞭を優しくしてください」
僕の心臓が持ちません。
「そんな訳で、デートの日はモカが来る前に着替えて清潔な格好でいる事」
「サー、イエッサー!」
「これ、あたし達居る?」
「私達も何かアドバイス出来ると良いんだけどね」
「全部リサ先輩に持ってかれてるな」
俺もモカの幼馴染達も、リサさんの女子力に震える。
なんでギャルなんだ。
「いやいや、蘭達に手伝ってもらいたいのはこれからだよ。お家デート基本といえば、家で何をして過ごすかだからね。山田君は普段モカと何して遊んでる?」
「えーと、ギター教えてもらったりゲームしたりですかね」
「うーん……良いんだけどそれだとやっぱり友達って感じになっちゃうと思うんだよ」
おっしゃる通りです。
「はい、ここで皆に聞くよ。異性とのお家デートでの定番といえば?」
「はいはーい!」
自信満々に手を挙げたのは日菜先輩だった。嫌な予感しかしない。
「えっち」
「あんた本当に期待を裏切らないな!!」
言うと思ったよ!!
「えー、だって山田君そういうの好きそうだし」
謎のニヤケ顔でそう言う日菜先輩は、リサさんを挟みながらも肘を俺に向けて「このこのー」と弄ってくる。
思春期真っ盛りの男の子になんて事を言ってくるんだこの先輩。怖い。
日菜先輩以外全員が真っ赤になった所で、意外にも一番トリップしていたリサさんは両手を叩いて空気を仕切り直した。
「それはなし!」
ですよね!!
「他には?」
「普通に雑談とか。普段の何気ない会話を楽しむのは大切だと思うんだ!」
自信満々にそう言う巴だが、それは今リサさんが題材にしている内容とは違うという事は俺でも分かる。
「それじゃ友達と遊んでるのとあんまり変わらないよ?」
「そ、そうですね……」
巴が撃沈すると、その場は静まり返ってしまった。
難しい問題だな……。
ふと正面の三人を見てみると、なんだか震えながら手をあげる蘭の姿が映る。
「蘭、何だと思う?」
「……ぇ、えーと、部屋で……その、キ───キスとか。ベッドで寝転んだり……?」
リサさんが優しく聞いて、答えられたのはそんな言葉だった。
「乙女か!!!」
なんでそんな要所要所で乙女になるのあなたは!! 自分のイメージを守って!!
「良いんだけど……。皆忘れてない? 山田君とモカは今別に付き合ってる訳じゃないって事。必要なのは深入りする事じゃなくて、まず密着させるって事。チョコケーキみたいに混ぜるんじゃなくて、ティラミスみたいに合わせる事が重要な訳」
最後何言ってるか分からなかったけど、これはデートであってもカップルのデートではないという意味合いはなんとなく分かる。
それを踏まえた上で答えを出したのは、つぐみちゃんだった。
「映画鑑賞とか、どうかな?」
「そうだよ! それそれ!」
なるほど映画観賞か。確かにゆっくりと時間を過ごせるし、共通の話題を作れてその後の時間も過ごし易い。
「タイミングはお昼ご飯を食べて、少し休憩してから。十四時くらいから二時間くらいの映画を見てると、おやつの時間にもぴったりだよ」
リサさんはなんでそんなに経験豊かそうな感じなの?!
やっぱり彼氏がいるの?! もう何人目か数えてないってくらいの歴戦の猛者感を感じるんだけど!!
「問題は見る映画だけどねー」
「洋画とか見るとエッチなシーンがあってお互いに気まずくなって面白い空気になるよ!」
「日菜先輩はエロい事しか考えてないんですか?!」
「山田君が恥ずかしい思いをする事しか考えてない!!」
「帰れ!!!!」
いかん、此処が喫茶店という事を忘れている……。
「やっぱりバトル物じゃないかな? モカはそういうの好きだし」
「巴、デートって事忘れてない……?」
「う……」
確かにその辺りの趣味はモカと合うのだが、今回の趣旨的には正解ではなさそうだ。
日菜先輩は言い過ぎだが、やっぱり恋愛映画とかそういうのが良いのだろうか?
「猫映画なんてどうかな? 癒し効果で空気も和むと思うんだ!」
またもや素敵な提案を出してくれるつぐみちゃん。天才かと思った。
「良いねぇ。因みにオススメとかある?」
「ドラ●もん?」
「それは違う!!!」
日菜先輩はモカが居ないからって張り切ってボケなくて良いからね!! 俺が疲れるだけだからね!!
「ト●とジェ●ーとか?」
「蘭までボケるな!! なんで皆モカの枠を埋めようとするの!!」
「1●1匹ワンちゃんなんてどうだ?」
「猫って言葉が聞こえなかったのかな巴さん?!」
猫映画ってなんだっけ!!
結局、モカが視聴済みだった場合を考慮して三種類ほどの猫映画をレンタルショップで借りて来る事に。
他にも買っておくお菓子の種類だったり、帰らせる時間だったり、エロ本の隠し場所だったり(持ってねーよ!!)を相談に乗ってもらう。
ここまでして貰って失敗は出来ない。万全の準備をして、お部屋デートに臨むのであった。
◆ ◆ ◆
「───さて、時間だ」
室温よし。料理の用意よし。服装よし。エロ本もちゃんと隠し───持ってないよ!!
家のチャイムが鳴って、俺は扉の前に進む。
やばい。めっちゃ緊張するぞ。
いや、頑張れ山田。集中しろ。失敗は許されない。
「よ、モカ。態々家まで呼んで悪───」
「クロネコヤ●トでーす、山田さんのお宅でしょうか?」
「違うんかーーーい!!!」
モカが宅配屋さんと入れ替わりでやって来たのはその一分後だった。
次回『お家デート【本番編】』