今だから全力でやりたい事を探して【完結】   作:皇我リキ

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上原ひまりにお任せを!

 メロンとは。

 植物界。真正双子葉類。バラ類。ウリ目。ウリ科。キュウリ属。に属する、簡単に言うとデカい果実である。

 

 

 それが目の前に二つ。といっても、これは比喩表現ではあるが。

 

 

「ひまりちゃん……」

「ラブ師匠とお呼び!」

 俺がそんな果実の持ち主の名前を呼ぶと、謎の仮面を付けた彼女は鞭を振るう動作をしながらそう言った。

 

 なんて安直な名前なのだろうか。

 

 

「私はあまりの進歩のなさに怒っております」

「ごもっともな意見です……」

 立ち上がってメロンの下で腕を組むラブ師匠。

 そんな彼女の前で跪く事しか出来ない俺。

 

 そんな二人の間に、コーヒーが二つ運ばれてくる。

 

 

「で、でも大変なんだと思うよ? 二人共」

 苦笑いをしながら、つぐみちゃんはそうとだけ言って去っていった。

 そう思うなら助けて欲しい。逃げないでほしい。

 

 

 

 俺は今、ひまりちゃんと二人で羽沢珈琲店に居る。

 いつかモカを家に呼んだ時に一人だけ相談に乗れなくて怒っていたようなので、今日はその埋め合わせという形だ。

 

 そんな訳で、ひまりちゃんにも何かアドバイスを貰えたらなと思っていたのだが。

 現状を話すとひまりちゃんは何処からか謎の仮面を取り出して、ラブ師匠へとその姿を変える。いや、ラブ師匠ってなんですか。

 

 

「モカが好きなんでしょ?!」

「その通りでございます……」

「だったらその気持ちを伝えるだけじゃん!」

 それが出来たら苦労しないんですよ……。

 

 

 俺のやりたい事は多分見付かった。だから、後は本当に前に進むだけなのに。

 いかんせん俺はヘタレである。ぶっちゃけ告白とか無理。

 

 それ以前に振られたらどうしようとか考えたら胃に穴が空きそうだ。

 

 

 

「当たって砕けろだよ」

「砕けたらダメなんだよ!! そもそもモカが誰かに告白されたとして、それをオーケーするのを想像出来るか?!」

 俺がそう言うと、ひまりちゃんは目を見開いて少し考え込む。

 

「……出来ないかも」

 そして真顔でそう言った。

 

「だろぉ?!」

「た、確かに……。モカからそういう話全然聞かないしなぁ……」

 そんな話をしていると、遠くで仕事をしていたつぐみちゃんが珍しくジト目で俺達を見ながら苦笑いをしているのが目に入る。

 あ、もしかして煩かったかな……。一応店内だしね。ボリュームは下げようか。

 

 

「でも、いつまでもこのままって訳にはいかないでしょう?」

「それはごもっともです……」

 そもそも俺は、彼女達が今全力でやりたい事をしている事に惹かれたんだ。

 

 

 そんな俺がここで立ち止まっているのは、自分の気持ちにまだ正直になれていないって事になる。

 

 

 ただやっぱり、少し怖い。

 

 

「……問題は雰囲気作りだと思うんだよね」

 目を半開きにして、机に肘をついて組んだ腕に顎を乗せながらラブ師匠はそう言った。

 

「雰囲気……?」

「告白する場所って事! 綺麗な夜景だったり、夕焼けの映る海辺とか、あとは一面銀色の雪景色とか!」

 確かに、映画やドラマでのそういうシーンってロマンティックな場所が多いよな。

 

 夕焼けの海辺とか最高かもしれない。

 

 

「モカは寒いの苦手だし、やっぱり海辺とかじゃないか?」

「ふっふっふー、甘い。甘いよ翔太君」

 突然含み笑いをするラブ師匠。影の落ちる表情は何を企んでいるのか、妙に口角が吊り上っている。

 

 

「むしろ、寒さでモカが弱ってる所がチャンスなんだよ!」

「その発想はなかった。いや、可哀想な気がするんだけど」

 寒くてやってられんのに突然告白とかされても困るのでは?

 

 そう思ったのだが、ひまりちゃんは笑いながらこう続けた。

 

「想像してみて、翔太君。ここは雪の降り積もるゲレンデの中央付近。寒くて上手く動けないモカを翔太君はエスコートしてゆっくり進んでいくの」

 想像してみる。俺格好良い!!

 

 

「そして降りたところで視界に映る、白銀の世界を燃やしてしまうような夕焼け。……いつ告白するの!! 今でしょ!!」

 某熱血な人のように声を上げるひまりちゃん。少ししてからここが喫茶店だという事に気が付いたのか、ハッと口を押さえて彼女は横目でつぐみちゃんを見た。

 

 あははと笑って許してくれるつぐみちゃんは天使のようである。

 

 

 

「で、どう? この作戦」

「あるな」

「でしょ!」

 語彙力を失う程の作戦だった。負ける気がしない。

 

「……ラブ師匠。一生付いて行きます!」

「ふふふ、私にかかればちょちょいのちょいなんだから! はー、私にも好きな人出来ないかなー」

 ひまりちゃんを狙ってる男子は多そうだけどなぁ……。いや、女子校ってのは案外出会いが少ないのかもしれない。

 ただ、いつ誰が誰と付き合うかなんて分からない。圭介がリサさんとどうこうなってるなんて想像もしてなかったからな。てか本当にどうなってるの。

 

 

「そうと決まれば場所探しと日取りだね。せっかくだからAfterglowの皆と翔太君とまた行きたいなー」

 遊園地に皆で行った時の事を思い出す。

 

 少しアクシデントもあったが、あの日は本当に楽しかった。

 そう言えば観覧車の中でモカは───

 

 

「それじゃ、場所は私が探しとくね! 確か日菜先輩がスキー場に行ったことあるって言ってたんだよねー。日付はどうしよっかー。翔太君社畜だしねー。とりあえず、SNSで翔太君と私達のグループ作るからバイト休みの日とか教えて欲しいな!」

 地味になんの遠慮もなく社畜と言われた事はともかく、そんな訳でひまりちゃんの独断によりAfterglowメンバーと俺との二度目の日帰り旅行が決まってしまう。

 

 それで良いのだろうか。まぁ、ひまりちゃんはAfterglowのリーダーだし甘える事にした。

 

 

 

 俺も止まっていられないからな。

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 バイト先でシフト表とにらめっこをする。

 

 

「いやー……困ったな」

「どうしたの? 山田君」

「どうもAfterglowの面々と予定が合わないんですよ」

 俺が唸っているところに話しかけてくれたリサさんに、俺は諸々の事情を説明した。

 

 あの日から数日経つのだが、なんとも全員が遊べる日取りが見つからない。

 半分以上が俺のバイトのシフトのせいなので、俺がなんとかするべきなのだが。

 

 

「ごめん山田君。私達近々ライブがあるから休み削れなくて」

「い、いやいやいや。リサさんが謝る事なんてなにもないですから!」

 両手を合わせて頭を下げるリサさんに、俺は両手を振って頭をあげてくださいと頼む。

 しかし、リサさんがダメとなると中々厳しい。モカと遊ぶのだからこうなって来ると頼める人が少ない。

 

 

「お、なんだいなんだい。二人でデートの約束かい」

 二人で唸っていると、自動ドアの奥からお客さんではなく同僚の高木さんが入ってきた。

 

「いやー、それがですね」

「待ってくれリサさん。流石にね?」

 高木さんにはかなりお世話になってるから、こうも毎回バイトを代わってもらうのも気が引ける。

 

 

「でも、他に誰に頼む気?」

「うぐ……」

「まーまー、二人して青春だねぇ。三角関係かい」

「ちげーよ!!」

「私を入れて四角にするかい?」

「意味の分からない方に複雑にしないで?!」

 この婆さんも元気だなぁ!! 本当に!!

 

 

 何も話さないとそのままボケて話があらぬ方向に進んでいってしまう為、俺は高木さんにも事情を話す事に。

 

 

「───そんな訳で、ここかここかで休みを代わって欲しいんですよね」

「ここの日曜日なら代わってあげられるよ」

「本当すか?」

「任せんしゃい。若者は遊んでなんぼよ。年取ったら後は死ぬだけ、若い内に遊んどきなぁ」

 相変わらずのブラックジョークに苦笑いしか出来ないが、本当に高木さんの気遣いには感謝だ。

 

 

「人間いつポックリ死ぬか分からんからねぇ。今生きてるこの時を大切にして、全力で生きな」

 その言葉は確かにいつものブラックジョークなのだけども、なんだか心に刺さる。

 今生きてるこの時を大切にして、全力で。きっとそれは俺が憧れて好意を寄せた彼女の生き様そのものだったからなのかもしれない。

 

 

 そんな訳で、俺は無事に遊ぶ日を確保出来た。ひまりちゃん伝えでAfterglowメンバーの予定も完璧である。

 聞く話によればモカを説得するのが大変だったとか。バイト中も「寒いから嫌だし、他の所にしようよー」の一点張りだった彼女をどう説得したのか気になったがそれはまた別の話。

 

 

 そして俺達は無事にスキー場に遊びに行く───

 

 

「え? 高木さんが倒れた?!」

 ───筈だった。

 

 

 スキー場に行く前日のバイト先の事。

 突然リサさんが慌てた顔でスマートフォンを持ちながら声を掛けてきたかと思えば、彼女は「高木さんが……」と心配そうな声で画面を見せて来る。

 

 リサさんのスマホの画面に映っているのはSNSのバイトメンバーで作ったグループだ。

 よく急用でバイトに来れなくなった人が誰かに代わりを頼む時とかに使われていたのだが、そのトーク画面には───

 

 

『タカギノマゴデス。タオレテ、イマネコンデイルノデ、スウジツカンバイトイケナイトオモイマス』

 ───と、簡単なメッセージが入っている。

 

 思わず俺も自分のスマホでトーク画面を確認した。当たり前だが書かれている内容は変わらない。

 いや、なんで全部カタカナなの。孫って事は幼い子供って可能性もあるけど。

 

 

「ま、マジか……」

「高木さん大丈夫かなぁ……。それに、明日どうしよっか」

 複雑な表情で唸るリサ先輩。まぁ、流石にこうなると答えは決まってくる。

 

「まぁ、俺が普通にバイト出れば良い話ですよ。元々明日は代わって貰ってたんだし。モカ達は五人でも楽しんでくるだろうし。……んー、高木さんに気を使わせるのもなんだからグループトーク上はリサさんが代わりに出たって事にしといてください」

「山田君……」

 別にこっちはモカ達と遊ばないと死ぬ訳じゃあるまい。むしろ俺は高木さんの方が心配だった。

 

 あの人かなり元気そうだったのになぁ……。

 

 

 外を見ると雨まで降っている。天気予報だと明日は晴れらしいが、どうも色々な事が向かい風だ。

 その後少し仕事も忙しくなって、特に他に対策も思いつかない。つまり、そういう事なのだろう。

 

 

 

「ふっふっふー、話は聞きました」

 それで、その日バイト終わりの時間。まるで生えてきたようにモカが現れた。

 少しだけ雨に濡れた髪が気になったので、手元にあったタオルで拭いてやる。

 

 

「今日非番だよなモカ……。あー、そうだ。悪い、グループトーク見ただろ? 明日の事なんだけど───」

「それならモカちゃんにお任せを。とっておきの助っ人を用意してあります」

 え、ドユコト。

 

 

「この方でーす」

 そう言ってモカが両手を広げた先に居たのは、金髪碧眼の顔の整った───どう見ても日本人じゃない一人の青年だった。

 

 

「いや誰だよ!!」

 全くもって見た事ないし、なんならそんな人間が登場するって伏線もどこにもないからね。全くの赤の他人だからね。いや本当に誰?!

 

「紹介します。……ジョンソン・マッケンジー君です」

「いやマジで誰?! 外国人じゃねーか!!」

 いや、でも何処かで聞いた事があるような───

 

 

「あー、モカが最初山田君と間違えた人だ」

 リサさんは口を開けて驚いた表情で両手を叩いてそう言う。

 

 彼女のそんな言葉に、俺もどこでその名前を聞いたか思い出した。

 

 

 アレは俺がこのバイトを始めた日の事。

 リサさんがモカを俺に紹介して、最初にモカは俺と何故か高木さんを間違えて。

 その後リサさんが「そんな訳ないでしょ」と突っ込むとモカはこう言ったのである。

 

 

 ──あー、そうでしたね〜。なら、ジョンソン・マッケンジー君?──

 

 

「実在してたのかよ!!!」

 だとしてどこの知り合いなのその人って感じだけど。そもそも高木さんもジョンソン君も俺に全く似てないよね!!

 

 

「というかモカ。彼はどちら様なの?」

 若干引きつった笑みでリサさんはモカにそう聞いた。一体どこから連れて来た人なのよ。

 

 

「高木さんのお孫さんにあたる人だよ〜」

「二世代の間に何があったの!!!」

 高木さん家がどうなってるか気になるんだけど!!

 

 

「ハジメマシテ、ワタシタカギノマゴ、ジョンソンデース」

 しかも片言だし!! というかさっきのグループのカタカナで会話してた高木さんの孫ってこの人だな?!

 

 

「いや、流石にこの人にバイト代わってもらうのは無理じゃない?!」

「大丈夫だよー。店長にも許可取ってあるからー」

 そう言いながら、モカは自分のスマホの画面を俺に見せてくる。

 少しの間仕事が忙しくて確認できていなかったグループトークにはこう書かれていた。

 

 

『ソノカワリ、ワタシガリンジデハタラキマス。コンビニバイトケイケンアルノデ、マカセテクダサイ』

『オッケー』(店長)

 

 

「店長軽い!!!」

 良いのかそれで。

 

 

「オバアチャンカラ、コトヅテヲアズカッテマス」

 俺が困惑していると、ジョンソンは真剣な表情で俺に話しかけてくる。高木さんから言伝?

 

 

「ニンゲン、イツシヌカワカリマセン。ダカラ、シニゾコナイノババァノコトハキニセズ、イマヲゼンリョクデタノシンデキナサイ。ト、アノババァガイッテマシタ」

「今最後何気なくババァって言ったよね。凄いありがたいお言葉だけど最後のでちょっと笑いそうになったんだけど、どうしてくれるの?!」

 日本語って難しいから仕方ないけどね!!

 

 

「高木さん、優しいよね〜」

「んー……でも色々心配だ」

 高木さんの安否もだが、この片言の外人さんがちゃんと働けるのかもとても心配だ。

 

 

「イラッシャイマセー」

 しかし、お客さんが入ってくるなり突然接客モードに入るジョンソン君。

 少し黙って見ていたが、片言ながら接客対応は殆ど完璧である。やるじゃないかジョンソン……ッ!

 

 

「明日は大丈夫そうだねー」

「これでアタシも気兼ねなく練習に行けるねー」

「後は高木さんが完治してくれれば完璧だけどな……」

 倒れたとか言ってたけど、本当に大丈夫なのだろうか?

 

 

「オバアチャン、セッカクツクッテイタトランプタワーガタオレテ、ショックデフテネシテルダケナノデ。ゴシンパイ、イリマセン」

「あのババァ何してんだぁぁぁあああ!!! てか倒れたのトランプタワーかよぉぉぉぉ!!!」

 そんな訳で、俺達は翌日なんの迷いも後腐れもなくスキー場に赴くのであった。




次回『雪だるま造形大会』
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