今だから全力でやりたい事を探して【完結】   作:皇我リキ

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俺なりの進み方で

 そこは戦場だった。

 

 

 白い世界で激しく飛び交う弾。世界の全てが敵に見える。

 高速で飛び交う弾はもう後ろから飛んで来ているのか前から飛んで来ているのかも分からず、ただ俺の身体を前後に揺らすだけだった。

 

 悲鳴をあげる事も叶わず、俺は冷たい地面に倒れる。

 

 

 ……死ぬのか、俺は。

 

 

「倒れないで山田!」

「しょーくん、頑張って〜」

 背後から仲間だと思っていた二人に声を掛けられた。

 

 そんな事言ってもさ、もう俺はボロボロなんだよ。

 

 許してくれよ。

 

 

 薄れゆく意識の中、どうしてこんな事になってしまったのか俺は思い出す。

 

 アレは雪だるまを作り終えた後の事だった───

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

「雪といえば雪合戦だよな」

 唐突に巴がそう言って、雪玉を丸め始める。

 

 

 いや、否定はしないけどその発想はおかしい。

 だってここスキー場だからね。雪合戦しに来た訳じゃないからね。

 

「なるほど……良いね雪合戦! やろー!」

 しかし、何か考える仕草をしてからひまりちゃんも雪合戦に同意し始めた。

 

 一応彼女はテニス部らしいが、そんなに積極的に巴と悪ノリするタイプだったっけ?

 

 

 そんな事を考えていると、当のひまりちゃんが俺の耳元でこう囁く。

 

「今こそモカを守って、翔太君の漢気を見せる時じゃない?!」

「な、なるほど……。流石だぜラブ師匠」

 この雪合戦で良い所を見せれば、モカからの好感度も上がる筈だ。

 

 これは負けられない。

 

 

「それじゃー、チーム分けは巴とつぐに私のチーム。蘭とモカと翔太君のチームね!」

 上手い具合に皆を強引に雪合戦に誘う、Afterglowのリーダーでもあるラブ師匠。

 

 蘭は若干苦笑い気味だが、申し訳ないけれど付き合ってもらおう。

 

 

「それじゃ行くぜぇ! ソイソイソイ!」

 して、チーム分けだけしてまだなんのルールも決まっていないのに突然雪玉を投げ始める巴。

 

 雪は俺達三人に直撃。蘭に関しては顔面に当たって、雪が顔から落ちた後の彼女はその顔を真っ赤にして巴を睨みつけていた。

 

 

 オゥノゥ。

 

 

「……痛いじゃん」

 ガチギレなんですけど!

 

「いやー、これは波乱の予感」

「呑気な事言ってないでなんとかして?!」

 俺に蘭を止める力はないぞ!

 

 

「この……っ!」

「その程度でアタシを倒せると思うなよ!」

 倒すって何。俺達は何をしてるの?!

 

 

「ちょ、二人共?! そんなにムキにならないで?!」

「ど、ど、どうしようひまりちゃん!」

 あっちのチームの二人も巴を止められそうになさそうである。

 

 これはモカをどうこうとか言ってられんな。俺が人肌脱ぐか。

 

 

「おい蘭、何もそんなにムキに───」

「あ、山田いい所に。そこに立って」

「───は?」

 突然腕を掴まれたかと思えば、蘭は俺を引っ張って前に突き出した。

 

 

 お、お前まさか?!

 

 

「山田、盾ね」

「ちょっと待て!!」

「なんだ翔太。アタシの弾を受け止めようってか!」

「いやそんな気は毛頭ない!! 盾にされてるだけだから!! 別にな───ぐほぉぅっ?!」

 腹部に走る鈍痛。待て、俺が投げられたのは雪玉だよな?! これ雪合戦だよな?!

 

 

「遠慮なしにどんどん行くぜ!」

「遠慮して!!」

「ソイソイソイソイ!!」

 まるで機関銃の如く飛んで来る雪玉に、俺は蜂の巣にされていく。

 

「モカ、反撃するよ」

「任せてー」

 俺の後ろで雪玉を作っていたモカは、それを蘭に手渡した。

 そしてその雪玉を俺の陰から巴達に向かって投げ───

 

「あふんっ!」

 なぜか比喩表現でなく背筋が凍るような冷たさに襲われる。

 

 蘭が投げた雪玉は後ろの首元に直撃して、そのまま俺の服の中に入ってきた。冷た過ぎて変な声出たわ。

 

 

「あ、ごめん」

「俺は味方だ!」

「戦場に誤射は付き物なんだよ、しょーくん」

「この至近距離で誤射もクソもねーよ!」

「山田、前! 前!」

 俺のツッコミを無視して焦ったような表情で巴達を指差す蘭。

 俺が振り向くと、雪だるまに使うような大きな雪の塊を持ち上げている巴の姿が目に映る。

 

 

「嘘やろお前」

 つい乾いた声が漏れた。

 

 いや、流石にそんなの当たったら死んじゃう。

 巴さん殺意高過ぎない?

 

 

「巴ちゃんのために頑張って作ったよ!」

 その奥で真剣な表情でそう言うのはつぐみちゃんだった。あ、ソレ作ったのつぐみちゃんなのね。

 つぐみちゃん頑張り屋さんだもんね。偉いなー。

 

 

「いやー、ツグってますなー」

「ソーイ!」

 アーメン。

 

 

 雪合戦は俺が数メートル転がって立ち上がれなくなり、流石に皆に心配されて幕を閉じる。

 

 良いところなんて見せられなかったぜ畜生。

 

 

 ラブ師匠は舌を出して「テヘッ」と誤魔化していた。後でチョップだ覚えていろ……。

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 バスの移動時間もあり、少し動いて体を温めた所で時刻は昼を過ぎる。

 俺達は一旦休憩所に向かって、昼食を取ることにした。

 

 

「あったか〜い。もうモカちゃんはここに住みます」

「帰らない気か」

 多少動いたとはいえ、やはり雪の降り積もるスキー場は寒い。

 室内の暖かい空気に俺達はヌクヌクと目を細める。

 

 

 フードコートには結構な人が集まっていて六人分の席を確保するのは難しそうだと思っていたが、そこは日頃の行いが良かったのか丁度六人席が目の前で開いてくれた所だった。

 せっかく座れた席を手放したくないので、俺達は二人ずつご飯を注文しに行く。

 

 皆それぞれ別の物を頼んできた訳だが、相変わらず良く食べるモカとラーメンの巴を見ているとなんだか安心するね。

 

 

「ひーちゃん、ここでそれを食べる勇気は凄いと思うよ〜?」

「え? そうかな。だって美味しそうだったんだもん」

 俺はカレーとか、つぐみちゃんはパスタとか、暖かい物を食べている中で一人だけパフェに手を付けている女子が一人。───ラブ師匠だ。

 

 

「んーっ、冷たい!」

 寒くなるからやめて欲しい。

 

 

「あっはは。……えーと、この後どうしよっか」

 全員でひまりちゃんに若干引きながら、つぐみちゃんが午後からの予定を立てようと話を切り替える。

 こういうのはリーダーの仕事だと思うんですけどね。リーダーは絶賛パフェのアイスに夢中だ。

 

 

「ここでトランプでもやる〜?」

 モカはそう言いながら呑気な顔で鞄からトランプを取り出す。お前は何しに来たんだ。

 

「せっかくスキー場に来たんだから、午後からは滑りに行こうよ!」

 パフェを食べながらそう抗議するひまりちゃん。どこからそんなに寒さに負けない力が出てくるのだろう。

 

「それもそうだな。アタシも最近あこの話を聞いて行きたいって思ってたんだ」

「まぁ、ここに来たのは別に雪だるまを作る為でも雪合戦する為でもないしね」

 半目でそう言う蘭に、巴とひまりちゃんは手を合わせて謝った。

 

 彼女の言う通り俺達はスキーをしにここに来たのである。トランプをしに来た訳ではない。

 

 

「トランプも面白いと思うんだけどな〜」

「それはまた今度な……。ほら、行くぞ」

 せっかくここまで来たんだから、今ここでしか出来ない事をしようじゃないか。

 

 

 そう、今だからこそ出来る事を。

 

 

 その後一度お花摘みに向かったのだが、トイレの近くにあった裏口から見えるゲレンデの斜面に俺は不安になった。

 俺はスキーの経験ゼロなのだが、大丈夫なのだろうか。杞憂に終われば良いのだけど───

 

 

 

「動け……動け山田!! なぜ動かん!!」

 ───しかし、不安は現実になる。

 

 スキー板をレンタルし、装着してから山頂に登るためのリフトまで歩こうとした矢先。

 俺の身体は何故か突然固まってしまった。なんだこのプレッシャーは!!

 

 

「山田……何やってんの?」

 やめろ!! 俺をそんな目で見るな!!

 

「翔太君?!」

「た、助けて……」

 動けないの。どんだけ頑張っても前に進まないの。何これ。どうなってんの。

 

 

「とりあえず板外したらどうだ? 付けたままリフトに乗るのも大変だし」

「お、おう。そうする事にする」

 巴のアドバイスを聞いて、俺は一旦スキー板を外して手に持って歩く。

 

 取るときにバランスを崩して転けたのは内緒だ。まだモカがレンタル屋さんから出て来てなくて良かったよ。

 

 

「いぇ〜い。モカちゃん絶好調であ〜る」

 俺が溜息を吐いている後ろから、スキー板を完全に乗りこなして自由気ままに動くモカの声が聞こえてくる。

 

 この天才め……。

 

 

 ていうか、これどうするの。

 このままだとただ俺が情けない姿を見せるだけになるんだけど?!

 

 

「ら、ラブ師匠……」

「むむむ……こうなったらプランBだね」

 ナニソレ。

 

 

「逆パターンで行こう。翔太君がモカに弱い所を見せて、モカをキュンとさせるの!」

「普通に嫌だよ?!」

 草食系男子的な? いや、俺としてはそんな気持ちないからね。

 

「でも、モカに直接スキーを教えて貰えればその分密着する時間も増えると思うんだけどなぁ」

「その話乗った」

「翔太君って結構チョロいよね。うん、人払いは任せて!」

「ありがとうございますラブ師匠」

 何を言うかね。俺は欲望に忠実なだけだ。

 

 

「おーい、置いてくぞー」

「待ってー!」

 そんな訳で、俺達はリフトに乗って山頂に向かう。

 

 リフトは小型で、二人乗るのが限界の吹き曝しの物だ。

 その分登って行く時に見る景色は中々爽快である。

 

 

 木々の立ち並ぶ雪山に何本か見える木のない真っ白な線。そこを滑って山の下に降りて行くのがスキーというスポーツだ。

 

 場所によって傾斜が緩やかだったり急だったり、狭かったり広かったり。

 それによって滑る難易度も違うので、コース毎に分けられているらしい。

 

 

 そんな景色を眺めている間に頂上へ。

 白い息を吐きながらも、中々の絶景に「おー」と語彙力も何もない歓声を上げる。

 

 

「それじゃ、早速滑ろー! えいえい、おー!」

 元気満々に声を上げるひまりちゃんの掛け声はスルーされたが、やる気満々の巴は一足先に上級者向けのコースへ一直線に向かっていった。

 うわ、凄い傾斜だな。あんなん転がって雪だるまになるイメージしか湧かない。実際そんな事になる筈はないのだが、ギャグ漫画の見過ぎか。

 

 

「あたしはそんなに自信ないし、普通のコースにする」

「それじゃ、私も蘭ちゃんと一緒にするね」

「私は巴を追いかけようかなぁ?」

 それぞれが順々に遊びに行こうとするなか、俺一人だけはその場で立ち止まる。

 

 というか、動けないから。

 

 

「しょーくんはどーするー?」

 そう聞いてくるモカの後ろで、ひまりちゃんは俺を見ながら片目を瞑ってピースサインを向けていた。

 やれって言うんでしょ。やってやりますよ!

 

 

「その……ですね。お恥ずかしながら僕、スキー初心者でしてね」

「ふむ」

「教えて欲しいなぁ……なんて」

 あれー? よく考えなくてもこれただの情けない奴じゃない? ねぇ、今更だけど凄い恥ずかしいぞー?

 

 

「良いよ〜」

 ただ、モカは特に俺を咎める事もなく笑顔でそう答えてくれる。

 

 そんな一部始終を見届けたラブ師匠は満面の笑みで巴を追いかけていき、続けて蘭とつぐみちゃんも雪の上を滑っていった。

 皆普通に滑ってるし……。え、俺だけ? 俺だけ初心者なの?

 

 

「とりあえず前に進む方法を伝授しよ〜」

 ドヤ顔でそう言うモカだが、これすら出来ないともう動く事すらままならないので素直に話を聞く事にする。

 

 ツッコミは封印だな。

 

 

「まず、蟹の気持ちになります」

「なんでやねん」

 俺にツッコミを封印するのは無理でした。

 

 いやなんだよ蟹の気持ちって。分かる訳ないからね?! 蟹の気持ちなんてそもそも考えた事ないからね!!

 

 

「えーとー、脚は開いてガニ股気味で?」

「え、そういうこと」

 続くモカの説明を聞いて、なんとかその意味が分かって俺は脚を開く。

 

「後は、進む方向に対して板を斜めにすると前に歩けるよ〜」

「おぉ……マジだ。すげぇ」

 言われた通りやってみると、さっきまでうんともすんともならなかった俺の身体はしっかりと前に進んだ。

 

「うっへへーい。これ付けたまま歩くってだけでなんか楽しいなこれ」

 それだけで楽しくなってしまい、勝手にはしゃいだ俺はバランスを崩して滑り両足を開いて転ける。

 

 

「ぎゃぁぁぁ!!! 股が避けりゅぅぅぅ!!!」

 情けない声を出しながら地面を転がる山田翔太高校一年生。周りの人に若干笑われてるし、心が砕けそうだ。

 

 

「大丈夫〜?」

「オーケーオーケー。なんの問題もない。プライスレスだ」

「あまりの痛さにしょーくんが壊れてしまった」

 すまん。落ち着くから少しだけ待ってくれ。

 

 

 

「楽しそうだねー」

「まぁ、やった事ない事だしな。……俺に付き合わされてモカが楽しめてないの、なんかごめんな」

「うう〜ん。モカちゃんは楽しんでるよ〜」

 笑顔でそう言って手を伸ばしてくれる彼女に手を引いてもらって、俺はなんとか立ち上がる。

 

 

「そうか?」

「しょーくんを見てるだけで楽しいし〜?」

「バカにしているね?!」

「してないよ〜。……一緒に居るのが楽しいから

 なんか小声でゴニョゴニョ言った気がするが、悪口かな。

 

 でも、まぁ、こんなバカを見てるだけで楽しいって事はだな、つまり。

 俺と居る事を楽しいと思ってくれてるって事なんじゃないだろうか。

 

 

 そんな事を考えると、そんな事だというのになんだか嬉しくて気分が高揚した。

 

 

「よっしゃぁ! 滑るか!!」

「いってみよ〜」

 俺は難易度の低いコースに向けて歩き出す。

 

 

 少しずつでも良い。こうやって二人の時間を大切にして、前に進めればそれで───

 

 

 

「うぉぁうぇぇえええ?!」

「しょーくんが転がっていく……。ま、待って〜。スキーは転がるんじゃなくて滑るんだよ〜」

「んな事ぁ知ってますぅ!! とめて下さぁぁい!!」

 ───こんな進み方はごめんだけどな!!




次回『その言葉を伝えられたら』
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