今だから全力でやりたい事を探して【完結】   作:皇我リキ

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少し先に

 母なる海。

 生物の根源は海であり、宇宙人でも居ない限り今地球上に存在する生物全ては海から生まれた。その事からそう言われている。

 

 

 新天地を求めて陸に上がって来た我等の祖先もいたが、その後再び海の中に帰った生き物もいるのは、きっと海という場所がそれ程までに魅力的な場所だからか。

 真面目な話を切り上げて一般人のふとした思い付きを話すなら、そもそも地球の七割は海なんだから海の方が住む所あるよねって話だ。

 

 少し話を戻すが、イルカという生き物は哺乳類である。クジラとかイルカとか、本当に人間と同じ同じ哺乳類なのか疑うよね。

 

 

 

「おー、すごーい」

 さて、なぜそんな話をしたかというとだ。俺達の目の前でイルカが大ジャンプを繰り広げて、水飛沫が目に入って若干の海を感じたからである。

 

 海を感じたってなんだよ。

 

 

「あははー、びしょ濡れだね〜」

 水浸しになって若干ナイーブな俺の横で、のんびり口調でそう話す女の子。

 

 ショートカットの髪にパーカーと短パン。ボーイッシュな服装ではあるが、水に濡れて浮き出た身体のラインは女の子らしく少し目のやり場に困る程だ。

 

 

 そんな彼女───青葉モカと、俺こと山田翔太は少し格好つけていうと交際中、普通にいうと付き合っている。

 

 

 

「最前席なんて選ぶもんじゃないな……」

「また一つ、モカちゃん達は賢くなったのであった。結果オーライだよ〜」

「のんきに言ってるけどこの後もあるからね?! 全然結構はオーライじゃないからね?!」

 付き合っている……とはいっても、俺達の関係は以前と大差はない。

 ひたすらボケ続けるモカに俺がツッコミを入れて疲れる日々だ。

 

 ただ、やっぱり俺はそれが楽しいし。そんな日々を全力で過ごしたいから、彼女に告白してこうして今モカと付き合っている。

 

 

「そうだねー、せっかくひーちゃん達に貰った水族館のチケットだし」

「とりあえずお土産屋さんでタオルでも買って頭だけでも拭くぞ。このままじゃ風邪引く。寒いのはこりごりだ」

 そんな訳で、俺達はバイト先やら俺の家やら商店街とかショッピングモールとかで遊ぶ日々が続いていた。

 

 それこそ友達と遊ぶみたいな感覚で。

 普通のカップルとして想像するようなイチャイチャとか、そういうのは全くない。キスは愚か手を繋ぐとかすらまともにしてないね。健全過ぎる。小学生か。

 

 

 そんな俺達を見兼ねたAfterglowのメンバー(主にひまりちゃん)が今回俺達に「デートしてきなさい」と水族館のチケットをくれた訳だ。

 

 

「あははー、そーだね〜。そういえば、皆で井ノ島に行った時もタオル買ったんだよね〜」

「あー、蘭が持ってたタコのタオルか。あーいう感じの奴ならお土産としても丁度良いな」

 なんて会話をしながら、俺達はイルカショーのステージを後にする。

 

 

 開幕イルカショーでびしょ濡れになるなんてトラブルもあったが、珍しくデートっぽい事に挑戦してみる事になった俺達。さて、どうなるやら。

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 お土産屋さんでそれらしいタオルを買ってその場で開封、頭を拭いて「さて、仕切り直しと行くか」と水族館の地図を広げようとした矢先。

 モカが俺の服の袖を引っ張って「しょーくーん」と声を掛けてきた。

 

 振り向くと髪の濡れた彼女がタオルを持って上目遣いで俺を見ていたので、ちょっとドキッとする。

 

 

 やっぱさ、俺の彼女(モカ)ってめちゃくちゃ可愛いよな。

 

 

 

「ど、ど、どうした?」

「髪の毛拭いてー」

「自分でやれよ!」

 赤ちゃんか。

 

「自分じゃほらー、ちゃんと拭けてるか分かんないじゃーん?」

「しょうがねーな……」

 特に断る理由もなく、俺はモカの髪をタオルで拭いてやった。目を瞑って気持ちよさそうにする彼女を見ると少し恥ずかしくなる。

 

 こんな事、流石に友達にはやらない。別にカップルらしいとは言わないが、付き合ってるんだなって少しだけ実感した。

 

 

「それじゃー、お魚を見に行こー」

「おい涎をしまえ。食べに来たんじゃないぞ」

 まぁ、思っていた通りの魚への反応なんだけどね。

 

 少し水族館を歩いて見てみるが、蟹を見たら美味しそうだのタコを見たらタコせんべいだの「逃げて!魚逃げて!」である。二種とも魚じゃないけど。

 

 

「クラゲって美味しいのかなー? 亀さんはクラゲを食べるんだよねー」

「すぐ食べようとするな」

 ライトアップされたクラゲの水槽を見ながらそう言うモカ。こういうのって普通「綺麗だね」とかいう感想が出てくる物じゃないの?

 

「一応食えるクラゲもいた気がするけど……。そもそもクラゲって体の九割くらいが水なんだよな」

「それはつまりもう、クラゲはジュースという事なのでは〜?」

「違うよ?!」

 どうしたらそんな発想が出て来るんだろう。どうしても食べたいのか。

 

 

「身体の半分以上が水なのって凄いねー」

「そんな事ないぞ。人間だって身体の六割は水だしな」

「ほえー、しょーくん物知り〜」

 暇人はよくネットサーフィンをするので無駄な知識が多いのだ。

 

 

 そんな風に、水族館の生き物達を無駄な知識を並べながら主に食方面で盛り上がったりしながら見ていく。

 お昼過ぎに来たのだが、全部回りきる前にもう良い時間だ。中々有意義な時間を過ごせたと思う。

 

 

「お、こっちはラッコが居るのか」

 水族館といえば魚というイメージだが、海に住んでいる生き物は魚だけじゃない。

 というか、個人的には魚よりもタコとか蟹とかイルカとか魚以外の生き物って魚よりも姿形が豊富だから見るのが面白いんだよな。もっと言うとペンギンとか。

 

 勿論、魚も変な奴がいるから面白いけど。

 

 

「しょーくん楽しそうだねー」

「そうか? まぁ……そうだな」

 楽しいのは楽しいのかもしれないけど、それはきっとモカと一緒だからだ。

 

 いちいち反応が面白いし、やっぱり一緒にいるだけでその時間を大切に感じる。

 好きな人と一緒にいるんだから、楽しいに決まってるのだ。

 

 

「どうかしたのー?」

「いや、何も。おー、丁度ラッコの餌やりの時間みたいだぞ」

 若干はしゃいでる俺はそんなテンションでモカに付いて来いよと早足で歩く。

 このままのノリで手でも掴んでしまえば良いのにとか思うかもしれないが、チキンなのでそれが出来ない。

 

 

「ラッコって、お魚とかも食べるんだねー」

 貝殻を腹の上で割って食べる印象が多いラッコだが、元々は魚とか蟹とかイカとかとにかく何でも食べる生き物だ。

 なんでもラッコは体温が高いらしく、その体温を維持する為に沢山の食事を取るらしい。モカはラッコだったのか、なんてふと思って一人で笑う。

 

「ついにモカちゃんがボケてないのにしょーくんが笑いだした……」

「まぁ、笑った理由お前だけどな」

 なんて言うと、モカは「ひどいなー、もー」と頬を膨らませた。可愛い。

 

 

 そんな訳でしばらくラッコの餌やりを見ていたのだが、突然横からあり得ない音がして俺は目を丸くする。

 なんというかその、お腹の虫の音。モカの顔を見てみると、彼女は涎を漏らす口に手を当ててラッコをジッと見つめていた。

 

 

「おい待てラッコだぞ?! 魚とかタコとかならまだ分かるけど!! ラッコだぞ!!」

「……シーフードサンドイッチ」

「餌の方かーーーい!!!」

 どうやらラッコに渡されていた餌を見てお腹を空かせていたらしい。

 

 随分と水族館を歩き回ったし、時間としてもいい頃合いではある。

 確か水族館を出た直ぐ先にレストラン街があった筈だし、行ってみるかとモカに提案すると大絶賛された。

 

 

 そんな訳で俺達は水族館を後にして、すぐ近くのレストラン街を歩く。

 

 

 水族館とかデートスポットが近くにあるという事もあり、レストラン街ではデート中のカップルの姿も結構多かった。

 周りを見渡せば手を繋いでたり腕を組んでたり。高校生の若者には少し刺激が多い光景が広がっている。

 

 いや、この人達よく平気でそんな事出来るな。羞恥心とかないの。周りの人皆ジャガイモにでも見えてんの。

 俺がチキンなだけなんだけどね!!

 

 

 そんな事を考えていたせいか、どうも俺はぎこちなく歩いていた。せっかくのデートなのに、モカには申し訳ない。

 

 

「おー、しょーくん。シーフードカレーだってー。流石、モカちゃんの今のお腹を捉えてきてますなー」

 そう思って一人で気不味くなっていると、俺の気持ちなんて知ってか知らずか。モカは俺の服の袖を引っ張ってお目当てのお店まで連れて行く。

 

 ここで手を繋げない辺りが山田翔太なんですね。

 

 

「カレーか。……てか、カレーでいいのか?」

 デートですよ。

 

「美味しそうじゃーん? シーフードカレー」

「さては魚なら何でもいいな?」

「バレたかー」

 のんびりとした笑顔を見せてくれる彼女の微笑みに、なんかよく分からない悩みは吹っ飛んでいった。

 何をそんなに焦る必要があるのか。別にいつも通りでいい。いつも通り。それが、幸せなんだから。

 

 

「んじゃ、俺はカツカレーにする」

「モカちゃんはLサイズにー、あとそーだなー、フライドポテトも食べちゃおうかなー」

 どんだけ食べるんですか。

 

 席に座って注文を済ませ、お冷の氷をストローで回しながら、俺達は水族館の話で再び盛り上がる。

 また来ようとか、次はどこに行くとか。そんな事を当たり前のように話せるってだけで、幸せじゃないか。

 

 

「カレーうま」

「ラッコの気持ちが分かるねー」

「いや、いくらラッコでもカレーは食べないからね」

 モカラッコがバクバク食べている前で、俺は半目で彼女を見ながらそう言った。

 本当によくもそんなに食べられますね。胃袋の中どうなってるんですか。●次元ポケットにでも繋がってるんですか。

 

 

「しょーくんも食べるー? 海を感じるよー」

 海を感じるってなんだよと言いかけたが、序盤で俺も海を感じていたのでツッコミはやめておく。

 それで、せっかくだし「少し貰っていいか?」と聞くとモカは笑顔で良いよと答えてくれた。

 

 

「はい、あーん」

 彼女はそう言いながら、シーフードカレーを掬ったスプーンを俺に向ける。

 

 いや、え?

 

 

 

 え?

 

 

 

 あーん?!

 

 

「どうかしたのー?」

 不思議そうに首を横に傾けるモカだがちょっと待ってほしい。

 こんなね、他にも色んな人がいる場所ですよ。人気のない場所ならともかくですよ。あーんって! あーんって!! あーん!!!

 

「カップルかよ!!」

「カップルだよー?」

「そうだったぁぁ!!」

 お店の中でうるさくしてごめんなさい。

 

 

 とりあえず落ち着いて、俺はモカのスプーンにゆっくりと口を近付けた。そのまま咀嚼。普通に美味い。

 

「おぉ……これは美味───」

「あははー、間接キスですなー」

「───ブフゥゥ!!」

 恥ずかしさを紛らわせる為に、俺が当たり障りない感想を呟こうとした矢先。モカにそんな事を言われて俺は若干吹きそうになる。ていうか少し吹いた。マジでお店の人とお客さんごめんなさい。

 

 

「たまにはこういうのもありかなーって、モカちゃんは思うわけですよ」

「唐突過ぎて心臓に悪いです」

 逃げるように勢いでカレーを腹の中に突っ込み、俺達は帰路に着く。

 

 モカと遊ぶと大体濃い一日になるのだが、今日もまた全力疾走で疲れる日だった。

 

 

 それが楽しいから、俺は彼女の事が好きなんだけどさ。

 それに、いつも通りが良いけれど。少しずつ前に進めたら良いなとも、やっぱり思う。

 

 それを、いつも通りにする事が幸せになるって事なんだ。

 

 

 

「なぁ、モカ」

「なーにー?」

「……手、繋いで帰らないか?」

「……いーよ〜。……しょーくんの手、冷たいねー」

「心があったかい証拠だ」

 こんな風に、さ。




この作品の一周年もバンドリの二周年もスルーしていつ書くかなんだって感じの後日談でした。バンドリ二周年おめでとうございます。

ドリフェスで70連にて無事限定モカを手に入れたので書きました。実は書く気なかったんですけど、モカちゃんが出たので全ての感謝を込めて書きました。可愛い。やっぱり青葉モカは可愛い。
今後もこんな風に下らない理由で後日談が投稿されるかもしれません。その時はまた読んでもらえると嬉しいです。

それでは、読了ありがとうございました。

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