今だから全力でやりたい事を探して【完結】   作:皇我リキ

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モカランド〈番外編〉

 世界が作られてはそこから生み出されたパンを屠る。

 そうして満足した少女は何もない世界でただ一人、夢を語るのだ。

 

 

「それじゃ、少し寝るわ」

 次はどんなパンが生まれてくるのかな、と。

 

 

「うん。おやすみ、しょーくん」

 そうだ、こんなに美味しいパンならそれ全部を混ぜたらめっちゃエモいパンが生み出されるに違いない。

 

 神様はふっふっふと笑いながら、これから生み出されるであろう超エモいパンに想いを乗せながら夢物語を語り始める。

 

 

 これは───パンの物語。

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 俺、山田翔太は普通の高校一年生。

 普通という文字を人にしたのが俺という存在だ。普通ザ普通。普通オブ普通。

 

 

 そんな俺だが、その日はどうも不幸な日らしい。朝占いを見てみたら、今日の運勢はパン半分分だと言われたっけ。

 

 いやパン半分分って何。

 

 

「はぁ……はぁっ、助けて!」

 平凡な俺が平凡に学校に通って、平凡にバイト先に向かおうとしていたその時である。

 

 バイト先の先輩───リサさんが息を荒げながら俺に助けを求めてきたのだ。

 不安げな表情で俺の肩を抱くリサさんとの距離が近い。ふ、何がパン半分分だよ。最高にラッキーじゃねーか。

 

 じゃ、なくて。

 

 

「ど、どうしたんですかリサさん」

 いきなり助けてって、何があったんだろう。

 

 

「私はリサじゃない。クッキー衆指導者。クッキー女王よ」

「いや突然何言ってるのこの人。え? どうしたの? 頭打っちゃったの?」

 先輩の意味の分からない発言に困惑して俺は困惑しながら表情をヒクつかせた。

 

 完全に意味がわからない。

 

 

「あなた、リサ様になんて無礼を!」

 そんなリサさんの背後から若干怒り気味で声を荒げるのは、彼女と同じガールズバンド───Roseliaに所属するギター担当。氷川紗夜その人である。

 

 いや、その人なのか。この人もなんか辺な事言ってるんだけど。リサ様って何?! 確かにリサさんは魅力的な人だけど!! 様って何!!

 

 

「さ、紗夜先輩……? 一体なんの冗談ですか?」

「私はクッキー将軍です」

「ダメだコイツ。早くなんとかしないと」

 クッキーってなんだ。クッキー衆ってなんだ。宗教か!!

 

 

 これアレだな。絶対アイツ(・・・)が絡んでるな。俺をからかってるのか、それとも───

 

 

 

「なんでも良いから助けて欲しいんだ。私達クッキー衆と同盟を結んだパン派の皆を……っ!」

「いやまた聞いたことのない単語が漏れてるんだけど。話についていけないんだけど」

「そうわさせないんだから!」

 俺がツッコミを入れていると、背後からそんな声が聞こえる。今度はなんだ。

 

 

「あ、あなた達は!!」

「私は超悪い秘密結社、マルマウンテンのボス!」

「そしてあたしは、その秘密結社の元請け組織。コオリヴァーのボス!」

 紗夜さんの反応に二人の少女が名乗りを上げる。

 

 一人はまんまるピンクに彩りをでお馴染み、Pastel*Palettesボーカル担当丸山彩。もう一人は同じくPastel*Palettesギター担当氷川日菜その人だ。

 

 

「えー?! 私の秘密結社が下請け扱いなんて……。酷いよ日菜ちゃーん」

「えー、だってー。彩ちゃんあんな弱そうな探偵に捕まっちゃうんだもん」

 秘密結社の名前ダサ過ぎる。いや、そうじゃなくて。

 

 

「あなた達どうしちゃったの?!」

 日菜先輩とはそこそこ付き合いがあるからこのノリについていけるのは分かるんだけど、丸山さんってそういうキャラだっけ。

 

 

 

「出たわね、焼きそばを崇拝する焼きそば軍……」

 うわぁ、また訳の分からない単語が飛んで来た。焼きそば軍って何。

 

 

「リサ様、ここは私が食い止めます。リサ様はパン派の皆と合流を」

「紗夜……。でも、それじゃ紗夜が!」

 ダメだー、話について行けない。

 

 

 

「ふふふ、おねーちゃんは優しいなぁ。でも、逃がす訳ないよ! この世界の小麦粉は全部焼きそばになるんだー!」

「そ、そうだよ! それが私達焼きそば軍の目的。変な探偵に捕まった私を檻から脱出させてくれたあの方の目的なの!」

 誰だか分からないが、あの二人には上の人がいるらしい。それはそれとして焼きそば軍のボスの目的しょうもなさすぎる。

 

 

「そ、そんな……それが焼きそば軍の真の目的?! そんな事したらもうクッキーも……パンも作れない!」

 いや確かに全部小麦粉が原材料だけどね。

 

 

「く、ここまでか……。名もなき一般人の君」

「ノリについて行けないからかリサさんからの扱いが辛辣過ぎる」

 え、乗らないとダメだったの? この意味の分からないノリに乗らないとダメだったの?

 

「私達はここまでだ……。だけど、クッキーの……パンの、小麦粉の未来を誰かに託したい。君に、それを託していいかな?」

「嫌だよ?!」

 だって何言ってるのか分からないもん!!

 

「ありがとう……。名もなき凡人」

「嫌だって言ったんだけど?!」

「そうと決まればここは私達に任せて逃げてください。ここは私達が食い止めます」

「いや人の話を聞いて?!」

「紗夜……。これまでありがとうね」

「いいえ、リサ様。もし生まれ変わる事が出来たら、もう一度あなたのクッキーを……そして、メロンパンを」

 そう言いながら二人は前に歩き出した。

 

 

「お姉ちゃん、覚悟はいい? 凄いいっぱい擽っちゃうからね!」

「やっと超悪い悪役っぽい活躍が出来る!」

 なんかもう良いや。本当の意味で逃げよう。

 

 

 なんか超凄い擽りを受けて倒れる紗夜さんやリサさんを尻目に、俺はその場を後にした。一体なんだったんだろう。

 

 

 

「ミツケタ」

 商店街を歩いていると、ピンクのクマが俺を見ながらそう言った。

 ミッシェル。ハローハッピーワールド所属のクマというデータしか持っていないけど。

 

 何を見つけたって?

 

 

「笑顔ジャナイ人間、発見。焼キソバヲ食ベサセテ、笑顔ニシマス」

「あんたも焼きそば軍かーい!!!」

 てか焼きそば食べさせて笑顔にするって何。焼きそばってアレか?! アンパンとかそういう感じの意味なのか?!

 

 

「居たわ! 超悪い焼きそば軍の兵士、ミッシェルよ!」

 俺が困惑していると、背後からさらに俺の頭を悩ませてきそうな声が聞こえてくる。

 

 

 振り向くとそこには───妖精がいた。

 

 

「……友希那……さん?」

 手の平サイズの、小さな人。しかしその顔に俺は見覚えがある。

 そんなに話した事がある訳ではないが、たまにコンビニに来るしあのRoseliaのボーカルを俺が忘れる訳がない。

 

 ただし、凄く体が小さい。妖精さんだ。羽が生えてる。

 

 

「美竹さん! 超悪い奴を見つけたわ! こっちよ!」

「ちょ、待って。アレ悪い奴っていうか熊だよね」

 そんな妖精さんの後ろからついてきたのは、こちらはいつもと変わらない態度の美竹蘭。

 

 蘭は「あ、山田」と漏れたような事を言って、俺と熊を見比べた。

 

 

「どうなってるの?」

「俺が聞きたいからね! あ、でも良かった。まともな人が居た」

 なんだかそれだけで心が落ち着く程に今日はおかしい。

 

 

「何してるの美竹さん! 早く変身して、この超悪い熊をやっつけちゃいましょーう!」

 いや妖精さんのテンション何! 変身って何!!

 

「はぁ……しょうがないな」

「え、どうしたの蘭? もしかして変身するの?」

「……いつも通り、ぱっぱと終わらせる」

「お前のいつも通りはそんなんだったっけかぁぁ?!」

 ダメだ、なんか蘭もちょっとおかしい!!

 

 

「シュトーレン、イスト、ブロート!」

 そして突然蘭が謎の呪文を言い放ち、彼女を謎のオーラが包み込む。本当にどうしたの美竹さん?

 

 

「───罪を憎んでパンを憎まず! パンと正義の魔法少女、マジカルラン参上!」

 本当にどうしちゃったの美竹さん?!

 

 

「母なる大地より生まれし小麦よ。大海の水によって練られ、地獄の業火に焼かれし者よ。仮初めの肉体を捨て、我が前に真なる姿を示せ!」

 姿形は変わっていないが、なんか魔法少女的なものに変身したっぽい蘭は手のひらをミッシェルに向けてこう叫んだ。

 

 

「ヴァツェン・ミッシュブロート!!」

「パンの名前じゃねーかぁぁあああ!!!」

 説明しよう。ヴァツェン・ミッシュブロートとは、ライ麦を使った独特の酸味や風味と噛み応えがくせになるドイツ産のパンである。

 

 

「ウワー!」

 そして何故かは分からないが、ミッシェルが爆発した。

 

 

「な、何がどうなってやがる……」

 しかしどうしてパンなんだろう。そんな事を考えようとすると、ミッシェルの爆発した爆煙の中から一人の少女が現れた。

 

 

「……ここであったが百年目ね。マジカルラン。私の、このローズチサトという名前を侮辱した罪を贖う時よ」

 またなんか凄いのが出て来たよ。

 

 てかミッシェルの中身違うくない?!

 

 

「ま、まさか……あの時の悪い魔女」

「蘭、知り合いなのか。てかあの、絶対に怒らせちゃいけなそうな人の名前バカにしたの? いや、俺もダサいと思ったけど」

「あ、あなたまで私の名前を侮辱したわね……っ!」

 うわ、めっちゃ怒ってる。

 

 

「山田、逃げて。ここはあたしが」

「いや、逃げろったって……」

「ここはアタシに任せな」

 俺が蘭と話していると、さらに背後から聞き覚えのある声が聞こえて来た。

 

 しかし、聞き覚えはあるのだがどうも少し違う気がする。気のせいか?

 

 

「あ、巴」

「私は救世主トモエ。やっとミッシェルを倒し、後はヤバいやつをなんとかすれば世界が平和になると思っていたのに……今度は焼きそば軍か」

「な、何言ってるの巴。なんか変だよ」

「いや蘭も相当変だったけど?」

 もしかして自覚ない? ていうか、うん。確かに巴変だ。めっちゃ声低い。

 

 

「ここはアタシに任せて先に行け。……あ、この台詞いつか言ってみたかったんだよなー!」

「おい素が漏れてるぞ?! 出来たら素で話して欲しいけど!!」

「こら、このローズチサトを無視して何を話している───きゃぁ?!」

 俺達に起こったローズチサトの周りが突然爆発する。いや、何が起きた。

 

「私もいるよ。ハナゾノランド建設の邪魔になる存在は、とりあえず邪魔なんだ」

 黒髪の、うさぎの被り物を着た少女が現れるやなんかとても危ない発言を漏らす。

 そんな彼女は巴と背中合わせになって、怒り狂うローズチサトと戦う意思を見せた。

 

 どうでも良いけど世界観めちゃくちゃじゃない?

 

 

 

「行こう山田。巴の犠牲を無駄にしないためにも」

「それで良いの?!」

「とりあえず目指すはやまぶきベーカリーよ! さぁ二人共、行きましょう!」

 妖精ユキナの先導で、俺達は商店街にあるやまぶきベーカリーに向かう事に。

 

 俺、バイトに行かないと行けないんだけど?

 

 

「いらっしゃいませー」

 やまぶきベーカリーに辿り着くと、お店の看板娘である沙綾が笑顔で迎え入れてくれる。

 しかし騙されないぞ。なんかもう多分まともじゃない。

 

 

「ど、どうしたの三人共。なんだか凄い喧騒だけど」

 あれ? 普通だ。

 

 

「どうしたもこうも、俺が聞きたいよ。なんかいきなり焼きそばがなんたらとか、パンがクッキーがなんとかとかでめちゃくちゃなんだよ」

「そっか……ついに焼きそば軍がこんな所まで」

 あ、ダメでしたか。あなたもですか。

 

 

「あなたはパンの聖女なんでしょう? 今こそパンの神様の声を聞いて! 私達を助けて頂戴!」

 パンの聖女って何。パンの神様って何。

 

 というか、どうでも良いけど友希那さんのイメージがぶっ壊れていく。

 

 

「どうだろう。ここ最近パンの神様の声を聞いてないし……。あれ? でも今声が……この声は、パンの神様?!」

 いや何か聞こえちゃいけない音が聞こえてませんか。大丈夫ですか。

 

 

「ねぇ、沙綾ヤバくない?」

「いや蘭。お前もヤバいからな」

 自分がまともだと思ってるのかお前は。

 

 

「パンの神様が、もうすぐここに焼きそば軍のリーダーがやってくるから気をつけろって」

 まさかの急展開。え、どうしたら良いの。

 

 

「ぱーん! ここかー!」

 俺がおどおどしていると、突然扉が開いて女の子が二人入店してきた。しかし、見た目的には焼きそば軍のリーダーというより……探偵である。

 

 

「ふっふっふ、私は名探偵香澄ちゃんです。ここに焼きそば軍のリーダーが居ると聞いてやってきました」

「焼きそば軍のリーダーは逮捕でーす!」

 戸山さんと北沢さん、キャラ違うよね。

 

 

「ズバリ、私はすでに焼きそば軍のリーダーを突き止めています!」

 え、何? 犯人探しみたいな感じになってるんだけど?

 

 

「犯人は……沙綾、あなたですね!」

「え、私?!」

 なんでそうなったの?!

 

「証拠あるの?」

「あります。ここを見てください!」

 蘭の率直な疑問に自信満々な表情で答える戸山さん。一体どこに証拠が───

 

 

「これは、焼きそばパン!」

 戸山さんの指差す場所を見て、妖精ユキナはそんな声を上げた。いや、そんな下らない証拠ある?!

 

「……これは、決定的な証拠だね」

 と、蘭。うんうん、そうだよね。こんな馬鹿な証拠で───え?

 

 

「蘭、お前自分がおかしいって自覚あるか?」

「ないけど」

 ダメだコイツ。早くなんとかしないと。

 

 

「そ、そんな……。私はただ、パン軍の皆とも仲良くしたいから……」

「話は署で聞くよ、沙綾」

 慈愛の目で沙綾を見る戸山さんだが、流石に言いがかりだって俺でもわかるからね。てかもうどうでも良いけどね。

 

「あ、待ってくださ〜い! こんな所に、コロッケパンが!」

「何ぃ?!」

 助手と思われる少女の声に、戸山さんは目を見開いて耳を傾けた。

 その視線の先には───何故かコロッケパン。

 

 

「……沙綾、私間違ってたよ。コロッケパンを愛する人に悪い人はいない」

 いや、焼きそばパンを愛する人全てに謝れよ。

 

 

「でもそれじゃ、一体誰が焼きそば軍のリーダーなの? やっぱり山田?」

「嫌なんでそうなるの。語り部がラスボスだったなんて伏線どっかにあった?」

 いや伏線もクソもないけどなこの流れ。

 

 

「ついに見つけたわ! ここがパン派の拠点ね!」

 俺達が頭を悩ませていると、なんの脈絡もなく唐突に焼きそばを持った少女が店に入店してくる。

 

 腰まで流れる綺麗な金髪と、見惚れるような満面の笑みが特徴的な女の子だった。

 

 

「こころん?!」

 戸山さんが彼女の名前を呼ぶ。

 

 弦巻こころ。ハロー、ハッピーワールドのボーカル担当。

 そんな彼女がこのタイミングでやってきて、焼きそばを片手に持っているのだ。この流れからして彼女が焼きそば軍のリーダーなのだろう。

 

 

 もはや意味の分からない流れにも慣れてきた。伏線もクソもないからね。いや、待てよ───

 

 

 ──笑顔ジャナイ人間、発見。焼キソバヲ食ベサセテ、笑顔ニシマス──

 

 唐突にミッシェルの言葉を思い出す。

 

 

 ───そうか、アレが伏線だったのか。

 

 

「クソどうでもいいわ」

 思わず口に出てしまった。俺は何を考えているんだろう。

 

 

「どうして弦巻さんがここに居るの!」

「何を隠そう。私が焼きそば軍のリーダーだからよ!」

 ユキナの言葉にそう返す弦巻さん。何を隠そうも何も隠せてないからね。なんで焼きそば手に持って歩いてきたの。バカなの。

 

 

「焼きそばはとっても美味しいし、子供から大人まで皆大好きなのよ! だから、世界中の小麦粉を焼きそばにして世界を笑顔にするの!」

「流石こころん!」

 探偵の助手が裏切った!!!

 

「確かに、焼きそばは……悪くないよね」

「こころんの言う事も分かる気がする」

 蘭と戸山さんまで何言ってるの?!

 

 

「大変よ! 焼きそば軍のリーダーココロの手によって皆が洗脳されているわ!」

 物凄い説明口調でユキナは俺にそう語りかけてくる。いや、そんな事を俺に言われてもね。

 

 

「もう残されたのは私達しかいない。この世界からパンを守れるのは、私達しかいないの!」

 いやどうでもいいよ───とは、何故か言えなかった。

 

 

 

 

 

 大切な事を忘れている気がする。

 

 

 

 確かに俺にとってパンなんて、そこまで思い入れのある物じゃない。

 世界中の小麦粉が焼きそばに変えられたら流石に困ると思うが、それをどうこうしようという程の熱情が俺にある訳がない。

 

 

 

 ただ、何かを忘れている気がした。

 俺にとってはパンはどうでもいい物なのかもしれない、だけど『俺達』にとってパンはとても大切な物だから。

 

 

 

「弦巻さん。……この、焼きそばパン。こいつを見てどう思う?」

「凄く……美味しそうだわ」

 ───そこから先はどうも覚えていない。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

「───こうして、世界からパンは守られたのでした〜」

 香ばしい匂いがする。

 多分、パンの匂いだ。それと、焼きそばの匂い。

 

 ごはんは焼きそばパンか。

 

 

 そんな匂いよりも、どこか甘いふんわりとした匂いと柔らかさが俺を包み込んでいる。

 思い瞼を開けて見える天井は見知った天井だ。俺の部屋の、なんとでもない普通の天井。

 

 ただ少し違うのは、どうも枕が柔らかい。

 

 

 ───というか、今の声は。

 

 

 

「あ、起きた。おはよ〜、しょーくん。いい夢観れた〜?」

 視界に映る、俺の彼女の可愛い顔。青葉モカ、その人だった。

 

 

「いや、酷い夢を見た」

 淡々とそう答えると、モカは「え〜」と不満げな声を漏らす。

 

 そんな彼女の顔は近い。というより、身体が近い。

 この柔らかい枕は───モカの膝枕だったという事だ。カップルかよ。カップルだわ。

 

 

 

 要するに、俺は寝ていたのである。モカの膝枕で。ここ重要な。

 それを意識すると突然恥ずかしくなってきた。寝起きで、寝る前にどんな状態だったか思い出せないが、とりあえず膝枕である。幸せか。

 

 いや、変な夢見たけど。

 

 

「せっかくしょーくんが良い夢を見れるように、モカちゃんがとっても素敵なお話を聞かせてあげてたのに〜」

「あー、アレはお前のせいか」

 俺は真顔で起き上がって、満面の笑みを彼女に見せてやった。

 

 

 膝枕は確かに嬉しい。最高である。だがな───

 

 

 

「夢オチは最低だよ!!!」

「あははー」

 ───もっとこうなんか無かったの?!

 

 

 

 そんな、いつも通りの日常。

 

 

 ちなみにその日の晩飯は焼きそばとパンだった。


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