翌朝、四葉は目を覚まして、顔にシーツがかかっているのに気づいた。
「……。うう……痛い…」
意識がハッキリすると、左前頭部に痛みを覚える。
「この頭痛、この感じは……」
起き上がると、パラっとシーツが落ちる。四葉は革製のリクライニングシートに寝ていたようだった。
「ジャギさんになってるのね」
すぐに四葉は自分の状況を把握した。逞しい腕、分厚い胸板、立ち上がると視点が高い。
「……くっ……それにしても、この痛さ……ぅぅ…」
殺風景な部屋に鏡は無いけれど、手で触れると左前頭部が金属パーツで圧迫されているのもジャギの特徴なので鏡を見なくてもわかる。その左前頭部がズキズキと疼いて痛い。すぐ近くに金属製のマスクが置いてあった。
「この顔じゃあ、隠すのは当然………」
四葉はマスクをかぶり、それからメッセージなどが残っていないか、注意深く室内を探した。一度目にジャギとなった日に、また入れ替わりが起こった場合、四葉がジャギとして行動することにおいて、何か注意することがあったら教えてほしい、というメッセージを残しておいたので、その返答を期待して探した。
「あった」
顔にかかっていたシーツに処刑されたと思われる人間の血でメッセージが書かれていた。
「…………」
余計なことしやがったら、ぶっ殺す、と大きく書いてある。
「だから、その余計なことが何なのか、具体的に書いてよ……あ…」
大きな字に続いて、小さな字でもメッセージがあった。
「………」
ケンシロウという男に出会っても絶対に戦うな、お前では勝てない、と書いてある。
「……ケンシロウ……たしか、おびき寄せるために、自分で名乗っていた感じだったけど……わざわざ、そんな作戦を取るあたり、相当に強いのね」
四葉は手下たちの言動から、初日で大まかなことはつかんでいた。手下たちは村人などの外部の人間がいるところではケンシロウ様と呼び、仲間内だけのときはジャギ様と呼んでくるので初めは混乱したけれど、もう慣れている。戦い方も身体が覚えている感じもあって、これといって拳法らしい技もない手下たちには負けない気はする。なにか、奥義のようなものも出せそうな気はするけれど、あと少しの感覚がつかめず、身体にもどかしさを覚えたりもしていた。この状態では、それなりの使い手と戦えば、圧倒されて負けるのは四葉にもわかった。
「まだ、続きがあるみたい、意外とマメね」
さらに小さな字で続きを書こうとして、やはり血では書きにくいからか、椅子の下にあるメモも見ろ、という指示があって四葉はメモを見た。
「………なるほど……」
メモには、もしもケンシロウに出会ってしまったら、屋上にあるヘリポートへ誘導して、そこにある燃料タンクのパイプを腕力で破壊して、タンクの上に飛びのってから着火して丸焼きにしてやれ、と書いてあった。
「タンクの上って……、そんなことしたら、自分も丸焼けに……、あ、なるほど」
メモは裏まで続いていて、燃料タンクの上にはケーブルが用意してあるので、それで脱出しろ、と書いてあった。
「ちゃんと逃走経路も確保してあるわけね。さすが、暗殺拳を名乗るだけあって、ただの拳法バカというわけじゃないみたい。意外と話も通じるかも。こんな世界で手下を統率していくだけの人物なんだし」
少し四葉はジャギを見直した。さらに、メモが続き、腰にもっている銃は不発が多く、主に威嚇として使い、発射しても弾が飛ぶ可能性は、それほど無いことなども書いてあった。
「ありがとう、ジャギさん。さてと、言葉遣いに気をつけなきゃ。ハァァ~……すーっ…」
四葉は深呼吸して気持ちを集中する。男らしい歩き方、乱暴な言葉遣い、そして、朝起きたジャギは何をするだろう、そう考えていると部屋の外から声をかけられる。
「ジャギ様、食事の用意が…」
「おう」
男らしく返事した四葉は手下に案内されて隣の部屋に入った。テーブルがあって、そこに缶詰が並んでいる。開けられた缶が5つと、あとは山積みになっている。
「ごゆっくり、どうぞ」
そう言って手下は退室してしまった。
「……おう」
食事も睡眠も、いつも一人、仕方ないかな、マスクを外さないと食べられないから、それにしても食事の用意って缶詰を開けただけなの、一昨日いた掠ってきた女性は殺してしまったのかな、そうなると男ばっかりのグループみたいだし、こんな食生活になるわけね、と四葉は重い気持ちでテーブルに着いてマスクを外したけれど、食欲が湧かない。
「…………」
開けられている缶詰の蓋を見ると、賞味期限が1994年となっている。
「…………」
たぶん核戦争があったのが1992年だとしたら、それ以前に製造された缶詰よね、缶詰の賞味期限って2年か、3年だから……っていうか、今は正確には何年なのかな、97年から99年くらいだと思うんだけど、と四葉は悩む。悩むと左前頭部がズキズキと痛み、余計に食欲が無くなった。
「…………」
食べないと食欲がないって手下に不審がられるかもしれないし……、けど不味そう、見た目は普通だけど、どうしよう、口噛み酒よりはマシかな、製造過程は衛生的なはずだし、と四葉はフォークで中身をいじって匂いを嗅いでみる。
「……………」
うう~…、やっぱり、無理、そうだ、外で食べるってことにしよう、それなら不審がられないかも、と四葉は開いていない缶詰いくつか持つと、マスクを着けて部屋を出た。
「ジャギ様、もう、よろしいのですか?」
「おう、今日は外で喰いたい気分だぜ。お前、開いている分は喰っておけ」
「よ、よろしいのですか?! あ、ありがとうございます!」
「………」
賞味期限切れの缶詰が、そんなに嬉しいわけね、と四葉は憐れみの表情を浮かべてしまったけれど、マスクのおかげで気づかれずに済む。建物の外に出ると、手下たちが手斧をもって、たむろしていた。
「「「おはようございます! ジャギ様」」」
「おう」
「「「……………」」」
明らかに手下たちはジャギからの指示を待っている空気が漂い、四葉は考える。けれど、考えてもジャギとしての命令など思いつかない。不審がられないよう、いっそ間を開けずに訊いてみることにした。
「ちっ……、すっかり今日の予定を忘れちまったぜ。おい! 今日は、何をする予定だった?!」
「はいっ! ………とくに予定は決まっておりません。昨日、東の村を襲って缶詰と飲料水を確保しておりますので、いつも通りケンシロウをおびき寄せるため、ヤツの悪名を触れ回るか、西の村を襲ってガソリンでも手に入れておきますか?」
「……う~む…」
予定が無いんだったら私にはしたいことが山ほどあるのよ、と四葉は口を開く。
「お前ら、このあたりで図書館か、資料館が残っているのを知らないか?」
「…と? 図書館ですか?」
「おうよ。本がいっぱいあるところだ。図書館でなくても、前の戦争のことが知れる場所があるなら、そこへ行く」
「は…はぁ……。シリョウ館って、なんだ…、おい? 知ってるか、お前…」
手下が他の手下に訊いている。
「…そりゃ…死霊が出る館なんじゃ…ねぇのか…」
「…な、なぜ、そのような、ところへ行かれるのですか? ジャギ様」
手下たちが顔を見合わせて不思議がっている。四葉は、余計なことをしたら、ぶっ殺す、というジャギからのメッセージを忘れていないので、彼らしくない振る舞いにフォローも入れておく。
「なぜ、そんなところへ行くか、訊きたいか?」
四葉は腰にさげている銃を抜いた。それだけで手下たちに緊張が走り、ざわついていた空気が静まりかえる。本物のジャギなら銃口を手下に向けて詰問したかもしれないけれど、不発が多いということは暴発もありうると考えた四葉は信頼度の低い銃を天に向けて質問を繰り返す。
「もう一度だけチャンスをやろう。なぜ、そんなところへ行くか、訊きたいか?」
「「「………」」」
余計な返答をして銃口を向けられたくない手下たちは直立不動で立っている。
「そうか。そんなに訊きたいか。いいだろう、教えてやる」
四葉は銃を腰に戻すと、話を続ける。
「オレは拳法がすべてだとは思っていねぇんだ。ようは強ければいいんだ。どんな手を使おうが勝てばいい! それがすべてだ!! だから、オレは戦い方を研究するんだ。前の戦争を知り、次の戦いにそなえる。これこそが、兵法というものよ」
「おおっ、さすがはジャギ様!」
「やはりジャギ様はすばらしいお方だ!」
「真の北斗神拳伝承者だ!」
手下たちが口々に賞賛し、そして一人が半壊した図書館が残っている場所を知っていると言い出してくれる。
「よーし、これから、そこへ…」
「ジャギ様~ァ! ジャギ様ァ~!」
うまく理屈をつけて図書館に行こうとしたのに、別の手下が遠くから駆け寄ってくる。
「ご報告します!!」
「どうした? 急ぎの用事か?」
「はっ! とうとう像が完成したそうです! じきに、こちらへ!」
「……そうか。…よくやった…」
像って何? 何の像なの? なにか造らせてたのかな、と四葉は意味がわからないけれど、とりあえず頷いておく。しばらくして手下が四人、重そうな銅像を御輿に載せてもってきた。それはマスクをかぶったジャギの銅像だった。胸像で胸に七つの傷痕も再現されていて、肩の刺々しい防具やマスクの形も見事な銅像だった。
「…ほォォ、これは…見事だな…うむ、よくやった…」
とりあえず誉めておく。
「……」
こんなの何に使うのかしら、そのへんに飾っておけばいいのかな、と四葉は銅像の行く先を思案するけれど、良案がない。仕方がないのでド忘れ作戦を再び使う。
「うむむ…そういえば、なにかアイデアがあったはずなんだが、この銅像、どう使う予定だった? すっかり忘れてしまった。おい、覚えてるヤツいるか?!」
「はっ! このジャギ様の像をケンシロウに見立て、悪名を触れ回る作戦をジャギ様本人以外でも遂行するためです」
「ああ、そうだった、そうだった。で、具体的に、どうする感じだった?」
「はい、まずは人通りの多い街道に、この像を設置して、そのあたりにいる住民を捕まえ、首だけを出して地面に埋め、他の捕まえた住民に首をノコギリで切断させる作戦です。そのとき、像を指して、あのお方の名をいってみろォー! と問い、答えられないヤツを処刑していくのです」
「……たしかに、……それなら、ケンシロウの悪名は広まるだろう…」
もしかして、それだけ? たった、それだけのために、この物資欠乏の時代に、こんな立派な像を造らせたわけ? いくらなんでも無駄すぎじゃないの、こんなもの造るくらいならボウガンの矢でも量産するとかあるじゃないの、と四葉は軽い目まいを覚えたけれど、ふらつかずに踏みとどまり頷いた。
「そうだった、そうだった。よーし……うむ! その作戦も実行するぞ! お前たちを二手に分ける! さっきの図書館を知ってると言ったヤツ! お前はオレと来い! あとは、その像をもって……そうだな、西の村へ行け!」
ジャギとして命令すると手下たちは動き出す。すぐに四葉の前には、よく磨かれた大型バイクが用意された。
「整備しておきました」
「うむ…」
ドッ…ドッ…ドッ…
エンジン音も大きい。四葉は暖機運転も終わっているバイクを前に、少し緊張したけれど、当然という態度で跨った。
「………」
きっと身体が覚えてくれてるはず、そう祈って、先導に立つ手下と同じ操作をしてみる。
ドルウゥン!
バイクが動き出し、一瞬、バランスを崩しそうになったけれど、反射的に身体が動いてくれて、あとは自転車と変わらないバランス感覚だった。ただ、道路のアスファルトが破損していたり、場合によっては道などない荒野を走りながら、目的地の図書館に着いた。
「ここです、ジャギ様」
「うむ」
半壊した図書館を見上げ、それから手下に命じる。
「お前は、ここで待て」
「はっ!」
ほっとした感じの手下を置いて、四葉は図書館に入ると、早歩きで館内を巡る。なぜ、核戦争が勃発したのか、その寸前の状況や理由、とにかく多くの情報がほしかった。持ってきた缶詰を食べるのも忘れて、資料に見入り、本を開き、古い新聞を精査する。だんだんと、四葉を中心にして円陣のように古い紙々が並んでいった。そんな作業に何時間も没頭していた後だった。
「ジャギ様ぁ~!! ジャギ様ぁぁあぁ!」
急に、待たせておいたはずの手下が図書館に走り込んでくると、怯えきった顔でジャギに助けを求めてくる。
「助けぇぉぼおうあが!」
バシュゥウゥ!!
悲鳴が途中で奇声に変わり、その手下の頭部が膨張すると、弾け飛んで上半身は肉片に変わり、下半身だけが3歩ほど進み、そして倒れた。
「…こ……これは……まさか…」
カッ…カッ…カッ…
足音だけが図書館の玄関から響いてくる。そして、四葉は一人の男を見た。
「っ………」
「場所を選べ! そこが、貴様の死に場所だ!!」
深い怒りに、太い眉をしかめた精悍な美男子といっていい顔立ちの筋肉隆々の男が、こちらを睨んでいる。
「…ケ……、…ケンシロウさんですか?」
思わず、四葉は自分を出して訊いてしまった。
「………。……そうだ。よもや、忘れたとは言うまい」
さん付けで呼ばれたケンシロウは一瞬、闘気を乱されたけれど、すぐに強い闘気を取り戻して、四葉を睨んでくる。ビリビリと空気が凍てついているかのような闘気が伝わってきて、四葉は戦慄する。
「…ぅう…」
どうしよう…、と四葉は困り、腰の銃に手を伸ばすと、ケンシロウが見下げた視線を送ってくる。
「あいかわらず、そんな物に頼っているのか」
「……」
「早く死に場所を選べ!! 貴様は死ぬべき男だ!!」
「………」
すでに四葉も相手の強さを推し量ることが少しはできた。とても戦って勝てるとは思えないし、逃げることさえできない気がする。この半壊した図書館は背後は出入口がない。ケンシロウが立っている玄関方向しか、逃げ道はないし、ジャギがメッセージで残してくれた作戦を取るには、アジトまで戻る必要がある。
「貴様の命も、ここまでだ!」
「っ……」
殺される、ここで殺されるわけにはいかないのに、と四葉は不本意な結末を避けるために、ジャギを演じることを諦めた。
「まっ、待ってください!」
「……」
「私はジャギさんでは、ありません!」
「………あいかわらず、騙し討ちが得意のようだな」
あまりにも、かつての兄と雰囲気が違うのでケンシロウは闘気を半減させられたけれど、気を取り直して闘気をまとう。思い直してみれば、騙し討ちこそ兄の真骨頂であったと考え、この少女のような雰囲気こそが擬態であると、自戒して油断しない。
「どこで、そんな芝居を身につけた」
「信じてもらえるとは思いませんが、私の名は宮水四葉といいます」
「………」
「そして、私には、やるべき使命があるのです」
「言いたいことは、それだけか」
ケンシロウが拳を鳴らしながら近づいてくる。
「いえ、言いたいことは山のようにあります」
「それは地獄で語るがいい」
ケンシロウは四葉の言葉を無視して、目に見えないほど速い拳を撃ってくる。
「あたあ!」
「っ…」
その拳は寸止めで止まり、ケンシロウが四葉の目を見てくる。
「「…………」」
そして、ケンシロウが一歩さがった。
「……こんなことが……、たしかに、お前はジャギ! かつて兄と呼んだ男……だが……なぜ、その貴様がユリアのような目をしている?!」
「この身体は一時的にお借りしているものです」
マスクから覗くジャギの目は血走っているけれど、四葉の心を映して澄んでいる。その目に殺気は無く、かわりに強い使命感と少女の切実さがあった。
「…………貴様は……ジャギでは……ない……のか…」
「はい。今は。ですから、今は見逃してください」
「お前の、その身体、ジャギという男が、今まで何人の命乞いをする罪のない者を殺したか、知っているか?」
「百とも万とも思います。ですが、今の私は数十億という人の命を救いたいのです。そして、そのために、この身体を借りているのです」
「数十…億…」
「どうか、見逃してください」
四葉は頭を下げて礼をした。
「………………」
ケンシロウが迷い、そして数秒の間があって、背中を向ける。
「……………」
「…………」
カッ…カッ…カッ…
少し歩いてケンシロウは振り返った。ここでジャギなら、必ず背中を襲うために銃を抜くなり、襲ってくるなりするはずなのに、四葉は頭を下げたまま、何もしてこない。背中を向けたケンシロウに対して、バカめ、と叫びつつ騙し討ちしてくるのが、よくあることなのに本当に何もしてこないのでケンシロウは拍子抜けしつつ、仕方なく立ち去る。
「………………」
ケンシロウは図書館の外に出た。荒野が拡がっている。
「………ジャギ……お前は、どこに…」
旅の目標を見失いそうになり、困っている。
「……………」
くすんだ空を見上げ、荒野を見据え、とりあえず歩き出した。ある程度、ジャギのアジトがありそうな位置はつかんでいる。
「……行ってみるか……人に聞けば、なにか、わかるかもしれない……」
しばらく歩き、西の村に着くと、ジャギの銅像が広場に建立され、そばに手下たちがいて住民を虐殺している。
「……」
これだ、ケンシロウの迷いが晴れる。
フラ…フラ…フラリ…
吸い寄せられるように手下の背後へと歩いていった。
昼休みの糸守高校で、ジャギは四葉の身体を保健室のベッドに寝ころばせて、寛ぎながらコンビニで買ってきたポテチを食べていた。そばには沙耶香が座っている。
「ここなら、机の上に足をあげんでもええよね」
どうお願いしても授業中に四葉の足を机へあげて、ふんぞり返るので教師との折り合いをつけるのが大変で、いっそ気分が悪いということで保健室に連れてきたのだった。
「これ、美味いなァ」
ポテチの次には唐揚げ棒を食べて上機嫌になっている。保健室は飲食禁止だったけれど、もともと生徒数の少ない山間部の高校なので保健室専任の教諭はおらず、運良く自由に使えていた。
「あんまり食べると、太って四葉ちゃんが悲しむよ」
沙耶香は羨ましそうにパクパクと唐揚げ棒を食べる四葉の唇を見ている。姉がダイエットで苦労していたのを知っているので、沙耶香は同じ歴史を繰り返すまいと、思春期に入ってから常に体重への注意を怠っていない。おかげで美人の四葉に次いで男子から人気があったし、もって生まれた体質なのか、胸の大きさは学年一番だった。
「ふ~っ…この身体、すぐ腹いっぱいになっちまうぜ。あと一つ喰ったら胸焼けしそうだ」
自己イメージでは、まだまだ食べられるつもりだったけれど、四葉の胃が満腹を訴えているので、あと一つ残った唐揚げを沙耶香に向けた。
「喰うか?」
「……」
「喰わないなら捨てるぞ」
「もったいないよ。いただきます」
沙耶香は差し出された棒から唐揚げを口で引き抜いて食べる。ずっと食べたいと思って見ていたので、とても美味しかった。
「さてと」
四葉の舌が唇を舐めて、食べ終わった棒を投げ捨てるので、沙耶香が拾って袋に入れる。
「満足してくれたよね。あとは、ここで放課後まで、おとなしく…ちょっ?!」
沙耶香は四葉の手に、おっぱいをつかまれて驚いた。
「な、なにすんの?! 四葉ちゃん?!」
「腹もふくれたし、男と女、やることといったら決まってるだろ」
四葉の瞳が沙耶香を見てくる。沙耶香の唇を見て、おっぱいを見て、腰を見て、それから腿を見ながら、四葉の手が沙耶香の内腿を触ってくる。四葉の手がスカートの中にまで入ってくると、さすがに沙耶香は危機を感じた。
「ちょっ?! ま、待ってよ! おちついて!」
「抵抗しなければ、痛い思いはさせねぇぜ」
穏やかな口調なのに、もう何度も強姦してきた経験があるような迫力がともなっていて沙耶香は力の差を感じた猫が動けなくなるように逃げることができない。
「て、抵抗とか、そんな話やなくて、女の子同士なんよ…」
沙耶香の言葉は聞かず、四葉の手が沙耶香の胸へ伸びてくる。
「う~む、いいなぁ。やはり、乳は、こうやって揉むに限る」
四葉の右手は沙耶香のおっぱいを揉み、四葉の左手は四葉のおっぱいを揉んでいる。やはり、自分の身体の一部である四葉の乳房を揉むより、目の前にいる沙耶香の乳房を揉む方が、格段に気持ちが高ぶるようだった。
「ちょっ…、四葉ちゃん、もう、やめて」
「すぐに、やめてなんて言えなくしてやるぜ。最高に気持ちよくな」
乳房を揉んでいた四葉の手が、指先で沙耶香の胸のあたりと、トントンと音調をとるように打ってきた。
「はぅん…」
ほんの少し指先で突かれただけなのに、沙耶香は全身の皮膚に温かい電気が走るような刺激を受けた。
「な…なにを……したの…」
「胸椎の秘孔、龍頷を、ほんの軽くな。これで、お前の身体はむかれかけた神経で包まれている。ほんの少し愛撫するだけで、ほれ」
四葉の両手が、沙耶香の左右のおっぱいを揉んでくる。
「ああああぁ…」
皮膚感覚を鋭敏にされた沙耶香は身体の芯が熱くなって、喘ぎ声を漏らしてしまった。
「ククっ、さらに。北斗有情拳。秘孔、牽正への北斗有情破顔拳で天国を感じさせてやるぜ」
四葉の手が、ゆっくりと沙耶香の顔に近づいてくる。祭りのさいに、新米をつかむ四葉の指先が、ゆっくりと沙耶香の額に触れ、そして触れたまま下がっていく。額から鼻、鼻から唇、さらに顎、喉元と触れながら通り過ぎていき、胸の中央、お腹、お臍、下腹部から、その下まで、とうとうお尻の穴まで服の上からとはいっても、触れられて沙耶香は恥ずかしくて顔から火が出そうだったのに抵抗できなかった。抵抗どころか、優しい炎に焼かれるように身体が熱くなっている。
「ああ…あは~…いい気持ちいい~…ちにゃ~…」
脳天から脊髄神経の末端まで、熱い快感で満たされて身体が勝手にクネクネと動いてしまう。身を守るようにしていたはずの両腕が沙耶香の意志とは関係なく、大きくあがって乳房を四葉へ晒すように後頭部まで両手を回して、噴き出すように汗をかいて濡れている両腋をみせて、首もそり返って無防備に首筋を晒して息を乱している。
「ハァ…ハァ…はにゃぁ…」
さらに沙耶香の両脚が関節の限界までM字に開脚してスカートがまくれ、腋と同じように、ぐっしょりと濡らしてしまったショーツを晒している。足首も攣りそうなほど反らして、足の指先までキュゥキュゥと閉じたり開いたりしているのが靴下のままでもわかる。腰がクネクネと物欲しそうにうねってしまい、もう四葉の手で触って欲しくてたまらないという身体にされてしまった。
「…ハァ…ハァ…よ…四葉ちゃ…」
「やめてほしいか?」
四葉の唇が意地悪な問いを放ってくる。
「…ぅぅ…」
沙耶香は恥じらって目をそらした。その目から快感の高ぶりで涙まで零れる。今すぐ、おっぱいを揉んでほしいし、キスして欲しい、処女なのに下腹部に何かを突き込まれたくて、四葉の指が何かしてくれるなら、早くして欲しくて待ち遠しい。そんな気持ちになってしまったことが、たまらなく恥ずかしいのに、意地悪に訊いてくる。
「気持ちよくしてほしいか? ほれ、触ってほしいのか?」
「……ぅぅ……ぅん…」
恥ずかしさで涙を零しながら、沙耶香は衝動に耐えきれず頷いて返事をした。なのに四葉の唇が、ますます意地悪く微笑む。
「ん~? 聞こえんなぁ?」
「そ…そんな…」
せつなくて沙耶香が両目から涙を溢れさせ、濡れた腋と股間のシミも大きくすると、四葉の手が沙耶香の乳房を揉んでくれる。
「ああううぅぅん!」
制服の上から片方の乳房を揉まれただけで沙耶香は絶頂に達して腰が折れそうなほど、背中を反らして喘いだ。
「イキやがったな」
「ああ…ぃ…言わないで…」
初体験だったけれど、沙耶香は自分が絶頂したことがわかり、恥ずかしくて目が回る。まさか、幼馴染みの四葉の手によって、こんなことをされてしまうとは思ってもみなかったし、四葉の瞳は沙耶香の変化を楽しむように、じっと見つめている。
「ハァ! ハァ!」
沙耶香は気持ちよすぎて、息をする度に唇から舌が出てしまう。ヨダレが顎に零れて滴っていた。
「フフっ、もう欲しくてしかたないメス犬の顔になったな」
四葉の唇が得意げに笑い、語る。
「この龍頷と牽正をうたれた女は、みんなこうなっちまう。あの不感症みたいな顔したユリアだって、そうだろうよ。もっとも、兄貴たちも秘孔、龍頷と牽正の、この使い方は思いつくまい。あのチェリーども。できの悪い弟もふくめて、あのチェリー三兄弟には一生かかっても到達できない、頂点の一つ、まさに天。女にとっては天国だろう?」
「あはああぁぁあぁぁ…」
沙耶香は両の乳房を揉まれると何度も絶頂が襲ってきて、もう話は聞いていない。四葉の唇は語り終わると、ペロリと小さな舌を出した。そして、沙耶香のブラウスを開いてブラジャーを押し下げると、ピンと勃った乳首を露呈させた。
「可愛い乳首だな。お前…え~っと、名前、なんだった?」
「さ…沙耶香…ハァ! ハァ!」
忘れられていたことも意識にのぼらず、喘ぎながら沙耶香が答えた。
「そうだったな。沙耶香」
「っ…ぁぁっ…」
沙耶香は名前を呼ばれて嬉しくて絶頂した。ちゃんと名前を呼ばれた記憶は、ほとんどない。もともと、名取の両親が早耶香にするか、沙耶香にするかで話がまとまらず、両方にするという無茶な決断をして、まず姉が早耶香になり、それから沙耶香が生まれた。けれど、周囲は呼ぶときに差をつけないと混乱するという理由で、姉をサヤチン、そして沙耶香は郷土の人形にちなんでサヤボボという変な名が定着してしまい、ひどいときは姉は単にチン、沙耶香はボボと呼ばれたり、姉妹を合わせてチンボボと呼ばれたりする。二人とも美人といっていい顔立ちで声も可愛らしいのに、この名のせいで男子からの扱いも軽いのがコンプレックスだった。
「可愛いぞ、沙耶香。とくに、お前の喘ぎ声はいいな」
「ああんっ! ああああんぅうう!」
ほめられた犬が喜ぶように沙耶香は腰をふってしまい、乳房が揺れる。四葉の瞳が沙耶香の乳首を見つめ、舌先で自分の唇を舐めた。その動作で沙耶香は乳首を舐められると予感して恐れる。
「ちょっ…ちょっと待って…まさか…その舌を…や…やめて…た…頼むから…そ…そんなことされたら…死んじゃう…ね…ね?」
乳房を揉まれるだけでも絶頂してしまうのに、名前を呼ばれるだけでも絶頂しているのに、温かくて柔らかそうな四葉の舌に舐められたら、快感で死んでしまうかもしれないと沙耶香は涙ながらに懇願したけれど、口噛み酒を造る四葉の唇と舌は、ゆっくりと沙耶香の乳首に近づいてくる。
パクっペロペロ…
「うきゃぁああん!! ひひ~~んぅぅ!」
沙耶香は身体がバラバラになるような快感を覚えて絶叫したのに、快感の波が止まらない。舐め続けられるので次々と快感の絶頂が襲ってくる。
「はあぁああんぅ!!! ひええううわああぁんぅぅ!! けうっう~きゃあぁんんっ!! あきゃあ~ん!! あ~おぉこぉぉ……はわっ!!!」
快感すぎて沙耶香はショーツの中に、おしっこを漏らしていく。
ショォワァァァ!
温かい小水が皮膚を濡らす感覚も気持ちよくて、また絶頂してしまうし、尿道を小水が駆け抜ける排尿感も気持ちよくて何も考えられなくなる。四葉の舌が乳首を舐めるのをやめてくれると、やっと息が静まってくる。
「ハァ! ハァ! ハァ…ハァ……ハァ………ハァ……ぅぅ…」
沙耶香は高校生にもなって、おもらししてしまった自分を自覚して恥ずかしくて泣いた。なのに、四葉の唇は笑っていて容赦ない。
「ぐちょ濡れになったな」
「っ…ぅぅ…」
「いい頃合いだ」
四葉の両手が沙耶香のショーツを脱がせてくる。もう抵抗する気力もなくて沙耶香はスカートはそのままにショーツを脱がされてしまった。さらに四葉の手は自分のショーツも脱ぎ捨てると、あるはずのモノが無いのを思い出した。
「あ、そうか…無いのか……まあ、いい。擦りつければ、なんとかなるだろう」
すっかり忘れていたけれど、こだわらないことにして頷くと、脱ぎ捨てられた四葉のショーツは沙耶香のショーツと重なっておかれた。
「お前、可愛いな。オレ好みだぞ」
「……四葉ちゃ…ん……私……頭が、おかしくなりそう…」
幼馴染みで親友のはずの同性に、可愛いと言われ、キスされる。キスされた唇も気持ちよくて、沙耶香からも吸いついてしまうし、四葉の舌と沙耶香の舌が絡み合ってハフハフと息を乱しながらキスを続ける。四葉の唇が離れていくと、名残惜しくて沙耶香は目を潤ませた。
「沙耶香」
「っ…はい…」
「脚を開け」
「…うん…」
開脚すると、少し治まっていた秘孔の効果が再燃して、また股関節の限界まで脚が拡がっていくし、両腕も勝手にあがって乳房を吸って欲しそうに晒した。
「いくぜ」
「っ…」
沙耶香も四葉の身体も少女らしく柔らかいので下半身を絡み付け合うと、溶け合うように一つになった。夢のような時間だった。秘孔の効果だけではなくて、四葉の身体からは、いい匂いがした。何日か入浴していない感じなのに、とても不思議な甘い香りがして沙耶香は酔ったような気分になった。おかげで、もう四葉の身体は満足してベッドに寝転がっているのに、沙耶香の方は止まらずにペロペロと四葉の肌を舐め続けている。
「おい、くすぐったいぞ」
もう性交は終わった気分でいるのか、コンビニで買ってきたスナック菓子を食べ始めているけれど、沙耶香は興奮が冷めない。四葉の身体を舐め続けている。いつも全開になっているブラウスの前から顔を埋めて、おっぱいを舐め、汗で濡れた四葉の腋を舐めると、酩酊していく。
「美味ちぃ~ちにゃ~…」
ろれつが怪しい声を漏らしている沙耶香の頭を、四葉の手が子犬を撫でるように触れる。
「ちょっと、強く秘孔を刺激しすぎたか……まあ、そのうち冷めるだろ。やっぱり、手加減が難しいなァ…」
「美味ちぃの」
「そうか、そうか」
なつく犬が舐めてくるのを任せておくように、四葉の手は沙耶香の頭をポンポンと叩いた。沙耶香は四葉の腋から味がしなくなるまで舐め尽くすと、次は四葉の首筋や耳を舐める。そこも舐め終えると、またスカートをめくって内腿を舐める。膝の裏も舐めて、四葉の靴下に手をかけた。
「ハァ…ハァ…」
四葉の靴下から、いい香りがして沙耶香は脳が痺れた。靴下を脱がせると、もう無我夢中で四葉の足を舐める。親指から順番に吸っていき、指のまたの味を楽しみ、爪の垢を飲み込み、足の裏に頬ずりする。片足を舐め尽くすと、もう片方の足を見つめながら、沙耶香の唾液で濡れた四葉の爪先を股間に押しあてた。ずっと熱く濡れている沙耶香の股間は四葉の爪先に吸いつくと、四葉の親指をくわえ込んだ。
「あうぅんぅぅ…ハァ! ハァ!」
そして、もう片方の靴下を脱がせて、四葉の親指を口で吸う。気を利かせてくれたのか、四葉の親指が軽くピストン運動するように動いてくれると、もう沙耶香は何度も絶頂して、ずっと、このまま四葉の身体を舐め続けていたいと想い始めたときだった。
「四葉? いる?」
保健室に人が入ってくる気配がして、司の声がした。
「おう。何か用か?」
「だいたい、できたよ!」
司はカーテンの中にいる女子と話すときのエチケットで、カーテンを開けたりせずに会話を続けている。本来なら、すぐにでも沙耶香は今の行為をやめるべきだったのに、やめたくなくて、やめられない。四葉の爪先を股間に受け入れながら、反対の爪先を吸っているのを、もしも見られたら、どう思われるかよりも、やめたくない気持ちが強くて理性が働かない。むしろ、興奮する。恋破れて司は四葉に告白してしまったし、四葉も受け入れている。それなのに今はカーテンの一枚向こうで、四葉の身体と絡まっているのは自分だという状況が倒錯的すぎて、二人の会話は耳に入らず、ただ腰をくねらせながら、四葉の足の親指を吸っていた。けれど、次の瞬間、四葉の足が乱暴に去り、怒鳴り声が聞こえてくる。
「よくできた弟~~!?!」
カーテンが乱暴に開けられ、飛び出していった。そして、さっきまで沙耶香が舐めていた足が司を蹴っている。
「兄よりすぐれた弟なぞ存在しねぇ!!」
「痛っ…あ、うわっ?! …、も、もしかしてジャギさんの方?!」
司は朝から学校を欠席して古川図書館に行っていたので入れ替わっている状況を知らず、四葉から頼まれたことを完成させた喜びで報告する中、兄貴には負けない、よくできた弟、という話題に触れたのだった。
「おのれの無力さを思い知らせてやるわ!!」
「痛いっ…うぐ! ご、ごめ! な、なんで?! な、なにが?!」
なぜ蹴られるのか、司はまったくわからない。わからないまま、四葉の素足が降ってくる。ガスガスと踏み蹴られる。けれど、見上げると、なぜか、四葉のスカート内はノーパンのようにも見える。見間違いかと思って見直そうにも、激しい蹴りが降ってくるので、そうもいかないし、ノーパンでも、そうでなくても、見上げるのは四葉に悪いと思って、ただ蹴られるのに耐える。もともと四葉の体重は軽いし、靴も履いていないので、それほど痛くない。蹴っている方も殺す気ではなくて、いたぶる気なので一発一発は強くない。さんざんに蹴った後、四葉の口が唾を吐いた。
「ぺっ!」
四葉の唾が、司の顔に降りかかり、沙耶香は一瞬だけ司が嬉しそうに頬を赤らめたのを見逃さなかったけれど、羨ましいという気持ちが生まれていたことを打ち消すように頭を振った。
「私……さっきまで、……何を……危なかった…」
さっきまでのことが夢のように思える。けれど、あのままだったら危ないということもわかった。
「……宮水の巫女って……酒蔵の天井に、いい酵母菌がいるみたいに、……身体に、なにか、あるんかな…」
沙耶香は乱れた衣服を直しながらつぶやき、立ち上がる。
「そろそろ放課後やし。学校を出よ」
もう保健室にいて、変なことになるのは懲りたので、三人で学校の外に出た。なのに、一難去ってまた一難で、不良の集団に取り囲まれてしまった。
「総代、コイツです!」
昨日、四葉が不意打ちで倒した空手部の主将が、さらに自分より大柄な男子と、たくさんの仲間を連れてきていた。
「こんなチッコい女にやられたのか、お前は」
「す、すみません。けど、気をつけてください。不意打ちで金的、狙ってきますから」
「かわいい顔して、怖いのォ~」
大柄な男子が四葉の顔を見て笑っている。四葉の唇が不快そうに歪んだ。
「なんだ、てめぇは死にたいのか?」
「おお、怖い怖い。威勢のいい女の子だのォ」
「宮水! このお方の名を知っているかーっ!」
「知らねぇよ」
「このお方こそは、岐阜県番長連合総代の…」
空手部の主将が言い終わる前に、四葉の回し蹴りが顔面に決まった。
ベギっ!
さきほど司を蹴ったときとは違い、筋肉の潜在能力を100%出し切った鋭くて重い蹴りで、一撃で気絶させている。そして、司が驚く。
「岐阜県って、いまだに番長連合とか、あるんだ……もう合掌造りと同じくらいの文化財じゃないのか…」
現役の高校生だったけれど、そんな世界があることは知らず驚いている。とくに県全体で連合しようと思うと、飛騨地方と美濃地方で、かなり集まるのが大変そうだった。もしかしたら、今日も、けっこうな遠征として、ここに来ているのかもしれない。
「かかれぇ!!」
総代が命じると、たくさんの仲間たちが四葉を取り囲み、襲いかかる。
「フっ、降りかかる火の粉だ。あいつも文句はねぇだろう」
ジャギはメッセージを少しは読んだので、暴力行為は控えていたけれど、もう遠慮しない。
「ぶっ飛ばす!」
それでも殺さない程度に次々と蹴りを入れていく。ときには拳で殴りつけるけれど、もともと四葉の腕力なので100%を出し切っても、秘孔を避けると効率が悪い。攻撃の主体が蹴りになるのでスカートの裾が舞い上がり、四葉のお尻が丸見えになっていた。
「っ…なんで、四葉…パンツを…」
「っ…四葉ちゃん…あ…」
沙耶香は保健室から出るときに重ねて脱ぎ捨てられていたショーツを自分だけ着けて、四葉の分は、そのままになっていることに気づいて青ざめる。しかも、ブラウスも全開なので立ち回りすると、乳首も股間も何もかも露出してしまっている。このままでは、あまりに四葉が四葉に戻ったとき可哀想だった。ただ、ノーパン、ノーブラのおかげで相手の視線が誘導されて倒しやすくなっている。
「ぐわっ?!」
「げふっ!!」
「油断するなっ、…ごはっ!」
どうしても、女子相手に油断しないで戦おうと思っていても、つい蹴りであがった脚の付け根に視線が落ちてしまい、一瞬のチラ見のために顔面にクリーンヒットを受けてしまっている。沙耶香が叫ぶ。
「そいつらの記憶が飛ぶくらい! 思いっきり蹴ってやって!!」
「おうよ!」
止められても止める気はなかったけれど、止められると思っていたジャギは心得たとばかりに立ち回る。もともと、リュウケンの指導を素直には聞き入れず、秘孔を正確に突くことよりも相手に打撃を与えることを重視していたので、秘孔を避けても楽しく戦える。またたく間に、たくさんいた仲間たちをすべて倒した。
「ハァハァ! あとは、てめぇだけだ」
「ほォ、少しはやるようだのォ」
観戦していた総代が油断なく構える。
「だが、このワシはお前の色香になど惑わされぬぞ。なにしろ、ワシはゲイだからのォ」
「……ぺっ!」
四葉の唇がアスファルトに唾を吐いた。
「「ゲイって…」」
司と沙耶香も言われてみると、どことなく総代にゲイの雰囲気を感じた。キレイに剃り上げられたスキンヘッドや学ランの刺繍など、やや身奇麗なところも、それを感じさせるし、すでに四葉の三連キックを受けてアスファルトに転がっている副総代らしき男子は長髪で唇にリップを塗っていたりした。
「ワシは、お前の汚いマンコに目を奪われたりせんからのォ」
「ハァ、ハァ…」
構え直そうとした四葉の細い足がフラついて膝がガクガクと震えた。
「ちっ…この身体、…持久力もねぇのか…」
「脚にきとるのォ」
「貴様ごとき一瞬で倒してくれるわ!」
言い放った四葉が鮮やかな回し蹴りを放ったけれど、総代は蹴り筋を読んでいて、ぶ厚い手のひらで受けとめた。ずっと観戦していて戦い方を見極めていたようだった。
「おお、痛い痛い」
「ちっ、なら!」
蹴りを受けとめられた姿勢のまま、反対の脚で再び総代の首筋を狙って蹴ったけれど、これも受けとめられる。
バッ!
総代が四葉の足首をつかんで捕まえようとしてきたより一瞬早く後転して逃げ、体勢を整える。
「ハァハァ!」
四葉の唇が荒い息を吐いて、汗が流れた。
「今度は、こっちからいくぞォ」
総代が相撲の突っぱりのような攻撃をしてくる。
ゴワッ…
奇抜ではない、ごく普通の突っぱりだったけれど、避けたくても脚がついていかない。
「くっ…」
四葉の両腕が顔を守るように交差して突っぱりを受けとめる。
ビシッッ!
か細い四葉の腕が、ぶ厚い掌を受けて折れそうなほど撓った。
「まだ、まだ、いくぞォ!」
次々と突っぱりを放ってくる。奇抜でない突っぱりなだけに隙も生まれず反撃の機会が無く、じわじわと体力を奪われる。うまく力を受け流してみても、勝機が見えない。
「…うぐっ!」
とうとう大きく弾かれてしまい転がったけれど、追い打ちされるのを避けて距離を取る。
「ハァハァハァ! 畜生が、ハァハァ!」
「ぐふふふ。もう、おしまいかのォ」
「ちっ…」
四葉の舌が大きく舌打ちして、汚れたブラウスを脱ぎ捨てる。四葉の身体は上半身裸となった。
「お色気攻撃は無駄じゃと言ったはず」
そう言って距離をつめて突っぱりしてくる総代にブラウスが目隠しとして投げつけられる。
「オラっ!」
四葉の爪先が総代の股間を狙って放たれたけれど、予想されていたようで腿でガードされてしまう。それでも、反対の四葉の足が総代の腹部に蹴りを入れる。
ボゴッ…ブニュッブニュ…
ぶ厚い脂肪の層が四葉の足を受けとめていた。
「効かんのォ」
「くっ…」
再び離れようとしたけれど、四葉の足に腹部の脂肪がからみつき、手間取ってしまった。その隙に至近距離から突っぱりを放たれる。
バシィン!
「ぐぅっ?!」
四葉の左腕が頭部をガードしたけれど、その衝撃は軽い体重を吹っ飛ばすに十分だった。
ドシャッ…
吹っ飛ばされて、立ち上がろうとした四葉の足がガクガクと崩れ、膝を着いた。
「このオレ様に膝をつかせるとは…、うっ…うぇっ…」
脳震盪のためか、腹部にも衝撃を受けたのか、吐きそうになって四葉の右手が唇を押さえている。
「さて、裸にして二度と町を歩けないよう吊してやろうかのォ」
「ううっ…ぅっ…」
もう四葉の脚は膝を着いたままで立ち上がる力がないように見えた。ここまで圧倒されて見ているだけだった司と沙耶香が叫ぶ。
「やめろよ! もう警察を呼ぶからな!」
「四葉ちゃんのお父さんは、この町の町長なんよ! あんたなんか刑務所行きや!!」
「はあっ?! それがどうした?!」
総代が叫び返してくる。
「ワシは先週シャバに戻ってきたけど、仕事なんか無いんじゃぁ! もう、どうなってもええわい!! また、タダ飯じゃァ!!」
「「っ…」」
司と沙耶香が戦慄する。同じ世界に生きていても、生活してきた階層があまりに違いすぎて、もう価値観が違いすぎる。守るものがない相手に、何を言っても無駄だと思い知らされた。
「町長が、なんぼのもんじゃい!! うおおおおおォ!」
突進してくる総代を前に、フラフラと四葉は立っていた。
「四葉ちゃん、危ない!!」
「四葉、逃げてくれ!」
「………」
四葉の瞳が、脳震盪でも起こしているように、ぼんやりと総代を映している。もう、目の前まで総代が迫っている。逮捕覚悟の破れかぶれの体当たりを受けては、四葉の身体では圧死してしまうかもしれない。沙耶香が悲鳴をあげ、司が間に合わないと知りながら駆けつけようとした次の瞬間、四葉の唇が含み針を吹き飛ばす。
プププッ!
針は正確に総代の目の回りへ命中した。
「なわっ?!」
「バカめ!」
さらに四葉の足が針の刺さった総代の顔を蹴りつける。
「あぎゃあああああ!!」
深々と針が刺さり、総代が悲鳴をあげている。
「オラっ!」
また四葉の足が総代を蹴る。もう戦意を失っている相手の股間を蹴り、そして側頭部に強烈な回し蹴りを入れて気絶させた。
ドサァァ…
総代の巨体が倒れ込むと、さらに股間を蹴る。
ズグっ!
四葉の靴の爪先が抉り込むように男の股間を蹴ると、何かが潰れたような音がした。
「手こずらせやがって。ペッ!」
最後に唾を吐きかけてフィニッシュにする。
「ハァ…ハァ……終わったぜ」
「四葉ちゃん……今のは…」
沙耶香は午前中にコンビニへ行ったとき、食べ物以外に裁縫セットを買い込んでいたことの意味が、ブラウスのボタンや糸のほつれを直すような女の子らしいことのためではなかったと悟り、そして、さきほど吐きそうになっていたのは演技で、その間に針を口内へ仕込んでいたのだとも、わかった。
「……なんていうか……宮水の巫女っぽい……技といえば、そうやけど……」
「これはオレ様の得意技よォ。けっこう難しいんだぜ。こんなに巧く飛ばせるようになるには、かなりの修行が必要よォ。この女の口で、うまくできるか、不安だったが、意外に鍛えてあるのか、思いの外、うまく飛んでくれて助かったぜ」
「…ま……まあ、……祭りにそなえて……練習はしてると思うよ……」
沙耶香はブラウスを拾って、四葉の肩にかける。
「おい、テッツー!」
「は、はい!」
「肩をかせ。もう、脚がフラフラだ」
「…う…うん…」
司はブラウスを羽織っただけの四葉を支えた。そして家路に着くと、一葉を心配させないように沙耶香が衣服を整えてやり、玄関でも靴を脱がせてあがった。
「四葉ちゃん、帰りました!」
「お邪魔しま~す!」
やや心配なので沙耶香と司も、いっしょにあがる。一葉は台所で夕食の用意をしていた。孫娘を心配して連れてきてくれた二人に笑顔で頭を下げた。
「今夜は煮物やし、いっしょに食べておいでな」
「「ありがとうございま~す」」
遠慮する関係ではないので二人とも素直に礼を言い、スマートフォンを操作して自宅に夕食は宮水家でいただくと連絡している。三人とも居間に座り、寛いだ空気になった。
「おい、お前らが、ときどきいじってる、それ、なんだ?」
「え? これ?」
沙耶香がスマートフォンを四葉に向ける。
「おう、それだ」
「スマフォやけど」
「……スマフォって何だ?」
「便利な携帯電話、かな……画面が大きい」
「電話……この地区は電話がつかえるのか? それとも無線機か? しかも、それカラー画面じゃねぇか!」
四葉の手が沙耶香のスマートフォンを奪い取り、見つめる。
「おお……この写真、この女とお前らか…」
「そうやよ」
「……すごいなァ……警察や軍隊も機能してるって話だしな……」
そう言いながら、疲れた脚を自分で揉もうとして、すぐに二人へ命じる。
「おい、お前ら、オレ様の足を揉め!」
「え……」
司が戸惑い、沙耶香が答える。
「わ、私が揉んであげるよ。テッツーは遠慮しとき」
「そ…そうだよね…」
「オレ様はお前らに命じた。オレは同じ命令を二度するのが大嫌いだ。左右同時に揉め」
「じゃ…じゃあ…ボクも…」
そっと司も四葉の足に触れる。
「もっと力を込めろ」
「「は、はい」」
沙耶香と司が疲れている四葉の足を揉んでいく。
「「…………」」
四葉の細くて白い足からは不思議ないい香りがする。
「「……………」」
「あ~……疲れたァァ……本来のオレ様の身体なら、あんなヤツら瞬殺なものを……」
四葉の身体が寝ころぶとスカートの裾があがってしまう。司と沙耶香はノーパンなままなことを思い出した。
「「……ゴクッ…」」
二人が同時に生唾を飲み込み、赤面する。
「テっ、テレビでもつけよ!」
おかしな空気になりそうだったので沙耶香がテレビをつけた。
「ほォ~……テレビまで…」
四葉の身体がテレビを見るために寝返りをうったので、スカートがめくれてお尻が見えてしまう。沙耶香が慌てて裾を直してやった。
「明日の中部地方のお天気は愛知県で晴れ、岐阜県では…」
テレビが天気予報を流している。
「天気予報までやるのかぁ…………」
四葉の瞳が眠そうにさまよう。その瞳が壁にかかっているカレンダーを見た。
「………2020………2020年だと?!」
「キャ?!」
「うわっ?!」
揉んでいた四葉の足が急に立ち上がった。沙耶香と司が驚くけれど、四葉の手が司の胸倉をつかんだ。
「おい! 今は何年だ?!」
「え? に…、2020年だけど?」
「いやいや、いくら何でも、そんなに進んでないだろ?! えっと…1、2、3……核戦争から冬も夏も、わかりにくいから…それでも…」
四葉の指が年数を数えている。
「せいぜい、よく進んでて98年とか、そんなもんじゃねぇか?」
「「…………」」
司と沙耶香は、どう反応していいか、わからない。そこへ、一葉が煮物を持ってきた。
「まずは、お夕飯にしなさいな。カレンダーの話は、置いておきましょ」
「そうだな。腹が減ったぜ」
煮物の匂いに四葉の口が唾を飲み込んでから、微笑した。