「君の名は?! ジャギ!!」R15   作:高尾のり子

5 / 5
第5話

 

 

 2020年10月18日の夕方、市町村合併の賛否を問う糸守町町議会議員選挙の投票日に、三葉は夫の勅使河原克彦と選挙事務所にいた。二人とも口数は少ない。

「「…………」」

 事務所は普段は農業倉庫になっているけれど、俊樹が町長選挙のさいに使うこともあって選挙事務所としての立派さは他の候補をしのいでいる。多数のパイプ椅子が並び支持者と運動員が談話しつつ時間を過ごしている。テーブルには本来は公職選挙法違反の疑いがもたれる寿司の出前やヤカンに入ってお茶のようにカモフラージュされている酒もあり、すでに軽い飲み会の雰囲気になっていた。

「「…………」」

 ひな壇の上に置かれたパイプ椅子には三葉と克彦が座っていて、まるで結婚式を思い出すような位置関係で町民と対面しているけれど、これが結婚式ではないのは背後が金屏風ではなく、必勝と書かれた応援メッセージと三葉の笑顔を撮って修正加工もした選挙ポスターが並び、片目のダルマが鎮座していることで痛いほどわかるのに、それでもやっぱり町民たちは結婚式のことを思い出してヒソヒソと会話している。話題は東京で結婚式をあげた四人が、すぐに離婚してしまい、今は三葉と克彦が夫婦となっていることで、これまで何度も何度も世間話のネタになったことだった。町の人間全員が三葉と早耶香、克彦の三人が子供の頃から仲が良かったことを知っているし、不倫のことも知っている。

「あと一時間か」

 俊樹が腕時計を見てつぶやいた。夜8時で投票は終わり即日開票となる。人口の少ない町なので1時間もなく当確が出るはずで、定数7に対して8人が立候補し、うち三葉を含む4人が合併に反対、残り4人が賛成という、まさに町を割る選挙だった。事前の予想では合併反対が8割を超えるものの、三葉の不倫や俊樹の多選に対する批判票と選挙運動中の入院などの不安要素が大きくなっている。

「長い一日やな……」

 克彦が居心地悪そうにパイプ椅子から立ち上がり、やや離れたところにいた俊樹に近づいて耳元で問う。

「お義父さん、ずいぶん豪華な寿司が並んでるけど、腐敗や言われんでしょうか」

「それは大丈夫なはずだよ。他の候補もやっていることだから。三葉だけ吊し上げるわけにはいかないから、問題にすれば、すべての候補が選挙違反ということになる。みんな心得ているさ。出前を注文している仕出し屋だって町内の者ばかりだ。書類の上では巻き寿司とイナリ、オニギリになっているさ」

「……巻き寿司とイナリ、オニギリって……」

 克彦はテーブルに並んでいる特上寿司を困惑した目で見る。山奥ではあるけれど、富山湾は遠くない、甘エビ、ハマチは当たり前に、大トロやウニさえ提供されていて、どう見ても巻き寿司などには見えない。克彦は高校生の頃から疑問に思っていたことを、思い切って義父となった俊樹に質問してみる。

「………それを腐敗、言いませんか? 何年か前、富山県の議員もえらいことなって、辞職の連発でしたやん。ヤカンの中、お酒なんでしょ?」

「うむ、あれは誰かが勝手に持ち込んだもので、私たちは感知していない。持ち物検査をしているわけではないからね。持ち込んだ飲食物で楽しんでもらうのは自由だよ」

「えぇぇ……裏で、オカァが日本酒を入れてるの見たんですけど」

 言い募る克彦の肩に俊樹が手をおいた。

「見間違い、記憶違いだと思いなさい。田舎の選挙とは、こういうものなのです。胸を張って堂々としていれば大丈夫。さ、君も候補者の夫として、もっと胸を張りなさい」

「……はい…」

 俊樹の表情は穏やかなのに目が怖いので克彦は黙ることにした。克彦がパイプ椅子に戻ると、動いたことで町民たちの話題も克彦のことになる。

「テッシー、お前、なんで、そんなボロボロなん? 夫婦喧嘩でもしたんか?」

 かつての同級生が笑いながら訊いてくる。克彦は顔や腕、全身にアザがあり、どう見ても殴られたり蹴られたりしたような様子で絆創膏などを貼っていた。

「階段で転んだだけや」

 本当は4日前の朝、登校中だった四葉とすれ違ったさい、眉毛が気に入らないという理由でタコ殴りにされたのだったけれど隠している。ただ、すれ違っただけなのに四葉は、貴様のその眉毛が弟に似ている…と忌々しげに言ってきた。義妹から弟に似ていると言われて、何が何だかわからないうちに立てなくなるほど打ちのめされていた。むしろ、克彦と司は兄弟なので顔は似ているけれど、眉毛だけは違うというくらいで、太い眉の克彦と細めの司は有名だったのに四葉は蹴ってきた。克彦は蹴られながら、たぶん三葉と不倫の末に再婚したことが気に入らないのだと解釈して誰にも被害は訴えていない。克彦の反応が面白くないので町民たちの話題は別のことへ移る。

「それはそうと最近、四葉ちゃんの様子おかしなかったかいな」

「しーっ…3日前から入院しとうよ。意識不明やて」

「あれま? 入院しようとは三葉先生の方やないとか? 今は座ってはるけど、やつれてはるし。選挙ちゅーんはプレッシャーなんやねぇ」

「やつれはって高校生やったころみたいにシューとしてはるね。この前までは、ちょっと太りすぎやったけん選挙ポスターも修正されとるけど、今なら無修正で絵になるわ」

 町民たちはヒソヒソと話しているつもりだけれど、なんとなく何を言われているか、三葉たちの耳にも響いている。

「三葉先生、いっときは危篤やてドクターヘリが来とったらしいよ」

「ああ、あのときのヘリ」

「ほんで、次は四葉ちゃんが入院て、かわいそうにねぇ。お母さんも早かったし。家系なんかねぇ」

「いやいや一葉さんはピンシャンしてはるし。そういや一葉さん、やっぱり事務所に顔だしはらへんね。町長選のときも知らん顔しはるし」

「四葉ちゃんも姉ちゃんの立候補が気に入らん顔してはったらしいよ。えらい荒れてたて」

「まあ、高校生ちゅーんは、そんなもんじゃろ。三葉先生かて、その時期はツンとしてはったし」

「四葉ちゃんの荒れようは、ひどいらしいて。男の子とまでケンカしたり、うちの子が言うてたけど、授業中も机に足あげて教師を睨んでたて」

「あの子て、学年トップやんね」

「勅使河原さんとこの司くんとトップ争いしとうくらい賢い子ね」

「よっぽど、姉ちゃんの立候補が気に入らんかねぇ」

「立候補だけやのうて、不倫ちゅーのが若い女の子には許せんやろ。気難しい時期やもん」

 少しでも面白い話題は、すぐに町全体へ広まるし、結局は不倫のことに話が戻ってくる。こんな風に集まって時間をつぶすことしかできないときは、とくにだった。

「………」

 三葉は黙って前を見ている。今は選挙の結果より、四葉の容態が気にかかる。息をしなくなった妹へがむしゃらに人工呼吸したおかげなのか、すぐに自発呼吸は取り戻してくれたけれど、いまだ意識は戻らない。もう3日になる。入れ替わりのようなものなら、せめて24時間で回復してくれるかと期待したけれど、2日目になっても、3日目になっても呼びかけても、頬を撫でても起きてくれない。当初、何かと戦っているかのように手足をバタつかせて殴ったり蹴ったり掌打を放つような動作がみられたけれど、今は手足に力はなく、ぐったりと動かなくなっている。

「………四葉…」

 毎日、少しは見に行っているけれど、選挙期間中ということもあって一葉と沙耶香、司が見ていてくれる。今も見に行きたい気持ちを耐えて座っている。そして、もう一つ、駆けつけたいところがあった。

「……サヤチン…」

 謝りたい。謝りに行きたい。高校時代に入れ替わった男性と東京で再会した日、感極まってキスをして、キスをするうちにお互いの服を乱し合って、路上で性交しかけていたところを通りがかりの女子高生に笑われて、最寄りのラブホテルで交わった。その日のうちに結婚しようと言い合って式場巡りもしたけれど、東京の素敵な式場は予約が埋まるのが早くて見つからなかった。そんなとき、すでに予約していた克彦と早耶香が、いっしょに挙げないかと提案してくれた。二人も占いでは来年に延ばした方がいいと言われたらしいけれど、東京のせわしなさと冷たさ、それぞれに部屋を賃貸する家賃の高さに疲れていたこともあって早めていた。四人で最高に幸せな結婚式をして、その翌日に克彦と早耶香はハワイへ発ったけれど、三葉たちはパスポートが間に合わず、予算的にも厳しかったので、来年行こうね、と約束して、それぞれの会社へ出勤した。そして三葉は寿退職する都合もあって帰りが遅くなり、10時過ぎに新居へ戻ったら、タバコの匂いがした。あえて質問はしなかった。けれども翌週にも同じことがあって追求するとミキが遊びに来ただけだと開き直られた。その後の記憶は、あまりない。日に日に険悪になっていく夫婦関係と生活リズムや習慣の違い、ろくに交際期間もなく同居を始めたので、すぐに二人とも口をきかなくなった。必要なことは朝夕にメモを残して伝え、入れ替わっていた時よりも意思疎通しなくなった。最後のメモは乱暴な字で、お前は出て行け、と書かれていて返事は書かずに飛び出した。行くあても現金もなくて相談した早耶香と克彦のマンションに泊めてもらった。二人とも優しかった。

「……私は……最低だ……」

 優しい二人に甘えて何泊もするうちに、早耶香がいないとき克彦と手を握り合ったり、キスをした。昔から好きだったと言われて嬉しかった。あの日、変電所を爆破するほどの決断をしてくれたことも今も忘れていない。だから、早耶香が帰宅してきた気配が玄関からしてもキスを続けた。口で言うより、見せた方が早い、そんな計算をして。

「………刺し殺されたって……おかしくないことをして……。私は、ずるい女……サヤチンの性格につけ込んで……」

 やや受け身なところのある温和な性格の早耶香に高校時代も町営放送のジャックで矢面に立ってもらい、言い逃れできない、逃げることもできない放送室を担当してもらったし、そして新婚の夫を盗んでも早耶香なら激情して刺してきたりしない、高校時代と同じく損な役回りを泣きながらでも引き受けてくれると、計算していた。

「……サヤチン……ごめん……本当に、ごめんなさい……」

 キスしていた二人を見たときの早耶香の目は脳裏から消えない。驚きと怒り、深い哀しみ、あまりに深い哀しみに沈み、早耶香の気配がその場から消えていくようにさえ感じた。そして、その瞬間から早耶香は声が出せなくなった。罵られたり、怒鳴られたり、泣かれたりすることは覚悟していたけれど、何も言われず、何も言えなかったようで、あとは弁護士に任せて終わった。早耶香へは家一軒が買えるほどの慰謝料を両家の親から払ってもらったけれど、そんなことが慰めになっていないことは、わかっている。早耶香が学生時代から、ずっと克彦を想っていたことは誰よりも三葉が知っていたのに、裏切ってしまった。今になって深く深く後悔の海に沈んでいる。

「8時になりました。皆様、今しばらくのお付き合いをお願いいたします」

 俊樹が投票が閉め切られたことを告げた。

「三葉、お前も何かご挨拶を申し上げなさい」

「……はい」

 三葉は立ち上がってマイクを持ち、支持者たちを見る。町の運命がかかった選挙なので有権者には票割りがされている。合併反対派の候補について町を4区画にわけて票割りがなされているので、ここにいる支持者は三葉個人を支持しているわけではなく、糸守町の合併に反対している人たちという方が正確だった。逆に、ここにいないということは賛成派で、すなわち町を売った人間というレッテルが貼られることになるので、通常の町議選よりも何倍も人が集まっている。ただ、近所に家のある名取家の人間は、さすがに誰もいない。そのことについて、誰も批判しないし、名取家の代表者は他の反対派候補の事務所にいるという話は聞いている。

「みなさん、こんな私を支持していただいて………」

 常套句で始めた三葉は下を向いた。

「こんな私を……」

「三葉」

 俊樹が小声で指示を送ってくる。もっと胸を張りなさい、と仕草で示しているけれど、三葉は深く頭を下げる。

「本当に私は最低です」

 さすがに謙遜としても表現がおかしいので事務所内が少しざわついた。

「みなさんもご存じの通り、私は名取さんに対して、何の申し訳も立たない、最低の女です」

「三葉、そんなことは、今はいいから…」

「いえ! 今! 今すぐ! 私は彼女に謝りに行きます! 許されないとしても、謝りに!」

 そう言ってマイクを置いた。そして事務所を出て行こうとする娘の手首を俊樹が捕まえた。

「これから開票というのに、何を言ってるんだ!! だいたい、どうせ謝るなら選挙中にすればいいだろうに!」

「そうやって何もかも選挙につなげて考えるから! 8時までに謝りに行ったら、また選挙向けのパフォーマンスだってなるでしょ?! だからよ!!」

 父親の手を振り切って三葉は事務所を飛び出した。小さな町なので名取家まで200メートルもない。走って辿り着くと、庭に湯上がりで涼んでいた沙耶香と、犬の散歩から戻ってきた早耶香がいた。

「ハァっハァっ…」

「……」

 早耶香が三葉に気づき、沙耶香も気づいた。

「何しに来たのよ?!」

 沙耶香が詰問して、姉を守るように背中にかばった。

「ハァ、ハァ、…ご…ごめんなさい!! ごめんなさい!」

 三葉が頭を下げて謝り、膝が震えて座り込むと土下座になる。

「本当に、ごめんなさい!! 私は最低でした!! ごめんなさい!!」

「ちょっ……今さら…」

 沙耶香が不倫関係についての当事者ではないので対応に困り、姉を振り返った。

「…………」

 早耶香は土下座している三葉を静かに見ている。

「ごめんなさい!! どうか、謝らせてください!! 本当に、申し訳ありませんでした!!」

「…………」

「ごめんなさい!! ごめんなさい!! 本当に、本当に…」

 三葉が地面に額を擦りつけて謝っている。早耶香が口を開いた。

「それで許すとでも、思うの?」

「っ、いえ、許されるなんて思ってません。ただ、ずっと謝りたかった! ごめんなさい!! どうか、どうか、この通りです! 申し訳ありませんでした!!」

 土下座を続ける三葉と、それを見下ろす早耶香と沙耶香、そんな光景に近所の町民や、さきほどまで事務所にいた支持者たちも野次馬として遠巻きに視線を送ってくる。三葉は涙を零しながら謝り、早耶香は静かに見下ろしている。三葉を追ってきた克彦も土下座を始めた。

「すまなかった!! 申し訳ない!! どうか、どうか、三葉のこと許してやってくれ!! オレのことは憎んでも、どうか、三葉のことは!! この通り!」

「だから、許すわけないやん。どれだけのこと、自分ら私にしたと思ってるの?」

「「………」」

 もう言葉が出なくなって三葉と克彦は、ただ地面に額を押しつけている。早耶香が震える手で力一杯に三葉の肩をつかんだ。爪が肉に食い込む。

「許さへんよ。一生」

「「………」」

「ずっと、ずっと許さへん。一生恨み続ける」

 早耶香が言いつのる。

「この胸の傷が痛むたびに、あなたへの憎悪を燃やしつのらせて生きていく。覚悟なさい。この先、ずっと。来年も、再来年も、私が誰かと結婚しても、ずーーっと、恨み続けて言い続ける。この町で顔を合わす度に、この町で暮らして、この町で歳をとって、80歳になっても、90になっても。もう、ええ加減許してよ、って言う頃になっても、ずっと、ずっと、ずっと、あの時ひどいことしたね、って語りぐさにしてやるんよ。だから、覚悟しておき」

 そう言うと早耶香は肩をつかんでいた手を離した。

「二人とも顔をあげてみい」

「「っ、はいっ…」」

 三葉と克彦が涙と嗚咽でグチャグチャになった顔をあげた。心から詫びて、泣いている顔だった。早耶香が失笑する。

「クスッ…、アホみたいな顔して」

「ううっ…うあううっ、ごめんなさい、ごめん、ごめん」

「うぐうっ、ごめんよ、ごめんよ、オレが悪かった! あぐうっぅぅう!」

「泣きたいのは、こっちやのにね」

 早耶香が二人から目をそらして、糸守の夜空を見上げたときだった。

「こちらは糸守町選挙管理委員会です。開票の結果、当選者は糸田邦男さん。守田六左右衛門さん。古川誠さん。大和茶太郎さん。勅使河原三葉さん。帰雲白乃介さん。遠藤半径さんの以上7名となりました。繰り返します…」

 名取家の長女の声で放送が流れ、そこに三葉の名前があった。当選者の構成も合併反対派が多数を占め、安堵の空気が流れる。早耶香がタメ息をついた。

「ハァァ………とりあえず、当選、おめでとう」

「さ……サヤチン…」

「もう立って。事務所に戻って、せいぜい胸はって挨拶してき。そんな泣き顔、もう見てとうないわ」

 トンと背中を押されて、三葉はヨロヨロと事務所へ戻っていく。克彦も申し訳なさそうに頭を垂れてついていき、遠巻きに見ていた野次馬も事務所での飲食を再開するために戻っていく。人がいなくなって、沙耶香が姉に問う。

「お姉ちゃん、あんなんでいいの?」

「さあ……どうやろうね……よう、わからんよ」

「………」

「ただ、こんな小さな町で、これからも暮らしていくのに通りで顔を合わせる度に、こっちは無視して見ないふり、むこうは頭さげて小さくなってやりすごす。そんな関係つづけるくらいなら、正々堂々イヤミの一つも言える。挨拶くらいする、そんな方がええから」

「お姉ちゃん…………大人なんやね……」

「ここまで気持ちを落ち着けるのに、ものすごい時間かかったから」

 またタメ息をついて、そして妹に告げておく。

「あんたは後悔せんようにね。司くんのこと好きなんやったら、ちゃんと言うくらい言うた方がええよ」

「っ…」

 沙耶香が赤面して目をそらした。

「言うなら早めにね。アホのテッシーみたいに、もう言うたらアカンときになってから言うてるようでは歴史の繰り返しやわ」

「………」

 もう遅いよ、と沙耶香は思った。そして時間を見る。

「もう9時前、病院に行かないと」

 入浴を早めたのは病室にいる四葉を見守りに行くためだった。父と姉が忙しく、一葉は高齢なので昼間付き添い、夜間は若い沙耶香と司が行っている。さっと身支度をして沙耶香は病院に向かい、玄関ロビーで司に出会った。

「よう」

「早いね」

「四葉の姉さん、当選したな」

「……。その言い方は、うちの前での事件、知らんね?」

「何かあったの?」

「うん、まあ……」

 どう言うべきか、迷っている。

「何があったんだよ?」

「謝りに来はってん。四葉ちゃんのお姉さん。うちのお姉ちゃんに」

「……あの件で?」

「それ以外に無いやん」

「そっか………このタイミングで?」

「そう! そうやんね! やっぱ、そう思うよね!」

「う…うん、まあ…そんな力説しなくても……、そんなことより、あ、いや、そんなことってわけでもないんだけど、四葉、今日こそ意識もどるかな……」

 司が心配そうにすると沙耶香も胸が痛くなった。選挙の結果も不倫の結果も、四葉の容態に比べれば、二人にとって些事だった。

「四葉ちゃん………きっと、何かのために頑張って、それで……うまくいったのかな? うまくいかなかったのかな?」

「どうだろう……四葉は、うまくいっても、うまくいったことがわからないかもしれない、とも言ってたから。ただ、ボクらが、こうして生きてるってことは……うまくいってると思いたい」

「そうだよね。でも、そのために四葉ちゃんが……犠牲になったんじゃ……」

 沙耶香が思い詰めた顔をすると、司は優しく頭を撫でた。

「そんな顔するなよ。きっと、大丈夫、きっと大丈夫だって」

 そう言って励ます司の顔にも不安が強く浮かんでいる。もう3日、まったく意識が戻らない。医師は原因不明だと言うし、ジャギとしてでさえ目覚めてくれない。このまま、ずっと意識が戻らないのではないか、という不安は司も沙耶香も持っているし、一葉や三葉も口にしないけれど、考えていないわけではない顔を見せている。

「四葉ちゃん………」

「きっと大丈夫だって……ぅぅっ…」

 励ましていた司の方が泣きそうになってしまい、沙耶香が背中を撫でる。

「男が泣いて、どうするのよ」

「泣いてない」

「泣いてるじゃん…ぐすっ…」

 強がっている司の肩へ、自分も泣きそうになってしまい顔を隠すために沙耶香が額をつける。司が涙を乱暴に拭いた。

「もう病室に行こう。お婆さん、疲れてるだろうし」

「……うん、そうだね。ちゃんと、お昼寝してきた? 明日は、学校あるから仮眠も交代でとらないとね」

「ああ、周りに心配かけないようにしないとな」

 二人とも選挙活動とは無関係なので日中に休み、これから一葉と交代する。病室に入ると、一葉が四葉の手を握っていた。四葉は意識がなく、心拍と呼吸を診るためのモニターが胸に装着され、左腕には点滴がされ、食事の代わりになる栄養を与えるためのチューブが鼻の穴から胃まで挿入されているし、当初ひどく暴れたこともあって医師の判断で身体と手足を精神病者などの拘束に使うベルトで固定されている。

「こんばんは。お婆さん、交代するから、もう休んでください」

 沙耶香が声をかけると一葉が顔を上げ、礼を言う。

「ありがとうよ。四葉、お友達が来てくださったよ。はよう起きてあげなさいよ」

 祖母が話しかけても四葉は何の反応もしない。

「「「………」」」

 三人が、つい黙り込むと雰囲気が暗くなる。司が気を遣って言う。

「お婆さん、もう帰って休んでください。お婆さんまで倒れたら大変だから」

「そうやね。ありがとう。ほな、頼むね。四葉、私が代わってやれたら……二葉のときも、どんなにか思ったけど、まだ高校生の…」

 それ以上を口にすると泣いてしまいそうになった一葉は愛おしそうに四葉の頬を撫でると、病室を出て行った。

「…………」

「………」

「何か話せよ。サヤボボ」

「黙ってるより賑やかな方が、四葉ちゃんも起きてくれるかもしれないもんね」

 沙耶香が四葉の左側に座り、司は右側へ座って、なるべく楽しい話題を選んで会話する。病室は先日まで三葉が入院していた一番高価な個室なので夜に談話していても問題はなかったし、宿泊の付き添いも可能だった。

「四葉、そろそろ起きろよ、な」

 司が握っていた四葉の右手を撫でる。沙耶香も握っている四葉の左手を撫でた。

「………」

「…………」

 いくら楽しい話題を選ぶといっても限界があり、夜も更けてくると黙りがちになってしまう。心配そうに四葉を見つめる二人が少し眠気を覚えた頃だった。

 スーーーっ…

 音もなく気配もなく存在感さえも曖昧に、ジャギが無想転生を使いながら入室してきた。二葉との約束通り四葉の意識を戻すため、北斗神拳による刺激を与えるためだった。

(久しぶりだな、沙耶香、テッツー)

 ジャギにとっては30年以上を経ての再会だったけれど、二人は無想転生のおかげでジャギに気づかない。すでにジャギは初老といっていい年齢で、頭髪を剃り僧衣を着ていた。

(とくに沙耶香、お前のおっぱいも変わってないな。そうか、そういえば、沙耶香に似てる女ばっかりだったな……オレ、けっこうお前のこと気に入ってたのか)

 ジャギは北斗七星にちなんで7人のキャバ嬢との間に39人の子供をつくっていたけれど、その7人が沙耶香と似ていることに今さらながらに気づいた。

(いい女だな、お前は。とはいえ、二葉さんとの約束だからな。もう、お前たちには関わらない。でないと、糸がからまって毛玉になるとかなんとか。会えば必ず不幸になって、くっついても磁石が反発するみたいになるとか言ってたし。まあ、時間を隔てて入れ替わってた人間関係で、本来、結ばれちゃいけないってのは常識で考えても、どんなアホでも、なんとなくわかりそうなもんだからよォ。あれだけの厄災をチャラにできただけで、満足しとくべきだよなぁ。にしても、無想転生は都合がいいぜ)

 ジャギは二人に認識されないまま、四葉の頭部に触れる。

(こんなもん…かな……弱めにしとこう。いまだに、この手の手加減は苦手だからな。最後の最後に四葉を殺しちまったら、シャレにならねぇし)

 やや弱めに秘孔を刺激したジャギは四葉の顔を見つめる。

(宮水四葉、お前こそ、まさに救世主だったぜ。それを知ってるのはオレと、お前の母ちゃんだけだけどよ、誇りに思え。感謝してるぜ。じゃ、あばよ、四葉。テッツーと沙耶香も元気でな)

 ジャギは礼を言って、立ち去り際に沙耶香の乳房を揉んでから退室した。

「え……、ちょっと、テッツー、今、私のおっぱい、触った?」

「は? どうやってボクがサヤボボのおっぱいを触るんだよ」

 司はベッドを挟んで反対側にいるので物理的に不可能だった。

「けど、今、確かにモミモミって…ハァ…」

 沙耶香が熱っぽい吐息を漏らした。ほんの2回だけの愛撫だったけれど、かなり絶妙な手業だったので身体が熱くなってしまった。

「気のせいとは……思えんけど……。四葉ちゃんの手は握ってるし………」

 沙耶香は四葉を見つめる。

「まだ起きないの? 四葉ちゃん」

 耳元で囁きかけてみる。顔を近づけると四葉の匂いがした。もっと顔を近づけて、沙耶香は耳にキスするほど接近すると、小さな小さな声で問いかける。

「あんまり寝てると、私がテッツーを盗っちゃうかもよ?」

 その声は確かに四葉の耳には届いたけれど、やっぱり反応はない。司には聞こえていないので、不思議に思って問われる。

「サヤボボ、何をしてるんだよ?」

「四葉ちゃんと内緒話♪」

「ふーーん……じゃあ、ボクも」

 司が四葉の右耳へ囁きかける。

「起きないと、おっぱい揉むよ」

「……テッツー、内緒話は、もう少し小さな声でしぃな」

「うっ…聞こえてた?」

「おっぱいの話してたやろ」

「うぅ……」

「意識のない女の子にセクハラって最悪やん」

「うぐっ……、いっそセクハラついでにキスしたら起きないかな?」

「眠り姫のセオリーではあるけど………二人って、そこまで関係進んでたの?」

「……うん……まあ…」

「………その顔、エッチまでしたって顔やん」

「……………」

「うっ……沈黙で肯定した……」

「くっ……しまった。……いや、でも、サヤボボこそ、保健室で四葉と変なことしてたろ?」

「っ……べ、別に、何も」

 沙耶香の顔が真っ赤になった。

「あのときジャギさんだったけど、何をしてたんだよ? 二人のパンツ、置いてあったし」

「蹴られながら、そんなこと見てたんや」

「で、何をしてたんだよ」

「………だから、別に。何も」

「何もないのに二人ともパンツ脱ぐって、どういう状況だよ?」

「……………うーー………あ、そうそう! トイレに行ったとき女の子は、どうすればいいかを教えたの!」

「それ今、思いついた言い訳っぽいけど」

 司は疑いつつ、四葉の耳元に囁きかける。

「四葉、早く起きないと、またサヤボボに変なことされるよ」

「テッツーこそ、キスしようとか言うてたくせに」

「キスか……それで起きてくれるなら……キスしてもいいか? 四葉」

 本当にキスしそうに司が四葉を見つめると、沙耶香が戸惑い、そして止める。

「………。それは、ダメ」

「なんでだよ?」

「だって………一回、エッチしたかもしれないけど、だからって意識のないときに勝手にキスなんかされて女の子が傷つかないとでも思うの?」

「…………サヤボボだったらイヤか?」

「私は……………相手による」

 沙耶香が目をそらして、それから思いついた。

「いっそ、私とテッツーがキスするフリしたら、四葉ちゃん、それはダメっ! って慌てて起きるかもよ」

「サヤボボと……」

「フリよ! フリ!」

 言い募って、恥ずかしくて司を見ていられないので沙耶香は四葉に言う。

「いつまでも寝てると、テッツーとキスしちゃうよ」

 ついでに頬をつついたけれど、やっぱり四葉は起きない。病室のドアが開けられて看護婦が入ってきた。

「キスとかエッチとか、友達が生きるか死ぬかってときに、のんきなもんね」

「「っ……」」

 司と沙耶香が廊下まで声が漏れていたことを深く後悔して下を向く。看護婦は医療材料を載せたカートを押してベッドまで近づくと、点滴の残量を確認して、心拍のモニターを看護記録に書き込む。ごく事務的に作業をしていると、ナース服のポケットにあったスマフォが鳴った。

「もしもし、っていうかさ、仕事中に電話してくるなって言ってるじゃん」

 そう言ったのに電話を終えず話し続ける。

「うん、そう、これから夜勤。いやいや、飲み会とか無理だって言ってるじゃん。私、お酒は1滴も飲めないの。飲んだら吐くの。なのに、割り勘じゃ合わないしパスパス。じゃあね」

 電話を終えると、また事務的に四葉の腋に体温計を入れる。

「はい、じゃあ、身体を拭いて、オムツも替えるから。見てたいなら、どうぞ。この子のウンチって超臭いよ。吐くほど臭い」

「「………」」

 追い出すように言われて司と沙耶香が立ち上がった。意識不明なのでオムツに排便することは仕方ないとしても、そんな姿を親友や恋人に見られたくないだろうというのはわかる。そして、この看護婦がやたらと刺々しい理由も知っている。看護婦は顔の真ん中に大きな絆創膏を貼っていた。入院初日に四葉が左腕で急に掌打を放ち、運悪く看護婦の顔面に直撃し、鼻の骨にヒビが入ったと聞いている。イヤミの一つも言いたくなる気持ちと、事務的な看護なのもわからなくもない。

「「…………」」

 少し心配そうな顔で司と沙耶香が病室の外へ出て行くと、看護婦は周囲を見回した。高価な個室なので広いしソファも液晶テレビも机もある。

「………隠しカメラとか無いね。最近、虐待してると撮られてるらしいから…」

 室内を見回したのは隠しカメラを気にしたためで、一葉が居たときと変化があったのは司がコンビニで買ってきていた夜食用のオニギリくらいでカメラや録音機の類は無かった。

「よし」

 心おきなく虐待できるとなり、まずは身体を拭くための熱いタオルを四葉の顔に投げつけた。

 ベシッ…

 熱いタオルが鼻へチューブが挿入されている四葉の顔に命中して拡がる。火傷するかしないか、通常は少し冷ましてから身体を拭くためのタオルが四葉の顔を覆い、呼吸を妨げる。四葉は右の鼻の穴へチューブを挿入されているので、左の鼻の穴でしか呼吸ができない。それがタオルで邪魔されると、苦しくなるはずなのに四葉は苦しがる様子もなく動かない。

「…………このままだと死ぬかな…」

 だんだん脈拍が早くなり、手足の血色も悪くなっていく。さすがに死亡すると虐待が発覚するかもしれないので、タオルをどけた。

「はい、顔、終了」

 きちんと顔を拭くのではなく、タオルを投げつけただけで終わり、手と足も見えるところだけ軽く拭いて本来は拘束具を解いて全身くまなく拭かなくてはいけない手間を省いた。

「オムツは……」

 看護婦は寝間着をめくって四葉の股間を見る。四葉が着けている大人向けSサイズのオムツは股間が膨らんでいて排泄物が溜まっているように見えた。

「コイツのウンコ、マジで臭いのよね。大腸癌の婆でも、ここまで臭くないってくらい。久しぶりに排泄看護で吐いたし」

 あえて汚れたまま放置する虐待を選択し、さらに証拠が残りにくい虐待を続ける。四葉の若々しく上を向いた乳房を握ると、指先で絞るように捻った。

「これ、めちゃ痛いはずなんだけど」

 同じ女性なので、乳房を潰すように絞られるのが、どれだけ痛いか想像はつくのに、まったく四葉は表情を変えない。

「あ~……顔、殴りたい。鼻、折ってやりたい」

 やっぱり自分が殴られた鼻を思いっきり殴りつけてやりたいけれど、さすがに事件になることはわかる。何より痛めつけても、まったく反応がないと虐待のやりがいがない。思いっきり頬を叩いたり、腹を殴ったりしたいけれど、アザが残ってしまう。

「アイアンクロォ~!」

 せめて、グリグリと頭部を拳で押した。たとえアザができても頭髪で見えないはずなので、容赦なくグリグリと押し、たまたま偶然、ジャギが弱く刺激したところも追加で押した。

「ぅぅ……」

「え? 意識が…」

「……、ここは、どこ?」

 四葉が目を開けて問うてくる。

「意識がもどって。先生に……」

 当直の医師に報告しようと駆け出そうとして、看護婦は思いとどまった。せっかく意識を取り戻したのだから、何か虐待したい。

「あの、ここは、どこですか? 私は宮水四葉ですよね?」

「………」

「今は何年ですか? 2020年?」

「……………」

「私は、どうして動けないの?」

 四葉は精神病者を拘束する頑丈なベルトで固定されていて、手足はおろか首も動かせない。真上を向いていることしかできないでいる。眼球だけ動かして看護婦を見つけ、質問してくるけれど、とても不安そうだった。

「あの、すいません。私は……誰ですか?」

「誰なんでしょうね」

 意地悪く看護婦が微笑むと、ますます四葉は不安そうになる。

「わ、私は……す、すみません。鏡を見せてもらえませんか」

「顔が見たいの?」

「はい」

「……………。見ない方がいいわ」

「ど、どうして?」

「………………」

 医療従事者に意味ありげな沈黙をされると、四葉は不安で胸が張り裂けそうになった。

「…そ……そんな……どうなって……全部、ちゃんと終わったと……思ったのに……ここはどこ?! 今は何年なの?! 私は誰なの?! 戻ってないの?! 全部っ全部っちゃんとやりきったと思ったのに! どうして?!」

 もう、なんとなく入れ替わりは起こらない感覚があり、おかげで神がかった精神状態から、ごく普通の高校2年生に戻っているのに、看護婦の冷たい対応と拘束された身体のおかげでパニックを起こしかけている。

「ハァ…ハァ…ぅうっ…、すみません。この鼻に入ってるの、何ですか? ぅぅ…」

 四葉の視界には病室の天井と自分の鼻に挿入されているチューブくらいしか見えない。そのチューブは鼻の穴から奥で喉まで曲がり、さらに食道を通り過ぎて、胃に直接栄養を運ぶ医療器具だったけれど、意識が戻ると異物感が大きくて、どうにも苦しい。激しく話したせいか、喉にひかかって嘔吐衝動が湧いてきた。

「ううっ…うぇ! …ぅ…く…苦しい…う…うえ! す、すみませ…ぅえ!」

「吐くと窒息して死ぬから我慢しなさい」

「ぅぅうっ…あううっ…うえ! うえ! うげええぇ!」

 とうとう嘔吐するけれど、チューブから流動体が送られていたのは夕方で今は胃に何もない。胃液だけが食道を逆流してきて、喉に溢れる。

「ゲホッうえっうう!」

 しかも横を向くこともできないので喉と口いっぱいに胃液が拡がり、息もできない。

「うええう! ゲホっ! ヒュッ…ゲホッ! うええおうええ! ヒュッ…ゲホッ!」

 嘔吐し続けながら四葉は短い変な呼吸をしている。気管にも胃液が入って焼けるように痛い。せめて下を向いて嘔吐しきれば楽になるのに、上を向いたまま、手足を動かすこともできないので苦しくて苦しくて意識が再び無くなってしまいそうだった。

「この拘束と経鼻栄養管の組み合わせって、医療事故で訴えられたら負けそうね。判断したのは医師だから、私の知ったことじゃないけど」

 もう四葉は聞いていても認識できていなさそうな様子なので、看護婦は冷笑しながら窒息死しかけているのを楽しみ、とうとう四葉の身体から力が抜けていく。わずかに動かせた手の指でシーツをつかんでいたのに、その指からも力が抜け、涙を流していた目からも光りが消えていく。

「はいはい、死なないでよ。ドーレンしてあげるから」

 看護婦が別のチューブを四葉の口の中に突っ込んでくる。

 ズズズズウズ!!

 歯医者で血や唾液を掃除機のように吸ってくれるのと同じ種類の機械で四葉の口と喉にあった胃液と唾液が吸い取られ、呼吸が確保された。

「ハッ! ゲホッ! ハァ! ハァァ! ヒュッ! ヒハッ!」

 死にかけていた四葉が呼吸を取り戻した。けれども、まだ鼻から挿入されたチューブは胃まで伸びている。喉に異物がある感覚のために、また嘔吐衝動が襲ってきた。

「うええっ! おえええ! た…助け…おええ! これ抜いてくださ…うえええ!」

 今度は胃液もない、嘔吐衝動だけの空嘔吐をしている。

「おえおえおええぇ! 死、しぬ…おええ! うえええ!」

「ドレーンしてるから息はできるでしょ」

 看護婦は四葉の喉に胃液と唾液が溜まると機械で吸い取ってくれるけれど、鼻から挿入しているチューブはそのままなので空嘔吐が続いて死ぬほど苦しい。

「うげおおえうええ!」

「きゃははは♪ 面白い声」

「うえおえ! ヒュッ…おええ! うおええ!」

 あまりに苦しくて四葉は発狂しそうになってくる。わけがわからない。なぜ、こんな目に遭っているのか、ここが、どこで、いつで、自分が四葉である自信もない。もしかして、これは夢なのか、もう思考がまとまらない。ただ、鼻から喉にあるチューブのために嘔吐だけを繰り返して下水口が逆流して溢水しているような音を吐いている。

「おえ…おえ…うえ…うおええ…」

 もう腹筋に力も入らなくなってきて、嘔吐さえ弱々しくなってきた。

「…おえ……うえ……うう……うえ……」

 だんだんと喉の粘膜がチューブがあることに慣れてきて嘔吐衝動が消えてくる。

「ハァ……ハァ……ひっ……ひっぐ……ハァ…」

 あまりにも苦しかった時間が終わって、四葉は泣けてきた。

「…ハァ…ひっ…ひぅう…ハァ…」

「あ、もう慣れた? 残念」

 そう言うと看護婦はカートから別の薬剤を出してきた。それは単なる生理食塩水の入った汎用パックだったけれど、涙も拭けない四葉の目には、はっきり見えない。

「あなた、もう死になさい。これ、楽に死ねるお薬だから、このチューブから流し込んであげるね」

「っ?!」

 驚いている四葉は何の抵抗もできない。看護婦はチューブを接続し直して、生理食塩水を流し込んできた。

「ひっ…イ…イヤ!」

 四葉の目にチューブ内を流れ落ちてくる透明な液体が見える。それが死ぬような薬だと言われていると、恐怖で顔がひきつっていく。

「きゃははは♪ 死んじゃえ」

「ひっ…ひィィ…」

 逃げたくても身体を動かすこともできず、飲まないようにしようと思っても勝手に鼻から喉を冷たい感触が流れて込んできて、胃に拡がる。吐きたくても、今度は嘔吐するための筋肉が疲れ切っていて吐けない。四葉は恐怖してガタガタを小刻みに震えて泣いた。

「……た……助けて……イヤ……お母さん……お母さん…」

「クスっ…カアさんカアさんってリアルに言うヤツはじめて見た! きゃはは♪」

「ひっ……ひくっ……ううっ…」

「そろそろ死ぬかな」

 わざとらしく看護婦はペンライトで四葉の涙で濡れた瞳を覗き込む。

「まだ生きてる。あ、薬を間違えたからね。ごめん、ごめん、ただの水だった。殺す薬は、こっちだったわ」

 看護婦はカートから本来流し込むべき栄養剤を取り出した。オレンジ色のペーストがパックに入っていて、ビタミン、ミネラル、カロリーすべて補給できる理想的な栄養剤で意識不明や嚥下障害などで食事がとれない病人に与えるものを毒薬と称して四葉に流し込む。

「イヤ! イヤ! やめて!」

 ゆっくりとチューブ内をオレンジ色のペーストが降りてくると、とても怖い。しかも手順では体温と同じくらいに温めてから流し込むものなのに、常温のまま使用しているおかげで、降りてくるのが遅い。

「ひっ! ひい!」

 首を振って逃げようとしても、それさえできない。がっちりと顎や頭部が革ベルトで固定されていて数センチも動かせない。さきほどの透明な生理食塩水よりもオレンジ色のペーストは見た目が恐怖心を強く刺激してくる。

「もうすぐ死ぬね」

「ぃ…ィや……なんで……どうして……私……一生懸命……頑張ったのに……世界の……ために……」

「世界のため? また、そんなこと言ってるんだ。頭のおかしさは姉といっしょね」

「姉……? やっぱり、私は四葉なの?」

「ちっ」

 うっかり情報を与えてしまったことで看護婦は舌打ちした。

「こ…ここは、どこなの? 病院? 町の病院?」

「……。いいえ、警察病院よ。あんた逮捕されたの。わけのわからないこと言って暴れるから」

「警察……病院…」

「あんた姉と同じで人格障害あるでしょ。覚えてないかもしれないけど、連続殺人やって捕まったの。通行人へ言いがかりをつけて次々殺して逮捕よ」

「っ……そんな……ジャギさんが、そんなことするはず……ない……」

「もう一人の人格はジャギって言うの。ふーん……どうでもいいわ。ということで死刑執行」

 看護婦はペーストの入っているパックを強く握った。なかなか降りなかったペーストがチューブ内を一気に進んでくる。

「っ……イヤ! イやあ!! 助けて!! 誰か助けて!!!」

「四葉っ?!」

「四葉ちゃん?!」

 病室に司と沙耶香が駆け込んでくる。

「ちっ…」

「司っ?! サヤボボ?! いてくれたの?! ここ、どこ?!」

「町の病院だよ!」

「今は何年なの?! 二人がいるってことは2020年だよね?!」

「2020年だから安心して。四葉ちゃん、意識が戻ったんやね! よかった!」

 沙耶香と司は喜んでいるけれど、四葉は必死に頼む。

「これを抜いて!! 私、殺される!!」

「え……これって?」

 司が何のことかわからず迷う。もうチューブから胃に何か拡がっている感触があるので四葉は青ざめている。

「この鼻に入ってるチューブを! 早く抜いて! お願い!!」

「…………これは……栄養を入れるチューブだって聞いてるけど?」

「毒なの!! 早く早く抜いて!!」

「…………」

 司が看護婦を睨むと、お腹を抱えて笑い出した。

「きゃはははは♪ ウケるぅ! 超ウケる!!」

「四葉、落ち着いて。このオレンジ色のは、栄養だから害はないよ」

「だって、さっき、この人が……」

「きっとウソだよ」

「ウソ……」

「四葉、ここは町の病院で、四葉は3日間、意識がなかった。今は10月18日だよ。この看護婦は……まあ、ちょっと意地悪だけど……それには、少し理由があるし…」

 司が言葉を濁したので、沙耶香が四葉の耳元へ囁く。

「四葉ちゃんが意識をなくした後、少し暴れることがあって運悪くこの看護婦さんの顔を殴ってしまったらしいの。それで、すごい怒ってはるの」

「顔を……」

 言われて看護婦が大きな絆創膏を顔に貼っていることに気づいた。今までは半分パニックだったので、業務として着けているマスクなのかと思っていたけれど、しっかり見ると鼻全体を覆うように絆創膏が貼られている。おかげで人相も表情もわかりにくいので怖い。

「それは……すみませんでした。ごめんなさい」

「ちっ」

 舌打ちして看護婦はカートを片付けて出て行った。

「四葉ちゃん、意識が戻ってよかったぁ」

「ああ、四葉、おかえり。よかったよ」

「うっ…ううっ…ごめんね……心配かけて…ごめん……よかった……私、どうなってるのか、わからなくて……二人がいてくれて、よかった」

「ごめんな、ほんの少し離れてる間に……怖かっただろ? 毒なんて言われたらビビるよな」

「ううっ…あうううっ…はうううっ…」

 慰められると安心したおかげで泣けてくる。沙耶香がハンカチで涙を拭いてくれる。

「目が覚めて何もわからへん、この状況で毒とか言われたら最悪やんね。いくら何でもひどすぎるわ」

「うううっあうううっ…ぐすっ…」

 四葉の鼻水も拭いてやってから、司と相談する。

「テッツー、四葉ちゃんの意識が戻ったことの連絡どうしよ?」

「今は11時過ぎか……お婆さんには明日の朝の方がいいだろ。電話したら起きて来るだろうけど、けっこう疲れてる様子だったし」

「お父さんとお姉さんの方も今頃は祝勝会やんね。……明日の朝の方がいいかな」

「あの二人も相当に疲れてる様子だったから、連絡すれば祝勝会の後、無理してでも顔を出すだろうけど、お父さんの方は、とくに年齢もあるし、やっぱり二人への連絡も明日の朝の方がいいかも」

「そうやね」

「ううっ…ぐすっ…はううっ…」

 まだ四葉は泣いている。すべてが終わったと感じて目が覚めたのに、地獄のような目に遭わされて殺されるかと思ったので、かなり深く傷ついている様子だった。

「よしよし、もう大丈夫やよ。それにしても、このままやと可哀想やね。これ、外せへん?」

 沙耶香が拘束具に触れると、司も触ってみる。

「うーん……ダメみたいだ。金具の重要なところに鍵がかかっていて外せない」

 四葉の手足と胴体、頭部を拘束している革ベルトは鍵が無いと外せないようだった。

「しょうがない。ナースコールしようか。あまり気が進まないけど」

「そうやね」

「ぐすっ…ううっ…これも抜いてほしい」

 四葉が鼻に挿入されたままのチューブのことを言う。喉の粘膜は慣れてくれたものの、常に違和感はあるし、何より鼻の穴に挿入された姿を恋人と親友に見られているのも苦痛だった。司がナースコールを押し、別の看護婦が来てくれることを三人で期待したけれど、あの看護婦が入室してきた。

「何か用?」

 普通は高価な個室にいる患者には、へりくだった対応をするはずなのに、この看護婦はスマフォをいじりながら面倒臭そうに訊いてくる。司がムッとしつつ言う。

「これ外してやってよ。もう意識も戻ったから」

「無理」

「なんで?!」

「また暴れるかもしんないじゃん」

「もう四葉だから大丈夫なんだよ」

「は? そんな保証が、どこにあんの? コイツ、ちょくちょく人格が変わるってカルテにあったし」

「もう大丈夫なんだって! な、四葉?」

「うん、すべてが終わったと思うから。もう入れ替わりは起こらないはず」

「はず、とか言われても、私、ただのナースだし」

「じゃあ、先生を呼んでやってくれよ」

「今夜の当直はK医科大卒のバカ医者だよ」

「うっ……あそこか…」

 司が困った顔をすると、沙耶香が問う。

「なにか問題があるの?」

「私立医大で全国一の偏差値が低い医大なんだよ。その分、学費が6千万くらいして、大金持ちか開業医の息子しか入らない。一応、偏差値50以上ではあるけど、だいたい想像がつくだろ、どういう人材か」

「ふ~ん……でも、その先生しかいないなら頼むしかないんとちゃう?」

「……まあ、……サヤボボの言う通りだけど……。先生、呼んでもらえますか?」

「はいはい」

 面倒そうに看護婦が消え、しばらくして医師と戻ってきた。

「何?」

 医師はPSPをいじりながら訊いてきた。響いてくるBGMから信長の野望というゲームだと司にだけはわかったけれど、どうでもいい。

「………。この拘束してるのと、栄養チューブを外してあげてほしいんです」

「あ~……ボク、眼科志望なんだよ。精神科とかイミフ」

「イミフって……いや、もう意識も戻ってるから」

「ふーーん……君、どう思う?」

 医師は看護婦に問い、看護婦は顔の絆創膏を指した。

「この患者に殴られました」

「うわっ、怖っ」

「危険だと思います」

「だね。はい、継続。経鼻管は……君、どう思う?」

「明日、担当医が判断されるのを待った方がよいかと思います」

「だよね。じゃ、ボク、忙しいから。………さて、帰雲城の防御を…」

 若い医師はPSPを操作しながら消えた。

「ほらね」

 看護婦が勝ち誇ったように言い、沙耶香が悔しそうにつぶやく。

「完全に誘導しとるやん」

「こんな町の夜間当直にくる医者なんて、あんなもんよ。あいつ、国家試験に合格したから、もう勉強しないって決めてて、あとは夜勤バイトか、コンタクトレンズ屋の隅っこでゲームして一生過ごすプロニートになるのが夢らしいよ」

「プロニートなのか、それ……努力と怠惰の配分がすごいというか……人生を本気で舐めてかかる気満々というか……他に先生はいないのかよ? K医科大だって、いい先生は、いいだろ」

「あれだけ。むしろ、この町に夜、医師がいるだけラッキーな夜。死亡診断書なら書いてくれるよ。ちなみに看護婦も私だけ。だいたい意識不明なんて状態なのに、この町の病院に入院するって言い張ったのは、この子の家族だし。普通、麓の病院に入れるよ。案外、この子の家族も、ちゃんとした治療を望んでなかったのかもね。精神病患者の家族には、よくあることだけど」

「「「…………」」」

 四葉たちには俊樹や三葉、一葉が町の病院にこだわってくれた理由はわかるけれど、それを看護婦に説明する気力もなく黙る。

「じゃ、よっぽどのことでない限り呼ばないでよ。私も忙しいから」

 そう言ってスマフォをいじりながら消えていく。

「四葉……ごめん」

「四葉ちゃん……ごめんな」

「ううん……二人が悪いわけじゃないから…」

 不自由なまま四葉が微笑をつくり、憐れに思った沙耶香が問う。

「せめて、何かしてほしいことある?」

「そう言われても、この状態で………」

 四葉は何もできない状態で、お願いしたいことを考えてみて、股間の痒さに気づいた。

「……………」

 気づいてみると、とても股間が痒い。

「何でも言うてよ」

「…………」

 背中や頭なら掻いてもらいたいけれど、さすがに股間を掻いてほしいとは言えない。けれど、気づいてしまうと股間の痒さは猛烈で我慢できなくなってくる。

「……ハァ………ふ~……」

 少し身じろぎしてみて、自分がオムツを着けられていることがわかった。この痒さは、そのオムツが汚れていることからくるものだともわかる。女子なので毎月の月経でナプキンをあてたときも汚れてくると痒くなるのは体験しているけれど、その痒さと比にならないほど強烈に痒い。

「……ぅぅ………ハァ……くぅ………」

「四葉ちゃん、どうかした?」

「四葉、大丈夫? なんか顔が赤いけど」

「平気……何でもない……」

「「………」」

「……平気……」

 二人に知られるのも、あの看護婦にオムツを替えてもらうのもイヤなので隠して耐えようとするけれど、どんどん痒くなってくる。まるで股間を何百回も蚊にさされたように痒い。それを我慢していると、さらに股間がチリチリと痛いくらいに痒くなってきて四葉は小刻みに身じろぎして、手でシーツをつかんで耐える。

「四葉ちゃん……大丈夫に見えないけど……どうかした? どこか痛い?」

「………大丈夫だから……今、何時?」

「12時だよ。四葉、本当に大丈夫? 顔が苦しそうだよ」

「平気……平気……ぅ~……ハァ……ハァ……」

 このまま朝まで我慢すれば看護婦も交代してくれるはずと思うけれど、とても耐えられない。痒みが痛みと熱に変わってきて、まるで股間を炙られているような気さえする。痒さは股間全体に拡がっていて、あと8時間も耐えるとなると気が遠くなってくる。

「……ああ~………うーっ……」

 もう声が出てしまうほど痒くて痛い。赤ん坊がオムツが汚れたとき、大声で泣く理由がよくわかって、自分が母親になったら絶対に気づかってあげようと誓うものの、今は自分の痒さが、どうにもならないほどで四葉は身じろぎを続ける。それを見ていて司と沙耶香は心配になってくる。

「なあ、絶対、大丈夫じゃないだろ、これ」

「そうやね。……どうしよ」

「うーーっ……平気……何でもないから……二人とも、もう遅いから帰っていいよ。私も寝るし……ぁ~あっ……」

「四葉を一人にしたら、あの看護婦に何をされるかわからないよ」

「うん、あの人、ひどすぎやもん」

「……う~……く~……」

「もしかして、鼻のチューブが痛いのか?」

「……うん、そう! それでナースコールして!」

 四葉はオムツのことを知られたくないのでチューブのことにしてナースコールしてもらう。

「気が進まないけど、仕方ないよな」

 司がボタンを押すと、5分以上してから看護婦が現れた。

「何か用?」

「鼻のチューブが痛いみたいなんですよ」

 司が説明したけれど、四葉は看護婦が顔を覗き込んでくると、目くばせしてオムツが汚れていることを伝えてみた。

「……」

 それは、すぐに伝わったけれど、もともと看護婦は四葉のオムツが何時間も前から大便で汚れているのを知っているし、わざわざ痒くなるように放置している。思春期の少女が恋人と親友に知られたくなくて、たとえ意地悪な看護婦でも同性なのだから悟ってくれるかもしれないと最後の望みを託して頼ってきたのを感じ、そして無視する。

「別に異常はないみたいよ」

「っ……ぅ~……」

「明らかに苦しがってるから」

「そう言われてもねぇ……宮水さん、どこか痛みますか?」

 わざとらしく問い、潤んだ四葉の瞳を見る。

「……ぅ~……ハァ……」

 四葉は目線で伝えようとするけれど、やっぱり無視されてしまう。

「何もないみたいですよ」

「あうぅぅ…」

 思わず四葉は言葉にならない声をあげた。

「クスッ…そんな赤ん坊みたいな声を出して。たしか、高校生ですよね?」

「……ぅ~……」

「言いたいことがあるなら、ちゃんと言ってもらわないと、わかりませんよ」

 言いたくないのがわかっていて意地悪く微笑んだ。

「宮水さん、どうかされましたか? どうもしないなら戻りますよ」

「……あ…あの………」

 このままでは看護婦が去ってしまいそうなので、四葉は言葉を選んで言ってみる。

「…か…身体が……汚れてる……みたい……なんです」

「身体なら、さっき拭きましたよ。入浴は先生の許可がないと無理です」

「ぃ…いえ……そうじゃ……なくて……」

 四葉が涙目になって真っ赤になる。

「そうじゃなくて、何? 私、忙しいんですけど。早く言ってくれない?」

「…ォ……オムツ……」

「オムツが、どうかしたの?」

 四葉が小さな声で言ったのに看護婦は大声で問い返した。

「っ……オムツが……汚れてる……みたい……なんです」

「汚れてるみたい、って自分のことでしょ。ウンチしたの、オシッコしたの? オシッコなら3回は吸収できるから、すぐ交換は無理ですよ」

「……すぐ……お願い……します…」

「ウンチなの? ウンチもらしたの?」

「……はい……ひっく…ううっ…ううっ…ぐすっ…」

 恥ずかしくて四葉が泣き出すと、司と沙耶香が気づいてあげられなかったことを後悔しつつも、看護婦に対して怒りが湧いてくる。

「そんな言い方ないだろ」

「女の子なのに、ひどいやん」

「何が? 人間、ごく普通のことでしょ」

「そうかもしれないけど、配慮とかあるだろ」

「四葉ちゃんの気持ちを考えてあげてくださいよ」

「はいはい、いい友達がいてよかったですね。そんなに言うなら、あなた達が替えてあげればいいじゃない。この子のウンコ、すっごい臭くて最悪なのよ」

「っ、うっううっ…うううっ…」

 容赦ない看護婦の言葉は四葉の羞恥心と自尊心を握りつぶしてくる。まるで熟れたトマトを握りつぶすように、ぐしゃりと乙女心が圧壊されて汁が垂れるように涙が流れる。

「四葉ちゃん……こんな看護婦、明日にでも町長のお父さんに言うて、追い出してもらおな。この病院が町立なこと、忘れん方がいいですよ」

「ボクの方でもオヤジに言っておくよ。いくら顔を傷つけられたからって、あまりにひどい対応だから」

「うるわしい友情と彼氏の優しさってところ? けどさ、あんたたち二人、この子が目覚めるまで、キスとかエッチとか言ってイチャイチャしてたよね?」

 看護婦は四葉のオムツを交換するために脚を拘束している革ベルトの鍵を開けて調節する。まっすぐに寝ていた状態の脚を開脚させて再固定して鍵をかける。膝を立てると病人用の寝間着がはだけてオムツが丸見えになった。司は病室を出ようかと迷ったけれど、看護婦を放置しておけないので四葉の身体から目をそらして残り、反論する。

「イチャイチャなんてしてない。四葉が目を覚ましてくれるように、面白い話をしてただけだ」

「そうよ、そうよ」

「はいはい、よくあるのよね。病院では。若い子が事故や病気で意識不明で運ばれてくるとね、お見舞いが同性だけのときは平穏に終わるけど、彼氏や彼女がいてさ、毎日お見舞いに来て、けど、他にも異性がいっしょに見守るパターンだと、だんだん意識の戻らない人より、手近な二人でくっついちゃうパターン。残念だったね、こんなに早く目が覚めて。とくに、名取の末娘、あんた、好きなんでしょ、こいつが」

「っ…で、でまかせ言わんといてよ!」

 沙耶香が赤面して怒るけれど、看護婦は淡々と四葉の両脚の再固定を終えて、新しいオムツとウェットティッシュを出している。

「ホント、おしかったね。あと二日、いえ、あと一日でキスくらいできそうな雰囲気にもってきてたのにね」

「何の根拠があって、そんなこと言うのよ?! 私が四葉ちゃんを裏切るようなマネするわけないやん!!」

「だってほら、玄関ロビーで抱き合ってたでしょ。交代のとき準夜勤のナースがラインで送ってくれたよ。私たち、二人が何日でくっつくか賭けてるから」

 看護婦はスマフォを操作して画像を見せつけてくる。その画像は病院の玄関ロビーで司と沙耶香が出会ったとき、なかなか意識の戻らない四葉のことを心配して不安になり、それを慰め合ったときのもので、沙耶香の手が司の背中にあったり、司の肩へ沙耶香が頭をつけていたりして、抱き合っているように見えなくもない写真だった。それを天井を見ることしかできない四葉の眼前につきつけて嗤う。

「ほらほら、いい雰囲気でしょ? きゃははは♪」

「っ…」

 濡れていた四葉の瞳が画像を見て凍りつき、沙耶香と司は慌てて否定する。

「こ、これは違うんよ!」

「誤解しないでよ、四葉!」

「……うん……、…二人を……信じてるから……ぅうっ……ひっく…」

 そう言いつつも涙が溢れるのを看護婦が嗤う。

「きゃはは♪ 信じてるなら泣かなくていいじゃん。ホントはもう半信半疑っていうか、ほぼ黒だと感じて泣いてるくせにさ。だいたいのパターンで、ここまで来てると、もう捨てられるよ。結局さ、男って病気でガリガリの女より、健康で元気な女の子の身体を選ぶから。おっぱいも段違いだしね!」

「っ…司には……私より…うぐっ…はうっ…ううっ…うわあああん!」

 四葉が声をあげて泣き出した。意識が戻ったとき、ちゃんと達成感もあったはずなのに看護婦から地獄のような虐待をされて、さらに今は股間が痒くて気持ち悪くて、知られたくなかったのにオムツへ大便を漏らしていたことを知られて、なのに司と沙耶香が仲良くしていた写真を見せられて、司のためには長生きできない自分より沙耶香の方がいいのかもしれないと考えたりもするけれど、それでは自分があまりに報われなくて苦しくて、そして手足も首も動かせずに開脚で固定されてオムツ姿を晒されている状況が発狂しそうなほど苦痛だった。そんな四葉の心が、とうとう折れて大声をあげて泣き出している。もう、泣くことしかできなくなっていた。

「うわああん! ああああん!」

「四葉ちゃん、ごめん! ごめん!」

「謝るってことは認めるんだ」

「っ、違う! 違うから、四葉ちゃん!」

「うえええん! ふええええ! ふええええ!」

「きゃはは♪ ホント赤ん坊みたい! ウケるぅ! ウンコ漏らしてビービー泣いて。そりゃ彼氏も引くって」

「お前いい加減にしろよ!」

 女性に暴力を振るうタイプではない司が怒り心頭で看護婦の胸倉をつかむ。つかまれて看護婦は薬剤の入っていない注射器で司の手首を刺した。

「痛っ?!」

 思わず司は手を離す。看護婦は最後の仕上げに入った。

「えらそうに彼氏ぶるなら、彼女のオムツ交換ぐらいしてみなさいよ。臭い、気持ち悪いって投げ出さなければ、ちょっとは信じてあげるよ。できるかな? ボクちゃん」

「するさ!! お前にさせるより、ずっといい!!」

「はい、どうぞ。オムツ交換は医療行為じゃないから、あんたらにさせてもOKなの。よろしくね」

 これが狙いだった看護婦は素早く司に新しいオムツを押しつける。もう司は引っ込みがつかないし、何より四葉にとって最大に恥ずかしくて苦痛なのは、病院のスタッフや同性である沙耶香に交換されるよりも、彼氏である司にオムツを替えられることだとわかっていての誘導だった。

「ほら早くしてあげなよ。かぶれて気持ち悪いって」

「うええええ! うえええん!」

 もう四葉は泣いているだけで何も言えず、何も考えられない。

「四葉、泣かなくていいよ。ボクが優しく替えてあげるから」

「私も手伝うよ」

 司と沙耶香がオムツを外すために、サイド部分を破いていく。看護婦は嗤いながら見ている。

「臭いよ。超臭いよ。マジで吐くほど臭いから」

「四葉ちゃん、すぐにキレイにしてあげるからね」

 沙耶香が四葉の寝間着を開いていくと、四葉の匂いが室内に拡がる。看護婦が鼻を摘んで呻いた。

「う~っ…臭っ……最悪……ホント、異常に臭い。……うっ…吐きそう……ォェ……あと、よろしく」

 四葉を蔑むための演技ではなく本当に青ざめた看護婦は口元を押さえながら出て行った。

「あいつ、職場放棄しやがった」

「プロ意識がないよね。っていうか、そんなに臭くないし」

 司と沙耶香は優しくウェットティッシュで四葉の身体を拭いていく。

「ふえぇ…うっ…ううっ…ぐすっ…ひっく…」

 大泣きしていた四葉の涙が少し止まりつつある。

「いい子、いい子、もう少しやよ。四葉ちゃん」

「ぐすっ……ごめん……ごめんね」

 みじめな気持ちで身体を拭かれている四葉は、せめて二人に謝った。

「ええんよ」

「ああ、四葉の意識が戻って本当によかったよ。こんなことくらい何でもない」

「むしろ、四葉ちゃんの匂いって、すごくいい匂い」

「ああ、なんか、すごい不思議な匂いがする」

 そう言った二人は誘惑されたように顔を赤らめると、ウェットティッシュで拭く代わりに四葉の身体へキスを始めた。

「ちょっ?! 何してるの?!」

「「ごめん、ごめん、つい」」

 謝りつつもクスクスと笑ってしまう二人の顔が酔ったように赤くなっている。

「あの看護婦、吐くほど臭いなんて言ってたけど、ぜんぜん平気だよな」

「うん、むしろ最高の匂いかも」

 沙耶香が四葉の開脚されたままの左膝に触れる。

「四葉ちゃんの身体って、最高に美味しそうな匂いするよね」

「そうそう、ボクも、そう思う」

 司も四葉の右足首に触れた。二人は触れているうちに、またキスをしてしまい、ついには四葉の身体を味わうように舐めていく。

「ちょっと! 二人とも私に何してるの?」

「ん~、四葉ちゃんの味見ぃ」

「四葉から、あんまりいい匂いがするから」

「く…くすぐったいから、やめて。私の身体、ずっとお風呂に入ってないから汚いよ」

 四葉は逃げたいけれど、少しも動けない。四葉が嫌がっているのに、二人とも酒に酔ったような顔色で舐め回してくる。そこへ看護婦が再び病室に戻ってきた。

「臭っ……ホント臭いわね」

 看護婦はエアコンを最大換気モードに操作してから、四葉たちを見る。そして、備え付けのテレビのそばに目立たないよう置いていたスマフォを手に取ると、動画データを確認して嗤う。

「きゃははは♪ 信じられない! やっぱ勅使河原の血筋って変態よね! ほら、見て見て」

 看護婦が四葉にスマフォを見せつけてくる。そこには四葉たち3人が映っていた。まるで酔ったような顔で沙耶香と司が四葉を舐め回している動画が撮られていた。

「まさか…スマフォを…ずっと…」

 四葉が問い、看護婦が冷笑する。

「そうよ! エロガキどもが何かするかと思って置いておいたの! まさか、ここまで変態だとは思わなかったけど! いい映像が撮れたわ! これ週刊紙に売ったら最高よね?!」

「…………」

「あとさ、あんたのオヤジ、東京に出張へ行くとホテルにデリヘル呼んでるよ」

「………………」

「ほら、証拠写真もあるし」

 看護婦がデリヘル嬢と俊樹がビジネスホテルへ入っていく写真も見せつけてくる。娘として少し残念だったけれど、あまりショックを受けていない様子の四葉に、看護婦も残念そうにしたけれど言い募る。

「このネタで叩けると思って週刊紙に売り込んだのに掲載されないから、もっとインパクトあるの狙ったら、娘でいいのが撮れたわ! いい! 最高よ! これ週刊紙よりユーチューブにあげた方が世界中に広まっていいよね?! これで勅使河原も宮水も終わりよ! ついでに名取も! 女同士とか超キモ! きゃはははははは!!」

「…………あなた……誰なの?」

 明らかに三人のことを知っている看護婦の口ぶりに四葉が問うと、看護婦は笑うのをやめて迫ってくる。

「私の名をいってみなさい」

「………」

 四葉が看護婦の顔を見る。大きな絆創膏のおかげで目くらいしか個人を判別するヒントがない。鉄仮面をかぶった状態で自己誰何するよりマシだと思うものの、わからない。四葉だけでなく、換気されたおかげで正気に戻った沙耶香と司も状況を認識して、看護婦が誰なのか考える。

「……私……この人、見たことあるような……」

「ボクも……そんな気が……」

「それは私もなの」

 四葉も見たことがある気はするけれど、思い出せないでいる。

「もう一度だけチャンスをあげるわ。私の名をいってみなさい」

「「「…………」」」

「そう。社会的に死にたいのね。この動画、アップしたらどうなると思う?」

「そ、そんなことしたら、お前だってクビになるぞ!!」

 司が脅し返しても、看護婦は引かない。

「いいわよ、どこか遠くで再就職するから!」

「くっ……お、お願いだ! 待ってください! さっきのボクらは、どうかしてんだ!」

 司が土下座して頼むと、沙耶香も土下座する。

「どうか待ってください! お願いします!」

「フフ……いいわ。最高に気分がいいわ。勅使河原と名取が私の足元にひれ伏してる。なんて、いい日なの」

「あなた、本当に誰なの? なぜ、私たちを恨んでいるの?」

 動くことのできない四葉が問い直すと、看護婦は顔の絆創膏を剥がした。

「この顔の傷、3日経っても治るどころか、まだ膨らんで疼くのよ」

 看護婦の顔には四葉の掌打を受けた傷があり、そこは肉が内部から破裂しかけたように膨らんでいる。

「医者は単なる打撲だっていうけど明らかに変よ……この傷が治らなかったら、どうしてくれるか」

「………ごめんなさい」

 四葉は北斗神拳による傷跡を見て、あまりに申し訳なくて謝ったけれど、看護婦は唾を吐きかけてきた。

「ごめんで済むかっ!!」

 看護婦は美人というわけではないけれど、年齢は三葉と同じくらいで女性の顔にある傷跡としては、あまりに痛々しい。動けるなら四葉も土下座して謝りたい気持ちになったけれど、ベッドに固定されたままで何もできない。

「さあ、この顔を見ても誰だかわからないの?」

「え……でも、それは3日前に私が当てた傷で……あなたが私たちを恨んでいるのは、もっと前からじゃ……」

「そうよ! だから、この傷がない顔を思い出してみなさい! 私の名を!!」

「傷が無かったら………あ! えっと!」

「ボクも思い出した!」

「私も!」

 三人が看護婦を思い出した。

「えっと……あの……ほら、お姉ちゃんと同じ学年の……」

「そうそう、お姉ちゃんと同じ学年の………えっと……」

「兄貴と同じ学年だったはず……名は……えっと、……名前は…」

 小さな町なので、お互いに知っているはずなのに名前が思い出せない。看護婦が業を煮やしたように足元にいる司を蹴った。

「あんたら家持ちは、いつもそうだ!! 私らを人間と思ってない!!」

「うぐっ…」

「とくに勅使河原と宮水!! あんたらに私たちは顎で使われ、この町で生きてきた!!」

 そこまで言われて沙耶香が気づいた。

「あなたは、川の…」

「川の子?! それって名前?!」

「……すみません…」

 この町では中世以前から続く差別が、山奥らしく明瞭に残っていた。科学と人権思想が発達した現代でも、巫女信仰が残る裏側の意識で、町民たちに深く刻み込まれている。さすがに昭和の頃ほど、はっきり口にされないけれど、住んでいるところが洪水に遭いやすい川原なので、川の人、川の子、単に川、と呼ばれたりしてる。長屋造りの老朽住宅が多く、もともとは差別を受けていなかった人でも、失業や前科があって家賃の安さから住むようになると、そう呼ばれるし、やはり事情のある家庭が多く、母子家庭だったり、父親が居てもアル中だったりと、子供の頃から過酷な環境であることが多かった。そのため町民たちも付き合い方を選んでいる。あまり関わらないし、関わっても可哀想なので野菜を施したりする程度だった。町の治安は良く空き巣などいないので、どの家も鍵をかけないのが普通だったけれど、川の子が遊びに来ると、ほぼ無意識で町民は財布などの貴重品をさりげなく管理している。そして、町で唯一のコンビニで万引きが起きてパトカーが来ると、ほぼ100%川の子が捕まっていた。

「思い出した。あなたはお姉ちゃんと同じ学年で……お父さんの選挙のとき……」

 四葉も小学校時代のエピソードの一つを思い出した。父の選挙のさいに登校中、三葉と克彦がそろって登校していることを、土建屋と町長はその子供も仲がいい、と揶揄してきたグループにいた子だと気づく。学生の時期は一見して平等で、むしろ家柄のいい子の方がおとなしく、川の子が何でも言えるけれど、大人になって町内で就職すれば、もう勅使河原にも宮水にも逆らえない、それが本能的にわかっていて、せいぜいの野次を飛ばしていただけの一人だった。

「さあ! 私の名を言ってみなさい!」

「…………すみません……知りません」

 この小さな町で名を知らないというのは、相手にしてない、人と思っていないということと同義だった。それぞれに家のある町民同士は名字で呼び合う、宮水の旦那、勅使河原の息子さん、と家族内のポジションで親しく呼ぶ。けれど、川の子は川の子、川の人は川の人だった。町内会組織でも、それぞれの集落は仲良くしているけれど、この地区だけは役場直轄でゴミ捨て場も別、子供会も別だった。そのために四葉たちも意図して差別しているわけではないけれど、ごく自然に看護婦の名前は知らなかった。その無自覚の差別が許せないようで看護婦が沙耶香も蹴る。

「きゃっ?! うぅ…」

「私らにだって! 名前はあるんだよ! とくに勅使河原と宮水! 調子に乗りやがって!! 私たちと何が違うっていうのさ!!」

 町のヒエラルキーの中で経済は勅使河原家、宗教と政治では宮水家が頂点に立ち、お金の流れも、まずは地方交付税交付金が町役場に入り、町長が差配する。その中で旨味の多い土木建設系の随意契約などは、勅使河原家に振り分けられ、その勅使河原家が下請けや孫請けに、ごく当然にピンハネして仕事を与える。そして宮水家には氏子からの集金と賽銭、祈祷料、各事業所からの上納金が入る。逆に底辺層の地区に住む町民には、日雇いの交通整理や危険な高所作業が回ってくるだけで、それもピンハネを繰り返した挙げ句の末端被用者なので旨味は何もない。炎天下に一日立って7300円、目のくらむような山間の崖で作業して1万6500円だった。完全に固定化された格差社会が小さな町の中にできている。たとえ、努力して資格をとっても差はなかなか埋まらないし、大きく出世して大手ゼネコンに就職しても、町がからむ仕事だと地元理解の名の下に、なぜか下請けになるはずの勅使河原建設に頭が上がらないという力関係で格差は永遠だった。

「私の親は、あんたらの親にこき使われて生きてきたんだ!! 搾取されまくって!」

 さらに看護婦が司を蹴る。

「うぐっ…」

「それがイヤで私は看護師になったのに!! 高校卒業した途端に母さんの生活保護を打ち切りやがって!! バイトしながら資格とるのがどれだけ大変かわかる?! なのに就職してからも奨学金の返済!! 夜勤しないと生活していけない!! あんたらと私で何が違う?! なに東京で優雅に学生してんの?! あんたらの金だって、もとは税金でしょ?! 宮水!! お前なんか乞食と同じよ!!」

「あなた、あのときも……」

 そう言われて四葉は子供の頃にあったことを思い出した。大晦日の夜、年越しの神事が終わり、午前1時頃に御賽銭箱を開けてお金を集めているときだった。この看護婦が他の男子とグループでやってきて5円玉を三葉の肩に投げつけながら言った、お前らって乞食と同じだな、この金ネコババできていいな、と姉は反論して、きちんと集計して神社のお会計に入れています、ご参拝ありがとうございます、よいお年を健やかにお過ごしください、と目を伏せて静かに言ったけれど、じゃあお前らが喰ってる飯代や生活費はどうなってるんだよ、と追求され、お給料として神社のお会計からいただいています、と答え、結局ネコババといっしょじゃん、と罵られるともう姉は黙ってお金を専用の箒で集めていった。あのときの姉の目、もともと落ち着きのない性格だった姉が無理をして心を落ち着け黙々と大人の対応で作業を進めていた目を、まだ四葉は覚えている。そばにいたお年寄りが三葉を可哀想に思って、あれは川の子らやから相手にせんとき、と励ましてくれた。それが言葉として、川の子を四葉が認識した最初だった。まだ子供だった四葉にとって、いまだ忘れていない記憶だったけれど、やっぱり看護婦の名前は知らない、そういう人間関係だった。

「この乞食が!!」

 看護婦が動けない四葉の腹部を殴ってきた。

「うっ!」

「なにが巫女よ! 同じ人間じゃない!! 奇跡なんか起こせない! ウンコ垂れのゲロ女! ゲロ酒でも造って売ってろ! この売女!」

 もう虐待の発覚など気にしなくなった看護婦が四葉の顔面を狙って殴ってくるのを司がかばって背中で受け止める。女性の手で男の背中を殴ることになったので、むしろ看護婦の方が痛いけれど興奮しているので止まらない。司の背中を殴り続ける。

「この変態ども!! この町の頂点から引き摺り下ろしてやる!!」

「司……」

 四葉が身代わりに殴られてくれている司を心配すると、男らしく微笑んだ。

「大丈夫……このくらい…」

「もうやめてください!!」

 沙耶香が看護婦にとりついて止めるけれど、振り払われる。

「女同士舐め合うような手で触らないで!! 気持ち悪い!!」

「お願いです、どうか、やめてください! 私たちが何をしたっていうの?!」

「何をしたか?! 何もしないで優雅に暮らしてるヤツらに私らの苦労がわかるもんか!! お前ら毛布2枚で冬が越せるかァ?! いつも小便を便器でしてるヤツらに!! 水道代の節約だって言われて外に追い出される女の子の気持ちがわかる?! 川で済ませるミジメさが!! 指さして笑いやがって!! 人を人とも思わないお前らに復讐してやる!! この動画を世界中にバラまいて!! お前らを! この世界から消し去ってやる!!」

 幼い頃から色々と町社会に不満をためて成長してきた看護婦は、沙耶香と司への暴行を続け、動けない四葉は泣きながら謝って、やめてと頼んだけれど嘲笑される。

「きゃははは♪ いいカッコね! ザマアミロ!!」

「ぅぅっ…ぅっ…」

「このオオボラ噴きのキチガイが!!」

 看護婦が四葉の鼻へ挿入されているチューブを痛いようにグリグリと動かしてくる。さきほどまで守ってくれていた司と沙耶香は一方的に殴られ続けて、さすがに立てなくなって倒れているし、四葉には何一つ抵抗する術がない。

「ううっ!」

「お前も! お前の姉も! 母親だってそう!! この町を救ったとか! 意味不明なことを垂れ流して!! 町民も騙されて!! ただのゲロ女が調子に乗りやがって!!」

「ゴホッ! ケハッ! うえぇ!」

 鼻から喉、胃まで挿入されているチューブを乱暴に動かされると苦しくて咳き込むし、再び嘔吐しそうにもなる。

「ただのキチガイ家系のくせに!!」

「うっオエぇ! ゴホッ! ゴホッ! んああ! 痛っ!」

 気絶しそうなほど苦しいのに、苦しすぎて失神することもできない。

「お前の母親なんて死ぬ前に何度も人格が変わって、狂い死にしたみたいなもんでしょうが!! お前もきっとそうなる!! 人格障害は遺伝するのよ!!」

 母親を侮辱された瞬間、四葉の目の色が変わる。

「お母さんを悪く言うなァ!!」

 四葉が怒鳴り、手足に力を入れて拘束具から抜け出そうとする。

「きゃははは♪ 無理無理! それはね、薬中のジャンキーが暴れても千切れない丈夫なヤツなんだから! きっと、お前の母さんも、こんな風に拘束されてたんだよ! キチガイゲロ女ども!!」

「ぬあああああああああああ!!!」

 筋力が半減している四葉が雄叫びながら怒り狂うと、筋肉がモコモコと海綿体のように膨らんでいく。

 ブチブチ!!

 四葉の腕が筋肉で隆々になり頑丈な革ベルトが千切れていく。

「なっ…」

「うわああああああああ!!!」

 さらに首や胴体、脚を固定していた革ベルトも引き千切る。四葉の腹筋が割れるほど隆々になり、脚の筋肉も何倍にも膨れあがった。点滴の針が皮膚から飛び出し、鼻に挿入されていたチューブを引き抜くと、すでに寝間着も破れ飛んでいて、全身筋肉隆々の四葉が全裸で立っていた。胸に装着されていた心拍を診るモニターの痕は、まるで北斗七星のように並んでいる。

「…あ…あの……拘束ベルトを……千切るなんて……バカな……」

 驚いている看護婦の前に四葉が立った。

「北斗巫娼拳、撫那死目路!!」

 ズンッ…

 四葉が指先で看護婦の頭部を突いた。

「秘孔、末岳を突いた。あなたは自分の名前も忘れるほどの認知症になる。どんな記憶も3分と続かない。恨みも逆恨みも、妬み嫉みも喪い、忘却の恍惚を彷徨うといい」

「え…?」

「あなたの名は?」

 四葉が問うと、看護婦は首をかしげる。

「私の名……名前……あれ、……何だったかしら…?」

「今は何年?」

「え……? ……何年だったかしら……ねぇ?」

「ここは、どこ?」

「どこ? ………どこなのかしら……」

 何もかも忘れている様子の看護婦を、四葉は廊下の方へうながした。

「さようなら。この部屋から出て行って」

「あ…はい……さようなら」

 看護婦は老婆のような足取りで病室を出て行った。

「よ……四葉、その筋肉は……」

 倒れていた司が驚きつつ問い、四葉も考える。

「あれから3日………筋力は半減していたけど……北斗神拳のことは忘れてない。秘孔もわかる。たぶん、ずっと意識不明だったから身体に定着してくれたのかも……」

「そ……その身体は、そのままなのか?」

 司が筋肉隆々の四葉の身体のことを問い、四葉も自分の手を見る。胸筋も肥大化していて、もともと乳房が小さめなので、おっぱいが胸筋のオマケのようになっている。

「うーん、たぶん、あと少しで元に戻る感じ。元というか、半減状態に」

「そっか……よかった…」

「さてと、あと一人、懲らしめなければならない人がいるよね」

 四葉が拳をバキボキと鳴らしながら、沙耶香に近づく。

「え? え? な、なんで?! わ、私? と、と、友達だよね? わ、私たちさ!」

 とても驚いて青ざめた沙耶香は後退りしたけれど、そう広い部屋ではないので、すぐに壁に追いつめられた。筋肉隆々になった四葉に迫られて沙耶香は本能的に膝が震えた。こんな筋肉で殴られでもしたら、頭蓋骨が砕けるかもしれないと、見ているだけでわかる。

「ま、ま、待って! な、なんで?! ど、どうして、私?!」

「自分の胸に訊いてみたら?」

「あっ…、で…でも…ち、違……あれは違うの!」

 沙耶香が否定しても、四葉は看護婦から奪っておいたスマフォを眼前につきつけてくる。そこには抱き合っているように見えなくもない沙耶香と司が写っている。

 グシャッ!

 四葉が圧倒的な握力でスマフォを握り潰すとバラバラに落ちた部品を踏みにじってから、再び沙耶香を睨む。

「こんな気持ちになるなんて思わなかった。友達を本気で殴りたい、力任せに何度も何度も殴ってやりたい、こんな真っ黒い気持ちになるなんて」

「ひっ…ひぃぃ…」

 今の四葉に殴られると瞬殺されるとわかるので沙耶香は腰が抜けて座り込む。四葉のこめかみには怒りで血管が浮いていて、自分を見つめるようにつぶやく。

「これが嫉妬……最悪の感情…」

「四葉、待って! 違うんだ! 誤解だよ!」

「司は黙っていて、これは女同士の話だから」

「うっ……でも、暴力はダメだよ。暴力は」

「……ええ……友達を殺したくはないから。でも、実際、よくサヤチンさんは耐えたと思うよ。お姉ちゃんを殺さなかった………だから、私も……すーーーっ…はぁぁ……」

 四葉が深呼吸すると膨張していた筋肉が細くなり、元の四葉に戻った。

「…………」

 それでも本気で怒っている顔で沙耶香を見下ろしている。

「…ご……ごめん、四葉ちゃん……でも、違うんよ。あれは…」

「まだ言い訳する?」

「っ……」

「私の目を見て答えなさい」

「は、はい」

「私の意識が無い間、一度も司を盗ろうと思わなかった? 一度も」

「………」

 沙耶香が無意識で目をそらして右下へ瞳が動く。

「目、そらしたね」

「ち、違う……そ、そんなつもりじゃ…」

「どんなつもりでも、あんな写真を見せられた私の気持ちがわかる?」

「…………ごめんなさい…」

「くっ…ごめんで許せると、いいねッ! この真っ黒い気持ちをさァ!!」

 四葉が手を振り上げて、それから暴力を思いとどまって手を下ろす。

「仕返しはする。っていうか、後顧の憂いをなくしておく」

 四葉は病室にある机に近づくと、そこにあったボールペンとメモ用紙を手に取り、沙耶香に突きつける。

「はっきりさせたいから書いて」

「……何を?」

「司にラブレター、きっちり司に気持ちを伝えて」

「っ…わ、私は、別に…」

「もう今さら誤魔化さないで卑怯者」

「ぅっ…」

「さあ、書いて! 去年、私に見せてくれたよね?! エープリルフールにこんなラブレターを渡したらテッツーどんな反応するかな、って。あれって遊びっていうより、私への予防線だったでしょ? 司が私のこと好きなの気づいてて、自分は司のこと好きかもしれないって私には教えておく。そうすれば、司が私に告白したとき、振ってくれるかもしれない。そんな計算してさ」

「…あ…あれは……」

「司、たぶん、サヤボボが男として司を意識したのは中学の修学旅行のときだよ。あのとき外国人に道を聞かれてサヤボボが困ってるのを司が英会話で助けてあげたでしょ。たぶん、それがキッカケ」

「そんなことあったかな……」

「記憶に残らないような、ちゃっちいエピソードだから」

「……ひどい……四葉ちゃん……ひどいよ……」

「悔しかったら司が心変わりするようなラブレター、ちゃんと書いてみたら?」

 そう言いながら四葉は全裸だったので着る物を探すと、一葉が用意してくれていた着替え一式を見つけた。さらに病室に専用シャワー室があることに気づいて父親に感謝しつつ入っていく。

「私がシャワーを浴びてる間に完成しておきなさい。最後のチャンスよ」

「「………」」

 病室に残された沙耶香と司に重い沈黙が訪れる。書く前からネタバレされたラブレターを書かされる沙耶香と、それを待たなければいけない司。

「……………」

「……………」

「……ボク、何か、飲み物でも買ってくるよ。3人分」

「うん……ありがとう…」

 一人にしてもらった沙耶香は意を決して書き始める。

 

 本当に今さらだけど、

 どう伝えようか、

 とにかく、

 私は、

 

「………う~…」

 書き出しが決まらない。それでもペンを取る。

 

 気持ちを伝えることが怖い、ずっと想っていたけれど、私たち三人の関係を壊したくなくて、

 私、名取沙耶香は勅使河原司くんが好きです。

 ずっと、いえ、四葉ちゃんが言ったとおり、あの修学旅行のときから好きになり、それから、ずっと好きです。

 司くんが四葉ちゃんを好きなのも知ってた。

 今、こうなって強制的に、

 こうなったから伝えるわけじゃなくて、いつか、伝えたいと想っていて、それが今になって、

 今から伝えます。

 好き。

 司くんが大好き。

 テッツーが大好き。

 この気持ちを、知るだけでいいから、知ってください。

 ううん、知るだけでは、やっぱり、淋しいけど、もう四葉ちゃんとテッツーは、

 

「…………これじゃダメ」

 そこまで書いて丸めて捨てる。

 

 私、名取沙耶香は司くんが好きです。

 きっかけは、もうバラされてしまったけど中学の修学旅行のとき外人さんに道を訊かれて困っていた私をカッコよく助けてくれた、あの瞬間、大好きになったよ。

 あれから、ずっと好き。

 ずっと司くんが大好き。

 だから、私のことも見てほしい。

 私の気持ちを知ってほしい。

 これからも、ずっと好きでいるから。

 勅使河原司くんを名取沙耶香は大好きでいます。

 

「………ああ……」

 赤裸々に気持ちを書きつけたために頬が熱くなってしまい、沙耶香は顔を両手で覆う。シャワー室のドアが開いて、四葉が出てきた。

「書けた?」

「……うん」

「そう、見せて」

「え………四葉ちゃんに?」

 戸惑っていると四葉は机にあったラブレターを勝手にとって黙読していく。

「う~……」

 呻りつつ、沙耶香は四葉を見る。四葉はシャワーを浴びて髪を整え、可愛らしいツインテールに結っていたし私服も着こなしてる。さっきまで一週間も入浴できていなかった姿から完璧に身支度を調えた女の本気がうかがえる姿に変わっていた。それが沙耶香にも伝わってくる。

「じゃあ、次は私への手紙を書いて」

「え? 四葉ちゃんに…」

 そう言われて沙耶香は全裸だった四葉の身体や、四葉の匂いと味を思い出して赤面するけれど、四葉は冷たく言ってくる。

「何、赤くなってるの?」

「だって、四葉ちゃんにラブレターって、それって、どういう意味……」

「は? バカじゃないの。謝罪の手紙に決まってるでしょ。私と司は付き合ってたよね。目の前で見てたはず。なのに、ちょっと意識がない間に盗ろうとした。そのことについて、きちんと謝って」

「……ごめんなさい」

「口先だけじゃなくて、きちんと書いておいて」

「……はい、わかりました」

「で、司は、どこに行ったの?」

「みんなの飲み物を買いに行くって。自販機、すぐそこなわりに遅いから、たぶん、時間をつぶしてくれてるんだと思う」

「そう。………。私も行くから、戻ってくるまでに書いておいて」

「はい」

 沙耶香が返事すると、四葉は病室を出て行った。

「……謝罪の手紙かぁ……」

 再び沙耶香がペンを持つ。

 

 ごめんなさい、四葉ちゃん、

 四葉さん、

 私は四葉さんに、ひどいことをしました。

 でも、どうか信じてほしい、あれは誤解なの。

 あの写真は抱き合っていたわけじゃなくて、四葉ちゃんの意識がなかなか戻らないから、私もテッツーも心配になって、泣きそうになって、それで慰め合っていただけ。それを盗撮されて、あんな風に見せつけられて、どんなにか四葉ちゃんが傷ついたかと思う。

 ただ、盗もうなんて気持ちは少しも、

 

「………少しも……ない…わけじゃ…ないって四葉ちゃん見抜いて…」

 沙耶香は隣りにある完成したラブレターと見比べる。そして、書きかけの謝罪の手紙を丸めて捨てた。

 

 私は卑怯な女です。

 四葉さんの意識がない間に、あわよくば司くんと仲良く、

 いえ、もっと振り返ると、私たちのお姉ちゃんたちのこともあって、盗ったり盗られたりも男女の

 

「………これじゃ、責任転嫁……最低だ……」

 破いて捨てた。

 

 私は最低なことを考えていました。

 意識がない四葉さんのことを心配する一方で、ずっと好きだった司くんと同じ時間を過ごせることに喜びを感じていなかったといえばウソになります。

 だって、急に二人が付き合うことになって、四葉ちゃん、もともとテッシーのこと異性として意識してる風じゃなかったのに、

 

「……あ~……違う」

 また捨てる。

 

 ごめんなさい。

 意識がない四葉ちゃんのお見舞いに来ているうちに、司くんを好きって気持ちが抑えられなくて、もしも、四葉ちゃんの意識が戻らなかったら、この先どうなるんだろう、って考えたとき、私の中に悪い心が生まれました。

 とても悪い心です。

 でも抑えられなかった。

 このまま四葉ちゃんが眠ったままでいるなら、私が、司くんと、そう考えてしまって、

 私は最低です。卑怯者です。

 ごめんなさい。

 ごめんなさい。

 四葉ちゃんを深く傷つけたこと心からお詫びします。

 どうか、こんな私ですが、これからも友達でいてください。

 

「………これかな……」

 ようやく頷けるものが書けた頃、四葉と司が戻ってきた。

「おかえりなさい」

「書けた?」

「うん」

「じゃあ、そこに立って読んで。まずは謝罪の手紙から」

「はい」

 沙耶香は部屋の中央に立つ。四葉と司はソファに座った。司は心配そうな顔をしているけれど、女性同士の人間関係に踏み込めず、四葉から何か指示されているようで黙って座っている。沙耶香が音読を始めた。

「ごめんなさい。意識がない四葉ちゃんのお見舞いに来ているうちに、司くんを好きって気持ちが抑えられなくて、もしも、四葉ちゃんの意識が戻らなかったら、この先どうなるんだろう、って考えたとき、私の中に悪い心が生まれました。………とても悪い心です。でも抑えられなかった。このまま四葉ちゃんが眠ったままでいるなら、私が、司くんと、そう考えてしまって、……私は最低です。……卑怯者です。ごめんなさい! ごめんなさい! 四葉ちゃんを深く傷つけたこと心からお詫びします。どうか、こんな私ですが、これからも友達でいてください。ぅうっ…ぐすっ…ごめん、四葉ちゃん、ごめんなさい」

 読んでいるうちに泣き出した沙耶香が頭を下げているけれど、四葉は冷たく怒った顔のまま、今度はラブレターを指した。

「次」

「……え……今?」

 謝罪の手紙の直後に、赤裸々に想いを綴った手紙を読めと言われて戸惑う。このタイミングでは読み上げにくい内容なのに、早く読みなさい、と四葉は目線で語りつつ、並んでソファに座っている司の肩に頭をもたげ、腕を組む。これでは沙耶香が想いを伝えたところで、どうにもならない陣形で、ただ単に想いを空費させるだけの、絶対的に四葉が有利で沙耶香が不利な戦況だった。

「さあ、読んでみてよ。大きな声で」

「………」

「早く」

「………はい……わ…私、名取沙耶香は……司くんが………………す……好きです。………………………」

「続きは?」

「………きっかけは、もうバラされてしまったけど…………中学の修学旅行のとき外人さんに道を訊かれて困っていた私を………か……カッコよく助けてくれた、あの瞬間、大好きに………なったよ。………あれから、ずっと……好き。……ずっと司くんが………大好き。………だ……だから、私のことも………………………」

「最後まで全部」

「……………み……見てほしい。………わ…私の気持ちを……知ってほしい。これからも、ずっと………好きでいるから。勅使河原司くんを………名取沙耶香は………大好きでいます。ううっ…ああっ!」

 沙耶香が手紙で顔を隠して泣く。ぽろぽろと涙が手紙に降っていく。大切な想いを告白させられているのに、その対象の司はソファの上で四葉と座っていて、沙耶香から目をそらしている。答えは聞くまでもないし、聞きたくない。四葉が冷厳と言ってくる。

「じゃあ、もう一回、謝罪の手紙、さっきより大きな声で」

「え……もう一回? なんで?」

「ふーん、一回で謝罪の気持ちが伝わるとでも思うの?」

「……いいえ……もう一度、読ませてもらいます」

 沙耶香が手紙を持ち替えて音読する。

「ごめんなさい。意識がない四葉ちゃんのお見舞いに来ているうちに、司くんを……好きって気持ちが抑えられなくて、もしも、四葉ちゃんの………意識が……戻らなかったら、この先どうなるんだろう、って考えたとき、私の中に……悪い心が生まれました。……とても………悪い心です。でも抑えられなかった。このまま四葉ちゃんが………ね…眠ったままでいるなら………私が………司くんと………そう考えてしまって、私は最低です。卑怯者です。ごめんなさい。ごめんなさい。四葉ちゃんを深く傷つけたこと心からお詫びします。どうか、こんな私ですが、これからも友達でいてください」

「なんか、さっきより気持ちがこもってない感じ」

「……ごめんなさい」

「ラブレターも、もう一回」

「…………どうして?」

「もう一回」

「はい………私、名取沙耶香は司くんが……好きです。きっかけは、もうバラされてしまったけど中学の修学旅行のとき外人さんに道を訊かれて困っていた私をカッコよく助けてくれた、あの瞬間、………大好きに……なったよ。あれから、ずっと好き。ずっと司くんが……大好き。だから、私のことも………見てほしい。私の気持ちを知ってほしい。これからも、……………ずっと好きでいるから。勅使河原司くんを名取沙耶香は………大好きでいます。……………」

 もう熱い想いではなく絶望と徒労感のこもった声だった。それでも四葉は容赦ない。

「また謝罪の手紙。ちゃんと反省の気持ちで」

「はい……」

 沙耶香が震える手で読み始めると、司が可哀想になって四葉の背中を静かにトントンと触れて目線で、もう許してやれよ、と伝えたけれど、四葉は司の瞳を見つめ返した。

「………」

「………」

 四葉が無表情に瞳の奥を見つめてくると、司は後ろめたいことはないはずなのに後ろめたい気持ちになって目をそらした。沙耶香の朗読が続く。

「…抑えられなかった。このまま四葉ちゃんが眠ったままで…」

 読み終わっても、また四葉が冷たく言う。

「次、ラブレター」

「………はい…」

 もう沙耶香も涙が出なくなって、静かに赤裸々なラブレターを読んだ。

「謝罪の手紙」

「…はい…」

「……」

 司は四葉の表情を恐る恐るうかがう。表情は無く、まだ一欠片も許す気持ちは生まれていない様子で、司は女の嫉妬による怒りの怖さを知った。謝罪とラブレターを何度も繰り返し繰り返し朗読させるという精神的リンチが続き、沙耶香の目も声もうつろになっていく。

 

 四葉は朗読を聞きながら、ゴミ箱を探った。ゴミ箱には沙耶香が書きかけてボツにした手紙が何枚も入っていた。それを拡げて目を通していく。

「本当に今さらだけど? 本当に今さらよね」

「っ?! それは!」

 沙耶香が手を伸ばそうとすると一睨みされて動けなくなる。四葉は推敲段階の沙耶香が心に浮かべて廃案にした考えを拾って晒していく。

「気持ちを伝えることが怖い、ずっと想っていたけれど、私たち三人の関係を壊したくなくて」

「や、やめて、四葉ちゃん、それは、考えてる途中のものなの!」

「司くんが四葉ちゃんを好きなのも知ってた。今、こうなって強制的に? 強制的にねぇ」

「お願い…やめて…」

 沙耶香が両手で耳を塞いだ。

「テッツーが大好き。この気持ちを、知るだけでいいから、知ってください。ううん、知るだけでは、やっぱり、淋しいけど、もう四葉ちゃんとテッツーは、…って。わかっていて盗るって、どういう気分なのかな。うちのお姉ちゃんもやったけど……ひどい話だよね」

「ううっうっ…」

 四葉はラブレターの廃案分から謝罪の廃案分へと移る。

「私は四葉さんに、ひどいことをしました。でも、どうか信じてほしい、あれは誤解なの。…誤解って便利な言葉ね」

「読まないで、お願い!」

「慰め合っていただけ。それを盗撮されて、あんな風に見せつけられて、どんなにか四葉ちゃんが傷ついたかと思う。ただ、盗もうなんて気持ちは少しも、…少しも? 少しもないのに、謝罪の手紙を書いてるの?」

「それはボツなの!! 違うの!! 読まないでよ!!!」

「え? なんで私、怒鳴られるの? 怒られてるの、どっち?」

「………お願いします、それは読まないでください」

「こっちの方が本音っぽいよね」

「違う! そんなこと思ってないから!」

「思ってないこと、どうやって書いたの? 別人格?」

「…………」

 沙耶香が黙り、四葉は破いてあった手紙もつなぎ合わせて読む。

「私は卑怯な女です。四葉さんの意識がない間に、あわよくば司くんと仲良く」

「っ?! それだけはやめて!!」

「いえ、もっと振り返ると、私たちのお姉ちゃんたちのこともあって、盗ったり盗られたりも男女の……男女の、何って書くつもりだったの、これ? 盗ったり盗られたり、当たり前ってこと?」

「……それは……書き損じです」

 沙耶香は国会で官僚が答弁するように答えて、目をそらしている。四葉は手紙の束で沙耶香の頬をパンパンと叩いた。

「これって最低の責任転嫁じゃないの。ようするに、うちのお姉ちゃんが盗ったから、妹の私から盗ってもOKってこと?」

「………そんなこと思っていません」

「そうとしかとれない」

「…………誤解です」

 もう沙耶香は心を閉ざしつつあり、官僚答弁を通していく。四葉はゆっくりと沙耶香のまわりを歩いて語る。

「私がいないところで姉のひどい悪口を言ってるのは知ってる。それは当然だと思う。けど、それと同じことを自分がするって、どうなの?」

「……………同じ? ぜんぜん違う!! お姉ちゃんは結婚してたのに盗られた!!」

「結婚してない私からは司を盗ってもいいってこと?」

「そんなこと言ってない!! ぜんぜん違うから取り消して!! お姉ちゃんが、どんな思いをしたか!! あんな盗撮写真の比じゃないのに!!」

「……………。どうして、私が怒鳴られてるの?」

「ハァ…ハァ…取り消して、でないと許さない」

 沙耶香が四葉を睨んで言う。その怒りは本物だったので四葉も自戒する。

「…………そう、じゃあ、取り消すわ。で、あなたの謝罪は?」

「……………あと、どうすれば許してくれるのよ?!」

「何その言い方」

「…………」

「朗読、再開して」

「ごめんなさい。意識がない四葉ちゃんのお見舞いに来ているうちに、司くんを好きって気持ちが抑えられなくて、もしも、四葉ちゃんの意識が戻らなかったら、この先どうなるんだろう、って考えたとき、私の中に悪い心が生まれました」

 やや棒読みになった沙耶香の朗読が再開され、すぐに謝罪の手紙が終わり、またラブレターになる。さらに謝罪の手紙になり、再びラブレターになり、その繰り返しが30分も続くと、沙耶香は心と喉が疲弊して崩れるように座り込んで泣く。

「もぉ…もおぉ…ゆるして…ちゅるしてぇえ…ふぇえええん!」

「………」

「四葉、そろそろ許してやってくれよ。もうサヤボボ、頭がおかしくなりそうな顔してるぞ」

「う~ん……どうしようかな、もう少しイジメるつもりだったけど」

「ゆるしてぇえぇうふぇぇえぇ!」

「四葉、そろそろ夜が明けるしさ」

「わかった。じゃ、司、こっちに来て」

「え、うん」

 呼ばれて司も近づいた。

「サヤボボ、もう手紙は捨てていいから両手を頭の後ろで組んで」

「……こう? ぐすっ…ひっく…」

 言われたとおりに沙耶香は後頭部で手を組む。沙耶香はキャミソールを着ていたので両腋が露出された。

「お見舞いにキャミソールで来るって盗む気まんまんだよね」

「ぐすっ……もう許してよ。ごめん、四葉ちゃん」

 ようやく許してくれそうな気配を感じて、少し沙耶香も落ち着いてきた。けれど、四葉は意地悪く微笑む。

「司、言っておいた、あれやるよ」

「あれ、か……」

 司は気が進まなさそうに少し顔を赤くした。そして司と四葉が顔を近づけて沙耶香の両腋の匂いを嗅ぐ。

「ちょ…、ヤダ! 何してるのよ?!」

「仕返し♪」

「うう~……四葉ちゃんみたいに、いい匂い、しないもん」

「どんな匂いだったか、司と耳元で囁いてあげる」

「絶対ヤダ!! お願いだから、もう許して!」

「じゃあ、あとは宮水スペシャルいきます」

「ううっ…それも嫌な予感しかしないよぉ」

「予感や予知ができるようになったら一人前だよ」

 そう言いつつ四葉は夜食にと買われていたコンビニのオニギリを開けると、半分に割った。

「はい、これを口に入れて、よく噛んで」

「………やらないとダメ?」

「ダメ♪」

「………」

 諦めて沙耶香が口を開けると、オニギリの半分が挿入される。

「飲み込まないで、よく噛むんだよ」

「…うぐ…うぐ…」

「よく噛めたと思ったら、自分の両手に出してみて」

「……あ~…」

 でろり、と咀嚼物が沙耶香の両手に落ちる。白米と海苔、沙耶香の唾液が混じり、少し泡立っていて見た目にキレイとは言いにくい。

「じゃあ、私も」

 今度は四葉が残りの半分を口に入れて噛む。

「ん~♪」

 ほどよく噛むと、自分の両手に吐き出していく。

 すーーっ…

 咀嚼物はキレイに噛み込まれ、白米と海苔の混じり方もあざやかで、唾液は泡立たずに艶やかに光っている。

「おおっ……さすがプロ…」

 司が感心している。二人の咀嚼物は、まるで寿司職人が握った物と、素人が初めて握った物が違うように雲泥の差があった。こんなことにも技術の洗練があるのかと、驚くほどの違いがある。

「こんなに差があるのか……」

「こんなことさせて、どうする気よ、これ」

 沙耶香が困った顔で咀嚼物を手で包んでいる。かなり見られたく無さそうだった。

「司に食べてもらうの」

「ええ?!」

「はい、どうぞ」

 四葉が笑顔で差し出すと司は赤面しつつ、四葉の咀嚼物を四葉の手から食べる。

「フフ、くすぐったい」

「……ごちそうさま」

「美味しかった?」

「……うん……けっこう…」

 実は子供の頃から食べてみたいと思っていたので、無表情を装おうとするものの顔が嬉しそうだったし、ズボンの股間が勃起で膨らんでいる。

「はい、サヤボボの番」

「わ、私の……え、でも……こんなの汚い…」

 沙耶香が戸惑っている。

「司、さっきのラブレター、率直に、どうだったの?」

「それは………まあ……嬉しかったというか……女の子に好かれて、悪い気はしない、というか……ありがとう、というか……まあ……そんな感じ」

「だってさ」

「四葉ちゃん……」

「ほら、手を出して、司に食べさせて」

「……う~……汚いよ、こんなの………それに……間接キスに……」

「食べるか、食べないかは司しだい。さ」

 四葉が沙耶香の手首をもって咀嚼物を司の方へ向けさせる。

「司、どうする? 食べる、食べない?」

「…………じゃあ」

 司は沙耶香の咀嚼物を沙耶香の手から食べた。

「……テッツー……」

 恥ずかしいのに、ものすごく嬉しくて沙耶香が涙を浮かべた。

「司、感想は?」

「これも……美味しかった」

 赤面しながら司が飲み込む。やはり、やや勃起している。

「……四葉ちゃん……どういうつもりなの?」

「バックアップっていう考え方も、悪くないかなって」

「バックアップ?」

「もしもさ、私がお母さんみたいに早く死んじゃったら、残された司って淋しいでしょ? お父さんも東京でお金で済ませてるみたいだけど。いっそ他人より友達の方がいいかなって」

「………女として、それでいいわけ?」

「たった一つしかないパンをめぐって殴り合うか、分け合うか。ほんの小さな島一つをめぐって核戦争をするか話し合うか。かけがえのない男の子をめぐって、かけがえのない友達をなくすか、仲良くするか。答えは、そう難しいことじゃないと思うよ」

「……………」

「こういうものも、あるしね」

 四葉が司のポケットからコンドームを出して見せた。沙耶香が悩む。

「う~ん………少し考えさせて」

「何年でも、どうぞ」

 朝日が昇って病室に光りが入り、四葉に後光が差したように見えた。

 

 

 

 一ヶ月後、高校の五時間目に、きちんとツインテールに結い上げた四葉は窓際の席で授業を受けていたけれど、なにかが起こるような気がして窓から空を見上げた。

「………入れ替わり? じゃ……ない……何かな…」

 空は良く晴れていて平穏だったし、再び誰かと入れ替わるような予感でもないのに、なんだか胸騒ぎがする。

「う~ん………」

 頬杖をついて胸騒ぎの理由を考えてみる。その次の瞬間、胃袋が突き上げられるような強烈な吐き気が襲ってきた。

「ぅっ?!」

 これは我慢できない、吐く、とわかるほど強烈だったので四葉は立ち上がってトイレに走ろうとしたけれど、間に合わない。

「うっ…うえええげぇええ!」

 ぼたぼた…

 さっき食べたばかりの昼食が嘔吐物になってドロドロと四葉の両手に拡がる。机や教科書を汚さないようにと両手で受けている。

「ううっ…おええっ! えぼっ! うええええげえええっ!」

 ぼたぼた…ビチャビチャ…

 小さな手では受け止めきれず、零れて制服の袖を汚し、机にもビチャビチャと嘔吐物が落ちる。クラスメート達が気の毒そうに四葉を見ている。先月、入院していた話は全員が知っているので、まだ体調が回復しきっていないのに無理して登校していたのかな、と可愛らしい女子が嘔吐物で汚れていくのを生温かい目で見つつも、やっぱり何人かは宮水神社の祭りのことを思い出している。ユキちゃん先生と保健委員はバケツと雑巾を用意するために走り、沙耶香と司が心配そうに歩み寄る。

「おええっ……おええっ……うえええっ…」

 もう胃が空っぽになっても四葉は吐いている。苦しくて涙がにじみ、咳き込んで鼻水も垂れる。

「ハァハァ…おええっ…うっ…うええっ…ケホッケホ!」

「四葉」

「四葉ちゃん…」

 司が心配して背中を撫で、沙耶香は誰にも聞こえないほどの小声で四葉に囁く。

「まさか…四葉ちゃん…」

「ハァーひっ…ハァーひっ…ぐすっ…ぐずっ…」

 やっと嘔吐衝動がおさまってきた四葉が羞恥心にさいなまれて泣き出すかと周囲は思っていたのに、幸せそうに微笑んで嘔吐物にまみれた身体で自分の胸を抱き、下腹部を優しく撫でた。

「司、赤ちゃん、できたみたい」

 汚れた顔なのに笑顔が誇らしくて輝いて見える。

「なっ……マジ、で…」

「あっ、あとね。言い忘れてたけど、お姉ちゃんが勅使河原姓になったんだから、司は宮水姓でお願いね。どっちの家も絶えないように」

「………わかったよ、もう、何もかも、四葉の言うとおりでいいよ」

「四葉ちゃん………私はお妾さん、ってことなのね……」

 司と沙耶香は遠い目をして、飛騨山脈を見上げた。そして、全身嘔吐物まみれでプロポーズした女の子のことよりも、それを受諾した司のことが、ゲロ養子と言われて長く語り継がれた。

 

 

 

 大晦日、ケンシロウは年越し派遣村に辿り着いていた。

「…み…水…」

 水を求めて手を伸ばし、ガクっと崩れる。薄汚れた毛布のような物をマントのように身体に巻いて寒さをしのいでいる。

「よかったら、どうぞ。公園のトイレの水道で汲んだものだけど」

 まだ20代の青年が同じような境遇にいることで同情して声をかけてくれる。

「あ…ありがとう」

 礼を言ったケンシロウは使い古されたペットボトルに入った水を飲む。

「ありがとう…生き返ったよ…」

「いえ、別に…」

「自分は田中ケンシロウ。君の名は?」

「名………名前か……もう長いこと、バイト君とか、ハケンさんって呼ばれてさ。もう自分の名前なんて、意味ないのかなって」

「こんな時代でも希望は捨ててはいけない」

「へっ、オッサンこそ、いい歳だろ……すんません。つい、心がすさんで。……勢いを増した向かい風の中を、進んでるような、時代に嫌気がして」

 青年は配給された毛布を寒そうに掻き寄せた。ケンシロウが問う。

「君は、なぜ、ここに?」

「ティヤマト特需が終わって急に職が減ったのは、みんな知ってるでしょ。それっすよ。まあ、生活保護って手もあるんでしょうけど、オレ、オヤジが霞ヶ関とかに勤めてて、そんなん申請したら一発で連絡いくし。オヤジに、そんな目で見られるのイヤだし。今はマイナンバーなんとかで、離婚した相手にまで連絡いくし……そうなるくらいなら死んだ方がマシっすよ」

 青年は痒そうに頭を掻いた。そこへ、大柄な男が駆けつけてくる。

「おい! 探したぞ、ケンシロウ!」

「ジャギ兄さん…」

「お前にいい仕事がある」

「格闘技とかは、もう……」

「安心しろ、そっち系じゃない」

「組織で行動するのも苦手で……」

「ああ、そう言うだろうと思ってな。ごく普通の交通整理の仕事だ」

「運転免許も持ってないから、そういう仕事も…」

「大丈夫だって! 片側通行にしてるとき、片方を止めて、もう片方を流す。で、しばらくしたら、反対を流す。それだけだ。今は不況だけどよ、ちょうど後援会に入ってくれてる建設会社の社長がよ、空きがあるからって話でよ。やってみろよ、な?」

「都会の喧噪も実は苦手で……車が多いのも落ち着かなくて…」

「すげぇ山奥だ。ときどきしか車は通らねぇ。それでも交通整理員はおかないとダメだってルールがあってよ。ま、いわゆる雇用対策だな。コンビニが一件しかないような山奥の町だ。お前が組織で生活するのが苦手だっていうから寮も個室があるところを探したんだ。やってみろよ、な? 山奥だけど、いいところだぞ。空気もキレイで水も美味い! オレも老後は、あそこで過ごしたいってくらいに」

「……やってみようと思いますが……彼も、仕事がないようなのです」

 ケンシロウが青年を指した。

「なんだよ、友達か。若いな」

「さっき、水をいただいて」

「お前、あいかわらず甘いな。それだけで恩に着やがってよ。そこまで甘いと、こんな時代でも生きていけねぇぞ。まあ、いい、あと一人ぐらい、なんとかなるだろ」

「ありがとう、ジャギ兄さん。君、いっしょに行こう」

「………オレっすか…」

「ああ」

「……嬉しいっすけど…」

「君の名は?」

「………立花瀧っす」

 瀧が涙を滝のように流しながら微笑んだ。

 

 

 

 二ヶ月後、放課後の高校の進路指導室でユキちゃん先生と四葉が向かい合っていた。

「宮水さん、言いにくいことですけれど、あなた、妊娠されていますよね」

「何も言いにくいことはありませんし、妊娠しています。それが何か?」

「………まだ、高校生じゃないですか」

「この国の法律は16歳から結婚できるはずです」

 四葉は身体を冷やさないようにストーブのそばへ、パイプ椅子を移動させてから、まだ教師は立っているのに先に座った。

「それで、先生のお話っていうのは?」

「………今の時期、三年生からの進路を決定していくのですが、宮水さんのご意向をうかがっておきたくて」

「つわりもおさまってきたから、出席日数が足りれば、この高校を予定通りに卒業して通信制の大学で歴史を学び、育児の段階を見て、神職の資格を取る大学を目指します」

「……おうちを継がれるのですね」

「ええ」

「た……ただ、ご出産が、……いつになりますか? 三年生のうちですよね」

「予定日は8月で、ちょうど夏休みなので麓の病院で出産します」

「…………。……い…言いにくいことなんですけれど、妊娠中の安静を保つためにも、一度、ご家庭に入って、それから通信制の高校などを卒業されるのは、どうでしょうか?」

「校長と教育委員会に自主退学してもらえって指導されたの?」

「………」

 生徒にウソはつきにくいのでユキちゃん先生は目をそらして沈黙し、大人らしく否定も肯定もせず切り口を変える。

「つわり、まだ残ってますよね。ときどき教室で吐いたりして、恥ずかしいでしょう? 一部の心ない男子から汚いなんて言われてイヤな思いをしていませんか」

「放射性物質の汚さ、しまつの悪さに比べたら、嘔吐物なんて身体に塗ってもいいくらい、汚くも何ともないですよ。本当に汚いものは10万年も浄化にかかる。それに、先生の論法は一部の心ない男子が言い立てるので、私は登校しない方がいいという、むしろ彼らの理屈を受け入れるものです。恥ずかしい、恥ずかしくないという話でも、私は妊娠を誇らしく思っていますから、何一つ恥ずかしいと思っていません」

「…………。……お相手は、勅使河原くんでしたよね」

「ええ」

「校則では不純異性交遊は禁止されているんですよ」

「純粋に子供がほしくて性交しました」

「っ、…せ…」

「何一つ不純なことはありませんが?」

「…………」

 ユキちゃん先生は赤面して、また切り口を変える。

「体育も大変ですよね。三年生は体育祭で組み体操もあるし、マラソンも妊婦さんには危険じゃないかと…」

「ごく少数ですが、他県では妊娠した生徒に配慮して無理のない範囲で体育に参加させ、単位を認めて学業と妊娠を両立させて卒業させている例もあるそうです」

「………うちの学校では前例がないので……」

「私が最初の例になれば済むことです」

「……、……こ、校長先生から、他の生徒に悪影響があるからって…言われて…るんですよ」

「私の存在は悪ですか?」

「………そういうわけじゃ……」

 本人の説得が難しそうなので、また切り口を変えてみる。

「お父さんは何とおっしゃっていますか。ご懐妊のこと」

「お前の好きなようにしなさい、と。父のところにも校長と教育長がそろって町長室に来て何か言ったらしいですね。お姉ちゃんから聞いてます」

「………」

 この土地での最高権力者の娘に、どう言って自主退学してもらうか、いい案が浮かばずに黙り込んでいると、四葉がまっすぐに瞳を向けて問う。

「どうして同じ女なのに、一度のおめでとうもなく追い出す話ばかりなんですか? まず一度、この子と私に、おめでとう、って言ってもらえますか」

「……すみません。……おめでとうございます」

「じゃ、もういいですね」

 四葉が勝手に話を終わらせて席を立った。

「遅くなる前に帰ります」

「あ! いえ! でも、まだ!」

「まだ、何か?」

 四葉が睨むと、ユキちゃん先生は萎縮してしまった。人としての格が違うと、本能で感じている。四葉が悲しそうに涙を零してみせた。

「先生、ご自分がさっきから、どれだけ嫌な大人を演じているか、自覚がありますか? 子供が欲しくて妊娠した生徒を、なんとか自主退学させようと上司の言いなりになって、本心ではしたくない指導をしている。先生は、どんな気持ちで先生になったの? その初心と今の言動は一致しますか?」

「っ…わ…私は……」

「今、ここが、あなたの人生の糸の分岐点です。ちゃんと高卒資格を産まれてくる子供のためにも取っておきたいという生徒へ協力してくださる教師になるか、職員室の空気に流されて追い出そうとする官僚的な教師になるか、あなたが選べるし、あなたしか、あなたのことは選べない。さあ、どちらにしますか?」

「………わ、私が間違っていました! 許してください!」

 神前に懺悔する信徒のようにユキちゃん先生は頭を下げて協力を約束した。

 

 

 

 春の夕方、沙耶香は自宅で送ってもらった画像を見て、温かい気持ちになっていた。

「赤ちゃん……もう頭とか手が、写るんだ…」

 スマフォで見ている画像は超音波エコーで撮影された胎児で、もう頭や手足の形がわかるようになっている。不思議と嫉妬は感じない。むしろ、温かくて抱きしめたいという気持ちが芽生えている。

「きっと、かわいいよ、四葉ちゃんの子供だもん」

「それ赤ちゃんの写真?」

 背後から姉の早耶香が声をかけてきた。コンビニの制服を着ている。

「うん。お姉ちゃん、これからバイト?」

「そうよ」

「お姉ちゃん、えらいよね。遊んで暮らせるくらい慰謝料もらったのに」

「それと、これとは別よ。人間、働かないと。っていうか、家にいると、いつまでもウジウジするし。いってきます」

 早耶香は自宅を出ると、コンビニの裏口から入り、一人の店員として働き始める。人口は少ないけれど、一件しかないコンビニなので夕方は、それなりに忙しい。その忙しさが落ち着いてくる頃、勅使河原建設が経費でまかっているレクサスのセダンが駐車場に駐まった。ごく目立たない白色を選んでいるけれど、わかる人にはわかる高級車だった。降りてきたのは克彦と三葉で町役場での会議が終わった後、少し買い物をして他の議員のところで呑みながら会談するために寄った様子だった。

「「………」」

 三葉と克彦は来店すると、カウンターにいたのが早耶香だったので会釈している。早耶香は大きな声で挨拶する。

「いらっしゃいませ。泥棒議員さん」

「……ぅぅ……本当に、ごめんなさい……サヤチン……」

 三葉が居心地悪そうに謝りつつ、接待のために必要なおつまみや酒類を選んでいる。克彦も遠慮がちに頭を下げつつ、話題を変えようと、早耶香に話しかける。

「ここで働いてるのか……、もっといい就職先……言ってくれたら紹介できるぞ」

「別に、あなたのお世話にならなくても、お父さんに頼めば、どこかのハコモノ法人に入れてもらえるけど、あえて、ここにしたの」

 ほんの一時期だけ夫だった男に対して、早耶香はビールくらいに冷たい声で答える。

「だって、ここに私がいると、そこの泥棒議員がコンビニを使いにくくて面白いでしょ」

「「…………」」

 町に一件しかないので必要なときは避けることができない。今も、そうだった。お客なのに申し訳なさそうに買い物している三葉がレジにいる早耶香へ向かおうとしたとき、別の客に先を越された。ずっと店の奥で立ち読みしていた瀧が、やっと30%オフになった弁当を手にして早耶香の前に立ち、都会的な無関心さで無言のままだったけれど、さすがに間近で見て、早耶香に気づいた。

「あ……」

「あ、お久しぶり。どうして、この町に……」

 早耶香も瀧の顔は覚えている。そして、冷たくはない声で話しかけたのに瀧は目を伏せた。克彦も気づいた。

「お前、どうして、この町に……あ…」

 問いかけて克彦は瀧が着ている制服に気づいた。勅使河原建設の子会社、勅使河原派遣サービスの交通整理員が着る制服だった。

「うちの子会社に入って……」

 勅使河原建設で働いてくれている社員は次の後継者として全員を把握しているけれど、子会社の出入りが激しい派遣サービスで働いている者のことは、ほとんど把握していなかった。瀧は都会的な無言で財布を出した。それで早耶香も、今さら会話したくないという気持ちを察して、店員としてレジをする。

「ありがとうございます。唐揚げ弁当、30%オフで406円になります」

「………。あ、あれ……」

 瀧は財布から小銭を出していくけれど、310円しか持ち合わせていなかった。財布に紙幣は入っていない。

「じゃあ、カードで」

「はい、お預かりします。…………」

 早耶香はカードを通したけれど、弾かれてしまった。

「申し訳ありません、お客様。こちらのカードは、ちょっと…」

「あ、そっか。先月、止められて……じゃあ、このカードで」

 もう一枚、瀧はカードを出したけれど、それも弾かれた。

「……なんで……クソ……」

「………。申し訳ありません、お客様……こちらのカードも、ちょっと…」

「………………」

 黙っている瀧がプルプルと震え、耳が赤くなっていく。社の寮で朝夕の食事が出ると聞いていたのに、食堂で働くパートが病欠がちで今夜も出なかったし、なぜか給料日も遅れていて、持ち合わせがない。そもそも寮費として給料の大半が引かれるので、自由になるお金は少なく、以前にリボ払いで買った新婚生活のための家具などの支払いを滞らせたためにカードも、いつのまにか止められていて、今夜の夕食を買えない。

「…………ぅ………うぐっ……」

 せちがらい世の中と、自分の境遇、そしてタイミング悪く離婚した相手に、そんなミジメな姿を見られたことが恥ずかしくて死にたくなってくる。背後から見ていて、だいたい状況がわかった三葉が百円玉を、そっとレジに置いた。

「よかったら、どうぞ」

「っ………いらねぇよ!」

 男らしく瀧は百円玉を弾くと、自分の小銭だけ握って店を飛び出していく。

「「「……………」」」

 早耶香と三葉、克彦は言葉がないし、予定があるので三葉が買い物カゴを置くと、早耶香も店員として手早くレジを済ませた。

「ありがとうございました。っていうかさ、彼、テッシーんとこで働いてるのに、なんでお金ないの?」

「あ、いや、それは……」

 克彦が言いにくそうに目を彷徨わせる。

「まさか、三葉ちゃんの元旦那だからって意地悪してるとか? 小さい男ねぇ」

「ち、違う! さっきまで知らなかったし! あいつが、ここにいるのも! うちの子会社にいるのも! マジで!」

「じゃあ、何でお金に困ってる感じなの? もしかして、三葉ちゃん、彼からは、すごい慰謝料を取ったの?」

 自分が離婚された前後のショックで、三葉と瀧が、どんな条件で離婚したのかなど、今まで興味をもっていなかった早耶香が問うと、三葉は首を横に振った。

「ううん! お金は無し! あ、でも、賃貸したマンションとか、家具とか、そういうのはあったから、それかも」

「にしても、勅使河原からの給料は? やっぱりテッシーが意地悪して?」

「だから違うって。………意地悪じゃねぇよ……社の方針というか……」

「どんな方針よ、それ」

「………ここだけの話だぞ。絶対」

「で?」

「勅使河原派遣サービスは意図的に倒産させる予定なんだ」

「なんで?」

「本社で使いにくい人材を、こっちに転籍させてあるからさ。あと、過去の労災とか、いろいろ面倒な関係のことを、全部つめこんであって、そのまま来月には倒産させてチャラってわけだ。倒産前だから給料の遅配もあるかもな。もう子会社といっても資本関係も切ってあるし」

「うわっ……汚っ……東京では、見かけたけど、この田舎で、そんなことするんだ?」

「田舎なりに色々あるんだって。一応、配慮もあって、使えそうな人材だけは、また拾う予定だから」

「あ、もう、こんな時間! 遅れちゃうよ! あの議員さん、時間にうるさいから!」

 三葉が時計を見て慌てた。早耶香は冷たい目で見る。

「泥棒議員が密談に行くのね。腐敗の匂いがする」

「「………」」

 否定している時間もないので二人は会釈して店を出て行った。二人が去ると、早耶香は店員として働き続ける。閉店までに、ぽろぽろと来る客のうち、顔見知りの客は早耶香をねぎらってくれるし、ついでに勅使河原と宮水の悪口を言っていく。町民たちと談笑していると、傷ついていた早耶香の気持ちも日に日に晴れてきていたし、お客の一部はレジを通した後のお菓子やジュース、ビールを早耶香にくれたりする。

「ありがとうございました。明日も、よろしくお願いします」

 都会のコンビニと違って閉店がある。早耶香は、もらったお菓子や飲料を袋に入れて店を出ると、なんとなく湖の方へ向かった。すぐに家に帰らず、お菓子を食べながら町の夜景を見ている。

「毎日もらうと、また太っちゃうかも。痩せたのだけは、離婚された利点だったのに。あ、あの人が……」

 湖畔で瀧が今にも入水自殺しそうな顔で水面を見ている。今声をかけないと明日の朝、パトカーや救急車が集まったりして、それを見て後悔するかもしれないと感じた早耶香は瀧へ近づいた。

「これ、あげる」

 早耶香はポテチとビールを瀧へ差し出した。

「…………施しかよ?」

「私が施されたんだよ。捨てられて可哀想な女ですからね。この町で同情ランキングやったら第一位は私だよ、きっと。二位は、テッシーの弟かなぁぁ…」

「あいつに弟がいたんだ……」

「一応、結婚式には来てたよ。ま、覚えてないよね。合同結婚式なんてバカな企画の、自分の親戚になるわけじゃない参加者のことなんてさ」

「…………」

「食べなよ。お腹空いてるんでしょ」

「……………」

 ポテチとビールを見せられて、瀧は無言だったけれど、お腹が返事をした。

「ほら」

「……ありがとう…」

「よしよし」

「………なんで、あいつの弟が二位なんだよ?」

 美味しそうにビールを飲み、ポテチを食べながら瀧が訊いた。

「早くも尻に敷かれてるからね。ゲロ養子って、ひどいアダ名もあるし。あの四葉ちゃんが奥さんで、婿入りだと……きつそう……下手したら、お父さんみたいに宮水家を追い出されるかも……そう思うと、ひどい家系だよね、あそこ」

「………もう……宮水のことは……考えたくないんだ……」

「………」

 早耶香はジュースを飲んだ。すでに瀧はポテチを食べ終わっている。かなり空腹だった様子で、まだ胃が鳴っている。もう一袋、別のお菓子を渡しながら、早耶香は誘った。

「うちで夕飯、食べていく?」

「……………」

「遠慮しなくていいよ」

「社の寮、門限があるんだ」

「………門限って……」

「破ると、給料を減らされる。……ケンシロウさん、門限が性に合わないって辞めたし……」

「ひどい会社……」

「……………」

「……しかも来月の給料は……」

 ここだけの話、と克彦に念を押されているので当事者になる瀧に言ってはいけないことだと、わかっていても可哀想でたまらない。

「君ってさ、就職運、悪いみたいだね」

「……………オレだって………頑張ったんだ……」

「………。初任給、そんなに高くないし、昇給も、ちょっとだけど、町役場からの天下り団体だから絶対倒産はしないところなら、紹介できるかもしれないよ。うちのお父さんに頼めば」

「…………どうせ、……非正規だろ。天下りの爺に使われるバイトくん……何回、言ってもオレの名なんて覚える気なくて、バイトくんって呼ばれる職場……健康保険もなくて」

「一応、直接雇いの正規職員で、社会保険もあるよ。公務員じゃないから共済には入れないけど、よっぽどの横領か飲酒運転でもやらない限り、クビにならない」

「………労災保険は?」

「当然、あるよ。っていうか、危険な仕事じゃないかな。体育館の予約受付とか、プールの清掃とか、そんな感じ」

「……………」

「どう?」

「………………」

 瀧が両目から涙を零した。

「ぜひ、お願いします!」

「よしよし、お父さんに頼んであげる」

 立ち上がった二人は名取家へ向かった。

 

 

 

 同じ頃、四葉に誘われて沙耶香と司は宮水家で夕食を食べていた。一葉もいて四人での楽しい夕食だった。食べ終わって片付けを手伝うと、一息ついてから司と沙耶香を見送るために、みんなで外に出たときだった。一葉が星空を指して言う。

「今夜は、あの星が見えるねぇ」

「どの星のこと?」

 四葉が問い、一葉は北斗七星の傍らに輝く星を指した。

「ほれ、あの7年前、町のみんなが見える見えないで話題になった星よ」

「それって……」

「あの北斗七星の少し横に。今夜は、よう見えるよ。7年前にも見えた気がするような、見えんかったような、あの星が」

 一葉が指している星は、ティヤマト彗星落下の年、町民の多くが見ていたけれど、落下後には見えなくなった星のことだった。

「みんなで、見えるの、見えないの、言うた、あの星、今夜は、よう見えてるよ、四葉にも見えるかい?」

「………」

 四葉は北斗七星を見て、まだ見えない星が祖母には見えているのだと知り、そっと抱きつくと下腹部を一葉の手に擦り寄せる。

「五葉、一葉お婆ちゃん…ひいお婆ちゃんの声、聞こえてる?」

「きっと聞いてくれてるよ。それにしても、今夜は星空がキレイで、まるで、ほしのこえが聞こえるようやね」

 山奥の田舎なので星空は盛大だった。四葉が涙を零さないように言う。

「死兆星……その、ほしのこえは、あと5年、ううん、せめて3年、聞かないでほしかった」

 そして四葉は90歳になった祖母と自分の身体が冷えないうちに家に入った。

 

 

 

副題「新世紀救世主伝説 北斗の拳四葉(ケンシヨウ)」完

 

 

   

 

 





 
 ここまで、お読みくださり、ありがとうございました。
 思い返せば「君の名は。」を初めて見たときに感じたのは「オレの名をいってみろ」という声でした。
 「君の名は。」と「北斗の拳」という組み合わせでのクロスオーバー、書いていて、とても楽しかったです。なぜか、ヒロインである三葉やヒーローであるはずのケンシロウの扱いが、ファンに怒られそうな方向性になってしまいましたが、ケンシロウって平和な社会では、なんか不遇になってそうって自分のイメージがあったり、三葉と瀧って電撃結婚して、すぐ離婚しそう、いわゆる危機的状況で結ばれたカップルってヤツじゃね? ミキさんにも未練ありそうだし、テッシーもずっと三葉が好きそうだし、っていう発想でいきました。
 以前にR18で遠慮無くマニアックな表現ありで書いた物とはエンドなど少し変化しましたが、楽しんでいただければ幸甚です。
 けっこう君名と北斗、相性がよかったです。
 本編中にちりばめられた面白い未回収の設定。
 なぜ、あのゴロツキはミキのスカートを斬ったのか。
 なぜ、口噛み酒は半分なのか。
 なぜ、酒税法なんて言葉を三葉は知っていたのか。
 糸の声、タイムパラドックスなどなど、本当に色々とネタをくれた作品でした。タイムパラドックスがテキトーなおかげで核戦争を無かったことに四葉がしちゃいましたし、するとジャギが正統伝承者まで登り詰めてしまったり、ジャギの含み針が、あのゴロツキの爪楊枝になったり、トキが鍼灸院やったり整体院やったり、本当に書いていて楽しい二次作品の醍醐味を味あわせてもらいました。
 やや強引に、四葉がシヨウと読めるので、ケンシヨウなんてできましたし。
 自分が楽しんで書いたものが、誰かに読まれていると、また嬉しいです。
 ありがとうございました。
 
 
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。