刃・直刃に湾れ
表裏の焼きは揃いけり
配点(刀)
――――赤があった。
――――紅があった。
――――赫があった。
自分の周り全てが、一面の赤色で埋め尽くされていた。
揺らめく赤。それと同時に、己を焦がすような熱を感じる。
赤の正体は焔。それらが自分の周りで燃え続けているのだ。
一歩踏み間違えば、自分も焔の餌になりかねないこの状態。
しかし、焔の糧になるどころか。逆に焔は自分を避けているように揺らめいている。
試しに一歩踏み出してみる。
焔は揺らめいたまま、しかし一歩分。確かに退いた。
一歩、また一歩。歩を進めるたびに、焔は道を開けてくれる。
これほどの焔に囲まれて、未だに呼吸は平常のまま。
だが体を焦がす熱さはどうにもならない。歩くスピードを速める。
相変わらず。焔はこちらを害する様子は無い。
とはいえ。流石に暑いし、熱い。
全身の水分がどんどんと減っていくのを感じる。
熱い。熱い。熱い。
焔はこちらに触れてくることはないが、如何せん熱い。
この熱さだけでこちらが死にそうだ。
やがて歩くのを辞めて走り出す。
この熱さだ。体力の配分を考えるほうが間違っていた。
一刻も早く、この焔から抜け出さなくては。
だが。走っても走っても、先が見えない。
息が乱れてくる。
酸素が全身に行き渡らない。
そんな風に走り続けていると、やがて。一際焔が開けた場所にやってきた。
焔があたりを囲んで、丁度円形になっている。
…………?
自分がそこに足を踏み入れると。一つの焔が浮かんでいた。
今までの、波打つような形ではなかった。
それは、こちらが近づいても避ける様子はなく、ただそこにじっと鎮座していた。
そして。自分はそれに手を伸ばした。
無用心なのを承知で。
ソレに手が触れる――――――
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
…………ふと。目が覚めた。
それと同時に、異様に布団が硬くなっていた。
「…………ぬ?」
おかしい。まず最初にそう思った。
自分の布団はそこまで硬くないし、というよりこれはもう硬いを越えて痛いだ。
低反発という言葉は最近よく聞くが自分の家の布団は普通のものだし、こんな受けた重みをそのまま寝ている人間に突き返すような代物を作り出そうとする人間はいないだろう。
……否。IZUMOの奴らなら或いは…………
ともあれ。寝惚けている視界が段々とクリアになってきた。
そこは、いつもの自室……ではなく。自分が使っている工房だった。
…………ああ。そういや確か昨日は……
硬い床から起き上がりつつ、ここで寝ていた経緯を思い出す。
何のことは無い。ほぼ日課になっている工房での作業を終えて、時間を確認。23時を回っていたため、部屋に戻るのも億劫になりそのまま寝たのだった。
「……あー、クッソ……石床で寝るんじゃなかった……」
ゆっくりと悪態をつきながら起き上がる。
今度は毛布でも常備しようかと考えるが、いやそれをやると普通に飛び火で燃えて大惨事にしかならない。というかただの間抜けだ。
そんなことがもし起こったら死ぬまでこのネタで弄られ続ける。というかいっそ炎で全てを焼く。無論。その光景を見た者全てを。
体をほぐすように動いた後。散らかった工房内を片付ける。
と、遠くで。誰かの歌が聞こえる。
歌の名前は「通し道歌」。極東ではメジャーな童謡。
聞こえる声は女性のものだ。
よく通る声で、けれども何処か無機質さを感じさせる。
「――――通しかな」
曲の最後のフレーズを口ずさむ。
歌唱力に自信があるわけではないが、自然と。口にしてしまう。
それと同時に、再び遠くで鐘が鳴る音が聞こえる。
「…………?」
一瞬、怪訝な表情をする。
そして、自動人形によるアナウンスが流れた。
『市民の皆様。準バハムート級航空都市艦『武蔵』が、武蔵アリアダスト教導院の鐘にて、朝八時をお知らせいたします。本日――――――』
それを聞いて、血相を変えて瞬間的に工房を飛び出て居間へと入る。
時計を見ると、確かに八時だ。あ、今一分過ぎた。
冷や汗を垂らしながら、時計を凝視する。
「……実は俺。石床の方が寝られるんじゃねぇか?」
嫌な事実だが、実際布団に潜って寝ているときより熟睡だった。問題があるとすれば寝起き後の体中の鈍痛だが。
そんなことを考えているうちに、時間はドンドン過ぎていく。
はっはなんだこの状況新手のイリュージョンか何かか? と渇いた笑いと共に呟くと。
「…………アマゾネスの制裁が……!」
倍速で動き始めた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
極東。
かつては神州と呼ばれ、約二百年前に起きた重奏統合争乱において敗北し各国の暫定支配を受けた現在の呼び名。
その中で、唯一独立を認められている国がある。
それが、空を浮かぶ八つの艦影。
準バハムート級航空都市艦『武蔵』
尤も。その『武蔵』も、ほぼ一切の自由を制限されている状態。移動には他国の警護艦と武神が付き纏う。
おまけに武装も持てず、各国の国境線上しか移動は出来ない。
自由を剥奪された不自由の鳥である。
その中。右舷二番艦〝多摩〟にて、時折破砕音や爆発音が響いてくる。
それを聞いた住人たちが慌ててシャッターを閉めて術式防護壁を出したり、間に合わない者は建物の隙間に身を潜めるなどして嵐が通り過ぎるのを待っていた。
「うおおおっ!? つ、遂にこっちにまで来たぞ!」
「こ、これ硬貨弾か!? 再利用出来んのか!?」
「止めておけ。同人のネタにされるぞお前――――この間も酔った勢いでキャベツ一玉丸ごと食った奴が何故か触手系同人でアヘらされていたからな」
何で知ってるんだと問いかけると顔を逸らした。人間誰しも答えられない秘密を持つものである。互いに握手を交わし、相手を盾にしようとせめぎ合う。
友情の再確認と被害の押し付け合いが済むと、待っていたかのように全員が吹っ飛んでいった。
その光景を少し離れたところから見ていた女性は溜息を付く。
「やれやれ。何やってるんだか」
「いやでも被害スゲーだろう。今年は特に」
アンタんとこは店閉じないのか? と向かいに住んでる男が聞く。
女性はからからと笑う。
「客商売がこんな時間に店閉じるなんて恥だよ。アンタらも、ウチのバイトの子見習いな。根性あるよ」
「いやいや。自動人形に根性も何も――――」
ないだろうと言いかけて、流れ弾に当たり吹っ飛んでいった。
当たった角度と勢いから言って、かなり在り得ない吹き飛び方をしている。おそらくはアマテラス系のボケ術式の効果だろう。
身の危険に全力で芸をする。ある意味芸人魂逞しいが熱意をかける方向性を致命的に間違えている。
全く、と女性は呆れ気味に呟く。
そして。未だ爆発音やらが響く方向を見る。
「……あの子たちはこの先。どうするんだろうねぇ」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
教師。オリオトライ・真喜子は走っていた。
本日の体育の授業は『品川まで自分についてくること。その間、一発でも攻撃を当てることが出来たら出席点を五点プラス=五回分サボれる』というものだ。
生徒たちにとってみれば、授業を合法的にサボれる上に毎回毎回やり込められているあの蛮族教師に一撃当てられるチャンスでもある。
尚、ここまで成功した試しは無い。
先ほどなど。百発百中の精度を誇る狙撃を可能とする、武蔵が誇るズドン巫女。浅間・智の一射を髪の毛を代償に無力化していたのだから。
浅間本人は当てられずに悔しがっていたが、オリオトライ本人は満足気に頷いていた。
「いいわねぇ。全員、二年のときより腕が上がってるわ」
屋根伝いに駆けながら呟く。
と、左方上空と正面から気配を感じる。
上空は、ナルゼ・ナイトの
正面からは、
……あれはアデーレの槍ね。投擲の速度から言って、投げたのはミトツダイラねー。
両方とも、当たれば大怪我は免れないだろう。
だが素直に当たる理由もなければ病院の手配もいらない。金が掛かるし。
飛来してきた硬貨弾と槍を避ける。槍の方は何処かにいった。多分後でアデーレが必死になって探すだろうが、そんなことを気にする余裕など今の生徒たちには無いだろう。
「…………おっ?」
攻撃を避けつつ視界の端に捉えたものがある。
遠目で見づらいが、〝多摩〟から〝品川〟へと最後尾の生徒たちを追い抜いてこちらにやってくる人影。
……身軽よねー。
屋根伝いにこちらに徐々に接近してくる。
そして、横に並んだ。
「とりあえず遅刻で減点よ?」
「開口一番それですか。いやまあ遅刻は疑いようもないんですがね……」
渇いた笑いを零しながら、こちらについてくる少年。
「ちなみにこれ。どういう状況なんですかね。俺、ギリギリ全員がこっちに向かうの見えて超ダッシュで追いかけてきたんですか」
「ちょっと〝品川〟のヤクザ締めに行くからそのついでに体育の授業よ。私が着く前に攻撃を当てることが出来れば出席点五点ね」
ヤクザを締めに行くついでに体育の授業とは中々気が狂った発言だが成程、と頷く。
だから先ほどから全員のやる気が上がっているわけか。というかある種の狂気が芽生え始めている気がする。元からか。じゃいっか。
「――――ちなみに俺は?」
「遅刻したんだから例え当てられても無しよ」
クソがっ……! と本気で悔しがる。
遅刻はまあ仕方ないことだが、授業は授業。今なら接近しているしひょっとしたらという期待もある。
気を持ち直し攻撃に移ろうとするが、不意にオリオトライがあっ、と声を出しそのまま速度上げて離脱していった。
直後。自分の目の前に飛来してきたものがあった。
硬貨弾だ。
おそらく上空にいるであろう魔女コンビに、自分が教師と話して釘付けにしていたとでも思われたのだろうか。
「――――――おい」
足元に着弾し、爆発した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
その様子を空から見ているのは、硬貨弾を撃ち出した張本人たち。
マルゴット・ナイト、マルガ・ナルゼの二人。
「うわっちゃー…………アレきっと怒るよねえガッちゃん」
「問題ないわ。だってアイツだし。当たっても自己責任よ」
そっかー、とさして気にも留めていない。
爆煙の向こう。どうやら後続も多少巻き込まれたようで、煙の中を咳き込みながら走っている。
最後に出てきたのは件の少年だった。
こちらを見つけると半目で睨んできた。
「……めっちゃ怒ってない?」
「アイツいつもあんな感じの顔じゃないマルゴット――――いけない。アイツきっとさっきの硬貨弾を言い訳にマルゴットの内股とかを見る気よ。あの変態め……!」
とりあえず親指を下に向けておいた。
何故か向こうは大声で叫んでいたが生憎こっちは空。諸々の音があり都合よく何も聞こえていない。空最高である。
ふと。ナルゼが〝品川〟の艦首側に目をやる。
「マズイわマルゴット。あの蛮族教師が目的地につくわ」
「あらら。じゃあ急ごっか!」
言うが早いか、二人は翼を広げる。
有翼種族。堕天・墜天のコンビ。
「さあ。今日は先生に一撃当ててみせましょう!」
「Jud.!!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
右舷一番艦〝品川〟は多種多様の
その中。三年梅組の生徒たちは疲れきって大の字に寝ていたり、へたり込んで肩で息をしているものもいた。
「こらー。遅れてきたのに休まないの」
全く、と言いながら成績をつけていくオリオトライ。
その様子に生徒たちは消耗している体力をさらに消耗させながら呟く。
「くっ……この御仁。実は人の形をした魔神族なのではなかろうかと常日頃より思っているので御座るが……」
「違うぞ点蔵……奴はきっと独身を拗らせ過ぎた結果このような筋肉ゴリラになってしまたのだ。ここは同情してやるべきだろう。それで何かが変わるわけではないが。なんだ。祈り損か」
「ああウッキー君なんというスピードアンサー…………まああんな熟れ過ぎて今にも地面に落ちそうなモノより瑞々しく――――」
ほぼ全員からの攻撃を喰らい、御広敷が木箱を一つ分破壊しながら吹き飛んでいった。中身は空か。よかった。
「えーと。点蔵とウルキアガは後で処刑するとして。生きてるのは鈴と
「は、はい……あ、で、も。私、運んでもら、った、だけ、ですので……」
「俺に至っては全速力とはいえ途中参加だったし、攻撃はし損ねた」
「それでいいの。途中で倒れた連中も上手く拾っていたようだし。あっ。朝臣は別ね。遅刻したし。後で私に焼肉奢ってもらおうかしら」
「遅刻の代償が胃袋異次元教師の飯とか重すぎんだろうが……! ってか教師なら自分の稼ぎで喰えや」
「やーねー。教師薄給よ? そんな金あるわけないじゃない――――他人の金で喰うから美味いのに」
「アンタ最低だよ!!」
そんな声を平然と無視する。
それと同時に、背後から勢いよく扉が開く音がする。
魔神族だ。
「ンだテメェ等! ウチの前で騒ぎやがって!」
普通の人間の倍くらいはあるだろう背丈に、まるで小岩のような筋肉。
それを見たオリオトライは特に気負うでもなくいつものように前に立つ。
「さーって。こっから実習ねー。魔神族はぶっちゃけると、軽量級武神とサシでやりあえるの。内燃拝気の獲得量ハンパないし。見た目どおり筋力も相当よ」
「よく知ってるじゃあねえか! んで。細っこい人間が何の用だ」
「この間の〝高尾〟の地上げの恨みと夜警団からの依頼よ……あと私個人の八つ当たり対象――――」
言い終わる前に、魔神族の大男は身を屈め有り余る筋力に物を言わせて突撃を仕掛けてきた。
その巨体が猛烈な速さでやってくるのは恐怖だが、オリオトライは全く気にした風もなく背負った大剣を手に取る。
魔神族とリアルアマゾネスが交錯する一瞬。ぐらりと魔神族の体が傾き、あらぬ方向へと足がもつれ倒れた。
すかさずアマゾネスはつかつかと歩いていき、魔神族の特徴である角を大剣で打ち払う。
そのまま、魔神族は地に伏した。
「ふう――――――今の見えたでしょ?」
「アンタだけだよ!!」
常人離れした動きをさも当然のように言う。
生徒全員が首を横に振る。
「全くダメよー。はい。じゃあ遅刻した罰として、朝臣。何やったか説明しなさい」
「あんな変態染みた動きに生物の目が追えるかよ――――要は脳震盪起こしたんだろう」
魔神族の角は頭蓋骨の一部が突出したものだ。
故に、そこを強打すれば脳が直接揺さぶられることになる。
但し。魔神族は回復速度も速いため、すぐさま対角線上にある角を打ち完全に脳震盪を起こし気絶させなければならない。
魔神族と戦う上での初歩だ。
朝臣の答えにオリオトライは頷く。
「そっ。角を片方ぶっ叩いたからって油断しないことよー」
さてと、とオリオトライは振り返り魔神族のヤクザの事務所を見る。
が、すぐさま表示枠が現れロックされてしまった。
「あらー。警戒されちゃったか。これぶち抜くの面倒なのよねー」
出来ないって言わないんだ、とクラス全員が呟きを同じくする。
さてどうするかと考え込んでいると、別な方向から声が掛かる。
「お? あれあれ? オメェらこんなところで何してんの?」
そんな軽い調子の声。
全員が聞き覚えのある声へと顔を向ける。
自分等と同じ武蔵アリアダスト教導院の制服に身を包み、何かの小包を小脇に抱えながらパンを食べながらこちらに近づいている少年がいた。
「おいおいおい。俺、葵・トーリを置いて楽しそうなことやるなんて酷いぜ皆! 仲良くやろうぜ!」
武蔵アリアダスト教導院。総長兼生徒会長。葵・トーリだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「んー。今日も一段とまた。激しくやってたねぇ」
そんな梅組の様子を遠眼鏡で見ていた人物が呟く。
初老に差し掛かっているであろう男性。しかし衰えた動きを見せずに梅組の一挙手一投足を注意深く観察していた。
「いやぁ。中々の動きするねえ。一年の頃に比べて段違いに、二年の頃に比べて遥かによくなってる」
「それと同時に。被害の具合も跳ね上がってます――――――以上」
評価する男性の背後。
給仕服を着た女性型自動人形がデッキブラシを重力操作で巧みに操りつつ近づく。
「まあまあ。そこはホラ。誰しも通る道だしさ」
「確かに昨年も一昨年も似たようなことは起きています。が、被害等を総合的に見て今年はその中でも群を抜いているものかと――――――以上」
その言葉に、男は顎に手をやり苦笑する。
「うーん。確かにそうなんだけどねぇ……」
「何ですか歯切れの悪い。言いたいことははっきりと仰ったほうがよろしいかと――――――以上」
キツイなあ。と咥えていた煙管を手に取り呟き、梅組の面々がいるであろう〝品川〟方面を見やる。
「……まあ。現状じゃあどうしようもないんだよね」
再び煙管を咥え煙を味わいながら、空を見上げる。
「およそ160年前……重奏統合争乱からこっち。聖連の支配下だもんねえ。この武蔵も、移動しっ放しの権力骨抜き状態で」
「各国の学生と違い、武蔵では上限年齢18歳というのも大きいかと――――――以上。付け加えるなら、武装も持てないということでしょうか――――――以上」
この世界では校則法に則り。学生が全権を担っている。
他国では学生の上限年齢が無いのに対して、武蔵は18歳までと定められている。
それを超えると、軍事にも政治にも干渉できなくなる。
面倒だねぇ、と呟く。
「オマケにアレ。
「おそらく先ほどの騒ぎを諌めに来たのでしょう――――――以上」
「武装無いこの武蔵にアレはいくら何でも過剰でしょう」
本当嫌だねえ、と溜息をつく。
「……それよりも酒井様。こんなところで油を売っててよろしいのですか――――――以上」
「ん? ああ。もうすぐ三河だったね。Jud. そろそろ降りる準備しとかないと」
そういって、酒井と呼ばれた男は自動人形、〝武蔵〟の横を通る。
「酒井様。本日分の仕事は? ――――――以上」
酒井の足が止まる。
その顔には、苦笑いが浮かんでいるが。若干冷や汗のようなものも見受けられる。
「えーとね……ああ。そうそう――――」
「帰ってからやる、という初等部の子供並の言い訳をかますつもりですか? ――――――以上」
「……実は――――」
「先ほど〝奥多摩〟が確認したところ。全くの手付かずでしたが――――――以上」
「………………ダメ?」
観念したように酒井は拝み手で〝武蔵〟に向き直る。
〝武蔵〟は、特に気にした風も無く答える。
「Jud. 酒井様のサボり癖は今に始まったことではありませんので。緊急の要件のものは無いようなので、今回は不問にします――――――以上」
「いやー。すまないね。どうしても若者の動きというのは見ておきたいものでね」
「率直に言って、セクハラオヤジの妄言ですね――――――以上」
まあまあと軽く笑いながら話す。
「ああそうだ。三河行くなら彼も連れて行かないと」
「彼……? 朝臣様ですか? ――――――以上」
Jud. と酒井は頷く。
「彼のお祖父さんがね。なんか連れて来いってさ」
「朝臣様の祖父、ですか――――――以上」
「そっ。なんか彼に渡したいモノがあるんだってさ」
「でしたら武蔵にやってくる荷物の中に入れておけばよろしかったのでは? ――――――以上」
「んー。どうにも昔っから用心深いというか。口下手というか…………」
どう言おうか考えてる酒井に〝武蔵〟が答えを口にする。
「成程――――要するに口実として使っただけで。本心ではただ孫に会いたいというだけなのですね――――――以上」
「ハハハ。まあそんなところだね。こっちに来ればいいんだけど。どうにも頑固でさ」
「酒井様は、その方をご存知なのですね――――――以上」
「Jud. 昔。刀を鍛ってもらってね。いやー。あれ怖いくらいに斬れるんだよ。ちょっと振っただけで大木真っ二つとかシャレにならないよねえ」
「Jud. 率直に言って、頭が可笑しいレベルの方と判断しました――――――以上」
うん。アレは今考えてもかなり可笑しかった。
酒井は、三河に降りる準備をするため場を離れる。
去り際。〝武蔵〟が呟くように言う。
「お気をつけください。今の三河は怪異が多発していると聞きます。よからぬ事件などに巻き込まれないようにしてください――――――以上」
「それ。ネシンバラ風に言うと「フラグが立つ」って奴なんだけどねえ……」
おっかないねえ、と酒井はその場を後にする。
〝武蔵〟もまた。通常の業務に戻っていった。
その直後。〝品川〟にあるヤクザの事務所から破砕音が響いた。
どうもKoyです。
くぅ~疲れまし(ry
……二次ホライゾン。そのリベンジ、デス。
それでは。